黒騎士は勇者になれない   作:断空我

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今回、グダっています。

次回はより、混沌になるかと思います。


黒騎士と滅んだ諏訪

「……四国の外に出ることが決まったわ」

 

 海岸で俺にちぃちゃんは告げる。

 

「そうか」

 

「貴方はどうするの?行先は諏訪よ」

 

「……諏訪か」

 

「できるなら、貴方に案内をしてもらいたいと大社は考えているわ」

 

「興味ないな」

 

「今、神樹の許可がなければ外に出ることは出来ないわ」

 

「そのようだな。俺もゴウタウラスも外に出られなくなった」

 

 少し前、俺とゴウタウラスは外に出ようとした。

 

 だが、突如、強まった結界によって抜け出せなかった。上里ひなたの話によると神樹がバーテックスの侵攻を防ぐために不用意に外へ出られないように結界を強めたという。

俺とゴウタウラスは樹海化が起きないとバーテックスに戦えないという状況に陥っていた。

 

「諏訪へ同行してくれれば、貴方も外へ出られる。バーテックスと戦う機会もあると思うの」

 

「……ちぃちゃん」

 

 兜の中で俺は顔をしかめる。

 

「日向、私は貴方とこんな堅苦しい会話をしたくないわ」

 

「……わかった」

 

 ちぃちゃんの前で俺は鎧を解除する。

 

「俺にどうしてほしいんだ?ちぃちゃん」

 

「一緒に諏訪へ来て、貴方の助けが必要なの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇええ!?黒騎士がオーケーした!?」

 

 丸亀城、そこで球子が驚きの声を上げる。

 

 大社から四国の外に遠征する話がでた。

 

 そのため、勇者たちは遠征の準備をしていたのだが、千景からもたされた黒騎士が同行するということに球子が驚きの声を上げる。

 

「信じられない……バーテックス殺しにしか興味のない黒騎士が、タマ達に同行することをオーケーするなんて」

 

「……うん、私も驚いた」

 

 球子に同意するように杏も頷いた。

 

「千景、助かった。だが、どうやったんだ?」

 

 不思議そうに若葉が尋ねる。

 

 誰が頼み込んでも首を縦に振らない。それどころか会話すらしなかった黒騎士がオーケーしたことが気になった。

 

 誰もが気になるという視線を向ける中で千景は小さく微笑む。

 

「内緒よ」

 

 えぇー!という声が室内で広がる中、不思議そうに高嶋友奈は千景をみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

『お前の深層世界だ』

 

 背後に現れるのは黒騎士ブルブラック。

 

『私とお前が唯一、会話を交えられる場所だ』

 

「……俺を呼んだ理由はなんだ?」

 

『迷っているのか?』

 

 ブルブラックの問いかけに俺は沈黙する。

 

『落合日向、お前の目的は何だ?』

 

「言うまでもない!バーテックスを皆殺し、そして、天の神を滅ぼす!」

 

『ならば、迷う必要はあるまい』

 

「俺は迷ってなどいない!」

 

『そうか?私はお前に力を与えている。だが、同時に私はお前でもあるのだ』

 

「……それは、どういう意味だ?」

 

『力を貸している間、私とお前は感情を共有している。お前の感情も私の中に流れ込む』

 

「それは……」

 

 ブルブラックは告げる。

 

『お前は迷っている。復讐者としてあり続けることに、出会った者達を守りたいと……嘗て、貴様が少しばかり抱いたあの時の気持ちが再び、芽生えつつある』

 

「そんなことはない!」

 

 ブルブラックの言葉を否定する。

 

「ブルブラック、わかっているはずだ。俺は切り捨てた!諏訪の連中も!勇者と巫女も捨てた!そんな俺が再びそんな気持ちを抱くわけがない!俺は俺だ!復讐者だ!黒騎士ブルブラックから力を受け継いだ復讐者だ。決して、勇者ではない!」

 

 俺の叫びにブルブラックは何も言わない。

 

『忘れないことだ。お前の目的を……』

 

 警告のように告げられた言葉が脳裏にこびりついて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついにやってきた遠征任務。

 

 若葉を筆頭にした勇者、そして巫女であるひなた、最後に外の世界を知る者として参加した黒騎士を含めたメンバー。

 

 久しぶり、初めて、四国の外に出るということで黒騎士を除くメンバーはどこか浮ついた空気を出している。

 

 俺はため息を吐きたい気持ちになった。

 

「あの!黒騎士さん!」

 

「……」

 

 呼ばれて俺は視線を向ける。

 

 笑顔でこちらに歩み寄ってくる少女は高嶋友奈だったか?

 

「ありがとうございます!」

 

「何のことだ?」

 

「今回の遠征、ついてきてくれてありがとうございます!」

 

「そのことか、俺はバーテックスを倒すことができるから同行しているだけだ。お前達を連れていくのはおまけだ」

 

「でも、助けてくれてありがとうございます!」

 

「……そう明るい顔をしていられるのも今だけだな」

 

「え?」

 

「お前達が思っているほど、外は甘くないということを知るんだな」

 

 高嶋友奈に背を向けて距離をとる。

 

「なんだ!アイツ!」

 

「タマっち先輩、落ち着いて……でも、今の言い方」

 

「ああ、外を知っているからこそ、黒騎士の言葉がひどく気になるな」

 

「でも!このままじっとしても何も変わらないよ!」

 

 強い言葉で言い放った高嶋友奈の言葉に全員は頷いた。

 

 さて、どこまで保てるやら。

 

「ゴウタウラス!!」

 

 俺はゴウタウラスを呼ぶ。

 

 地響きと共に俺の前に現れるゴウタウラス。

 

 勇者たちは何度もゴウタウラスをみているから驚く事はない。

 

「え、でも、どうして、ゴウタウラス?」

 

「徒歩で移動するのは時間の無駄だ。ゴウタウラスの背中に乗れ……小さなバーテックスならゴウタウラスが蹴散らす」

 

「「「「え?」」」」

 

 困惑したような勇者たちの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、杏、これって、どうなんだ?」

 

「まあ、私達は体力が温存できるからいいんじゃないかな」

 

 困ったように漏らす球子に杏は苦笑する。

 

「ゴウタウラスって、温かいんだね!動物さんだって、わかってはいるんだけど、なんか、信じられないや」

 

「そうね、バーテックスと戦って平然としているんだから、生き物と思うことは出来ないかも」

 

 ペタペタとゴウタウラスの背中を触る友奈。

 

 そんな彼女の姿を見て、千景も小さく微笑んでいた。

 

「まさか、ゴウタウラスに乗って遠征をおこなうことになるとは」

 

「これはこれで、驚きですね?」

 

 若葉とひなたは少し驚きつつも、周りの景色を見ていた。

 

「黒騎士のいっていた意味がわかった」

 

「やはり、というわけではないですけれど、酷いものですね」

 

 ゴウタウラスに乗って主要都市の状況、そして、生存者がいないかどうかの確認も行いながら進む。

 

 尤も、ゴウタウラスが鳴き声を上げて移動する中、バーテックスによって嘗ては人類の住んでいたという痕跡を残す都市は瓦礫の山しかなく、人の姿はまったくみられない。

そんな光景を見て、遠足前という雰囲気を出していた自分達が恥ずかしいという気持ちすら沸き起こる。

 

 勇者たちの心をさらに落とす出来事が大阪で待っていた。

 

 バーテックスの蹂躙後に生き残っていたであろう少女が書いた日記。

 

 そこにはバーテックスに対する恐怖、そして、生き残った人間達が引き起こした出来事などが鮮明に描かれていた。

 

「こんなこと……」

 

「酷い、酷すぎる!」

 

 拳を握り締めて球子が叫ぶ。

 

「……この程度、序の口だ」

 

 誰もが沈痛した表情を浮かべる中、黒騎士は淡々と告げる。

 

 その言葉に球子が顔を上げた。

 

「序の口!?これが!ふざけるな!」

 

「ふざけていると思うか?お前達がどうだったかは知らないが、こんなことはバーテックスが現れてから各地で起こっていたことだ」

 

「だからって!そんな、他人事みたいにいっていいわけがない!」

 

「そうだろうな。だが、俺にとっては他人事だ」

 

 火に油を注ぐように球子に冷たい言葉を吐く黒騎士。

 

「そこまでだ」

 

 二人の間に若葉が入ることで会話が止まった。

 

「球子、落ち着けとはいわない。これからもこのような光景を見るかもしれない。私達は覚悟する必要があると黒騎士はいいたいんだ」

 

「……わかっている!でも!」

 

「タマっち先輩」

 

 怒りをぶつける行先がないことで球子は顔をしかめる。

 

「俺は外にいる。これから先を見るのが辛いなら帰るといい」

 

 どこまでも突き放すようにして黒騎士は出ていく。

 

 しばらくして、遠征は続けるということで彼女達は再び移動する。

 

 道中、黒騎士はバーテックスの卵のようなものをみつけるとゴウタウラスの進路を変えて、その足で卵のようなものを踏み砕いた。

 

 最悪な出来事ばかりに遭遇する勇者たち。

 

 そして、彼らは黒騎士がいたという諏訪までやってきた。

 

「えっと、黒騎士さん……」

 

「なんだ?」

 

 高嶋友奈がおずおずと黒騎士へ言葉を投げる。

 

 ここは黒騎士がいた場所。

 

 その場所はバーテックスによって蹂躙を受けて、廃墟、そして、緑は失われていた。

 

 言葉を失っている勇者、なにより諏訪から人を連れて四国にやってきた黒騎士。

 

 彼は廃れた地をみて何も言わない。

 

「ゴウタウラス、周囲にバーテックスがいないか確認してくれ」

 

 控えているゴウタウラスが頷いたことを確認して、彼は歩き出す。

 

「あ、黒騎士さん!」

 

「高嶋さん……」

 

 歩き出した黒騎士を追いかける友奈と千景。

 

 進む黒騎士は作物が枯れて台無しになっている畑の前に立つ。

 

「黒騎士さん……どうしたんですか?」

 

「それは、鍬?」

 

 畑に突き刺さっているのは農具。

 

 かなり年季が入っている中で運よくバーテックスの襲撃を逃れたようだ。

 

「友奈!千景!」

 

「そんな急ぐなよ……これは?」

 

 遅れてやってきた若葉達も農具をみる。

 

「これは諏訪の勇者が使っていたものだ」

 

「諏訪の、勇者?」

 

「あれ、何かついている?」

 

 驚く若葉達、その中、杏は農具に何かがついていることに気付いた。

 

 それは手紙だった。

 

 手紙は四国の勇者たちに向けられたもので、自分の遺志を託すといった内容。

 

「あれ、何か落ちましたね」

 

 ひなたははらりと落ちた紙きれのように小さなものを拾う。

 

「なんだ、それ?メモ?」

 

 同じようにのぞき込む球子と若葉。

 

 小さな紙をみた若葉はそれを黒騎士へ差し出す。

 

「なんだ?」

 

「白鳥さんから、黒騎士、お前に宛てられたものだ。読まなくていい。目だけでも通してやってほしい」

 

「……」

 

 何も言わず若葉から紙を受け取る。

 

 目を通すとそのまま黒騎士は懐に仕舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか!絶対に覗くんじゃないぞ!そんなことしたらタマは容赦しないからな!」

 

「俺を何だと思っているんだ」

 

 俺は兜の中でため息を零す。

 

 はっきりいって、どうでもいい。

 

 ゴウタウラスが綺麗な川をみつけたということで、泥まみれになっている乃木若葉達は水浴びをすることになった。

 

 女子だけの中で唯一の男。

 

 その俺が覗きをしないか土居球子や伊予島杏は不安なのだろう。

 

 彼女達に歩み寄らない俺を信じるということはない。

 

「ゴウタウラス、どうした?」

 

 目の前にやってきたゴウタウラスの言葉に俺は疑問の声を上げる。

 

「人が生活していた痕跡がある?それは当然だ。諏訪は少し前まで人が」

 

――違うとゴウタウラスが言う。

 

「まさか、本当に少し前まで、人がいたというのか?」

 

 その指摘に俺は周りを見る。

 

「……なんだ、これは」

 

 注視したことでようやく俺は気づいた。

 

 諏訪を放棄してから生存者はバーテックスに食われたはずだ。なのに、このあたりだけじゃない。至る所に誰かが生活していたような痕跡がある。

 

 それも、ごく最近まで。

 

「っ!」

 

――いる!

 

 誰かがこの近くにいる。

 

 その近くには。

 

「くそっ!」

 

 俺は駆け出す。

 

「いやぁ、楽しかったな」

 

 目の前にやってきた勇者たちを押しのけて俺は向かう。

 

 川の近く。

 

 バーテックスによって穢された自然の中で唯一、残っていた場所。

 

 俺は水の中に飛び込み、周りを睨む。

 

 あそこか!

 

 気配の場所にブルライアットのショットガンを放つ。

 

 だが、躱された。

 

 いや、俺が来る前に逃げたのか。

 

 ブルライアットを鞘に納める。

 

 誰かは知らないがこちらに敵対する存在と考えておいた方が良いかもしれない。

 

「…………ひ、日向」

 

 後ろから聞こえた声に俺は自然と振り返る。

 

 振り返らなければよかった。

 

 敵がいるかもしれないということで俺は周りを見ることを怠っていた。

 

 だから、振り返って俺はわかった。後ろにはちぃちゃんがいる。

 

 生まれたままの姿で。

 

 水浴びをするということで衣服を脱いだ状態、そんなところに現れた俺を見て、茫然としている。

 

「……す、すまない!」

 

 慌てて、俺は前を向く。

 

 一瞬で全部、みちまった!

 

「すぐに立ち去る」

 

「なんだ、今の音!」

 

 近くから聞こえるのは勇者の声。

 

 ああ、これは覚悟しないとダメか。

 

「日向、隠れて」

 

「え、あ、おい」

 

 後ろからやってきたちぃちゃんが俺を近くの茂みに隠す。

 

 すぐにちぃちゃんはタオルを体に巻いた。

 

「千景!大丈夫か!?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 気配を殺す。

 

 少しでも余計な動きをすれば、乃木若葉などに感付かれるかもしれない。

 

 いや、待て。

 

 そもそも、どうして、俺が悪いことをした前提なんだ?

 

 わけがわからない。

 

 しばらくして、乃木若葉達は去っていく。

 

「もう、いいわよ」

 

「ああ……」

 

 ちぃちゃんに言われて俺は茂みから出てくる。

 

「一体、何があったの?」

 

「諏訪には俺達以外の何かがいる」

 

「何か?」

 

「その何かはわからない。だが、そいつは勇者たちを監視していた。敵意ある者とみておくべきかもしれない」

 

「わかった。私から乃木さん達には話すわ」

 

「その方がいい」

 

 俺が話せば、余計な騒動を呼ぶかもしれない。

 

「ところで、ちぃちゃん」

 

「なに?」

 

 心なしか嬉しそうな声を出すちぃちゃんに俺は視線を外す。

 

「そのままだと、風邪をひいてしまう、服を着た方がいい……あと、他の連中がみたら誤解をするかもしれない」

 

「誤解って?」

 

 不思議そうに首を傾げるちぃちゃん。

 

「え、その……俺とちぃちゃんがそういう関係だという」

 

「どういう関係かしら?」

 

 微笑みながらちぃちゃんがこっちにやってくる。

 

 俺はみないように視線を逸らす。

 

 その態度に何か勘違いしたのか、ちぃちゃんはため息を零す。

 

「やっぱり、私みたいな傷だらけの体はみたくないわよね」

 

「そんなことない!」

 

 沈んだようなちぃちゃんの声に俺は否定する。

 

「傷だらけって、勇者として頑張っているからだろう。それに、ちぃちゃんは俺から見て、十分、いや、とっても魅力的だと思う。だから、そんな沈むことはない」

 

 これ以上は俺がどうにかなりそうだ。

 

「先に戻る」

 

 そういって、俺はちぃちゃんから離れる。

 

「……ふふ、それなら、もっと、みていいわよ?」

 

 ちぃちゃんの言葉から俺がみたことがばれていたようだ。

 

「そういうことは、相手を選ぶべきだ」

 

「ちゃんと選んでいるわ。私は日向以外にいうことは絶対にないわ」

 

「……信頼していると思えばいいのか、男とみられていないのか」

 

「(ちゃんと、男としてみているわよ)」

 

 何かちぃちゃんがいっていたような気がするけれど、水の音で聞き取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変わらない夜空」

 

 夜、勇者たちが野営地で眠る中、俺は夜空を見ていた。

 

「そういえば、空を見上げていたな。昔は……」

 

 結界の残滓のおかげなのか、別の理由か、綺麗な星空がそこにある。

 

 蔵人と一緒に色々な星を見ていたな。

 

「俺は、必ず復讐を果たすぞ。蔵人」

 

 お前の無念を俺は決して忘れない。

 

 バーテックスを、天の神を俺は決して赦さない。

 

 必ず、復讐を果たす!

 

「黒騎士……さん?」

 

 見上げていた俺を呼ぶ声。

 

 振り返ると目をこすりながらこちらへやってくる高嶋友奈の姿がある。

 

「高嶋友奈、何をしている?」

 

「休んでいたんですけれど、黒騎士さんの姿がなかったから」

 

「俺を探しに来たのか?」

 

「はい……その、心配で」

 

「心配?」

 

「大丈夫、ですか?黒騎士さん」

 

「俺の心配をするより、自分達、いや、自分の心配をすべきだな」

 

 高嶋友奈から少し距離をとる。

 

「私?」

 

「他人の心配ばかり、自分のことは後回し、そんなことで、自分を抑え込んでいる奴ほど、危険だ」

 

「……えっと、私のことを心配してくれているんですか?」

 

「そうかもしれないな」

 

「え!?」

 

 驚いた表情を浮かべる高嶋友奈。

 

 短い期間だが、勇者の中で一番、自分という存在を前に出さないのはこの高嶋友奈だ。

 

 他人を優先して、自分のことは後回し、そして、自分のことを全く話さない。

 

 ちぃちゃんも危ういが、コイツも色々な意味で危険だ。

 

 だから、俺はあまりコイツと会話をしたくなかった。

 

「ちょっと、嬉しいです。黒騎士さんに心配してもらえるの」

 

「甘い奴だ。いや、それは俺も同じか」

 

「黒騎士さんも?」

 

「……諏訪で俺は迷った。お節介な勇者と巫女のおかげでな」

 

「それって、あの手紙の」

 

「……余計なことを話し過ぎたな。明日も早いだろう。戻れ」

 

「あの、私、頑張ります!」

 

 背を向けた俺に高嶋友奈は言う。

 

「私、もっと、もっと、頑張って、バーテックスから皆を守ります!そうしたら、平和になって……黒騎士さんと色々とお話できますよね?」

 

「俺と話?」

 

「はい!私はもっと黒騎士さんとお話したいです!仲良くなりたいです!で、できるなら、自分のことも話したいです。だから!」

 

「……」

 

 真剣に、けれど、おそるおそるというように高嶋友奈は俺に言葉を投げる。

 

 何故だろう。

 

 ちぃちゃんと話をしている時は別の意味で俺は落ち着かない。

 

 何か、心臓が音を立てている。

 

 俺は――。

 

「っ!」

 

 地面を蹴り、高嶋友奈の傍に向かう。

 

「え、く、黒騎士さん!?」

 

 驚く高嶋友奈を守るようにしながらブルライアットを抜く。

 

「出て来い。隠れているなら射抜く」

 

 暗闇の中、何かを感じ取った俺は警戒を強めてブルライアットの剣先を向ける。

 

 何かの音が聞こえてきた。

 

「これって、何の音?」

 

「蹄の音だ」

 

 戸惑う高嶋友奈に俺は警戒心を強める。

 

 バーテックスに蹂躙された世界で生き物は存在できない。

 

 諏訪の結界はまだ残っているとはいえ、生き物がいることなどありえないのだ。

 

 風を切るような音と共に闇の中から純白の馬、そして、白い衣服の男が現れる。

 

 白と赤の髪、顔の上半分をバイザーのようなもので隠されていた。

 

 男は馬を止めると少しの距離を開けて、降りる。

 

「人?」

 

「いいや、違う」

 

 高嶋友奈と違い、俺は警戒する。

 

 目の前の男は人間じゃない。

 

 色々と混ざり合った何かだ!

 

「貴様、何者だ?人ではない。ましてやバーテックスというわけでもない」

 

「凄いな、俺がどういう存在かわかるのか」

 

 男はバイザーを外して面白いものを見つけたというように笑みを深める。

 

「俺のことがわかるということは、お前が黒騎士か」

 

「……俺のことを知っているのか?」

 

「天の神だったか?それから聞いた。つまらない復讐のために牙をむいている小さな存在だってな」

 

「なんだと」

 

 挑発だとわかっていても、怒りの気持ちが沸き上がる。

 

 何より、コイツの後ろには天の神がいる。

 

 俺の敵だ。

 

「俺の名前はキロス。それにしても」

 

 キロスと名乗る相手は俺を、いや、高嶋友奈をまっすぐに見ている。

 

 困惑している高嶋友奈を庇う様に前に立つ。

 

「やはり、貴様は邪魔だ」

 

 顔に怒りを歪めてキロスは笑みを深める。

 

「今日は挨拶に過ぎない。四国の勇者、黒騎士。これは挨拶だ。そして、俺は欲しいものを手に入れる」

 

 にやりとほほ笑むとキロスは馬に乗り込もうとする。

 

「逃がすと思うか!」

 

 地面を蹴り、ブルライアットを振り上げる。

 

 バーテックスの仲間というのなら、俺の敵だ。

 

 殺す!

 

 黒の一撃!

 

 ブルライアットを振り下ろす。

 

 だが、その攻撃は防がれる。

 

「なっ!」

 

「おいおい、真っ黒とはいえ、騎士だろ?そんな奴が不意打ちなんてせこいマネをするなよ」

 

 笑いながら鎌でブルライアットは受け止められた。

 

 ブルライアットを弾かれて、距離をとる。

 

「どうせだ、俺の実力を見せてやろう」

 

 キロスは鎖鎌を振り回す。

 

「受けてみろ。風地獄を抜け出すために俺が編み出した技を!」

 

 突然の衝撃と強風で体の自由が奪われる。

 

「黒騎士さん!」

 

 高嶋友奈の悲鳴で俺は彼女の近くまで吹き飛ばされたことにわかった。

 

 全身に激痛が走る。

 

 先ほどの攻撃で黒騎士の鎧が解除されてしまう。

 

「おいおい、この程度か?噂の黒騎士も大したことないなぁ。まあ、挨拶だといっただろ?その程度で済んでよかったな。俺は欲しいものを必ず手に入れる。それだけは覚えておくといい」

 

 キロスはそういうと馬に乗って姿を消す。

 

「黒騎士さん!黒騎士さん!大丈夫ですか!?」

 

「……耳元で叫ぶな。俺は無事だ」

 

 むくりと体を起こす。

 

 黒騎士の鎧が解除されたようだ。

 

「キロスの奴に手加減されたようだ」

 

「本当なんですか?」

 

「だから、そんな心配そうな顔をするな」

 

「え、えっと、大丈夫なんですよね」

 

「ああ」

 

 ブルライアットを握り締めて、俺は黒騎士になる。

 

 その姿を見て、安心したのか、高嶋友奈は笑みを浮かべた。

 

「とにかく、今は休め」

 

「黒騎士さんも休んでくださいね!」

 

「……わかっている」

 

「約束ですからね!」

 

「煩い、俺は行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、これって?」

 

 野営地へ戻ろうとした高嶋友奈は地面に落ちているメモ用紙を拾う。

 

 それは諏訪の勇者が残した手紙に挟まっていたものだ。

 

 申し訳ない気持ちをもちながらも友奈はメモを見る。

 

「うぅ……グスッ」

 

 友奈はメモをみて、涙をこぼす。

 

 メモに記されていたのは黒騎士を思った手紙。

 

 諏訪の勇者と巫女は復讐に走る黒騎士の身を案じていた。そして、彼に自分達の命を背負わせることに申し訳ないということ、そして、黒騎士が復讐だけに支配されないことを願うというもの。

 

「決めた!私!黒騎士さんと話をする!もっと、もっと、黒騎士さんのことを知るんだ!」

 

 

 

 




今回、少ししかでていませんが、スーパー戦隊から登場です。

キロス。
フルネームでいくと盗賊騎士キロス。
光戦隊マスクマンに登場する敵。
欲しいものは必ず手に入れるという人物。


次回、より、混沌とした事態が起こる……予定。

もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?

  • パワーレンジャー
  • リュウソウジャー
  • ルパパト

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