ついに大迷宮の真の姿が解き放たれる。
唐突な用語解説。
レベルメタフィン
グロウィンなどの特殊な生物から生成される物質。
取り込んだ細胞に擬態する性質を持ち、擬態細胞が取り込まれた際、その生物の細胞へ向けて浸食を行う。
この性質を利用して作られたのがメタモーフ細胞となる。
順調に進む探索、上がるステータス。
ひたすら下へ向かい、途中で体を慣らすために魔物を狩りながら進む。
現在の階層は九十九層。人類の限界を超えて、迷宮を進む。
しばらく前から南雲君の反応が動いている。更に深い層に向かって。
まだペースは遅いが、これはしばらくすると本格的に動き始めるだろう。
香織の左手から大口径の銃声が響く。それだけで蟹のような魔物の甲殻が砕け、そのまま地面へ崩れ落ちる。
二首の巨大トカゲがこちらに向かって飛びかかってきたので、首の付け根から胴体ごとチョップで真っ二つに裂く。
「よし、今日の食糧確保」
「蟹の甲羅焼きっておいしいよね!」
私たちはこんな下層、いや中間層まで降りて、晩御飯の支度をしていた。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
きっかけは昨日だ。
「香織ちゃん、落ち着いて聞いてほしいにゃ~」
「どうしたのマリーちゃん?」
「食糧が無いでござる」
「えぇーー!?」
結構な量を準備したのだが、想定以上に迷宮が長い。
携帯食糧などがすべて尽きてしまった。
残っているのはレベルメタフィンと各種回復カプセル系とドリンク系だ。
いざとなれば薬品で飢えを凌げるが、さすがに非常手段だ。
「あ、そうだ、魔物食べればいいんじゃないかな?」
「なるほど!」
というわけで、魔物クッキング開始。
その時殺した牛型の魔物の血抜きをし、解体。
「天恵よ、わが身を害するものを退けよ、”退毒”」
念のため切り分けた後に香織の解毒魔法で毒素を分解。
「うーん、こんな洞窟の中でバーベキューなんて不思議な気分」
「まぁまぁ、お肉は正義だから」
では、いただきます。
さっそく肉にかぶりつき、その味を堪能する。
「少し硬いかな? でもこれはこれで野性味があってたまらない」
「うん、おいし……!?」
突然香織が体を抱きかかえるようにしてその場に倒れこむ。
痛みに耐える、いやきっとだけど内側からの何かに抗っている?
「毒!? いや解毒は完璧だった! ……いや、これ、体が作りかえられて!?」
この感じはドラムカンやX-エルの変身に似ている。
そうなればこちらがとれるのは対症療法だけ。
「いや、これが役に立つかも! 苦しいだろうけど飲んで!」
香織の口に二錠のカプセルを放り込み、飲み込ませる。
ひとつは鎮痛のためのオイホロカプセル。もうひとつは、
「レベルメタフィン、これで変化の方向性は定まるはず!」
人が人のまま人間を超えるための薬品。
おそらくグラトノスはそのためにこれを作ったのだろうが、それ以上にメタモーフ細胞の能力が凄まじかったのでこちらをお蔵入りにしたのだろう。
ネツィブ・メラハに大量に眠っていたそれは、強化改造されたヒトの転写細胞だ。
香織が悶え苦しんで居るのに私が平気な理由は、私の体はすでに人間を超えた存在になっているので効果が無かったと思われる。
正確には体が置き換わる以前に強靭すぎる肉体をもっていた事が原因だろう。
「しっかりしなさい、香織! 南雲君を助けるんでしょう!?」
モーレツ看護とオーバードリップで弾け飛びそうな香織の体を回復し続ける。
「な、ぐも、くん?」
うわごとのように呟かれる声に、ひたすら呼びかける。
そうして一晩の格闘の末、香織の容体が安定する。
「あ、マリー……?」
「どうやら、落ち着いたみたいね」
圧縮倉庫からゲンキデルZを取り出して飲み干し、その場にへたり込む。
周辺には介抱に使った道具やらが散乱しており、そのさらに離れた所には無数の魔物の死骸が並んでいた。
外見上の変化はない。
いや、一か所だけ、前髪の一部が白くなっている。
「原因不明の身体情報書き換えに対しての手は打ったけど、初期段階の治療が間に合わなかった……ごめん」
「ううん、大丈夫だよ」
自分のステータスプレートをみる。
棗マリアンナ 17歳 女 レベル:???
天職:芸術士
筋力:1568
体力:1827
耐性:2058
敏捷:2235
魔力:1571
魔耐:1580
技能:ゲージツ[+死んだふり][+着ぐるみゲージツ][+アドレナリンの歌][+金粉ゲージツ][+砲弾ゲージツ][+復元ゲージツ][+悩殺キック][+爆裂シャウト][+暗黒舞踏][+砲撃演舞][+改造ゲージツ][+爆発ゲージツ]・副職[+魔物狩人][+整備士][+白兵戦士][+看護士][+興行武闘士][+舞闘家][+二輪機兵][+芸術士]・魔力操作・薬学知識・薬品生成・圧縮倉庫・装備制限解除・成長限界突破・言語理解
どうやら魔物の肉を食らったことで、魔力の直接操作ができるようになった様子。
「香織、ステータスに魔力操作ってある?」
「ええっと、あれ、魔力操作って増えてる?」
どうやら魔物を食うと魔力操作を覚えるらしい。
「うーん、魔物の魔力と人体の魔力が反発しあう? いやそれじゃあ体を作りかえることにはならないから、魔物の魔力が体を侵食するからそれに対する免疫反応で体を急激に作りかえるってことかな?」
おおざっぱな仮説を立て、そのあたりの死骸から火を吹く魔物の肉を食べる。
「あ、火炎放射の技能が増えた」
「……躊躇くなく虫食べてる」
火吹きトンボとも言うべき魔物の肉を食らってそのことを検証する。
「やっぱり体の組成を魔物に近づける侵食か。メタモーフ細胞のような異物に対する拒絶じゃなく侵食に伴う破壊かぁ」
普通の人間では免疫による体の作り変えよりも先に侵食による体の崩壊が先なのだろう。
「結論、魔物肉は危険だけど、一度乗り切れば有益! アメーバよりはマシと割り切れば問題なし!」
「えぇーー!?」
衝撃を受ける香織を背に、歩くマンドラゴラみたいな魔物で作ったスープを香織に与える。
「ほら、なんてことないでしょ?」
「本当だ……しかもこれ美味しい」
牛型魔物の骨を煮込んで取った出汁に刻みマンドラゴラを入れて煮込みました。
滋味が深く、自慢の一品となっております。
「うん、魔物で食糧調達しよう!」
「よーし、食べられそうな奴は見つけ次第狩ってくぞー!」
そうして、冒頭に戻る。
地下九十九層、カニの甲羅焼きとトカゲの白焼き。やや淡泊ながら美味しかったです。
南雲君の光点はいまだ地下深く。
その夜、香織が何かを感じ取ったように泥棒猫め、と呟いたのは聞かなかったことにした。
決して背中に背負った般若に目をつけられたくないからではない。
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「……香織さん、このダンジョンの攻略に関してどう思われますか?」
「すごく、大変だと思います」
現在階層、百五十二階層。
南雲君の光点が、ようやく動かなくなる。
おおよその高度差から残り階層は四十八層。
「つまり、オルクス大迷宮は二百階層からなる大迷宮だったんだよ!」
全力で叫ぶが、聞くのは魔物ばかりなり。それらを弾幕優先で装備したハンドバルカンやサンダーフェザーでなぎ払う。
甲殻を纏い、羽で空を飛ぶ黒い虫のような魔物の群れをひたすら撃ち落とす。
「同意したいけど、それ以上に手を動かしてよぉ!?」
香織も効率優先でブロイラーボンベでもってひたすら虫を燃やし続ける。
熱を持つ小手部分をヒートバスターで強制的に冷却しながら、詠唱を続けてやけどを負う自分の体を回復し続けている。
魔力操作の技能を得てから、香織は体のどこかに発動体を接触させておけば魔法を無詠唱で使えるように進化していた。
かくいう私も火炎放射の技能で口から火を吹きまくっている。火炎カブキと違ってガソリンを消費しないのはありがたい。
左手から銃弾の嵐、右手の羽から雷の嵐、口から火の嵐。ついでに足はニンジャステップ。
どこの大道芸人だ。
そんなこんなで都合二時間ほどで虫型の魔物をすべて狩りつくす。かつての魔物に比べて経験値は薄いが数でカバー。それでも足りない分は食って強化。
そうやって敵を狩りながら進み、食べられそうな魔物を食べ、先に進む。
途中で大仰な扉があったが、中にはとくに何もなかった。いや、正確には戦闘痕のみ。
「……マリーちゃん、これって」
転がっている薬莢と、壁にめり込んでいる弾丸を取り出して合わせる。
「口径はおおよそ44口径かな?」
「これがあるってことは……南雲君は銃を作ったんだ」
あの時から化けると思ってたけど、ここまで化けるとは思わなかった。
こうなったらこちらも俄然やる気が出てきた。
「よし、残り階層、一気に下りるぞー!」
「おー!」
迷宮ラストスパートです。
唐突な用語解説。
サンダーフェザー
賞金首ラグナ=ロックの尾羽。
白兵戦で使用出来る全体電撃属性武器。
ラグナ=ロック自体、クリア後追加賞金首の為やたらと堅く強い。
威力が高くお手軽に使える電撃武装として重宝するが、ハンターとソルジャーしか装備出来ない。
複数周回を行う際、これがあると雑魚散らしが楽になる。