ありふれた職業と荒野の芸術家   作:ふじのん

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魔王への序曲、開演。


唐突な用語解説。

アーチスト
メタルマックス3から登場の職業。
能力値で見ると特出した部分のない職業だが、特技の充実が特徴。

白兵戦は各種ゲージツ技と暗黒舞踏で補え、戦車戦は砲撃演舞で補える。
特に暗黒舞踏は高火力四連攻撃の為、レスラーが使うと相当な威力になる。

しかし最大の特技は改造ゲージツであり、スーパーレアメタルを消費して戦車装備を限界以上に強化する事が出来る。

上記内容を踏まえ、メインジョブよりサブジョブで輝く職業である。


昔語りと迷宮での別れ

天之河君に対してナイフを突きつけたその日、オルクス大迷宮に挑みにいくという話を、メルド団長から発表された。

それに合わせて私達も王城から離れて、今は宿場町ホルアドにある国営宿泊施設で明日の攻略に備えている。

 

明日から迷宮探索になるので、デザートイーグルの整備を行い、ナイフも研ぎ直しておいた。

 

「くぁ……」

 

明日は朝早そうなので、さっさと寝てしまおう。

 

「棗さん」

 

そう思っていた矢先に八重樫さんに声を掛けられる。

 

「ちょっと付き合って」

 

そのまま中庭まで連れてこられる。

明かりもなく、ただ宵闇があたりを包んでいた。

 

「それで、なんの用かな?」

「棗さん、なんで全力を出さないの?」

 

へぇ? なかなかに鋭い。これはごまかしが利かなそう。

 

「いつから気付いたのかにゃ?」

「違和感は三日くらい前、確証は昨日の光輝にナイフを突きつけたときね」

 

うーん、猫被りにボロが出ちゃったか。年取ってから丸くなったと思ったけど、まだ若いって事か。

 

「ま、その通り。隠してた。理由は察してるかもしれないけどねー」

「―――国か、聖教教会が信じられないから、でしょ?」

 

正解、と答えてから壁を背に座る。

八重樫さんもそれに習う。

 

「どっちかって言うと教会側かな? あれは狂人だよ」

 

あのイシュタルという老人は、自分の意に沿わない人間はどんな手段を用いてでも殺しに来る。あの変態科学者グラトノスと同類だ。

 

いざというとき、あいつらの寝首を簡単に掻けるように、今は爪を隠す。

正面から戦っても殺しきる自身はあるけど。

 

「棗さんの過去に何があったか知りたい所ね……」

 

まぁ、良いだろう。ある程度事情を知っている人が居た方が動きやすい。

そんな打算と共に、私は少しだけ昔話を紡ぐ。

 

「―――昔、あるところに貧乏ながらも幸せな家族が居ました」

 

お父さんとお母さんと、女の子の三人家族でした。

その家族は日に食べるものに困る様な生活をしながらも、生きてきました。

 

ある日、その人達はやって来ました。

その家族に銃を突きつけ、どこかの研究施設に連れて行きました。

同じように連れてこられた人が一杯居ました。

そしてそこで待っていたのは、実験でした。

 

一緒に連れてこられた人がどんどん居なくなっていきました。

お爺ちゃんも、お姉さんも、おじさんも、同じ位の子も、一人ずつ居なくなりました。

 

残ったのは、その家族だけでした。

三人纏めて施設の部屋から出されたとき、お父さんとお母さんが女の子をなんとか逃がしました。

 

振り向かないで、とにかく走りつつけなさい、とお父さんが言いました。

愛してる、とお母さんが言いました。

 

訳も分からず女の子は走り続け、そして、気がついたら一人になっていました。

 

しばらくして、女の子はこっそり施設に忍び込みました。

そして、発見しました。自分にとって大切な家族が、実験材料として消費された事実を。

 

「それから、女の子は自分と同じように彼らへ恨みを持つ仲間と共に、お父さんとお母さんの敵を討ちましたとさ、めでたしめでたし」

 

これが私の原風景。デビルアイランドで起きた、ある家族の姿。

空を見上げる。瞬く星は、世界が違っても変わらず。

 

「棗さん……」

「ただのおとぎ話。遠い昔のね」

 

当時の研究者であるエバ・グレイはカリョストロ(変態)が殺してしまったが、ブルフロッグ(ブタガエル)は私が暗黒舞踏で首の骨をへし折って殺した。

私もレナの事を言えないくらいに、復讐鬼だ。

 

「そんな訳で、殺し殺されっていうのは得意だから」

 

賞金首と死闘を繰り広げ、致命傷を負ったり実際にDr.ミンチに助けられなければ死んでたりと生死の境を彷徨うどころか常連だったあの日常。

 

グラップラーだけでも数百人単位をこの手で仕留めている。

 

「……棗さんは、それで良かったの?」

 

天之河君あたりだったらここで人殺しは良くない、復讐は何も生まないと言うだろう。

そう言わない八重樫さんは、その問いが無意味だと分かっている。

 

「うん、そうしないと前に進めなかったから一切の後悔もないよ」

 

これだけは胸を張って言える。

大破壊後の世界でも、復讐に生きる暇があれば日々生きる事の方が優先された。

 

それでも、私は復讐を成し遂げたかった。あの時、胸の内にあったのは、どす黒い炎だけだった。

 

「八重樫さんもこれからきっと避けられない決断をしなくちゃいけない。その時に一切の後悔がないようにね」

 

これは、人生の先達からの少しだけアドバイス。

 

「―――分かった」

 

自分の手を見つめながら、八重樫さんが一言だけ返してくる。

 

八重樫さんは、きっとこれから私達が巻き込まれる事の意味を知っている。

一番最初に理解したのが召喚されたときに声を上げた愛ちゃん先生で、最初に覚悟を決めたのは八重樫さん。

 

「あ、これ渡しておくね。雫さん」

 

八重樫さん、いや雫さんの手に乗せるのは、エナジーカプセル。

 

「これは?」

「回復カプセルの成分強化版。断面さえきっちりくっつければ切断されてても治療は出来るよ」

 

それを見て、数瞬呆然とした後笑う。

 

「そうね、ありがとうマリアンナ」

「マリーかアンナでお願いね」

 

 

○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○

 

 

現在位置はオルクス大迷宮内。狭めの通路にドーム状の広場。そして襲いかかる魔物。

閉所での戦闘基礎を教えてくれるような理想的な訓練場。

メルド団長と騎士団のトラップ確認付き誘導により安全な遠足気分だ。

 

「棗、気を抜くな!」

「大丈夫ですよ? ちゃんと警戒してますし」

 

団長の激が飛ぶ。あまり緊張しすぎてもいけないし、かといって気を抜きすぎない。

ちゃんと仕事している事を証明する為、弓に矢をつがえて物陰から飛び出してきたラットマンの眉間を射る。脳天を貫かれたラットマンがそのまま崩れ落ちる。

 

「この通りに、ね?」

「……気を抜きすぎるなよ?」

 

分かってますって、と手を振っておく。

 

そうやって初めての実戦に気が高ぶった皆と共に順調に下の階層へ進む。

 

(眠……余裕過ぎる)

 

気は抜かないが、歯ごたえがなさ過ぎて正直退屈だ。

むしろ魔物を矢で貫通しないように力を調整する方が大変だ。

 

今更だが、持っている弓のアーティファクトは弦を引く力に対して、弦を強化するという物。

どんな剛力持ちが引いても壊れず、放たれる矢は岩すら貫くと言われている。

 

一回全力で引きすぎて本体が軋んだので全力は出さない様にしている。

まさか、強化されるのが弦だけだとは誰も思うまい。はっきり言って只のハズレ武器だ。

 

今出せる全力すら出すことなく、相手をひたすら仕留める。

 

南雲君の方を見ると、騎士団員が弱らせた魔物を落とし穴にはめてから串刺しにしていた。

その後に来た魔物もスリングで上手く挑発し、近寄ってきたところで拘束、地面を槍状に隆起させて串刺し。

なかなかに上手い使い方だ、自分の土俵に相手を引きずり込んで仕留めている。

 

(もう少し自信を持つことが出来れば化ける、かな?)

 

出来る事のバリエーションが増えれば、これ一本で戦える位にはなるだろう。

今のうちに二つ名でも考えておこうか。たとえば罠士とか錬成の鬼とか。

 

「危ない棗さん!」

 

おや、岩に擬態したゴリラがこちらに向かって飛んでくる。

回避は間に合わないから、そのままナイフを抜いてすれ違い様に首を刎ねる。

 

「この程度なら問題無いよー?」

「気を抜くなと言っただろう!」

 

団長からのげんこつが頭に炸裂。

本音を言うと痛く無いのだが、痛がっておく。

 

その後、後衛側に同じ攻撃がされ、白崎さんが被害に遭いそうになったのを見て、

天之河君が過剰火力で迷宮の壁ごと敵を消し飛ばしたのでメルド団長のげんこつを貰っていた。

 

罪状は過剰火力による天井崩落の危険性についてだ。

 

(あったなぁ……廃墟ビルの中でTNTパラノイアブッパして天井崩したとか)

 

なぜ天井のある場所でぶっ放したのかを小一時間問い詰めたかった。

そんな記憶に耽っていると、白崎さんが崩れた壁から何かを発見する。

 

「ほぉー、あれはグランツ鉱石だな」

 

話によるとその神秘な輝きから宝飾品として人気の高い鉱石とのこと。

加えて求婚の際に用いられる宝石でもある、とメルド団長が説明する。

 

「素敵……」

 

白崎さんが呟き、一瞬だけ南雲君の方を見る。

綺麗な宝石と共に愛の告白というのは、いつの世も憧れる物らしい。

 

「だったら俺等で回収しようぜ!」

 

そんな白崎さんの呟きに反応したのか、檜山君達が一斉に駆け出す。団長も静止するが無視される。

そして騎士団員の一人が声を張り上げる。

 

「団長! トラップです!」

「全員この部屋から出ろ!」

 

触れられたグランツ鉱石を中心に魔法陣が現れ、視界が白く塗りつぶされる。

宙に浮いた感触から、一瞬で重力が戻ってくる。

 

「……転送装置も真っ青かなぁ」

 

先ほどまでの部屋の景色から、石造りの橋の上。

あの一瞬で部屋の中の存在がこの橋の上に転送された。

 

周辺を確認すると、上に昇る階段と奥に進む道の二つ。

橋自体は幅が広く、天井もかなり高い。

 

「全員、立ち上がって急いで階段まで向かえ!」

 

指示と同時に皆が動き始めるが、それよりも早く、こちらを挟み込むように魔法陣が現れる。

階段側には大量の魔法陣から骸骨剣士、トラウムソルジャーが大量に。

前方には十数メートルの巨大な魔法陣、そこから現れるその威容。

 

「まさか、ベヒモス、だと?」

 

現れるは漆黒の巨体を持つ、四足歩行の生物。

 

(……少なくともスカンクスよりは強そう、高く見積もってオーロックスくらいはありそう)

 

後方が量の暴力で、前方が質の暴力。

しかも後方は未だに増え続けている。目測でおおよそ百単位。

 

ベヒモスが咆哮を上げると同時に騎士団員の術士が動く。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!」」」

 

多重の絶対防御魔法の詠唱が響き、光の壁が出現。たしか効果時間は一分間。その間はベヒモスだろうが押さえ込めるはず。

 

しかし状況は不味い、トラップと奇襲で全員が浮き足立っている。

団長と騎士団員が収拾に努めているが、それも叶いそうもない。

 

ある人は適当に剣を振り回し、またある人は硬直して動けない。

訓練というのは体に染みこませてからが本番だが、二週間程度ではせいぜい表面がぬれている程度だ。

 

完全に同様しているクラスメイトの一人にトラウムソルジャーが襲いかかる。

そこに南雲君が割り込み、錬成で足下を隆起させ、そのまま橋の外へ滑らせて落とす。

 

「早く前へ! 大丈夫! 冷静になればあんな骨どうって事無いよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」

 

南雲君がそう言うと、クラスメイトが少しずつ統率を持って動き始める。

 

「南雲君!」

「何とかしないと……必要なのは強力なリーダー……火力」

 

私が呼びかけても熟考を崩さない。

これは、土壇場で化けたかな?

 

そう思っていると最前線で未だに下がろうとしない天之河君に対してあれこれ話し始める。

後方に火力を集中してトラウムソルジャーを吹き飛ばし、退路を確保、その間ベヒモスを拘束して時間を稼ぐ、と。

 

なるほど単純。しかし効果的な作戦。

だったら私も猫被ってる場合じゃないな、と!

 

聖絶の結界が砕ける。ベヒモスが再び咆哮を上げると同時、天之河君達が攻撃を仕掛けるが無傷。

逆にベヒモスの反撃を食らい、吹き飛ばされる。

 

そのタイミングで、誰よりも前に出て、叫ぶ。

 

「Laaaaaaaaaaaaa!」

 

爆裂シャウト。

 

私の肺活量限界をもって全力の音を作り、相手にぶつける。

ベヒモスの体が一瞬浮き上がるほどの音圧。大きくはないがダメージにはなっている。

 

「棗さん!?」

「マリー!?」

 

再び呼吸、今度は軽く歌う。

特に歌詞のないスキャットだが、この音を聞いた人間のアドレナリン分泌量を上げ、能力向上を行う。

同時に爆裂シャウトほどではないけど、ベヒモスに音波をぶつけて怯ませる。

 

「棗!? それは一体!?」

「さっき覚えました!」

 

メルド団長の質問に対して答える。同時に息継ぎを行い、もう一度アドレナリンの歌を歌う。

先ほどよりも喉が温まっているので威力は出ている。

 

「ちょっと歌でアドレナリンの分泌量上げたから少しだけ無理出来るはず! 南雲君、後もう一回爆裂シャウトで怯ませるからその後足止めお願い!」

「え!? 作戦説明してないのに!?」

「それくらい状況見て考えれば分かるから! 私は終わったら怪我人抱えて逃げるから、一発しっかりと決めちゃいなさいな!」

 

分かった! という声を聞いた瞬間、全力で息を吸う。そして再びの音圧。

 

「Laaaaaaaaaaaaa!」

 

それを身を縮めて耐えるベヒモス。そこが狙い目だ。

 

「今だ南雲君!」

「錬成!」

 

音が途切れた瞬間に駆け寄り、その足下で錬成を行う。足下を泥状にし、沈み込ませてから固める。

頭の角を赤熱化させ振るうも、かろうじて転がって避けた後、床に食い込んだ角の周囲を固める様に再度錬成。

振りほどこうとするも都度錬成を行い直し、動きを封じる。

 

「任せた南雲君、皆、撤収! 急げ!」

 

天之河君と坂上君、それに雫さんが先行して走り、その後ろを白崎さんを抱えたメルド団長が走る。

後方の混乱は少しずつ収束しており、騎士団員とクラスメイトが密集して防戦に努めていた。

 

「天翔閃!」

 

天之河君の一撃がトラウムソルジャーをなぎ払う。

そのまま全員を鼓舞する様に叫ぶ。

 

それを見て私は更に前方へ跳躍。全員の頭を飛び越えて、その後方に居るトラウムソルジャーの頭上を取る。

全力で息を吸うと同時に水筒の片方を手に取り、口に含む。

 

素早くマッチを擦り、口の前に持ってきてから、口に含んだ物を噴射する。

噴霧されたガソリンは霧から炎になり、トラウムソルジャーを焼き尽くす。

 

「ザ・グレート・カブキ!?」

 

どうやらプロレス好きが混ざっていた様子。まぁ、技名が火炎カブキだから元ネタなのかもしれない。

よく燃えた骨を踏みしめ、素早く口を水でゆすぎ、吐き捨てる。

 

「退路確保!」

「よし、全員階段まで急げぇ!」

 

団長の号令と共に全員が階段を目指す。

全員が階段近くまで移動し終わると同時に、天之河君と団長からの声で遠距離攻撃が準備される。

 

南雲君も魔力切れ寸前で離脱開始。

近接組が退路を確保しつつ、遠距離攻撃組がベヒモスに向かって一斉攻撃を掛ける。

 

私も矢を耐久限界まで全力で引き、放つ。

それが外皮を貫いて刺さり、他の魔法も相まってベヒモスの足止めに成功した、その瞬間だった。

 

見えたのは、放たれた一発の火球。それが、突然南雲君の前方に着弾。ベヒモス側に押し戻される。

 

全員が息を呑む。

 

「南雲君!」

 

一瞬で身を低くし、全力で前方へ踏み込む。

ベヒモスが赤熱化した角を振り下ろし、それをかろうじて回避。

振り下ろされた角の一撃で、橋が限界を向かえ崩れ始める。

 

「間に合え!」

 

全盛期の力であればこれくらいの距離ならそれこそ一瞬で詰められた。

ぬるい粘液の中でもがくようにして、ひたすら前に進む。

南雲君の居るあたりが崩れ始め、そして彼が落ちてゆく。

 

「間に合えぇ!」

 

滑り込み、下に向かって落ちていく南雲君に向かって全力をもって圧縮倉庫に入れてあったワイヤーを投げる。

それを見た南雲君が懸命に手を伸ばすが、届かず。

 

奈落に向かって落ちていく南雲君に対して、叫ぶ。

 

「必ず、助けにいく! だから死ぬな!」

 

私は、その姿が見えなくなるまで、そのままだった。




レベルアップの機会が少なければ当然鈍るわけです。

唐突な用語解説。

カリョストロ
バイアスグラップラー四天王の一人で諜報担当。シナリオ的に見てもあまり接点はないが、デルタリオでイベントがあるだけマシ。
2では無視できたが2Rでは無視できないボス。

2では雑魚、2Rでは強ボス。

よく訓練されたアーチストが恐ろしいというのは、大体2Rでこいつに苦渋を舐めさせられたせいである。

作者は2R初見で10回以上全滅させられた。カリョストロ、殺すべし。
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