「ふぅ~」
風呂は良い。
俺は誰もいない浴場の中にいた。
本当なら普通の人もいるだろう。
しかし、この世界においてどういうわけか彼の使う浴場は他に入って来る者がいない。
あまり他人と関わることの少ない日向にとって、この場は憩いの場所ともいえた。
いつもなら力や健太もいるのだが、今日はどういうわけか姿を見せない。
勿論、それは今日までの話だった。
ガララと湯気の向こうでドアが開かれる音がする。
「誰か入ってきたのか」
日向は意識を向けるもすぐに興味をなくした。
誰が入ってきたところで気にしなかった。
そう、相手が男だったら。
「……」
「おい!?」
やってきた人物に気付いた日向は目を見開く。
目の前に現れたのは乃木若葉だった。
彼女はタオル一枚の姿で真剣な表情でこちらをみている。
「お前、ここは!」
「ここは現時刻をもって混浴となった!いついかなることがあろうとその事実は消えることがない!」
「なにぃ!?」
突然の若葉の言葉に日向は叫ぶしかない。
「わけのわからないことをいうな。混浴というなら俺は――」
ザクンと目の前に大太刀が突き刺さる。
「もし――」
ぞっとするほど低い声と光のない瞳で乃木若葉は日向を見上げた。
「もしも、今から上がるという愚かなことを言うものがいるなら」
「……いるなら?」
続きを聴きたくないと思いながら日向は尋ねることにした。
「そいつの社会的地位を完膚なきまで破壊して最後に食べる!」
「しばらく湯船につかることにしよう」
背筋が凍った様な気がして日向は肩まで湯船につかる。
いつの間にか大太刀がなくなり、若葉は少しばかりの距離を開けて湯船に入った。
湯船で何も考えずに天井を見上げる。
ポツポツと天井から落ちる水滴の音だけが浴室内響いた。
ふと、隣が気になって視線を向ける。
「!?」
同じタイミングで目が合う。
慌てて若葉は視線をそらした。
日向は少し驚きながらも彼女を見る。
長い髪は頭で束ね、タオル一枚という姿だが、それでも彼女を嫌でも美少女なのだと認識させられた。
「どうしてこう」
「な、なんだ?なぜ、こっちをみている」
「別に、どうして、お前達はそうも無防備なのかと思っただけだ」
「む?」
「俺がお前達を襲わないと思っているのか?」
「襲ってくれるのか!?」
「嬉しそうな顔をするな。勇者や女として色々と問題だろ」
立ち上がろうとした若葉をやんわりと制す。
気のせいか先ほどよりも距離が近い気がする。
「私は……魅力がないのだろうか」
「今度はなんだ」
「ほら!それだ!」
日向の態度に気にいらいないところがあったようで若葉は指さす。
今日は一体、どうしたのだろうか。
色々と絡んでくる。
普段の凛々しく、どこか天然な乃木若葉はどうしたのだろうか。
「一体、なんなんだ?」
「私のことなんかどうでもいいという態度だ!友奈や千景、球子や杏……白鳥さん達には優しいのに、私の扱いはどうしてこんなにも雑なんだ!?」
「……そのつもりはないんだが?」
「いいや!ある!そうだな……どうせ、私は筋肉バカさ。私みたいな脳筋は相手にされない。そうさ、告白してもちゃんとしたデートなどもしてくれない。そんな私なんか、好きになってくれるわけがない……ハハッ」
悲しそうにうつむく若葉。
いつもと違う彼女の姿に面食らいながら日向は考える。
何があったのかわからないが彼女は気持ちが沈んでいるようだ。
今のままだとよくない気がする。
「……乃木若葉」
「……………………」
「若葉」
「…………なんだ」
「俺はお前といると緊張をしない」
「それは私に女らしさがないといいたいんだろう」
「違う。お前は綺麗だ。他の勇者や巫女たちとは違う。綺麗で凛々しいんだ」
これは事実だ。
綺麗で凛々しい。
戦場で、普段の生活で。
日向が乃木若葉をみていていつも思うことだ。
「それが女の子らしさになっていないというのなら……悪いがどうかければいいかその答えはみつからない……けれど、いつも冷静で、自分らしさを貫いているお前といると不思議と落ち着くんだ。ちぃちゃんといる時と違う。お前といるときだけ、落ち着いていられるんだ」
日向の言葉に若葉は顔を上げる。
その顔はゆだっていた。
「おい!?」
「うにゃ~~」
普段、聴くことのない言葉とフラフラしている若葉に気付いた日向は謝罪しながら彼女を抱えて外へ出る。
うちわであおぎながら彼女が元に戻るのを待つ。
「……日向」
「大丈夫か?」
「ああ、私としたが不甲斐ない……だが、お前の本音がきけて嬉しいぞ」
「本音を聞くためにあんなことしたのか?」
「……千景にいわれたんだ」
「ちぃちゃんに?」
手で顔を隠しながら若葉は話す。
――「乃木さんのことを日向は好きなのかしら?」
千景は若葉をけん制するつもりでいったのだろう。
ならば、その効果はてきめんだった。
「私は女の子っぽくない。それを考えると日向もただ、仕方なく告白を受けいれたのではないかと考えてしまって……それで、ひなたに相談したら」
「こうすればいいと言われたのか?」
「あぁ」
――奴の仕業か。
日向は心の中で思いながらここにいない相手へ恨みを込める。
「日向、私は……」
「変なことを言うようだが」
若葉の悩みを遮るようにしながら日向は告げる。
「もし、一緒の墓に入るなら誰がいいというなら俺はお前を選ぶ」
「!?」
視線を合わさないようにしながら日向は答える。
「そんな重たく考えるな。人はそれぞれだ。お前みたいなのもいれば、活発なのもいる。その人と波長が合うか合わないなんて、時間などが解決するだろう」
「決めたぞ、日向」
立ち上がって問題がないくらい回復したのか、乃木若葉が立ち上がる。
はらりとバスタオルが落ちて日向は視線を外そうとした。
しかし、若葉が両手で掴んで元に戻す。
「決めたぞ、日向」
「何かわからんがすぐに前を隠せ、お前」
「今すぐ夫婦になろう」
「!?」
驚く日向、その時、風呂場のドアが開いたことに二人は気づかない。
「一緒の墓に入るために努力をする!だから夫婦になろう!そうしよう!よし!私は頑張るぞ!」
「そう、それは素敵なことね」
日向、若葉でもない第三者の声。
その声に日向はさび付いた機械のように首を動かす。
興奮している若葉は気づかない。
ニコニコと笑顔を浮かべている千景がいる。
笑っているのに目は全くというほど光がない。
「ちぃちゃん、これは」
「ええ、わかっているわ。日向」
ニコリとちぃちゃんの笑みが深まる。
気をつけろ。これはよくないパターンだ。
日向は服を着ていてよかったと心の中で思う。
「乃木さんを亡き者にすれば、貴方と一緒の墓に入るのは私になるもの」
――全く、わかっていない!
心の中で叫びながら日向は茫然としている若葉にタオルを巻いて走る。
「さてさて、結果としては大成功ですね」
追いかける千景と若葉を抱えて逃げる日向。
そんなやりとりを双眼鏡片手に緑茶を飲みながら観察する諸悪の根源という名前のひなたはニコニコしていた。
「これで若葉ちゃんもより日向さんにアタックするでしょう」
笑みを浮かべながら彼女は計画を練ったことは間違いではないと悟る。
乃木若葉は不器用、こと恋愛に関してはそれがより強く出ていた。
そんな彼女の後押しをするためにひなたはこの計画を実行する。
唯一の誤算があるとすれば、千景が乱入したことだろう。
「少しだけお酒を飲ませてしまいましたが……まぁ、今度はシラフでよりアタックしてもらえるように頑張ってもらいましょう」
ひなたの名誉のために語るが意図的に乃木若葉へ酒を飲ませたわけではない。
結城凱が飲んでいたウィスキー。
その残りが入っていることに気付かずに彼女がお茶を入れて飲んでしまった。
計画のためにひなたはそのまま実行する。
「日向さんを狙っている人は多いですけれど、親友のため、私のため、頑張らせてもらいます」
幸せになるため。
ひなたは抱えられて幸せそうにしている若葉の姿を見て深い笑みを浮かべた。
ラスボスは次の計画を練る。
すべては自分と親友が幸せになるため。
他のメンバーの幸せはその後、考えることにしよう。
瞳から光をなくした状態でひなたは微笑んだ。
次回も個別番外編、おまちかねのCシャドウだ。
知っているだろうけれど、補足説明。
結城凱
鳥人戦隊ジェットマンのブラックコンドルの一人。
二枚目キャラとして登場。
レッドと仲が悪く。終盤間際の和解をするまでしょっちゅうぶつかりあう人。ちなみにめっちゃいい人でもある。
ギャンブルなどにおいてイカサマは当たり前のようにする。
ちなみに神様とゲームをして勝てるほどの実力?はある様子。
今回、名前だけ登場。
もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?
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パワーレンジャー
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リュウソウジャー
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ルパパト