唐突な用語解説。
スーパーコンピューター・ノア
初代メタルマックスのラスボス。大破壊の元凶で元々は環境再生の為の手段を演算していたスーパーコンピューター。
サーガ含めたメタルマックスシリーズでの出来事の大半は大体こいつ関連が元凶。
破壊されてもなお使い回される便利なボスキャラ。
リターンズの発狂モードは作者のトラウマの一つ。
なにげにCV釘宮。
召喚されてから一週間が経過した。
今の生活環境は午前中が訓練で、午後からは自由時間となっている。
前衛系は訓練場で各々武器を振り、魔法系は室内の練習場で魔法に関する練習を行う。
その間私はというと―――
「ふんふん、この薬草はこういう薬効で―――」
前衛と混じってナイフや弓の訓練と、こうして薬学の本とにらめっこしながら薬学の授業だ。
それもこれも薬学知識という技能がある為だ。
探索時は斥候、戦闘時は後衛の護衛や弓矢での援護や薬での回復、そして非戦時は薬学の発展を担うハイブリットな人材を目指して教育されているらしい。
私を過労死させる気か?
「そうです、この薬草はポーションの要であります」
顎に伸びた白ヒゲを撫でながら、薬学の先生が授業を進める。
薬学知識を持っているのは私だけだったので先生とはマンツーマン授業だ。
「しかし、今まで持った弟子の誰よりも覚えが早い。それに応用が利くのぅ」
「元々こういう方面の研究してましたから」
それは重畳、と笑う先生。
ナノマシンと化学方面での知識が主だが、漢方なども少し囓ってある。
その経験が生きたのが今の状態だ。
「ほっほっほ、勇者の使命など無ければワシの持ちうる全てを教えられるのにのぅ」
それは非常に魅力的だ。
「貴族と坊主達が許しそうにもないですけど」
違いない、と笑う先生。
どうもこの先生は外部から招かれた存在であるらしく、政治バランスの外に居る様子。
魔人族や勇者の使命など知った事ではないと初日の授業で言っていた。
「ワシはワシの作る薬で病に苦しむ人が居なくなれば良い、それだけで十分なんじゃよ」
心の底からの声。
きっとこの人は病気の魔人族が目の前に現れても同じ事をするんだろう、そんな事を思った。
「今日はここまでにしようかの」
「ありがとうございました」
これまでに圧倒的な目上に教わる機会など無かった。
正直大破壊後の老人などかなり少なく、五十年を超えて生きる人間などごく僅かだ。
だから敬意を持って接する。
自分もそこまで生きた人間だったから、なおさらだ。
教室を出て、訓練場を見る。
「はぁっ!」
「甘い!」
八重樫さんと天之河君が模擬戦を行っていた。
お互いにかなりの速度を持って剣を合わせている。
力の天之河君、技と早さの八重樫さんといった所か。
そちらから目を離し、訓練場の端で剣を振る南雲君を見る。
細身の剣にもかかわらず重さに振り回されている。剣筋は安定せず、徒に体力を消費している。
彼は剣を振るのが仕事ではないはず、それなのにこのような武器を振るわせる。
明らかに武器が合っていない。
「やっほー」
「はぁ……はぁ……あ、棗さん。薬学の授業終わったの?」
息を切らせ、汗を拭う南雲君。
仕方が無い、雇用者の責任だ。一つ武器を授けよう。
「まぁね。ところで、剣術って上手くなってるかな?」
「あはは、見ての通り全然で……」
「あからさまに筋力無いからね。剣での近接は捨てた方がいいかもね」
近接をするなら重さのない武器が良いだろう。それか槍などの長物で近寄らせないか。
ライトサーベルのような物は渡せないし、筋力面から考えても長物はあんまり向いていないから、第三の選択肢を提示。
「そんなわけでこれを渡しておくよ」
鞄から取り出すのはスリングショット。いわゆるパチンコだ。
「パチンコ? というか何で持ってるの?」
「秘密。簡単に作れて、威力があって、しかも腕力がそこまでいらない。補修も簡単だし」
錬成で金属部を補修すればゴム部分が壊れない限りは問題ない。
「ま、頑張りたまえ若人」
呆然とする南雲君を尻目に、午後からの図書室籠もりに備えて部屋への道を進む。
しばらく歩いていると、前方に白崎さん。
「どしたの、白崎さん?」
「ええっと、棗さんって南雲君と仲良いの?」
ああ、さっきのやり取りを見ていたのかな。
「まぁ、いい方だと思うよ? バイトとその雇用主の関係だし」
「そ、そうなんだ。どういう仕事を?」
「主に雑用かな? 書類整理とか掃除とか」
本当は実験補助
なんか、白崎さんの目から光が消える。
「い、いつ頃から?」
「三年くらい前かな。ちょっとした縁で」
そうなんだ、と目から完全に光が消える。
後ろから何か陽炎の様な物が見える。
あ、これもしかしてそういうことか?
「ま、南雲君は基本口が堅いしいい男ではあるよ? 良い弟分だよ」
「あ、うん、そうなんだ」
一瞬陽炎が揺らぐ。確定か。
「……ちなみに恋愛感情は無いよ?」
「ふぇっ!?」
陽炎が消える。
「気心は知れるけど、それ以上の所まで踏み込む気は無いかな」
今のところの本心だ。
前世でも気になる人と結婚をした。子供も作り孫も見た。
結婚や子孫繁栄に関する願望関連は全て叶え終わっており、今更だなぁとも思っている。
ま、人間の心なんて移ろう物だ。その時になってみないと分からないが、今はない。
「それじゃ、そろそろ図書室にいくから、じゃあね~」
まだ混乱している白崎さんを放置し、部屋へと戻る。
(ドラムカンとコーラとシセ、ヒナタとアビィさんやラッキーナとのやり取りを知ってて良かった!)
彼らはよくモテた。その時に世間話で他の子の話をしたときの気配を白崎さんから感じ取った。
ちなみにレナは同性からものすごくモテた。遠巻きに眺めるのはすごく楽しかった。
そしてセシルちゃんの事を思い出し、少しだけ寂しい気持ちになった。
短すぎる結婚生活、彼女のおかげでレナも最後は生きる為に戦ってくれた。だから、それでいい。
いけない、感情に少し引っ張られる。
少し首を強めに振って、意識を切り替えるのだった。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
今日も今日とて夜の図書室。ページをめくる音だけが響く。
図書室に居るのは僕と棗さんの二人だけ。
「あ、棗さん」
「どしたの?」
学校では隠しているけど、医学界の天才と呼ばれている最先端医学の申し子。
世間で話題になった内服薬で外傷を治す画期的な治療法の確立、
その基幹技術の治療用生体ナノマシンとオイホロトキシンの二つを独学で作り出した文字通りの天才。
本屋で小説を探していた棗さんと出会ってから、およそ三年くらい経つ。
その時の縁からアルバイトとして雇って貰っている関係もあり、学校内でも比較的話をする方だ。
「スリングショット、ありがとう」
かなりゴムの堅い奴だったけど、なんとか飛ばすことに成功。
十メートルくらいなら問題無く当てることが出来るようになった。
撃ち出す物は錬成で準備すれば問題無いし、そんなに力が無くても結構威力が出る。
最初はオモチャみたいと思ってたけど、これなら戦える。
「あのまま剣振ってるよりかは有意義でしょ?」
本から目線を外さずに、こともなげに言う。
ああいう風に言うときは本心からそう思っているときだ。
苦笑しつつパーティーの構成を考える。
弓の適正持ちは多いけど、遊撃が出来る様なタイプは本当に少ないと思う。
だからこそ、動きながらある程度の距離から攻撃が出来るタイプが必要と判断したんだろう。
必要な物を必要な場所へ、という考え方が基本なのは知っている。
だから掃除するときに置いてある物の場所を変えると怒られる。
でもだからと言って制服をその辺に脱ぎ散らかすのは良くないと思う。僕も男なのでいろいろと困る。
この話はこれでおしまいとばかりに本をめくり始める棗さん。
そしてまたしばらく本をめくる音だけが響く。
棗さんは薬草に関しての分厚い本、僕は魔物図鑑を軽く目を通している最中だ。
ある程度経った頃、棗さんの方から本を閉じる音が聞こえる。
読み終わったのか、少し体を伸ばしている。
「南雲君」
「どうしたの?」
本を机に置き、鞄からヘッドホンを取り出す。
それを何も言わずに僕の耳に掛ける。
「え?」
「ふっふっふ。実験に付き合えー!」
手元のプレイヤーを操作する棗さん。
そしてヘッドホンからキーンと響くような音と声が聞こえる。
『職業は全部で6種類に分類されます。
ハンター、メカニック、ソルジャー、ナース、レスラー、アーチストです。
職業によって、成長の仕方が変わり、覚える特技や、装備できる武器や防具も異なります。
サブジョブとは、本来の職業とは別に習得できるふたつめの職業。
サブジョブも、本来の職業と同様に6種類あります。
サブジョブが成長すると、それに伴った特技を覚えます』
何か、頭の中がぐるぐるとかき回されるような感触、そして耳にこびりつく音。
しばらく同じ音声が繰り返され、ヘッドホンを外される。
「い、いきなり何を!?」
「いや、脳みそを少し自由にしようとね」
聞き出すと、棗さんが出発前に行っていた研究テーマで、特定周波音声による脳の使用領域拡大実験、そのデモテープとのこと。
しかし、それにしては何か変わった様子もない。そのことを伝えると、少し考え込んでから棗さんが言葉を発する。
「南雲君、君は弱い。たぶんクラス内で一番。でもそれを一番自覚しているのは君自身なんだよね」
棗さんから突きつけられるのは、僕自身における現実。
ステータスは亀の歩みのごとく伸びず、誰から見てもお荷物な状態。
「それでも自分に出来る最善を行おうとする、そういうところが気に入ってるんだよ」
どんな手段でもいい、持ちうる手札で目的を達する。その意志が根底に存在すると言う。
「だから、そのためのおまじない。今はその芽を出さなくても、いつかきっと役に立つ。断言するよ。自分自身を自覚している人間ほど、強い人は居ないよ」
堅苦しい話はそこまで、と話を切り、じゃあねーと去って行く棗さん。
試しにステータスプレートを見ても何も変化はなかった。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
朝食を終え、訓練までの自由時間の間、部屋で試験管を振る。
何本かの試験管の中身を合わせ、ビーカーに落とす。
「ふぅ……」
出来上がった物の名前は、液化オイホロトキシン。
これを固体化させた物が薬品として使用するオイホロトキシンだ。
ランプの火を消し、埃が入らない様に上から布を掛ける。
これが常温まで冷えれば固体のオイホロトキシンの完成。
窓を開き、換気を行う。
気化したオイホロトキシンは劇物指定の代物。普通の人間がこの場所に一分でも居たらオイホロトキシン中毒まっしぐらだ。
私は中毒になるほど柔な体をしていないけど。
外から聞こえる声で、訓練が始まっていることに気がつく。今日は薬学の授業がないので大急ぎで装備を調えた後に訓練場へ向かう。
そして訓練場に差し掛かったあたりで南雲君に白崎さん、八重樫さん、天之河君、坂上君が居た。
彼らの背後には檜山君達が離れていく姿が見える。
大方察した。
訓練の様子からして増長した檜山君達が南雲君をいたぶっていたのだろう。
「―――、」
「―――」
白崎さんと南雲君が何かを話しているのを聞きながら、そのまま近寄ってみる。
「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くはなれないだろう?」
天之河君の言葉が聞こえた。
どうやら南雲君の日頃の態度についてもの申すらしい。
「聞けば訓練が無いときは図書室で読書に耽っているそうじゃないか」
ほうほう。
「俺なら少しでも強くなる為に空いている時間も訓練に充てるよ」
なるなる。
「南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」
うん、よく分かった。君の主張は。
人の善性を信じ、物事の一側面からしか見ることの出来ない人間。
―――だからこそ反吐が出る。
背後まで忍び寄り、天之河君の首元にナイフを当てる。
「天之河君はおめでたい思考してるんだね」
南雲君と白崎さんの顔に驚愕の表情が浮かび、八重樫さんと坂上君が一瞬で横に飛び退き、天之河君は体を硬直させる。
「棗さん!?」
皆の声が重なる。
私はそのままナイフを離し、腕のナイフシースに仕舞う。
「どういうつもりだ、棗さん!」
「そのおめでたい思考に敬意をこめてナイフを首元に当てただけだけど?」
私の行動が信じられないと言わんばかりの驚愕。
「その視野の狭さをどうにかしないと、死ぬか、死ぬより辛い目に遭うよ」
だって、いつから私が居たか気付いてなかったでしょ? と笑う。
呆然としたままの皆を放置し、そのまま私は訓練場に入る。
そして、メルド団長に遅刻だと全力で怒鳴られるのだった。
思わず猫かぶりにボロが出る位には怒っている主人公です。
唐突な用語解説。
オイホロトキシン
メタルマックスシリーズに登場する回復カプセルなどの回復アイテムに含まれる成分。
イスラポルトの病院に渡すと使用しても痛みを感じなくなるというフレーバーテキストのみでなんの効果も無いオイホロカプセルをもらえる。
多量に服用すると中毒症状が現れる薬品。当然ながら劇薬指定。
本作品では鎮痛剤特有の副作用である、意識の混濁や筋弛緩が発生しない鎮痛剤として扱っている。
現実でこんな薬品あったら軍事利用まっしぐらである。