「大赦が再び動き出したバーテックスのことを勇者部に伝えたみたいなんよ」
大赦に侵入した俺に乃木園子は話す。
西暦の時と異なりバーテックス関係の情報を大赦はほとんど秘匿している。
そのため、大赦の上層部でない限りバーテックスを生みだしている天の神の存在なども知らないのだろう。
天の神が存在する限りバーテックスは生まれる。
この戦いに終わりはない。
前回はなんとかなったかもしれない。しかし、次はわからない。
それが勇者とバーテックスの戦い。
「……そうか」
「日向さんも戦う?」
「バーテックスは俺にとって復讐の対象だ。現れるなら潰す……だが」
「?」
そこから先の言葉を飲み込んだことで園子は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?」
「何でもない……それより、何か話したいことでもあるのか?」
「え?」
「悩んでいるようにみえるぞ」
「うん、実はわっしー達に会おうかなと思って」
「そうか」
「止めないの?」
「止めてほしいのか?」
問いかけに園子は困ったような表情を浮かべている。
「嫌な質問だったな」
「ううん、これくらいは先輩勇者としてやるべきなんだよ」
「そうか」
「でも、不安なんだ。日向さん、私を抱きしめてくれないかな?」
「抱きしめるのか?」
「うん」
言われた俺はベッドの上から覆いかぶさるように乃木園子を抱きしめる。
動くことができない園子はスンスンと匂いを嗅いでいた。
「匂いなんて嗅いでもいいものじゃないぞ」
「そんなことないんよ。幸せな気分になるよ~」
「そうか」
よくわからないものだ。
「できれば、日向さんにも一緒に居てほしいって思うのはずるいかな?」
「どうだろうな、俺にはわからない」
「もう少し、日向さん、強く抱きしめてほしいかな」
「良いのか?痛がるかもしれないぞ?」
「うーん、強く日向さんを感じたいの」
「そうか」
言われて俺は強く抱きしめる。
小柄な園子の体は強く抱きしめてしまえばそのまま腕の中でつぶれてしまうのではないかと思ってしまう。
しばらくして、園子が満足したような息を吐く。
「勇気をもらったよ!ありがとう!日向さん」
「俺は抱きしめただけだ」
「もう!乙女心がわかっていないなぁ~」
「俺にとって永遠の謎だ」
「そんなことないよぉ~………………日向さんは私と付き合えばそれくらいわかるよ」
「何か言ったか?」
「ううん!」
首を振る園子。
大赦の人間の来る気配を感じて立ち上がる。
「はぁ、次はどのくらいかかるのかなぁ?」
「すぐに会えるかもしれないぞ」
「え?」
「俺も立ち会おう」
「えぇ!?」
驚いた声を上げる園子ににやりと笑う。
「少し勇者たちに用事もあるからな」
小さく告げて俺はその場から離れる。
「嬉しいんよぉ、嬉しいんよぉ、日向さん、日向さんは私のことを思ってくれている。もう私、日向さんなしじゃいきていけないよぉ、はぁ、嬉しいなぁ」
「おい、落合!」
「なんだ?皿洗いの途中だ」
赤龍軒で仕事をしていると大神に腕を掴まれる。
皿を落としそうになり文句を言うと焦ったような表情でこちらをみていた。
「どういうことなんだ!」
「だから、何の話だ?」
「どうして讃州中学校勇者部の連中がいるんだ!」
「……知らん」
この前に結城友奈と出会って働いていることがばれたなど口が裂けてもいえるわけがない。
「本当だろうな?」
「ああ」
ウソをつく。
だから俺は勇者になれない。
心の中で笑いながら俺は大神へ視線を向けた。
「何か問題でもあるのか?」
「あるに決まっているだろ、俺達の居場所が大赦にばれでもしたら」
「その心配はない」
「なに?」
俺は外に置かれている奇妙な置物を指す。
「なんだ、あれは?」
「ニンジャマンが用意した特別なアイテムだ。あれがある限り敵対している人間がこの店を襲撃することはない。襲撃した途端、変な場所に転移されるようになっている……らしい」
「頼りになる……な。だが、別の問題がある!」
大神は店内を指す。
「彼女達が頻度を増せば、いずれ、俺達の正体がばれてしまうぞ!そうなると――」
「そうなると何が困る?」
「……それは」
俺の問いかけに大神は詰まる。
「居場所の心配か?それとも大赦に正体がばれて追い詰められることの恐怖か?そんなことなら今すぐにでもブレスレットを捨ててここへ出ていけ」
「……」
「店内に戻るぞ」
沈黙する大神を残して俺は店内の中に入る。
中へ入ろうとした時、樹が俺の姿を見つけた。
「日向さん!」
「もう少し静かにしてくれ」
「あ、ごめんなさい」
申し訳ない表情になる樹の頭へ手を伸ばす。
ポンポンと彼女の頭を撫でる。
「えへへへ」
「女子というのはどうして撫でられると喜ぶんだ?」
「誰でも!という訳じゃないです!日向さんだからいいんです!」
「そうか」
よくわからない。
俺はため息を零す。
「ところで、いつまで撫で続ければいいんだ?」
「ずっと!」
「……」
「じ、冗談です」
目が本気だったぞなど口が裂けてもいえない。
俺は手を放す。
樹は名残惜しそうにこちらをみていた。
「最近、この店へ来ることが多くないか?」
「えっと、友奈先輩がいきたいって……それで、日向さんがいることをお姉ちゃんも知ったみたいで」
「…………犬吠埼風か」
「あ、あの……」
おずおずと樹がこちらをみる。
「なんだ?」
「お姉ちゃんと話をしてもらえませんか?」
「……なぜ?」
「その、お姉ちゃん……ずっと、日向さんを探しているんです」
「俺を?」
「はい…………あの日からずっと」
「そうか」
「だ、だから」
「悪いができない」
「どうして、ですか?」
「わかっているはずだ。俺は黒騎士、犬吠埼風は大赦に従う勇者。敵対はしていないが、大赦に従っている以上――」
「だとしても!お姉ちゃんは日向さんに会いたがっています!会いたいと望んでいるんです!」
「……」
「お願いです!一日だけでいいんです!お姉ちゃんと会ってくれませんか?」
樹に言われて俺は少し悩み。
その結果。
「わかった……一日だけ、彼女と会おう」
樹にそういって俺は彼女と会うことを約束した。
彼が私と会うことを約束してくれた。
樹から伝えられて私は喜んだ。
心の底から嬉しいと思う。
でも、樹に言われて会うということに納得できない。
まるで樹の言葉なら従うように思ってしまって不愉快だ。
樹は家で大人しく待っていてくれるようだ。
日向と会うことを楽しみにしよう。
「私の女子力で彼を虜にして見せる」
大赦など関係ない。
自分の魅力で彼と一緒にいてもらう。
鏡を見て私は微笑む。
楽しみだ。
あぁ、本当に、楽しみだなぁ。
「こんなことをして意味があるのか?」
私服姿で日向は待ち合わせ場所の公園に来ていた。
店は休むということで天火星亮に話をするとすんなりと通ってしまう。
大神は複雑そうな表情でこちらをみていた。
先日の会話のことを気にしているのだろう。
日向がそんなことを考えていた時だ。
「ごめんなさい、待たせたかしら!」
手を振ってこちらへやってくる犬吠埼風の姿があった。
フリルのついたスカートを揺らして笑顔で彼女はやって来る。
「(見よ!これが私の全力よ!)」
「(いつもよりファッションに力を入れているな、そんなに気合を入れてどうするんだ?)」
風の考えなど知らず日向は首を傾げていた。
「行くか」
「うん!」
日向がそういうと風は腕を掴もうとした。
スカッ。
しかし、風の伸ばした手は空を切る。
もう一度、手を伸ばすもその手は彼の腕を捕まえることができない。
「もう!せっかくのデートなんだから腕を組みなさい!」
「……はぁ」
ため息をついた日向にムッと思いながらも風は腕に思いっきり抱き着いた。
その際に自分の胸を当てるように抱きしめる。
大好きな相手に思いっきり行ったことで心臓が爆発しそうになるほど鼓動を増す。
ちらりと上を見ると日向は全く気にした様子を見せない。
――むむっ!
視線を感じたのか日向が風をみる。
「なんだ?」
「べーつーにぃ」
見る限り不機嫌ですとわかりやすい態度をとる風だが、日向は気にした様子を見せない。
モヤモヤと苛立ちが風の中に生まれていく。
この時、デートと言うことに意識を向けすぎていて風は気づかなかった。
日向の口調がいつもより硬いこと。
そして、彼が本当は落合日向ではないということに。
デートの直前まで日向は悩んでいた。
風と会う時にどんな顔をすればいいのか、記憶を失っていた間、家族として曲がりなりにも接していたことでどうすればいいかわからなかった。
その時、『ならば、私が変わろう』と彼の頭にブルブラックが声をかける。
了承する暇もないまま日向の意識は闇の中に消えて、ブルブラックが表へ出ていた。
最初は日向がちゃんとデートに行くつもりだったのだが、急なブルブラックの提案につい、了承してしまう。
「(しかし、デートをやったことがない私にとっては中々に難しいものだな)」
ブルブラックが日向の体を使用しているが彼自身、まともにデートをしたことがない。
真面目で彼は星を守る騎士として戦い続けた者は恋愛などまともになかった。
故に風の猛烈アタックに対して彼はちぐはぐな対応しかできない。
そのため、彼女の不満はより高まっていく。
「おねえちゃん、大丈夫かなぁ?」
「樹、アンタが心配する気持ちはわかるけれど、アタシ達を巻き込む理由があるの?」
「え、だって……」
「夏凜ちゃん!樹ちゃんが困っているんだから助けてあげないと!」
「友奈ちゃんの言うとおりよ!それに、風先輩が日向さんに何かをしでかさないか監視……見張っておかないと」
「今、本音がでていなかった?まぁ……いいわ」
此処で一人が何かいったところでどうにかなるわけがない。
何より猪突猛進の友奈が燃えている以上、巻き込まれることは目に見えている。
夏凜は諦めて彼女達の後を追いかけた。
不思議と悪い気分ではなかった。
しかし、途中で彼女達は尾行することをやめて四人で遊び始めてしまう。
デートはとにかく散々なものだった。
風がどれだけアプローチしても日向はなびかない。
それどころか全く自分は興味なしという態度をとるばかり。
興味なしという態度で淡々と風と話をする。
前のように目を合わせてもくれない。
そんな事態に風の心の中は荒れ狂っていた。
「(こうなったら!)」
風は一世一代の行為。
――告白を決意する。
「さ、こっち!」
日向の手を引いて風は歩き出す。
場所は誰もいない公園。
夕焼け空の下で風は意を決した表情で日向と向かい合う。
「お話があります」
「……なんだ?」
もじもじしている風に対して日向は興味がないという表情。
緊張していた彼女はそのことに気付かない。
そんな状況のまま、トリガーは押された。
「私は貴方が好きです」
「……そうか、だが“私”はお前に何の感情も抱いていない」
「……………………………ぇ?」
呆然とした風に対して日向は背を向ける。
「話がそれだけなら、私は行く」
「ま、待って!」
戸惑いながら風は叫ぶ。
告白をして躊躇いもなく降られたことで風の頭はごちゃごちゃしていた。
縋りつくように彼女は問いかける。
「どうして、ダメなの!私のどこが」
「お前は大赦に属している勇者だ。“私”はそんな人間と共にいることは出来ない。何より私はやることがある。お前の気持ちに応えてやることはできない」
そういって今度こそ日向は去っていった。
残された風はぺたんと座り込む。
呆然としていた風だが、やがて顔を上げる。
その目に光がなくなった。
「なんで……なんでぇええええ!」
叫びながら風は勇者装束を纏う。
大剣を構えた彼女の狙い先は日向。
――気絶させて、部屋へ連れていく!
暴走した風の大剣は日向の後頭部へ迫る。
振るわれるという瞬間、ブルライアットで大剣を弾き飛ばす。そして、剣先を風へ向けた。
その時、風は日向と目が合う。
――無。
彼の目は全くというほど何の感情も映していない。
風自身すら興味ないという目だった。
――だれ?
その目を見た時、風は思った。
彼は誰だ?
自分の知っている日向じゃない。
じゃあ、誰だ?
ぺたんと座り込んでしまう風に日向は興味なしというようにブルライアットを鞘へ納める。
「大赦の命令か……やはり、このデートも企みだったわけだ」
「ち、ちがっ――」
否定しようとした風だが、日向は彼女を見ていない。
彼女をみないまま日向は去っていく。
「あ、あ、あ!」
風は気づいてしまう。
彼がいなくなってしまう。
自分は嫌われた。
もう、彼と会えない。
「あ、ァっぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
目を見開いて風は限界まで叫ぶ。
ぽろぽろと涙をこぼしながら風は悲しみの声を上げ続けた。
「大赦は私を排除したいようだ。ならば、仕方あるまい」
道を歩きながら日向は――ブルブラックは目を細める。
「小を犠牲にして大をとるか……ならば、私も行動を起こさせてもらおう」
ブルライアットを抜いて彼は黒騎士へ姿を変える。
「さぁ、ギンガの光を手に入れるとしよう」
次回、次々回くらいで第一期の話は終了予定。
もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?
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パワーレンジャー
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リュウソウジャー
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ルパパト