黒騎士は勇者になれない   作:断空我

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ある意味、オリジナル展開。


警告します。あるキャラの心がズタズタフラグが立ちます。



勇者、求婚される

 

 四国の外から戻ってきて、数日後。

 

 若葉達は食堂でうどんを啜りながら報道されているニュースを見ていた。

 

「なーんか、ウソというか、嫌だなぁ、こういうの」

 

「事実を混ぜているとはいえ……全部がウソじゃないけれど、流石に、これはねぇ」

 

「……すべて、日向のやったことなのに(ボソッ)」

 

「ぐんちゃん?」

 

「何でもないわ。高嶋さん」

 

「球子達の言いたいことはわかる。私達が黒騎士のやったことを横取りしているように感じるのだろう?」

 

 不満な声を漏らす球子の気持ちを理解している若葉が頷く。

 

 テレビでは若葉達が四国に諏訪の人達を連れてきたということ、丸亀城の戦いなど、全て勇者が奮闘した結果のように語られている。その中に黒騎士の存在はなかった。

 

 黒騎士のことを信用していない球子だが、功績を横取りしたような気分だった。

 

 球子の不満は千景や友奈、杏も同じ。

 

「残念なことは、黒騎士がこれに関して何も感じていないということだな」

 

「バーテックスを滅ぼすことにしか、興味がないという感じですからね。おそらく、今回の報道に何も思っていないでしょう」

 

 若葉達も彼が思うのならなんとかしたいと考えるが、当人がそれを望んでいない。

 

 故に不満を零すことはあっても、それ以上は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらない」

 

 偶然にも黒騎士はニュースを見ていた。

 

 報道では勇者が今回の遠征で諏訪の生き残りを見つけて、連れて帰ってきたとあり、その中に黒騎士の存在は一切ない。

 

「……不満か?ゴウタウラス」

 

 頭上で唸る相棒に黒騎士は問いかける。

 

 納得できないという風にゴウタウラスは唸った。

 

「気にするな。俺は賞賛が欲しいわけではない。諏訪の人間を此処へ連れてきたのもバーテックスとより戦えるという理由に過ぎない」

 

 黒騎士の言葉に小さくゴウタウラスは唸る。言いたいことはわかるようだが、それでも思うところがあるようだ。

 

「俺の存在が抹消されている?別に構わんさ。むしろ、どこぞの神樹のように崇められたとしても行動に制限がかかる。そんなことは御免こうむる」

 

「……日向」

 

「ちぃちゃんか」

 

 後ろからやってきたのは千景。

 

 周りに誰もいないことを確認すると彼女は尋ねる。

 

「ゴウタウラスも元気そうね」

 

 千景の言葉に鳴くゴウタウラス。

 

 小さく微笑む彼女。

 

「日向の姿になってくれないの?」

 

「ああ、わかっ――」

 

「ぐんちゃん!黒騎士さん!」

 

 聞こえてきた言葉に俺は鎧を解除することをやめる。

 

 顔を上げるとこちらに元気よく手を振って来る高嶋友奈の姿があった。

 

「高嶋さん、どうしたの?」

 

 不思議そうに千景が振り返る。

 

 勇者の面々の中で一番、千景が心を許している相手は友奈だ。

 

 その彼女がここへやってきたことに不思議そうにしている。

 

「黒騎士さんを探していたの!ぐんちゃんは?」

 

「私は散歩よ。彼とは偶然、ここで会ったの」

 

「そうなんだ!」

 

「高嶋友奈」

 

 黒騎士は短く彼女の名前を呼ぶ。

 

「はい!高嶋友奈です!」

 

「何の用だ?」

 

「実は若葉ちゃんから提案があったんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 丸亀城の訓練スペース。

 

 そこで俺は勇者の面々と一緒にいた。

 

 用事もなく、こんなところにやってこない俺なのだが、ちぃちゃんと高嶋友奈に引きずられる形でこの場に来ている。

 

「黒騎士、お前も参加してもらうぞ」

 

 釘をさすように乃木若葉が言う。

 

 なんでも、これから勇者たちとプラス俺によるバトルロイヤルの模擬戦がはじまろうとしていた。

 

 何でも勝利した者が可能な限り皆に命令できる権利が与えられるという。

 

 俺はそういうものに興味がないんだけどな。

 

 断ろうとしたのだが、ちぃちゃんの無言の視線と「絶対参加です!」と高嶋友奈に腕を掴まれてここまで連れてこられた。

 

 振り払おうとしたらちぃちゃんに泣かれそうでできなかった。

 

 俺は彼女にとことん甘いようだ。

 

 そうして、はじまるバトルロイヤル。

 

 なんでも、レクリエーションの一環ということらしいが、前の四国外遠征の色々とみてきた嫌なものを振り払うために乃木若葉が企画したという。

 

 黒騎士である俺は最後まで動かないようにしていた。

 

 していたのだが、土居球子や高嶋友奈が集中的に俺を狙ってくるものだから、少しばかり本気を出してしまう。

 

 その結果、勝者は俺なのだが、命令権は二番目に残っていた伊予島杏に与えた。

 

 余談だが、俺も一歩、間違えたら伊予島杏に敗北する手前だった。

 

 戦う前に勝利を狙う、中学生の女の子が選ぶようなものとは思えない作戦の数々に勇者たちは敗北、作戦を先読みできたことで、俺は勝利をもぎ取れた。

 

 命令する権利を与えられた伊予島杏は自分のやりたいことを実行する。

 

 

 その内容というものが。

 

 

 

 

 

 

 

「私のものに、なれよ。球子」

 

「わ、若葉君……そ、そんなことを言われても、た、私には好きな人が」

 

「待ちなよ!若葉君!球子さんが困っているじゃないか!」

 

「あ、高嶋君って、なんじゃこりゃあああああああああああ!」

 

 手を上げて叫ぶ土居球子。

 

 はっきり指摘するのもなんだが、顔が真っ赤だ。

 

 なんとか、踏ん張ってきたが、壁ドンなどでとうとう限界を迎えたようである。

 

 伊予島杏が命令してきたのは即興の恋愛シチュエーションを勇者たちが行うというもの。

 

 ちなみに、内容は乃木若葉が土居球子に詰め寄って、壁ドン、愛の言葉をささやくところで、友奈が間に割り込む、という少女漫画でみるような三角関係だ。

 

 乃木若葉は背が高く、男勝りというところもあったことから役はぴったりだった。

まさかの高嶋友奈が優等生を演じている姿に違和感がなかったことに驚いた。根が真面目だからか?

 

 最後に、ヒロインを演じる土居球子だが、今までもわんぱく姿からは想像ができないほど、伊予島杏の手によって“美少女”に変身していた。

 

 誤解のないようにいっておくが、勇者たちは誰もが整った顔立ちをしている。だが、土居球子は男勝りな性格をしていることから、その点が薄すぎた。だからこそ、ちゃんと女の子らしい格好をすると可愛いのだということを……俺は何を熱く語っているのだろうか。

 

 くいくいと手を引かれる。

 

 視線を向けるとちぃちゃんがこちらをみていた。

 

「どうした?」

 

「黒騎士はあれを、できるかしら?」

 

 あれといわれて、乃木若葉の方を指さすちぃちゃん。

 

 まさか。

 

「俺に、あれをやれと?」

 

 コクコクと頷くちぃちゃん。

 

 今のやり取りを聞いていた若葉が「ふむ」と言葉を漏らす。

 

「どうせだ、黒騎士、お前も参加しろ」

 

「断る」

 

「杏」

 

「え、あ、あの、命令権を行使します。黒騎士さん、タマっち先輩に壁ドンとアゴクイをしてください」

 

「……はぁああああああああああああ!?なんで、タマがこいつにされないといけないんだ!」

 

 納得できないという言葉をあげる土居球子。

 

 俺としてもこういうことは遠慮したいのだが。

 

 すこーし、みてみたくなった。

 

 俺は鎧を解く。

 

「なっ!?」

 

「え、えぇええええ!?」

 

「うそ……」

 

「……」

 

 鎧を解除した俺の姿にちぃちゃんと高嶋友奈を除くメンバーが驚きの声を上げる。

 

 茫然としている土居球子に俺は無言で近づく。

 

「え、あ、その」

 

 無言で近づく俺に後ろへ下がっていく。土居球子。

 

 だが、すぐに教室の壁にぶつかってしまう。

 

 少し力を抑えながら土居球子の近くの壁に手をドンと叩く。

 

「うっ!?」

 

 もう片方の手で土居球子の顎を少し持ち上げる。

 

「土居球子、俺のものになれ」

 

 耳元でささやくというオマケまでしてやる。

 

「ひゅっ」

 

 小さな悲鳴を漏らしてぺたんと土居球子は座り込む。

 

 俺は鞘に納められているブルライアットの力で鎧を身に纏う。

 

「伊予島杏」

 

「は、はい!」

 

「満足したか?俺はそろそろ行く」

 

 短く告げて、教室の外に出ていく。

 

『…………』

 

『千景?おい、拳を握り締めて、どうした、少し怖いぞ』

 

『し、仕方ありませんよ。素顔を知らなかったとはいえ、まさか、あそこまでインパクトがありましたなんて……友奈さんも茫然としていますし』

 

『カッコイイ……かも』

 

『み、認めない。タマは認めないからな!こんなこと、ぜぇええったいに!』

 

 しばらくして、教室内からは黄色い悲鳴のようなものが聞こえたような気がした。

 

 そんな騒動がありながらの四月。

 

 黒騎士はある樹木の傍に来ていた。

 

「春……あれから、また、月日が流れたのか」

 

 桜のつぼみが芽生えつつある樹木を見ながら俺は呟く。

 

 バーテックスの小さな襲撃は何度もあった。

 

 だが、大規模な侵攻はない。

 

 まるで嵐の前のような静けさだ。

 

「ゴウタウラス、俺達は覚悟をしておく必要があるぞ」

 

 体を休めている相棒に伝える。

 

「く、黒騎士さん」

 

「伊予島杏と……土居球子か」

 

「タマをおまけみたいにいうなよな!」

 

 怒りながら言う球子。

 

 先日の演劇もどきから、少しだけ、刺々しい態度が球子から抜けていた。そして、杏もおずおずとだが、黒騎士をみれば、声をかけていた。

 

 人としての姿を晒したからだろうか?

 

「黒騎士、お前は花見をしたいか?いや、したくないならいいぞ!ちなみに、私達はしたい!」

 

「……伊予島杏、コイツは何を言いたいんだ?」

 

「えっと、あの、花見をしようといいたいんです」

 

「俺がいては楽しめないだろう。勇者と巫女たちで楽しむといい」

 

「あのなぁ、お前はなんでそう距離をとりたがるんだよ!少しはタマ達と一緒に騒ぎタマえ」

 

「……興味がないだけだ」

 

 面倒そうに答えた時、頭上からゴウタウラスが唸る。

 

「……花見をしたいだと?」

 

 ゴウタウラスが言うには花見とやらをしてみたいのだという。

 

「よし!ゴウタウラスは参加だ!そして、お前も参加だからな!黒騎士」

 

「何を言って」

 

「楽しみだな!杏」

 

「うん、タマっち先輩!」

 

「おい、俺を勝手に」

 

 間に割り込もうとしたがやめる。

 

 姉妹のように仲睦まじい二人の姿を見ているとかつての自分と蔵人の姿を思い出したのだ。

 

 その光景を壊したくなくて、彼は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花見の話をした夕方。

 

 事前に神託がくだされていたバーテックスの襲撃が起こる。

 

 今回の侵攻は今までのものと異なり、何かが起こるという不気味な予言がだされていた。

 

 事前に聞いていた黒騎士は少し前からのバーテックスとの戦いからありえると思っている。

 

 警戒するも、思う以上にバーテックスとの戦いは順調すぎるほどに進んだ。

 

 前衛である若葉と友奈、千景の三人は油断せず、迅速に通常のバーテックスを倒していく。

 

 球子と杏は二人一組で行動。

 

 広範囲の敵を球子が旋刃盤で切り裂き、後方から杏が狙撃でカバーをしていく。

 

 順調だと思っていた戦いの中、それはやってくる。

 

「何の音だ?」

 

「これって……蹄の音?」

 

「はぁ!?何だって、樹海の中で!?」

 

 驚く勇者たち、身構える三人の前に白馬が現れる。

 

 現れた白馬の上に跨る男の姿に友奈と黒騎士を除く面々が驚愕した。

 

 にやりと笑いながら男は白馬から降りる。

 

「な、何だ。お前は!」

 

 警戒しながら若葉が尋ねる。

 

「俺の名は盗賊騎士キロス!欲しいものは必ず手にする男さ」

 

「……ふざけているの?」

 

「本当さ。俺は欲しいものがある。そのために、ここへ現れたのさ。天の神と契約をして」

 

 鎖鎌を取り出すキロスに三人は身構える。

 

 キロスの放った衝撃に若葉達は吹き飛んでしまう。

 

「天の神とやらの力は凄いな。風地獄で鍛えた力をさらに強化させてくれた。これなら、狙った獲物は絶対に逃さず、欲しいものは必ず手に入れる男だ」

 

「お前は、何を狙っているっていうんだ!」

 

 球子が旋刃盤を振り下ろしながら叫ぶ。

 

 キロスは鎌で受け止めると近づいてきた球子を蹴り飛ばす。

 

「タマっち先輩!」

 

 杏が狙撃するもキロスはナイフで矢を弾く。

 

 

「弱いな。これが勇者の力か?」

 

 キロスは指を鳴らす。

 

 すると白馬がベームドグラーと呼ばれる地底獣に姿を変える。

 

 ベームドグラーの周りにバーテックスが集まり、集合体バーテックスへ変化させていく。

 

「こんのぉおおお!」

 

 起き上がった友奈が拳を振り上げる。

 

「勇者パァアアアンチ!」

 

 叫びと共に放つ渾身の一撃をキロスは正面から受け止めた。

 

 向き合うキロスと友奈。

 

「どうして、こんな」

 

「言っただろう?欲しいものは必ず手に入れると……ああ」

 

 友奈を見て微笑むキロス。

 

「やはり、美しい!高嶋友奈!俺はお前を妻として手に入れる!」

 

「つ、妻!?」

 

 突然の言葉に戦場でありながら友奈は素っ頓狂な声を上げる。

 

「友奈!」

 

「高嶋さん!」

 

 左右から二人が奇襲を仕掛ける。

 

 キロスは後ろへ下がった。

 

「邪魔だな。吹き飛べ!この俺が地底の風地獄を抜け出すために編み出した技を!」

 

 キロスは鎖鎌の鎖を振り回す。

 

 高速で振り回すことで起こる突風が若葉、千景、友奈を襲う。

 

「クレセントスクリュー!」

 

 鎖鎌を高速回転させることで放つ必殺技を受けて吹き飛ぶ、三人の勇者。

 

「俺の下にきてもらうぞ、高嶋友奈」

 

 ゆっくりと倒れている友奈の傍に近づいていくキロス。

 

 彼が友奈に触れられる距離にきたところで、後ろへ下がる。

 

 少し遅れて、キロスのいた場所にバーテックスの残骸が降り注いだ。

 

 友奈の目の前に黒い影が降り立つ。

 

「黒騎士、さん」

 

 彼女の言葉に黒騎士は答えることなくブルライアットを抜く。

 

「現れたか、盗賊騎士」

 

「来たのか、黒騎士。俺の邪魔をすると死ぬぞ」

 

「知らんな。俺は貴様を含めたバーテックスを滅ぼすのみだ」

 

 キロスクレセントを構えるキロス。

 

 ブルライアットを構えた黒騎士。

 

 二人は同時にぶつかりあう。

 

「どうやら、お前は中々にやるようだな。前の不意打ちで底を見たと思っていたんだが、間違っていたようだな!」

 

「盗賊騎士キロス。貴様はどうして天の神に加担する」

 

「契約したのさ。天の神がこの地を支配したら、好き勝手にしていいと!わかるか?仄暗い地の底じゃない。この大地を好き勝手にできる、想像できるだけで悪くない!そこに欲しい女も一緒なら尚の事ぉ!!」

 

「……欲しい女?」

 

「そうだ、俺は欲しい。高嶋友奈を妻として手に入れる!」

 

「何を馬鹿な」

 

「フッ」

 

 笑いながらキロスが蹴りを放つ。

 

 その蹴りを受け止めて黒騎士は後ろへ下がる。

 

「チッ!ゴウタウラス!」

 

 ある方向をみた黒騎士はゴウタウラスを呼びよせた。

 

 地割れと共に現れたゴウタウラスの出現にキロスはバランスを崩す。

 

 その隙に黒騎士は走る。

 

 視線の先にいる二人の方へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、伊予島杏と土居球子はベームドグラーを核として合体したサソリ型バーテックスと戦っていたが、どの攻撃もサソリ型バーテックスに通用しない。

 

「くっ、ここは切り札で」

 

「待って!タマっち先輩!ここは私がやるから!」

 

 勇者には切り札が存在する。

 

 神樹に霊的つながりによって精霊を宿し、力を纏うというもの。

 

 使用することで体に膨大な負荷がかかる力を球子ではなく、杏が使う。

 

 氷と雪の化身、白い死の象徴、雪女郎。

 

 味方を巻き込まず猛吹雪による攻撃で通常型バーテックスは氷漬けになる。

 

 だが、サソリ型バーテックスは全くの無傷だった。

 

「え?」

 

「杏!」

 

 体表に霜がついた程度のダメージしか受けていないサソリ型バーテックスは巨大な尾を振るう。

 

 咄嗟に精霊、輪入道を宿した球子が杏を抱き寄せ、旋刃盤で攻撃を防ぐ。

 

 しかし、今までにない衝撃とダメージが球子を襲う。

 

 派手に吹き飛んだ二人。

 

 ダメージが大きくて、満足に動けない。

 

 球子は気絶してしまった杏を守っていたがサソリ型バーテックスの攻撃によって傷だらけになっていく。

 

 気絶している杏を必死に守る球子。

 

 そんな彼女達をまとめて貫こうとサソリ型バーテックスの尾が迫る。

 

 今までのように攻撃を防ごうとした球子。

 

 旋刃盤をサソリの尾が貫いた。

 

「ぇ」

 

 そのまま、彼女の体に尾が迫るという瞬間、何かが球子を後ろから引っ張った。

 

 後ろから引っ張られた球子はそのまま、倒れている杏の上に覆いかぶさる。

 

「タマっち……先輩?あれ、私」

 

「杏!大丈夫か?」

 

「う、うん、大丈夫……どうして」

 

「よかった、よかっ――」

 

 小さな衝撃で気絶していた杏が目を覚ます。

 

 喜びながら顔を上げた球子は言葉を失う。

 

「タマっち先輩?」

 

 不思議そうに、そして、彼女と同じ方向を見た杏は限界まで目を見開く。

 

 彼女達の前、自らを盾にしてサソリ型バーテックスの尾に貫かれている黒騎士の姿があった。

 

「黒騎士ぃぃぃいいい!」

 

「グッ」

 

 黒騎士は貫いていた尾を掴む。

 

 貫かれた場所からボタボタとおびただしい量の血が流れていった。

 

「……い、いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 悲鳴を上げる杏。

 

 倒れそうになりながら黒騎士は振り返る。

 

「奪う……というのか」

 

 兜で顔は隠れているがその目は激しい怒りを抱いていた。

 

 グググと自らを貫いている尾を握り締める。

 

「奪うというのなら、俺は許さない!」

 

 怒りが熱を放つかのように黒騎士の全身から白い煙のようなものを吹き出し始める。

 

 同時にドロドロとバーテックスの尾が融解をはじめた。

 

「ゴウタウラス!!」

 

 黒騎士の叫びと共に現れたゴウタウラスがサソリ型バーテックスに突進する。

 

「黒騎士さん!その傷!」

 

 一足早く、復帰した友奈は黒騎士の傷に気付く。

 

「俺のことは良い……ゴウタウラス!行くぞ!」

 

 黒騎士の叫びでゴウタウラスは雄叫びを上げながら赤い瞳から光を放つ。

 

 光を浴びた黒騎士は赤と黒の騎士、重騎士に巨大変身する。

 

 重騎士はゴウタウラスに跨りサソリ型バーテックスとぶつかりあう。

 

 サソリ型バーテックスの尾と重騎士のブルソード、そして、ゴウタウラスの角が激しくぶつかり合う。

 

「私も!」

 

 その姿に友奈は切り札の一つである精霊を宿す。

 

 鬼の中で最強と言われる酒呑童子。

 

 精霊を宿した彼女は重装甲の中で柔らかい腹部に接近。

 

 巨大化した籠手で強力な一撃を放つ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 気合の乗った声と同時に嵐のような連続の拳がサソリ型バーテックスの体を宙へ舞いあげる。

 

「ゴウタウラス!行くぞ!」

 

 重騎士ブルソードを用いて、むき出しになっている柔らかい部分にXの字を描くように刃を振るう。

 

 地面に落ちたサソリ型バーテックスの顔に重騎士はブルソードの刃を深く突き立てた。

刃が核となっていたベームドグラーを貫く。

 

 体を炎に焼かれて消滅するベームドグラー。

 

 核を失ったことでサソリ型バーテックスの合体は解ける。

 

 残りのバーテックスを友奈、重騎士の手で倒されていく。

 

 バーテックスを殲滅したことで重騎士から黒騎士の姿へ戻る。

 

 友奈も精霊を纏った姿から元の戦装束に戻った。

 

 その時、彼女の体から何かがブルライアットのクリスタルに吸い込まれていく。

 

 友奈は気づかず、黒騎士に駆け寄る。

 

 ふらふらしていた黒騎士が友奈に視線を向けようとした時。

 

 その体をキロスの刃が貫いた。

 

「ぐぁっっ!」

 

 黒騎士の体から飛び出す刃、そこから飛び散った血が友奈の頬にかかる。

 

「黒騎士さん!?」

 

「グッ……ウォオオオオ」

 

 振り返りながらブルライアットで奇襲をしたキロスの胴体を斬る。

 

「さ、流石といったところか、だが、貴様の命は貰うぞ!」

 

「貴様ぁああああああああ!」

 

 キロスがとどめを刺そうとした時、若葉が太刀を振り下ろす。

 

 刃を背中に受けたキロスは顔をしかめる。

 

「邪魔だ!」

 

 若葉を蹴り飛ばすが二撃目の斬撃がキロスの片腕を切り落とす。

 

「……赦さない」

 

 仰け反ったキロスの背後から千景の鎌が迫る。

 

「クレセントスクリュー!」

 

 千景と若葉の二人をまとめて狙う様にキロスのクレセントスクリューが放たれる。

 

 突風で視界が奪われる二人。

 

 その隙をついて、キロスは逃げ出す。

 

「待て!」

 

 追いかけようとした若葉だが、同時に樹海化が解けていく。

 

「日向!」

 

 キロスの姿が見えなくなったことで千景は黒騎士の方へ向かう。

 

 立っていた黒騎士だが、樹海化がなくなったことで膝をついた。

 

「大丈夫?」

 

「こんなもの、かすり傷だ……すぐに」

 

 治るといおうとしたところで黒騎士の鎧が解除されて落合日向の姿へ戻り、そのまま千景の横に崩れ落ちるように倒れた。

 

「日向……、日向!」

 

 千景の悲鳴と共に地面におびただしい量の血が広がっていった。

 

 




ちなみに、前編で、次回は後編となります。

もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?

  • パワーレンジャー
  • リュウソウジャー
  • ルパパト
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