黒騎士は勇者になれない   作:断空我

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乃木園子がしでかした事件の全貌が明らかに!




個別番外編:乃木園子同棲事件

 

 乃木園子は求めていた。

 

「日向さん成分が足らんよぉ~」

 

 先代、勇者にしてご神体としてあがめられていた乃木園子は大赦に侵入してきた黒騎士こと落合日向に触れられてきた。

 

 そのことから、定期的に日向に触れられないと体が落ち着かない、園子命名の日向成分が大変、不足している。

 

 本当ならすぐにでも会いにいきたいところなのだが、彼は天童竜と共に山籠もりしており不在。

 

 探そうにも六大神も絡んでいるのか大赦の人間では発見は不可能に近い。

 

 そのため、ひそかに作成したひゅうがくん人形を抱きしめているが効果は薄かった。

 

「うーん、日向さんと連絡をしたいけれど、連絡先を知らないし、どこに住んでいるかもわからないんだよねぇ~」

 

 マンションのベッドでぬいぐるみを抱きしめながら乃木園子は考える。

 

 本来ならば、犬吠埼姉妹へ問いかければいいのだが、彼女たちもライバルではあるため、そうそう教えてくれはしないだろう。

 

 勇者部のメンバーは友達であり仲間で、そして最大のライバルなのだ。

 

 隙を見て彼と接しようと考えるだろう。

 

 かくいう園子もその一人。

 

「うーん、そうだ!」

 

 園子はむくりと体を起こす。

 

「日向さんに手紙を書いて伝えるんだ!」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべる園子。

 

 そして、彼女はある計画を練る。

 

「日向さん成分をたーくさんとれるように私の家に住んでもらおう!いぇーい、いい作戦だぜ~」

 

 その計画が新たな騒動を呼ぶことになるなど、誰も想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手紙?」

 

「はい、これ」

 

 赤龍軒、いつものように仕事にいそしんでいた日向へ遊びに来た風太郎が差し出す。

 

「差出人は乃木園子、驚いたよ。神様を郵便屋さんにするんだから」

 

「すまないな」

 

「いいよ、彼女にはいろいろと迷惑をかけてしまったし」

 

「今のは風太郎としてか?」

 

「いいや、ガオゴッドとして」

 

「そうか」

 

 短く答えて日向は手紙の封をきる。

 

 中を見て溜息をこぼした。

 

「どうしたの?」

 

「手紙の送り主は乃木園子だったな。お礼をしたいからどこかで会えないかと書かれている」

 

「おー、積極的だねぇ」

 

「からかうな。いろいろと問題があるのは知っているだろう」

 

「それは乃木家の子だから?」

 

「当たり前だ。乃木家は大赦の二大家の片割れだ。そんな子と俺があっていると知ったら大赦の連中が何をしでかすか」

 

「大丈夫だと思うよ」

 

「なに?」

 

「これを渡すから」

 

 風太郎が取り出したのは小さなお守り。

 

「なんだ、これは?」

 

「神様特製のお守りだぜ?持っている人間へ敵意を向けている存在には持ち主が別の人物に見えるという力がある」

 

「……そんなものを俺に渡して大丈夫なのか?」

 

 尋ねる日向だが、風太郎は「気にしない」という。

 

「だって、日向には返しても返しきれない恩があるからな!これぐらい当然だって」

 

「そうか」

 

 日向はお守りを受け取ることにした。

 

「なら、もらっておく」

 

「うんうん、素直なのはよいことだ」

 

 風太郎の表情に毒気が抜けたように日向は溜息をこぼす。

 

 その時、店のドアが開いた。

 

「こんにちは!日向さん!いますかぁ?」

 

「こんにちは~」

 

 ドアを開けてやってきたのは結城友奈と東郷美森の二人。

 

「まだ準備中だ」

 

「あ、日向さんだ!」

 

 嬉しそうに友奈はやってきて日向に抱き着いた。

 

「おい、いきなりなんだ?」

 

「えへへ、日向さんに会いたかったんです!」

 

「だからって、いきなり抱き着くな」

 

「め、迷惑ですか?」

 

「危ないから気をつけろといいたいんだ」

 

 しゅんとうなだれていた友奈だが、日向の言葉にパァと太陽のように笑顔が輝いた。

 

 その姿をみて東郷の表情がキラキラしていたが風太郎は何も言わないことにする。

 

 前に余計なことを言って地獄を見たからだろう。

 

「ところで、日向さん」

 

「なんだ?」

 

「今度の土曜日、暇ですか!?」

 

「土曜日?」

 

「実は東郷さんと一緒に買い物にいくんですけれど、よかったら日向さんも!」

 

「ええ、私たちだけでもいいんですけれど、偶には日向さんも一緒にどうでしょう!?」

 

 やたらと食い込んでくる二人。

 

 申し訳ないが、と前置きをして日向は伝える。

 

「悪いが、土曜日は予定があるんだ」

 

「そうなんですか~」

 

「予定といいましたが、お店の手伝い以外に何か?」

 

 東郷の問いかけに日向は考える。

 

 ここで素直に園子と会うと伝えたら何かややこしいことが起こってしまう。最悪、話が風達にも伝わって妨害や監視といったこともありえるだろう。

 

「大神と特訓のために山籠もりだ」

 

「そうですか……でしたら仕方ありませんね。頑張ってください!」

 

「ああ」

 

 笑顔の東郷と友奈に罪悪感を覚えながら日向は嘘をついた。

 

 しかし。

 

「(あの顔、嘘だ、勇者部の誰かと出かけるのかな?)」

 

「(日向さんは本当に嘘をつくのが苦手なのですね、当日は道具をそろえて尾行しないと)」

 

 日向の嘘は既にばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日。

 

 日向は私服を着て赤龍軒をでる。

 

 念のため、誰にも会わないように注意しながら進む。

 

 そんな彼を尾行する影がいた。

 

「本当に日向が出かけるの?」

 

「えぇ」

 

「何かの間違いとかは?」

 

「樹ちゃん、それはないよ!」

 

「日向さんは慣れない嘘をついてまで、誤魔化そうとしました。誰かと出かけると考えるべきです」

 

「そういえば、夏凜ちゃんは?」

 

「何か、用事があるとかで来れないそうよ。園子も同じだって」

 

「「怪しい」」

 

 風の言葉に友奈と東郷が訝しむ。

 

「もしかしたらどちらかが日向さんと」

 

「ありえる話ではあるわ。そのっちもそうだけど、夏凜ちゃんも最近はツンデレがマスマス増しているから」

 

「それ、夏凜が聞いたら怒るでしょうね」

 

「うん……どうして、私たち、落ち着いているのかな?」

 

「そりゃ、あれでしょ?目の前で暴走している人がいるからよ」

 

「なるほど」

 

 風の言葉に樹は納得した。

 

 二人の目には嫉妬という名の炎を燃やしている友奈と東郷の姿。

 

 そんな姿を見ているから二人は落ち着いているのだろう。しかし、実態は違う。

 

 二人は自覚していなかったが少なからず友奈たちよりも優位の立場にいるから落ち着いているのだ。

 

 ここのところ、風と樹に罪滅ぼしのつもりなのか、週末は二人の家で料理を作ってくれる時間を日向は作っていた。

 

 勿論、勇者部のメンバーに二人は話していない。それを知れば、貴重な時間が奪われることを理解しているためである。

 

 家族としてだが、いつかはそれ以上になりたい。

 

 アドバンテージがあるからこそ、二人は友奈たちほど、暴走していなかった。

 

「あ、行くよ!」

 

「尾行開始です!」

 

「「不安だ」」

 

 歩き出す二人を追いかけて犬吠埼姉妹もついていく。

 

 その後に、二人の嫉妬の炎が爆発することなど知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日向と乃木園子のデート?は順調だった。

 

 待ち合わせ場所に少しして大赦の車に乗った乃木園子がやってくる。

 

 緊張していた彼女と話をしながら街中を歩く。

 

 服装について日向は尋ねられたが「似合っている」と一言。

 

「日向さんは黒色が好み?」

 

「いや、そういうわけじゃない。昔、こういうデザインのコーディネートをしてくれた幼馴染がいて、それを愛用しているんだ」

 

「ほへ~。幼馴染がいるんだね!」

 

「いた、だな。もう三百年前の話だ」

 

「あ、そっか」

 

「そんな暗い顔はしないでくれ。俺の中で落ち着いてはいるんだから」

 

 ポンと園子の頭をなでる。

 

 彼女は嬉しそうに目を細めた。

 

「気持ちいいなぁ~、ハッ!このままじゃダメなんだよ!ほら、行こう!」

 

 園子に手を引かれて日向は歩き出す。

 

 その後、ぬいぐるみが沢山、おかれているショップへ。

 

 服を冷やかし……園子は日向がほめたものを後日、買うことを決意。

 

 昼はカップルのように仲睦まじく。

 

 彼氏彼女のいないものがみたらからいもの、ブラックコーヒーを欲するような出来事が続いた。

 

 そのために。

 

「もう、我慢が……」

 

「友奈ちゃん、堪えて!ここは耐えるべきところなの!」

 

「お姉ちゃん!落ち着いて!」

 

「ヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガ!」

 

 飛び出そうとする友奈を抑える東郷。

 

 理性がログアウト状態の風を必死に抑え込んでいる樹。

 

 とてつもない光景が離れたところで出来上がっていた。

 

 そして、園子はニヤリと笑みを浮かべて日向を連れていく。

 

 己の計画実行のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の家?」

 

「そうなんだ~、日向さんともっとお話をしたくて」

 

「夜に男をあげるのはどうかと思うが?」

 

「もう~!そんなこというなら、この前の約束、破ったこと!許さないんだから」

 

「…………わかった」

 

 前の約束を反故にしたことをいわれると日向は反論できない。

 

 そもそも、あの時はいろいろなことが重なっていたというだけなのだが、言い訳、染みていて言う気はなかった。

 

「うれしいよぉ~」

 

 笑顔の乃木園子に手を引かれて歩いていく。

 

「帰りは車じゃないんだな」

 

「大赦も心配性なだけだよ、私だって歩いて行けるのに」

 

「そうか……」

 

「日向さんが同い年だったらなぁ、学校で一緒に授業を受けられるのに~」

 

「勘弁してくれ。三百年以上過ぎた状態で中学生からのやり直しなんて勘弁だ。それに周りとうまくやれる自信がない」

 

「あ~、それはあるかもね~」

 

 生きて十年と少し程度の男の子たちの中に日向が混じる姿を想像した乃木園子は笑う。

 

「笑うことはないだろう」

 

「だって~」

 

 楽しそうに話しながら乃木園子の住まうマンションへ足を踏み入れる。

 

 中へ入って園子がカギをあけた。

 

「ささ、どうぞ~」

 

 園子に言われて、日向は中に入った。

 

 キー、ガチャン。

 

 ドアが閉まる音に日向は振り返る。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

 園子はほほ笑んだままドアにカギをかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お茶を用意するから待っていてねぇ~」

 

 そういって園子の自室へ通される日向。

 

 中に入るとやはり園子らしさというべきだろうか。

 

 サンチヨさんぬいぐるみが沢山、あった。

 

「あれ?」

 

 サンチョさんぬいぐるみの中心。

 

 そこにちょこんと置かれているぬいぐるみは黒騎士を模していた。

 

「違和感あるな」

 

 ぬいぐるみを見て、室内を見渡していると机の上に置かれているノートが開かれている。

 

「……?」

 

 気になりノートへ近づこうとした時、園子がやってきた。

 

「お待たせ~、お茶でぇす」

 

「ああ、すまない」

 

 机の前に腰かける。

 

「はい、どーぞー」

 

 園子が差し出したお茶を日向は飲む。

 

「ところで日向さん」

 

「なんだ?」

 

「お願いがあるんだぁ~」

 

「お願い?」

 

「うん!」

 

 笑顔を浮かべる園子。

 

「俺にできることなら」

 

「大丈夫!日向さんにできることだから」

 

「わかった」

 

「うれしいなぁ!じゃあね」

 

 園子はニコニコと。

 

「私とここで一緒に生活してね♪」

 

 爆弾を投下した。

 

「あ、れ?」

 

 答えようとした時、急に視界が揺れる。

 

「あれ、予想よりも早いね~、入れすぎちゃったかな?」

 

「なに、を」

 

「睡眠薬、入れてみたんだけど」

 

 ふらふらと立ち上がろうとする日向。

 

 しかし、バランスを崩して後ろのベッドへ倒れこんでしまう。

 

「えへへ、さすがは日向さん、わかっているねぇ~」

 

 倒れた日向の上へ園子がのしかかる。

 

 園子のにおいや柔らかい体のぬくもりが伝わってきた。

 

「何を……」

 

「うーん、日向さん成分補給なんよぉ~」

 

 日向が問いかけるも園子は答えない。

 

 抱き着いて、強く抱きしめてくる。

 

「日向さんも罪な人なんだよね~、もう、私は日向さんなしじゃ生きていけない体になっちゃったんだぁ~、大赦の連中は頑固だから会うことに反対するしさぁ~、でもでも、一緒に生活するようになったらあの人たちも少しは大人しくなると思うんだぁ、ほら、乃木家に強い人が入るわけだし、あ、私としては好きな人と一緒にいたいという気持ちがあるんだよ?あぁ、気持ちいいなぁ、日向さん成分を沢山補給しなくちゃ~、ね、このまま一緒に」

 

 抗おうとするが睡眠薬が多量のせいで日向の意識もぼんやりし始める。

 

「ちょぉぉっとまったぁあああああああああああああ」

 

 意識が消える瞬間、聞き覚えのある声たちが聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果からいうと乃木園子の計画は失敗した。

 

 最後まで尾行していた風達によって俺は救われたのである。

 

 乃木園子には怖い顔をしていた東郷が説教をして、しばらく反省するということだ。

 

 謝罪をしてきたときに「私は大きな罪を犯しました。お許し下さい」というプレートを下げて本気で泣いていたことは当分、忘れられそうにない。

 

 同時に、俺は理解してしまう。

 

 彼女たち、勇者に西暦の時と同じくらい、いや、それ以上に俺は好かれてしまっているのではないだろうか。

 

 こんな時に力や健太がいれば相談できたのに、彼らはいない。

 

「またか」

 

 園子かた渡された端末を手に取る。

 

 そこにはたくさんのメッセージが乃木園子から送られていた。

 

 しばらく、彼女と距離を置いておこう。

 

 冷静になってからでないと再び薬を盛られそうだ。

 

 日向はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国防仮面と出会う、二週間ほど前の話である。

 

もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?

  • パワーレンジャー
  • リュウソウジャー
  • ルパパト

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