明日はヴァンガードの発売日、友達とエイゼルをあてるまであがくつもりです。
「海に行く!」
「は?」
「海……か?」
天火星亮の言葉に俺と大神は首を傾げた。
「実は町内会の話し合いで海の家を行うことになって、準備をしないといけないんだ。店もしばらくお休みにするから二人も手伝ってくれないか?」
「……ここの家主はアンタだ。俺達はそれに従うだけだ」
「落合の言うとおりだ。家主は天火星さんなんだ。貴方の決めたことなら俺達は従うよ。居候だ」
大神の言葉に天火星は嬉しそうにほほ笑む。
「ありがとう!ありがとう!二人とも!」
嬉しそうに俺と大神の手を握り締める。
季節は夏。
俺達は海の家が設置されている場所へ向かうことになる。
「えぇ~~~、海へ行くのぉ?」
「海の家の手伝いだ。仕事であって遊びにいくわけじゃない」
大赦の一室。
そこで祭られている乃木園子へ俺は会いに来ていた。
彼女と話をするため大赦へ侵入している。
大赦の警備も強化されているのだろうがどうも温い。
包帯で顔を隠しているが彼女は嬉しそうにしていた。
「嬉しそうだな」
「だって、日向さんとお話できるもん!」
「……その程度しかできないが」
「そんなことないよ!私は日向さんとお話できるのが嬉しいから~」
「……そうか」
「でも、しばらくはお話できないんだよねぇ」
「……そうなるな」
しゅんとうなだれる園子。
「海かぁ……いいなぁ」
「気休めにしからないかもしれないが、いつか、お前もまた海にいけるようになる」
「もし、そうなったら日向さんと海にいきたいよ!」
「……そうだな、そうなったら海へ行こう」
「本当?」
「ああ」
短く、俺は短く答えた。
これがウソなのか、本当なのかどうなるのか。
それはわからない。
俺は何をしたいのだろう?
乃木園子と話をしている中で俺は自分の心にトゲが刺さった様な気分だった。
「というわけで海だ!」
「……海だー」
「だー」
元気よく叫んだ亮、続いて大神、そして、日向が叫ぶ。
「天火星、そろそろ現実逃避はやめるべきだと思う」
「そ、そうだよなぁ」
「これが海の家か」
三人の目の前にあるボロボロの家屋。
これが海の家だという。
「前の人がちゃんと手入れをしていなかったみたい……こんなことになっているなんて」
「手入れからのスタートだな」
日向の言葉で彼らは家屋の手入れからはじめた。
「ブハッ、ゴホッ!」
せき込みながら日向は箒でほこりや汚れをはたき落とす。
「……どうでもいいんだが、ここは人が来るのか?」
海辺を見渡して日向は呟く。
夏で、海開きから既に一週間が経過している。
だが、この海へ人がくる気配がない。
「どうやら、この近くに新しい海の家ができているみたいで、利用者のほとんどが流れているみたいだ」
「まぁ、こんなボロ家屋なら仕方ない」
大神の言葉に日向も亮も答えられない。
「でも、俺達は味で勝負だ!」
「……どう思う?」
「俺に質問するな」
日向が問いかけると大神は短く答えた。
「よぉ!来たぞ!」
「……お前はなにをしているんだ?」
海の家を開いて一時間。
客足がこないことで暇をしていた俺達の前に意外な来客が現れた。
ニンジャマン。
青いロボットのような姿に大神は動きを止めて、俺は微妙な表情をしている。
実際、こんな奴が町中を歩いているとなれば、動揺する人も出てくるだろう。
「お師匠様にいわれたんだ。人間の世界に対して見聞を広めろと!そこでお前の下へ行けば勉強になると思ったのさ!」
「……お前の師匠ということは」
「そうだ!」
六大神の三体。
彼らはどういう意図でコイツに見聞を広めろと言い出したのだろうか?
疑問が尽きないが問題は。
「あれ?お客様?」
「えっと」
「よぉ!俺はニンジャマン!ここにいる日向と月麿の知り合いだ!」
「ああ、そうなんだ。よろしく。俺は天火星亮だ」
あれ、普通だ。
「実はお師匠様から認識阻害の術を施してもらっているんだ」
「成程……今のお前は普通に見えているという訳か」
「その通り!」
頷くニンジャマンの姿に俺はなんともいえない表情を浮かべてしまう。
その時、元気な声が聞こえてくる。
「あ!海の家だよ!」
「本当ね。こんな廃れたところにあるなんて」
「そういえば、町内会でこの場所に海の家をもっていたと思います」
ヤバイな。
俺は置かれている狐の面をかぶる。
「ん?どうした?」
「別に」
「焼きそばありますかぁ!」
店の入り口に姿を見せたのは勇者部のメンバー。
彼らがどうしてここにいるのか?
「よぉ、勇者たち」
「あれ?」
入り口にいた結城友奈がニンジャマンをみて首を傾げる。
「何よ、アンタ」
「え、あぁ、そうだった」
ニンジャマンがパチンと指を鳴らすと本来の姿へ戻った。
「あ、ニンジャマンさん!」
犬吠埼樹がニンジャマンをみて叫ぶ。
「アンタ、なんでこんなところに!?」
「お師匠様たちからの指示で日向に会いに来たんだ」
「っ!?」
俺は店の奥へ逃げようとしたが既に手遅れ。
狐の面が乱暴に取り払われる。
取り払った本人は三好夏凜。
「アンタ!こんなところで何してんのよ!」
「仕事だ」
「お、お久しぶりです!くら……じゃなかった日向さん!」
「お久しぶりです」
元気よく答える結城友奈とおずおずと話しかける犬吠埼樹。
三好夏凜は人を殺せるような鋭い目線をこちらへ向けていた。
大赦の勇者である彼女は俺のことを敵視している様子。
はっきりいって他の人がみたら怯えるレベルだろう。
俺は“そういう感覚”が薄れているため、全く気にならなかった。
「とりあえず、焼きそば!」
「どうぞ」
夏凜の言葉に俺は用意していた焼きそばを差し出す。
焼きそばをみた三好夏凜は疑う目を俺に向ける。
「……これ、大丈夫なんでしょうね?」
「安心しろ。毒は入っていない」
「そういう問題じゃないと思うんですけれど」
樹が俺にツッコミをいれる。
差し出した焼きそばをおそるおそる食べる三好夏凜。
すぐにおいしそうに表情をやわらげた。
「夏凜ちゃん?」
「な、中々やるじゃない!」
「俺もくれ!」
ニンジャマンに焼きそばを差し出す。
「うめぇなぁ!」
どうやって食べているのか全員が気になりながらも友奈が焼きそばを欲する。
「あ、あの、私も!」
「どうぞ」
「私も……あ、財布!?」
「お代は結構だ」
「え、でも」
「町民はサービスで初回はタダだ」
「ありがとうございます!」
笑顔を浮かべて結城友奈は頭を下げる。
ふと、大神が奥で縮こまっていることに気付く。
「何をやっているんだ?」
「別に……気にしないでくれ」
問いかけるも大神は何も言わない。
無理に言わない方がいいか。
そんなことを考えると樹がこちらをみていた。
「なんだ?」
「いえ、日向さんが台所に立っている姿を思い出して」
「そういえば、残りの二人は?」
「呼びましたからそろそろ来ます」
「……」
そろりそろりと置かれている天狗の面をとる。
「顔を隠すんですか?」
「余計な騒動を招きたくない」
樹の言葉通り、少し遅れて犬吠埼風と東郷美森がやってきた。
彼女達はニンジャマンの姿に驚き、おそらく天狗の面をしている俺に驚きながらも焼きそばを味わい、そして海へ遊びに繰り出していく。
「おい、いいのか?あの子、お前の妹みたいなもんだろ」
「……彼女は色々と背負っているものがある。俺と関わりすぎると大赦に目をつけられかねない。それは避ける必要がある」
「心配しているのか」
「どうだろうな。そこはいつまで経ってもわからんよ」
ニンジャマンの言葉に俺は苦笑しながら答える。
「……ちゃんと声はかけてやるべきだと思うがなぁ」
ちらりとニンジャマンがどこかをみていたような気がするが俺は焼きそばを作ることに忙しくて対して気にしなかった。
――どうして、彼は私だけに声をかけてくれないのだろう。
樹やみんなと海で遊びながら犬吠埼風は暗い瞳で天狗の面をしている彼をみていた。
風はお面をしている人物が日向であることを見抜いている。
樹が楽しそうに話をして答えてくれるのに対して、彼は私にそっけない。
私のことが嫌いだから?
そんなはずはない。
だったら、私達の面倒をみずに拒絶しているはず。
きっと、何か理由があるに違いない。
そう、もしかしたら恥ずかしがっているのだろうか?
……それか、女子力が足りないのだろうか。
こんなことをいうと尻軽に思われるかもしれないが男子には人気がある。
それを考えたら彼のような年上へ魅了するような力がまだまだ足りないのだろうか?
あぁ、もどかしい。
とてももどかしい。
彼と話をしたい。
彼と触れ合いたい。
彼を抱きしめたい。
彼に抱きしめてもらいたい。
彼と、色々なことをしたい。
でも、
ああ、
どうして、彼は私に声をかけてくれないのだろうか。
私はこんなにも思っているのに。
ぞっとするような視線を感じながら夕方になると勇者たちは用意されている旅館へ帰っていった。
樹の話によるとバーテックス掃討のご褒美ということで大赦が用意したという。
相変わらず、こういうところのケアはしっかりやっているようだ。
ニンジャマンは行くところがあるといって姿を消した。
大神は天火星と泊まっている宿へ戻っている。
そして、日向は。
「来たわね」
海岸。
そこで三好夏凜が待っていた。
「……何の用だ?」
「黒騎士、アンタに決闘を申し込むわ」
三好夏凜はそういうと木刀を日向に投げる。
受け取った日向は木刀を静かに構えた。
「理由を聞かないわけ?」
「聞いたところで俺の理解できるものではないかもしれない。そんなものなら聞かない」
「あ、そう!完成型勇者の力、みせてやるわ」
先手をとったのは夏凜。
二つの木刀が日向を狙う。
振るわれる斬撃を日向は木刀で受け止めることなく右、左へ躱していく。
「(コイツ、無駄な動きを全くしない!)」
連続攻撃を仕掛けるも日向はすべてを回避する。
ひらりと躱して距離をとりながら夏凜は睨む。
「アンタ、一体……何を考えているの?」
「どういう意味だ?」
「勇者でもないのにバーテックスと戦う。それだけじゃない、勇者を守る……アンタに何のメリットもないのに、どうして戦うの?」
「……俺はバーテックスをすべて滅ぼす。復讐を果たす。そのついでにお前達を助けているだけに過ぎない。おまけだ」
「おまけ?アンタは私達を何だと思っているのよ!」
怒りで振るった一撃。
しかし、怒りのあまり先ほどの洗練さはない。
「どこにでもいるお節介で、他人の中にずかずかと入り込んでいく。他人のために命を散らすことを厭わない清らかな少女。それがお前達だ」
この時になってようやく日向は動いた。
日向の木刀と夏凜の木刀がぶつかる。
くるりと操った木刀が夏凜の木刀を宙へ弾き飛ばす。
木刀を目で追いながら片方で攻撃をしようとした時。
「ここまでだ」
夏凜の喉元に木刀の先端が突きつけられていた。
「まだやるか?仕切りなおしても構わない」
「上等!」
上から目線(本人に自覚なし)の言葉に夏凜のやる気魂に火が付いた。
そこから三時間ブッ続けて日向と夏凜は木刀を振るい続ける。
最終的に夏凜は地面に大の字で寝転がった。
「ハァ……ハァ……なん、なのよ。アンタ」
「元・人だ」
「今はなんなのよ!?」
「さぁな。俺もわかっていない」
叫ぶ夏凜に日向は淡々と返す。
「帰るのか?」
木刀を回収して立ち上がった夏凜をみて日向は声をかける。
「えぇ、アンタのことがよくわかったし」
「そうなのか?」
「えぇ!」
つかれた様子で三好夏凜はこちらをみた。
「アンタは友奈達以上にお人好しで大馬鹿だってこと!」
眉間へ皺を寄せているが三好夏凜の表情は少し、本当に少しだが柔らかいものになっていた。
日向は短く答えて彼女に背を向ける。
しかし、すぐ背後に感じた気配にため息を零す。
「(今日は来客が多いな)」
呆れながら振り返る。
後ろには車椅子に乗って、こちらをみている東郷美森の姿があった。
こちらを探るように鋭い目をしている彼女に日向は何とも言えない表情を浮かべてしまう。
「今度は東郷美森か」
「お久しぶりです。蔵人さん……いえ、日向さんというべきですね」
「そうだな。蔵人は死んだ弟の名前だ。なぜ、俺がそれを名乗ったのかわからないが、できれば、日向と呼んでくれ」
「はい」
頷いた彼女は車椅子でこちらへやってくる。
「用件はなんだ?」
「貴方は何のために戦うんですか?」
また、それか。
ため息を吐いてしまう。
前を見ると眉間へ皺を寄せる東郷の姿があった。
「すまない、侮辱するわけじゃないんだ」
「……だったら」
「いや、どうして、皆、似たような質問をしてくるのかと思っただけだ」
「え?」
「何人も俺に戦う理由を問いかけてくる」
「それは貴方がどうしてバーテックスと戦うのか、命を失う危険だって」
「それはお前達勇者も同じ事だろう」
「……お役目だからで」
「お役目ならお前達は命を迷わずに差し出せるのか?」
「……」
「俺は違う。俺は俺の目的があってバーテックスと戦っている」
「それは復讐……ですよね?」
「そうだ」
東郷の問いに迷わずに答える。
「何年、何百年という時が過ぎても俺のバーテックスの憎しみは消えない。奴らが存在し続ける限り俺は戦う。勇者が違おうと、周りの人がいなくなろうと俺は戦う」
「……地獄の道です」
「そうだとしても俺は止まらない」
――もう止まることも出来ない。
口から出そうになる言葉を飲み込む。
「話がそれだけなら戻らせてもらう」
「待ってください」
無視していこうとしたら腕を掴まれる。
「風先輩やみんなが心配しています」
「だから?言ったはずだ。俺は戻ることはない」
「どうしてですか!?バーテックスはもう滅びたんです!お役目はもう――」
日向は東郷を抱きかかえてその場を離れる。
「きゃっ!」
東郷が小さな悲鳴を上げた直後、何かが地面を抉る。
「何が……」
「俺から離れるな」
日向はブルライアットを抜いて何もいない空間を睨む。
「いつまで姿を隠しているつもりだ?」
「流石は、黒騎士というわけか」
暗闇の中から“何か”が現れる。
「あれは、何ですか?」
正体がわからず戸惑った声を漏らす東郷だが日向は無言でブルライアットの剣先を向けたまま動かない。
「わからない」
「……え?」
「だが“よくないもの”ということはわかる」
ブルライアットを向けたまま相手の動きを伺う日向に対してパチパチという手を叩く音が響く。
「流石だ。黒騎士、我が主が貴様を危険視するわけだ。本当なら姿を見せるべきなのだが、神樹の結界もなかなかの強さを持っている。こういう形でしか俺は姿を見せられないのさ」
「貴様……一体」
「なぁに、慌てることはない。いずれ俺は貴様の前に姿を見せる……その時に改めて名乗らせてもらおう……尤も、俺が姿を見せる前にお前が死ななければ……という話だがなぁ」
「なに?」
「フッフッフッ」
正体不明の相手は不気味に笑ってそのまま姿を消した。
しばらく周囲を警戒したが完全に気配を感じなくなったところでブルライアットを仕舞う。
「あ、あの」
下から聞こえた声に視線を向ける。
日向のすぐ目の前に東郷美森の顔があった。
「あぁ、すまない。ずっと抱きしめたままだったな」
「い、いえ……………心臓が爆発しそうです」
「?」
ゆっくりと東郷を下ろそうとするが。
「……あ」
先ほどの攻撃で彼女の使っている車椅子は壊れていた。
「すまない、車椅子のことを失念していた」
「い、いえ、助けてくださってありがとうございます……部屋まで行けば、予備で置いてある車椅子があるので、なんとかなるかと……」
「わかった」
日向は頷くと東郷を抱えなおして歩き出す。
「え、あの!?」
「歩けないだろう。ここから部屋までもそこそこの距離がある。俺が運べば済む」
「そ、そうかもしれないですけれど、勇者部の誰かを呼べば」
「夏とはいえ、夜は冷える。お前が風邪を引けばせっかくの休みも台無しになるだろう……何より、俺が車椅子のことを考えていれば起こらなかったことだ」
「そ、そうですけれど」
「周りに頼られてばかりなんだ。こういう時くらい年上を頼れ」
「…………はい」
俯いた東郷は部屋の前につくまで終始無言だった。
約300歳以上差のある年上へ頼ってしまってドギマギしている美森ちゃん。
誰受けだろうか。
次回も本編。
とあるキャラに視点がいきます。
もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?
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パワーレンジャー
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リュウソウジャー
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ルパパト