ありふれた職業と荒野の芸術家   作:ふじのん

5 / 9
ちょっと無理矢理な展開かもしれないです。


唐突な用語解説。

TNTパラノイア
ソルジャー専用武器。全作品共通で上空に爆弾を打ち上げ、敵全体にたたき込む武装。
そもそもTNTとはトリニトロトルエン、爆薬である。
熱を加えるとアルコールなどに溶け出し、衝撃や摩擦で発火するデリケートな物。

こんな物を持ち歩いて、あまつさえ殆ど無差別で爆撃するような武装こそ狂気と言うべきだろう。


日常を取り戻す為の第一歩

感覚的に、三十秒くらいだっただろうか。

奈落に向けていた体を起こして、皆の所へ戻る。

 

階段の所では南雲君の落下を見た白崎さんが叫び、暴れた。酷い錯乱状態だった。

それを天之河君達が押さえて止めるが、それでも白崎さんは止まらなかった。

 

「ごめん、白崎さん」

 

あの日、愛ちゃん先生に対して打ち込もうとしていた無針注射機、その中身に装填されたスイミンDXを打ち込んで強制的に眠らせる。

 

誰もが目を丸くする中、私は一言だけ呟く。

 

「リーダー、お願い」

 

その言葉に我に返ったのか、天之河君達を中心に脱出の為動き始める。

私は圧縮倉庫からiゴーグルを取り出し、装着する。

 

そして気配感知を最大限にし、出てくる敵を一瞬で撃ち抜く。

 

何も言わず淡々と魔物を打ち抜く姿に、誰も近寄らない。

 

再度の転移や強行軍をもって、何とか地上にまで辿り着いた。そしてすぐ宿に運ばれた。

心も体も満身創痍だった。

 

目の前に死が迫った状態での初戦闘を乗り越え、皆が泥の様に眠る夜。

 

私は一人、宿の屋上に上がっていた。

 

「……感度良好、かな」

 

ゴーグルに映る光点を確認する。

以前に面白半分で南雲君の体に仕込んだシグナル反応。

 

南雲君の生体電流反応を利用して動力を得て、特定の信号を放ち続けるそれを、iゴーグルで受信を続けていた。

それをしまいこみ、後ろに向かって声をかける。

 

「それで、団長さんはどうしてここに?」

「馬鹿が無茶をしないように見張りに来た」

 

後ろから来た団長が、横に座る。

 

「無茶?」

「これから一人で迷宮に潜る気だろう」

 

まぁ、当然ながらそんな動きくらいは読めるよね。

 

「おそらく今の時点でもお前は俺よりも強いだろう。だからこそ、そんな無茶は許容出来ない」

「来たるべき魔人族との戦いの為に?」

「いいや、これ以上、誰も殺さない為にだ」

 

次の瞬間、光で出来た鎖が私の体を拘束する。

首を巡らせると、周囲に騎士団員が杖を構えて立っていた。

 

「このまま拘束した状態で城まで戻る。有無は言わせない」

 

次いで、もう一つの魔法が私の頭を包み、急速な眠気に襲われる。

そのまま私の意識は闇に落ちた。

 

そして今、気がついたら王城の一室に軟禁されていた。

 

 

○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○

 

 

あの日から七日が経過。私は相変わらず軟禁されたままだ。

表向きにはまだ精神が安定していないとのことで、裏向きは私の持つ力を万一にも散らさない為だ。

 

クラスメイトが見舞いに来たりしているが、部屋を出るときはお付きの侍女と共に騎士団員が三人も配備される。

一瞬でも変な動きがあれば彼らの持つ道具で城中の兵士が集結して取り押さえるだろう。

 

だからこそ、慎重に慎重を重ねる。

 

今の(・・)私には正面から彼らを殺さずに突破する術はない。

ただ、術が無いなら作ればいいし、策を講じればいい。

 

装備類は奪われてしまったが、圧縮倉庫にデザートイーグルは退避出来た。

そしてまだ、iゴーグルの反応は消えていない。

 

白崎さんも昨日目覚めた。

薬の分量は間違えていなかったが、精神防衛の一環でずっと眠っていた様子。

 

今は夜。おおよそ皆寝静まったし、準備も整った。状況もクリア。

やるなら今以上のタイミングはない。

 

「済みません、少々お手洗いに……」

 

部屋の扉をノックし、外に居る侍女に声を掛ける。

扉が開くと同時に、きゃた肝から睡眠ガスを浴びせ、眠らせる。

 

「どうしっ!?」

「なぁ!?」

 

見張りの団員にも同じように浴びせてから拘束、部屋の中に押し込む。

後は扉に細工をして、鍵を掛けてから差し込んだ状態でへし折っておく。

 

扉をノックすると、私の声で「ごめん、今は放っておいて」と声が出るようにICレコーダーをセット。

そしてそのままきゃた肝を腰にくくりつけてガスを出した状態で歩く。

通気口があればそこにガスを流し込み、城中の無力化を行う。

 

そうして目的の部屋まで辿り着くと、ノック。

 

「白崎さん、入るよ」

 

返事を聞かず、そのまま部屋に押し入る。

 

「棗、さん? どうしたの?」

 

ベッドで枕に顔を押し当てながら泣いていたのか、酷い顔だった。

 

「ちょっとね、お別れを言いに」

 

今まで来ていたネグリジェを脱ぎ、圧縮倉庫から私の本来の装備を取り出す。

サラトガスーツにグラブ、マダムブーツとブルメット。

本来ならこんな豚のマスクなんざ被りたくもないが、高性能なのだから仕方が無い。

 

武器も腰にライトサーベルをセットし、太ももに巻いていたホルスターを後ろ腰にセット。

銃もデザートイーグルからマグナムガデス(四連装拳銃)に変える。

カラビナには手榴弾を数個くくりつけ、ポシェットには発煙筒とガソリンの入れた水筒。

背中にRPG-7をくくりつけ、光粒子スパークを担ぐ。

 

最後に袖口に無針注射器とカリョマイクを仕込み、完成。

 

「え、ええぇ?」

 

鏡あったら言えるけど、圧倒的不審者の極みだ。

 

「……えっと、お別れって?」

 

無理矢理話の軌道修正を試みるのは凄いと思う。

 

「ちょっと南雲君の救出に行ってくるわ」

 

その言葉に、白崎さんの表情が強ばる。

 

「生きてるよ? 確証付きで」

「っ!」

 

iゴーグルを見せ、光点の反応の意味を教える。

 

「ま、拘束とかされて無駄に時間掛かっちゃったけど、これから行く」

「……棗さん、私も連れて行って」

「―――そう言うと思った」

 

八重樫さんや他のクラスメイトではなく、白崎さんに声を掛けたのは確実に着いてきてくれるからだ。

本来なら私一人でも十分だが、今はまだ万全じゃない。

 

だからこそ、仲間(共犯者)が欲しい。

 

白崎さんは今はそれほどでもないけど、少し磨けば光る。

それに、こういう目的がはっきりしている人間は、強い。

 

「それじゃあ、行こうか」

「行かせない、わよ」

 

声のした方へ顔を向けると、そこには雫さんが居た。

壁に手をつき、太ももにはナイフを刺した痕が見える。

 

眠気を押さえる古典的手段だけど、きゃた肝の睡眠ガスは強烈だ。完全には覚醒に至っていない。

 

「全員を無力化出来ると思わなかったけど、雫さんか」

「雫ちゃん……」

 

そんなふらふらな状態でも剣を私の方へ向けてくる。

 

「マリー、香織、今貴方たちがいなくなったらどうなるの?」

「どうもならないよ。どうせエヒト神の仰せのままに戦わされて、最後は捨てられる」

 

白崎さんが息を呑む。

 

「それに南雲君は死んでないからね。今頃生きる為に必死になってるはず」

「ずいぶんと自信満々に、言うのね」

 

私は笑いながら、眠気でふらつく雫さんに音もなく接近し、無針注射器を当てる。

 

「ま、しばらく旅に出るから探さないで欲しいな。どこかで手紙くらいだすから」

 

その言葉を手向けに、スイミンDXを打ち込む。

そしてそのまま倒れる雫さん。

 

「それじゃあ、小細工してから行こうか」

 

その言葉に、力強く、白崎さんが頷いた。

 

 

○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○

 

 

ゆっくりと目が覚める。

夢見の悪さも、窓から差し込む日の光で浄化される。

 

「嫌な夢ね、香織とマリーが消える夢なんて……」

 

そこまで自分で呟いて、意識が一気に覚醒する。

 

「香織! マリー!」

 

太ももの傷はナイフの痕が全くないくらいに綺麗に治療されていた。

寝巻に染みていた血痕もない。

 

窓の外を見ると、日はすでに落ち始めている。

 

「うかつだった!」

 

部屋の扉を見るとボイスレコーダーの様な物が貼り付けられていて、私のような声で「ごめん、一人にして」と衝撃を受けるたびに呟くように設定されていた。

 

部屋を飛び出すと侍女の人たちが走り回っていた。

 

「あ、お姉様! 棗様に付いていたアリサが何処にも居ないんです! 騎士団の方達も……」

「マリーの部屋は?」

「それが、放っておいてとしか言わず、部屋に入れてもらえないのです……」

 

侍女を放置して、マリーの部屋の前へ辿り着く。

そこには光輝や鈴達が集まっていた。

 

「棗さん、いい加減開けてもらえないか?」

「ごめん、今は放っておいて」

 

光輝がドアをノックし、マリーの声で返事が返ってくる。

私は全員をどかせると、そのまま問答無用で扉をたたっ切る。

 

全員が呆然とする中、部屋の中には騎士団の人たちが簀巻きかつ猿轡をしっかりと填められて放置されていた。

 

それを見た瞬間、香織の部屋に向かって駆ける。

こちらもこちらで侍女達やクラスメイトが集まっていた。

 

「あ、八重樫さん……」

「どいて頂戴」

 

一応ノックをすると、香織の声で「一人に、してくれないかな?」と聞こえる。

無論、問答無用でたたっ切る。

 

ベッド元まで行き、布団を剥ぐと、両手足を拘束された状態で眠っている侍女が居た。

 

「雫、これはどういうことだ!? 雫もさっきまで一人にして欲しいって―――」

 

少し遅れて、光輝達が部屋に入ってくる。

 

「マリーと香織が、オルクス大迷宮に行ったわ」

 

その場に居た全員に衝撃が走った。

 

 

○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○

 

 

時間は二十時間ほどさかのぼる。

 

「さて、一日ぐらいしか時間は稼げないから、明日の朝にはオルクスまで入ってないと、ね」

 

王都の門をくぐり抜け、一息つく。

 

「でもどうするの? 私達お金なんて無いし、乗馬訓練はしたけどまだ走らせるほど上手くないよ?」

 

馬というのはあんなにもやっかいな乗り物だとは思っていなかった。久々に感じた腰の痛みが苦い思い出として蘇る。

 

「大丈夫、我に秘策あり!」

 

圧縮倉庫から取り出すのは、

 

「車?」

「せいぜいカートだよ。あり合わせの物で作ったね」

 

自作して分かるバトー博士の偉大さ。

圧縮倉庫にあった鉄くずを寄せ集め、バレないように組み上げたこのミニカート。

燃料はあるし、座席もしっかりしつらえた。

 

エンジンは車体フレームが不安すぎるのでビートルを搭載。

流石にビーナスジェットとか積んだら壊れそうだし。

 

「大丈夫、爆発はしないから。香織さん」

「……大丈夫だよね、棗さん、ううん、マリーちゃん」

 

乗り込みシートベルトを締める。

エンジンを回してアクセルを踏み込むと、前に進む。

しかしいろいろなものを削って造られたこ奴、特に安定性と乗り心地を無視して作ったのですこぶる乗り心地が悪い。

 

「ごめんね、サスペンションまで準備が間に合わなかった」

「だだだだいじょうぶぶぶぶぶ!」

 

そのまま夜通し運転を続け、朝にはホルアド付近まで到達。

しかしここで問題が発生。

 

「受付で……ステータスプレート……見せたら……バレるよね……?」

「うーん、どうしようか?」

 

助手席で天を仰ぎながら、吐き気と戦う白崎さんに水を渡しつつ、望遠鏡を覗く。

オルクス大迷宮は受付でステータスプレートを提示してから入るシステムだが、私達が提示したら最後、別室に送られてそのまま拘束だろう。

 

こういうとき、どうするか……

 

レナの場合は発煙筒で攪乱した上で強行突破。

ドラムカンの場合は小細工無しに強行突破。

ヒナタの場合は少し考えて、穏便な手段を思いつかないので強行突破。

 

駄目だこいつら、全員脳筋だった!

仕方が無い。こうなれば……

 

「攪乱して強行突破しようか」

 

レナの案を少し補強して利用しよう。

 

「どうするの?」

 

ようやく復活した香織を尻目に、カートからビートルを取り外し、ポリタンクを設置。

中身は半分ほどガソリンい注ぎ、少量の火薬を設置。また、ロケットブースターも装着。

ついでに発煙筒もセットし、準備完了。

 

「こうするの」

 

ロケットブースター点火。

一瞬で数百キロまで加速。目標は大迷宮の入り口横の壁。

 

「――――――!?」

「あははははは!」

 

暴れる車体を無理矢理ねじ伏せながら大迷宮への道を全速力で駆ける。

そして大迷宮入り口まで差し掛かったタイミングで白崎さんを抱えてカートから飛び降りる。

 

カートが入り口横の壁にぶつかった瞬間、点火装置を起動させ、爆発。

ロケット燃料とガソリンが盛大に火を噴き、発煙筒が周囲に巻き散らかされる。

 

「なんだ!?」

「火が!? 魔物の攻撃か!?」

「誰か水を! 急いで火を消せ!」

「なんだこの煙!」

 

一斉に混乱する入り口、その混乱の中。横をすり抜けて大迷宮へ入る。

第一層の半ばまで進んだところで白崎さんを下ろす。

 

「無事潜入完了、大丈夫、白崎さん?」

「……マリーちゃんがこんなに過激な人とは思わなかった」

 

馬鹿な、この程度で過激とは。

 

「レナだったら全員仕留めて安全確保してから潜入だけど?」

「発煙筒ばらまいて混乱しているうちに潜入で十分なんじゃ……?」

 

なるほど、穏当な手段だ。

 

「またまた香織さん、そんな事じゃアシッドキャニオン生き延びられないよ?」

「何処それ!? というかどんな末法!?」

 

大破壊後です。

 

「さて、ここからだよ……皆に妨害されないうちに急いで下まで降りるよ」




これが本当のロケットガールズ。


唐突な用語解説。

ロケットエンジン
車両用エンジン、ではなくアイテム。
使用するとロケット燃料を消費して移動速度が速くなるだけのもの。

途切れた高速道路にある集落、ジャンプキャンプにクルマで行く際に必要になるが、
それ以上にシリーズ最速(フィールド移動速度)の賞金首スピードキングに追い付く為に必要。

メテオドライブ☆3のドロップリセマラで心折られた人多数。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。