落合日向が四国へ戻ってきた。
しかし、彼の日常そのものに大きな変化はない。
赤龍軒でバイトとして働く毎日。
バーテックスはあれから嘘のようにおとなしい。
来るべき時へ備えているのかもしれないのだろう。
かくいう、日向も黒騎士としての力を十全に振るえるように鍛錬は欠かしていない。
彼は黒い木刀を目の前の相手へ振るう。
相手はその動きを読んでいたのか赤い木刀で受け止めた。
一旦、距離をとろうとしたところで重たい一撃が日向に落とされる。
とっさに受け止めたがその一撃で彼の手はしびれてしまう。
「ここまでにしよう」
相手が木刀を戻したことで日向も木刀を収める。
「流石は天火星君が紹介してきただけのことはある。とんでもない実力だな」
「いや、貴方ほどではない。天童竜」
赤い木刀を戻しながら天童道場の主である彼は首を振る。
「いや、俺も二十年以上、剣を振るってきたけれど、君以上の猛者はいなかった。良い経験になるよ」
「そうか」
「…………ところで、日向君」
「はい」
「国防仮面の噂を君は聞いたことがあるか?」
シャワーを浴びて着替え終えたところで天童が日向へ問いかける。
「国防仮面?いいえ」
「実は最近、街中で見かける人が多いらしい。困っている人を助ける正義の味方らしい」
「知らないですね」
「そうか、じゃあ、噂だったのだろうか……すまない、忘れてくれ」
首を振る彼のほうへ視線を向けながら日向は天童道場を後にする。
この時、日向は予想していなかった。
帰宅途中に噂の“国防仮面”と遭遇することになるなど。
「何だ、あれは」
帰り道、夕焼け空の下を歩いていた日向は目の前に現れた存在に一言漏らした。
軍服のようなものに身を包み、マントを風で揺らし、顔の上半分は隠され、帽子をかぶっている女性。
服のラインから女性だとわかったが明らかに異質だった。
「ハロウィンは……過ぎたよな?」
自分の記憶を探りながらぽつりと漏らす日向の声に気づいたのか彼女は振り返る。
向こうは少しばかり驚いた表情をしつつも近づいてきた。
「(なぜ、近づいてくる)」
少し心の中で思ってしまいながら相手をみる。
「初めまして、私は国防仮面!憂国の戦士です」
「そうか」
「な、何かお困りごととかありませんか?」
「大丈夫だ」
「そ、そうですか」
「ああ、ところで東郷、お前は何をしている?」
日向の問いかけに少し目を動かすも不思議そうに首をかしげる国防仮面。
「何のことですか?私は国防仮面、弱き者の味方です」
「そうか、無茶はするなよ。アイツらが心配するからな」
「……これはご丁寧に」
ぺこりと頭を下げて去っていく国防仮面。
その姿を見て、日向は首をかしげる。
「最近はあんなのが流行っているのか?」
「日向さん!お話があります!」
赤龍軒、いつものように日向が仕込みを手伝っていると大きな音を立てて東郷美森が店内にやってくる。
「まだ準備中だぞ」
「わかっています。店長の天火星さんの許可はもらっております」
「そうか」
「お話があります」
「作業しながらでいいか?大事な話なら十分待て、仕込みがそれで終わる」
「なら、待たせてもらいます」
有無を言わせぬ東郷の姿に首をかしげながら日向は仕込みを終わらせる。
店長の天火星は町内会の会合のため、日向が仕込みを任されていた。
どういうわけか、お手伝いから正式採用されたスタッフみたいな扱いに日向はなっている。
作業を終えて、店の裏手へ日向と東郷は出た。
「単刀直入に伺います。日向さんはどうして国防仮面が私であるなんて思ったんですか?」
「……は?」
真剣な話だと思っていた日向にとって予想外すぎることに抜けた声がでる。
しかし、目の前の東郷は真剣であったことから言葉を飲み込む。
「答えてください。どこで私だと気づいたのですか」
「一目見た時から」
「…………え?」
今度は東郷がぽかんとした表情を浮かべていた。
「え、え、一目見ただけ?それだけですか?」
「ああ、それだけだ」
「き、規格外すぎます!」
「知らない。話はそれだけか?だったら俺は戻るぞ」
「待ってください!」
腕を掴んで東郷は日向を見上げる。
その目は何か危険なものを孕んでいた。
「フフフ、正体がばれてしまっては仕方ありません。日向さんにも活動を手伝ってもらいます!」
「そもそも、お前はなぜ、国防仮面などということをやっている?普通に勇者部として動けばいいだろう?」
「それでは意味がありません!」
「なに?」
「ま、まぁ、そのことを話すのはおいおいにして、とにかく、日向さんには協力してもらいますからね!」
「断る」
「そのっち」
びくぅ!と日向の肩が動いた。
「そのっちとの約束をまだ果たしていませんよね?日向さん」
「…………」
「いいですか?私の活動に協力すれば、そのっちにこの場所のことを言うことを黙っておいてあげます。その代わりに日向さんは国防仮面の活動を手伝うこと……それが条件です」
「はぁ」
日向は溜息をこぼす。
ここで拒絶して乃木園子がやってくるといろいろな面倒が起こる。
それだけは避けたいので日向は頷くしか選択肢が存在しなかった。
「わかった、手伝おう」
こうして、日向は裏方として東郷美森こと、国防仮面の手伝いをすることとなった。
彼女から渡された銀のジャケットをまとい、日向は国防仮面の手助けを続ける。
落とし物から迷子、さらには野良猫の保護まで幅広く国防仮面は活動を行う。
最近のものではひったくり逮捕といったことまで起こった。
そのために国防仮面の噂は瞬く間に広がっていく。
「さすがにそろそろ活動を終わらせてもいいんじゃないか?」
日向は噂によって国防仮面をみようとしている町の人たちを見て一緒に歩いている東郷へ提案をする。
「そう、ですね。さすがに目立ちすぎてきています。これ以上はダメですね」
「引き際の肝心だ。どうせ、友奈たちにも黙っているんだろう?」
「その通りですね……ふぅ」
小さく息を吐いて東郷は提案する。
「では、今日の夜をもって国防仮面の最後としましょう」
「わかった」
ようやく解放されると思いながらも日向は東郷へ視線を向ける。
彼女はジッとこちらをみていた。
「何だ?」
「いえ……そうですね、聞いておきます。日向さんはこれからどうされるつもりですか?」
「俺のやることは変わっていない」
日向は隠しているブルライアットへ手を伸ばす。
「天の神、トランザを倒す。俺のやることはそれだけだ」
「私たちは勇者ではなくなりました」
大赦は先日の騒動の後、お役目は終了ということで友奈たちから勇者アプリの入った端末を回収した。
風や夏凜が敵の存在を訴えても耳を貸すことはない。
もし、バーテックスが現れた時、戦うのは日向と大神しか今はいないのだ。
「本来であれば、私たちがやるべきことです。日向さんは」
「俺はバーテックスを滅ぼす。いつの時代であれ、やることは変わらない」
淡々と日向は答える。
そんな彼の姿に東郷は溜息をこぼした。
「頑固ですね。日向さんは」
「結城友奈ほどではない」
「そんなことありません!」
ガミガミと説教をしてくる彼女の言葉を右から左へ聞き流すことにした。
「そういえば」
「まだ、あるのか?」
「そのっちが会いたがっていましたよ」
「……」
「まだ、先日のことを気にしておられるのですか」
「そんなことはない」
「そのっちも悪気があったわけではないんです。そのことだけは」
「わかっている」
日向は短く答える。
先日、発生した乃木園子による「同棲事件(命名、風)」で少しばかり勇者部のメンバーと距離を取っていたのだが、そのことが余計に園子を病ませる原因になったかもしれないと日向は考えて近づくことに悩んでいた。
「一度、会ってあげてください」
「わかった」
東郷に念押しされながら本日最後の国防仮面の活動は開始した。
そして、本日最後でハプニングに遭遇する。
「どうして、こうなった」
「えへへへ~、日向さぁん」
「日向さん!お菓子ありますよ!食べませんか!」
「ふふふ~、日向さんの膝の上、最高ですぅ」
日向の左右と膝の上に乃木園子、結城友奈、犬吠埼樹の三人が占領していた。
すぐそばでは変装を解除された東郷と尋問中の風と夏凜の姿がある。
しかし、すぐに二人も鬼のような視線を向けた。
「アンタたち!いつまで占拠しているのよ!?」
「そうよそうよ!私だって日向の膝を満喫したいのに……ってぇ!樹!女の子がしちゃいけない顔をしている!」
「はっ!?あまりに日向さんの膝の上が気持ちよすぎて」
「いいよねぇ~、いっつんもそんな顔になるのは当然だよ」
「あれ、そのちゃん、そのカメラは何?」
「うふふふ、ひ、み、つ」
勇者部に国防仮面の正体がばれた。
最後の案件を片づけたタイミングで勇者部のメンバーが現れて、風が叫ぶ。
「あの胸は東郷のものよ!」
お前の判断基準はどうなっているんだ!?
素で叫びたくなりながら日向は隠れようとした。
しかし―。
「見つけたよぉ~、日向さぁん」
日向レーダー(自称園子)によってあっという間に発見されて国防仮面ともども部室へ連れてこられる。
「じゃあ、そろそろ話してもらおうかしら!日向!どうして、東郷に国防仮面をやらせているのかしら!」
「は?」
「へ?」
風は不思議そうな顔をする。
「日向が東郷へ国防仮面をやらせているんじゃないの?」
「一応、尋ねるが何をもって俺がアイツにやらせているなどという考えに至った?」
「え?そりゃ、あれ?なんでかしら?」
「……疑問形で答えるな。そもそも俺は東郷に出会って手伝いをしていただけにすぎん」
「え、そうなの?」
「そうだ」
ちらりと風は東郷をみる。
「はい、日向さんは私を手伝ってくれていたんです」
「じゃあ、なんでアンタは国防仮面なんてやってんのよ」
「それは……」
ちらりと東郷がこちらをみた。
どうやら日向の前で答えたくないらしい。
それを察した彼は樹を下ろして立ち上がる。
「どうやら俺が聞いていると答えにくいみたいだからな。帰る」
「あ、じゃあ、途中まで送るよ~」
「わ、私も!」
「アンタたちは待機!」
追いかけようとした友奈と樹を風は止めた。
「助かる」
「今度、デートね」
ウィンクをして風は告げる。
助けられたことに感謝しながら日向は園子と外へ出た。
「日向さん」
「この前は悪かったな」
「そんなことないよぉ~、あれは暴走した私が悪かったからで」
「……前の約束をすっぽかしている俺が悪いということにしとけ」
コツンと園子の額をつつきながら日向は言う。
「じゃあ、約束!今度こそ、お出かけだからね!」
「……わかった。約束を守る。絶対だ」
そういって日向と園子は指切りをする。
「(そういえば)」
日向はふと思う。
東郷はどうして国防仮面をはじめた理由を伝えたくなかったのだろうか?
日向に知られると困るようなことだったのだろうか?
「(まぁ、明日に聞けるだろう)」
そう思っていた翌日。
周りの人間の記憶から東郷美森の存在が消えていた。
さらりと登場人物紹介
天童竜
鳥人戦隊ジェットマン、レッドホークだった人。
ただし、この世界では道場を開いているだけで変身はしない。しないがその実力はかなりのものである。
結婚しており、妻の香と一人娘を大事にしているとのこと。
次回は個別番外編。
その次は本編を予定。気が変わったら番外編にくかも。
もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?
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パワーレンジャー
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リュウソウジャー
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ルパパト