ふたりはVSプリキュア!   作:カードは慎重に選ぶ男

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第十四話:永遠のともだち! ふたりはプリキュア!

「これでようやく、ラスボスである私の出番がやってきたね!」

 

 

 

サイレントが、もっとも聞きたくない声だった。

夜野シズエ達の故郷が滅んだ原因である、筋肉質な全高2メートルの蛙人間が、全壊した学校の校庭に現れたのだ。

 

 

「……っ」

「うんうん、頑張るねぇ。ヒーローは、そうでなくっちゃ!」

 

サイレントは……気力だけで、立ち上がった。

息も絶え絶えだったが、それでも何もできずに死ぬよりはマシだ。

 

 

(……ミケマタ。貴方だけでも『不幸の果実』を持って逃げられそう?)

(吾輩も正直、ダメージは大きいである。そもそも異界門の場所がバレている以上、吾輩だけ逃げても死ぬ順番が変わるだけであるぞ)

 

状況は、最悪だった。

プリキュアが共倒れした状況でラスボスと戦うなんて、運命の悪意を感じるレベルである。

 

とはいえ、遅かれ早かれ、この展開は待っていただろう。

ビクトリーとサイレントが悲しみの種を使わずに様子見に出たら、トノサ=マッスルも様子見を続けるだけだ。

敵の寿命が分からないので何とも言えないが、最悪の想定としてトノサ=マッスルは夜野シズエの寿命を待つという作戦だって可能かもしれない訳で。

悲しみの種に消費期限があるかもしれない、なんて話まで考えると、プリキュア側としてはなるべく早く動くのが正解だったはずだ。

 

 

吹けば飛ぶような状態のサイレントがラスボスと戦うのは、流石に無理ゲーだろうが。

朗らかな笑顔を張り付けたままのトノサ=マッスルは、4年前のサイレントが手も足も出なかった相手だ。

 

 

 

 

「真打の登場を、盛り上げすぎでしょ」

 

 

 

 

ふらふらのサイレントの背中から、声がかかった。

そんな訳はない、とサイレントの理性が告げていた。

不幸の果実を実らせるところまでカナシミーナが育ってしまえば、最低1週間は宿主は昏倒するはずだ。

 

それでも。

サイレントが聞いたのは、一番聞きたくて、一番愛しい声で。

 

 

「……ショーコ?」

「ただいま、シズちゃん」

 

 

一体、どんな奇跡を起こしたというのだろうか。

サイレントが振り返った先には、二本の脚でしっかりと立っている朝加ショーコの姿があった。

いくら朝加ショーコといえど、道理を蹴っ飛ばし過ぎでは?

 

 

「これは驚いたなぁ。いったいどんな魔法を使ったんだい?」

「ミユキちゃんが宿主になった後にすぐ起きた例があったから、プリキュア変身経験者には何かしらの耐性が付くだろうとは思ってたんだ」

 

あたしも確信があった訳じゃないよ、なんて言いながら、ショーコはネタバラシをしてくれた。

……そう言われてみれば、サイレントにも心当たりがあった。

テディベアを持っていた、例の大学生女子だ。

あの大学生は、カナシミーナが倒されたと同時に忽然と姿を消してしまったのだ。

たしかプリキュア経験者(自称)だったはずだが、同じ理由でカナシミーナが倒れた後にすぐに動けたのだろうか?

 

 

 

「シズちゃんは、ちょっと休憩してて! あのカエルはあたしが相手になる!」

 

サイレントは……変身を解除して、夜野シズエへと戻った。

何も言わずに、シズエは二つの輝石をショーコへと手渡した。

ありがと、なんて言いながらトノサ=マッスルの前に立ちはだかった朝加ショーコの背中は、いつも以上に大きく思えた。

……しかし夜野シズエは、一抹の疑念を拭いきれずにいた。

 

 

 

「プリキュア・デュアル・チェンジっ!!」

 

瞬く間に、ショーコがいつもの白と桜色のプリキュアへと変わっていく。

そして紫と黒の意匠が混ざり込み、影のスパイクとナックルガードを形成した。

最後にピンクのツインテールの先に1対の金環が生成され、変身が完了した。

 

 

「勝利と静寂の光! キュアビクトリー・サイレントフォーム!」

 

 

1対の金環を左右の腕にそれぞれ移動させ、戦闘形態へと移行したビクトリーは。

幾度となくシズエが理想に思った、ヒーローの姿そのものであった。

 

 

 

「今この時ほど、ビクトリー殿が味方で良かったと思ったことは無いである。あとはショーコ殿に託すのみであるな」

「……」

 

 

……本当に、そうか?

誰よりも朝加ショーコと一緒に過ごした夜野シズエは、違和感を胸に抱えていた。

いつものショーコの性格なら、「あとは、あたしに任せろ!」みたいなストレートな言葉をぶつけてきそうなのに。

 

 

――ちょっと休憩してて!

 

さっきのショーコの言葉は、まるで……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふたりはVSプリキュア!』

第十四話:永遠のともだち! ふたりはプリキュア!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾いた音が、瓦礫の展示場と化した校庭に木霊した。

ビクトリーが拳を繰り出し、マッスルが上腕でガードする。

マッスルが、ビクトリーの突き出した手首を掴んで、投げ技の体勢に入った。

投げ技に逆らわずに身を任せたかと思われたビクトリーは、投げ技の勢いが乗る前に空中に障壁を生み出して受け身をとった。

 

ビクトリーが、影のスパイクによる串刺し攻撃を狙ってヤクザキックを繰り出した。

マッスルは横方向に払うような軌道の蹴りにて、ビクトリーのキックを弾き返した。

 

 

「でりゃああっ!!」

「ほっ、と、こりゃたまらんね!」

 

激しい格闘戦を繰り広げている二人を、よそ目に。

夜野シズエは、考えていた。

まだ、朝加ショーコは何か喋っていないことがあるだろう、と。

 

 

マッスルが、左拳にてビクトリーの顔面を狙った。

一瞬、防御する素振りを見せたビクトリーは……しかし、防御を捨てて雑にクロスカウンターを決めてみせた。

一応ビクトリーの方が外側をとったものの、お互いに直撃に近いダメージを受けて、後方へと弾き飛ばされてしまう。

ビクトリーは学校の塀を背中で壊し、マッスルは校舎だったコンクリート片の山に背をついた。

 

 

「やっぱり君達はアタリだねぇ! こんなに楽しい戦いは久々だよ!」

 

すぐさま起き上がって、満面の笑みを見せている筋肉ガエルは、意気揚々といった様子で。

一方、緩慢な動きで立ち上がったビクトリーは。

 

 

「化かしあいは、もう十分でしょ。こんな茶番にいつまでも付き合ってられるかっての」

 

……変身を解いて朝加ショーコへと姿を戻してしまった。

これには、流石に夜野シズエも我が目を疑った。

横で一緒に見ていたミケマタも、狼狽している様子だ。

 

 

「茶番だって? せっかく強化形態を手に入れて、ラスボスと殴り合っていたっていうのに、あんまりな言い草じゃないか」

「よく言うよ。あんた、殴っても絶対に死なないタイプの敵でしょ」

 

 

……なんですと?(イチカ並感)

ショーコが言ったのが結論だというのは推測できるのだが、あまりにも過程を飛ばし過ぎである。

確かに、物理的に殴っても絶対に死なないタイプの敵を殴り続けるのは不毛だし、茶番ではあるのだが。

 

 

 

 

「あたしが一番変だと思ったのは、『黄昏の園』と『雨の軍勢』の間での、『伝説の戦士』に対する認識の差異だ」

「うん?」

「……えっ?」

「認識の差異、であるか……??」

 

 

今度は、シズエとミケマタに加えて、マッスルまで困惑を始めていた。

なぜそこで『伝説の戦士』?

確かに、プリキュアは『黄昏の園』に伝わる伝説の戦士だという話を、サイレントはビクトリーにしたことはあるが。

 

 

「ひとえに『伝説の戦士』って言ってもさ、2種類想定出来るじゃん。クウガみたいに先代が居るヤツと、クロノスみたいに先代が居ないヤツでさ」

 

そう言われれば、確かにその通りではある。

シズエは特撮系のネタに疎いので、ショーコの例えの意味は分からないが。

一応補足しておくと、仮面ライダークウガには先代のリクという青年が居たりする。

一方で、仮面ライダークロノスは『伝説の戦士』として出現だけが予見されていたものの、作中で先代クロノスが居たということは無い。

 

 

――なかなか良い一撃だったよ。やっぱり君は『アタリ』だ。これからも期待しているよ。

――いやぁ、キュアサイレントは強敵だったね。どっちが勝ってもおかしくない名勝負だったよ。

 

ショーコをアタリと呼んだということは、ハズレも知っている訳だ。

そして、シズエへの好感度が高そうなので、シズエはハズレではないと推測できる。

そうなると……ハズレとは、いったい誰のことだ?

 

 

「マッスルが先代のプリキュアを知ってるってことは、先代は実在したんだよね。でも、それにしてはサイレントは、プリキュアの仕様を知らな過ぎた」

 

 

――……福圓ミユキのカナシミーナの時は、別の人間が変身していたの? そんなことが可能なの?

 

その通りだ。

夜野シズエは、先代のプリキュアが居たなんて話は聞いたことがなかった。

だからこそ、他の人間がキュアビクトリーに変身していた可能性に思い至らなかったのだ。

 

 

「先代の実在が疑われるレベルで期間が開いちゃって、色々失伝しちゃったんだろうね。で、そんな昔の先代を知ってるマッスルは何者なのよって話だよ」

 

いったい、どれほどの年月が必要なのだろうか。

100年や200年ではきかないだろう。

なお、マッスルが『黄昏の園』とは別系統のプリキュアや異能力者との交戦を経験していたというケースも一応有り得たのだが……マッスルが何も言わないので、気にしなくて良いのだろう。

 

 

「輪廻転生的なものなのか、肉体的なタフネスが原因なのか。その辺は分からないけど、多分あんたは殴っても死なない。あたしは、そう推測した」

「いい洞察力だね。正解だよ。でも、だからといってショーコ君が戦意喪失しているようには見えないなぁ。別のアプローチを考えている訳かい?」

 

死なない敵と戦うには、どうすれば良いのだろう。

封印するとか、宇宙に放り出すとか、太陽に突っ込ませるとか?

そんな便利な機能は『黄昏の園』産のプリキュアには備わっていない。

無謀を承知で死ぬまで殺し続けるか、説得してみる??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「考えているも何も、そもそもあたしたちは知ってるじゃん。『魂』にダメージを与える方法を、さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トノサ=マッスルと夜野シズエは、一拍置いてから気付いた。

筋肉ガエルの左手の肘あたりから、漆黒の植物が芽吹いていたのだ。

頭の中が驚愕で染まった。

 

 

「まさか!?」

 

とっさに左腕を引きちぎって放り捨てたマッスルの判断は、正しい。

迅速に本体から切り離せば、魂へのダメージは多少は軽減される。

しかし、元々本体から離れて活動出来るカナシミーナも居るぐらいで、物理的な距離が離れても宿主へのダメージはゼロには出来ない。

 

 

「カナシミーナァッ!」

 

案の定、マッスルが捨てた左腕から、漆黒の怪人が生まれていた。

マッスルの顔には、驚きと戸惑いが垣間見えた。

カナシミーナが育ち切れば、マッスルは魂にダメージを受けて廃人となってしまうのだから、当然である。

むしろ、カナシミーナが生まれても平然と立っていられるマッスルが強すぎる、とも言える。

 

 

「……ショーコ、いつの間に『悲しみの種』を手に入れたの?」

「ミミンガ捜索ツアーに行ったときに拾った」

 

……そういえば、巨大ヘビがカナシミーナを作ろうとしていた時に、サイレントは『悲しみの種』を両断したことがあったっけ。

両断ということは、二つに切り分けたということな訳で。

その時の片割れが福圓ミユキのカナシミーナを作り、もう片方がトノサ=マッスルの右手へと埋め込まれたということだろう。

キュアビクトリー・サイレントフォームで殴り合いをした時に、こっそり植え付けたに違いない。

 

 

なんとも抜け目がないことである。

呆れるべきか、はたまた感心すべきか。

 

 

「そういえば、マッスルは意外と怒らないね?」

 

超越者なら、こういう時は激昂しそうなものなのに。

それこそ『この下等種族どもが、よくもこの俺様をーッ!』みたいな具合にである。

ところがマッスルは、意外にも穏やかな笑顔を崩さないままだった。

 

 

「まぁ、散々人間の命を使うゲームをやってきたからね。さすがに自分だけは絶対に死なないなんて虫のいいことは考えていないさ」

 

それはそれとして、ただで殺されてくれる気は無いようだが。

と、ここでマッスルは何かを閃いたらしかった。

吸盤の付いた人差し指を垂直に立てながら、ショーコへと1つの質問を投げかけていた。

 

 

「じゃあ、ここまで人間離れした洞察力を見せてきたショーコ君に、最後に一つだけ聞いてみよう。私が今までこんなゲームをしてきた動機って、なんだと思う?」

 

朗らかな笑顔を絶やさずに。

トノサ=マッスルは問いかけた。

端から聞いている夜野シズエは、ここで手持ちの情報を整理してみた。

 

マッスルは、地球で『不幸の果実』を育てるゲームをしてきた。

巨大ナメクジと巨大ヘビをプレイヤーとして、人間の命を犠牲にしたゲームの主催者となっていたのだ。

だが……そういえば、『不幸の果実』を使って何かをしようという様子は無かった。

それどころか、サイレントが『不幸の果実』を奪っても、マッスルは何も言ってこなかった。

 

その前には『黄昏の園』を滅ぼし、さらには古代のプリキュアとも戦ったそうだが、特にマッスルの目的らしいものは見えてこない。

世界を滅亡させるだけなら、ゲームなんて言わずに手段を選ばず何でも出来るはずだ。

そもそも、世界征服や滅亡といった、いわゆる悪の組織が目指すようなゴールを、本当にマッスルは持っているのか?

夜野シズエは、頭がこんがらがってきた。

 

……が、朝加ショーコは何かを閃いたらしかった。

 

 

「自分でも何だかなぁ、って感じの説を一つ思いついたけど……」

「聞こうじゃないか」

 

マジなの?

いくらショーコでも、ここまでの情報だけで推理できるものなのか??

一応傍らのミケマタへと目を落としてみたが、やはりミケマタも皆目見当がついていない様子だ。

 

 

 

「あんたもヒーローが好きだから、とか?」

「……どういうこと?」

「もう吾輩は、話に付いていけないのである……」

 

シズエも、訳が分からなかった。

ヒーローが好きなら、ショーコみたいに自分がヒーローになりたいと思うものでは無いの?

人の命を使ったゲームをして、ヒーローと戦うのは、むしろヒーロー好きとは真逆の発想に思えるが……?

シズエとしては、何故その回答に至ったのか、本気で理解不能である。

 

だが、そんなショーコの答えを聞いて、マッスルがニヤリと笑ったような気がした。

今までの朗らかな笑顔は社交辞令だったのかな、なんて思わせるような、何らかの感情がマッスルの内面から溢れたように見えた。

笑顔なんだから喜びなのか、はたまた別の感情の表出なのか?

 

 

「答えは、秘密ということにしておこう」

「あれ? 自分からクイズを出しておいて、答えは教えてくれないんだ?」

 

カエル顔を愉快そうに歪めながら、どこかマッスルは満たされた様子だった。

カナシミーナが育って、魂へのダメージが少しずつ進行しているはずなのに。

そのダメージを負ってでも、今の会話をして良かった、という満足感があるのだろうか。

 

 

「秘密は抱え落ちしておくと、二期で私が復活できる可能性が高まるからね!」

「このまま黙ってやられる気なんて無いくせに、何言ってんだあんた」

 

相変わらずどこまで本気か悟らせない調子で、マッスルは戯言を口にしていて。

二人の会話を聞いていたシズエも、そろそろ会話フェイズは終わりだと感じ取っていた。

悪のラスボスとして、マッスルはこのまま黙って倒される気はないようだ。

ショーコとマッスルの、最後の戦いが始まるのだろう。

 

 

……そう、シズエは思っていたのだが。

いつのまにかシズエの元まで戻ってきたショーコが、『静寂の輝石』をシズエへと返却してくれた。

 

 

「カナシミーナを守るの、得意でしょ? 『キュアサイレント』が必要なんだ」

「……まかせて」

 

ショーコが輝石を手渡してくれた瞬間、胸が高鳴った気がした。

今まで散々傷つけあってきたけれど。

この瞬間に、ショーコがシズエを必要としてくれていることが、ただ嬉しく思えた。

 

二人で並び立って。

心を一つにして敵と相対することになるなんて、夢にも思わなかった。

 

 

 

「プリキュア・ビクトリー・チェンジ!!」

「……プリキュア・サイレント・チェンジ!」

 

桜色のプリキュアと、紫色のプリキュアが完成していく。

きっと、二重変身の方が単純な出力は上のはずなのに。

不思議と、あの時以上の満ち足りた感覚が湧き上がっていた。

 

 

「勝利の光! キュアビクトリー!」

「……静寂の光 キュアサイレント」

 

「「ふたりはプリキュア!!」

 

手の甲を相手に向けた独特のVサインを作ってポーズを決めているビクトリーを横目に見て。

私も何かポーズを作った方が良かったかしら、なんて思ったサイレントであった。

 

 

二人は、最後の敵へ向かって駆けた。

全高2メートルに及ぶカエル頭のマッチョへと、2対の拳が殺到した。

 

「あだだだだっ!!」

 

右手に二つの金環を装備して、ひたすら殴り続けるビクトリー。

指先に影の爪を生成して、小回りの利く斬撃を繰るサイレント。

そんな二人の猛攻を前に、マッスルは捌くだけで一杯一杯のようだった。

先程左腕を失ったのに加えて、カナシミーナが育っているせいでマッスルの身体能力に悪影響が出ているのだろう。

 

 

「ほっ!」

 

マッスルが、大口を開いて水流弾を吐き出した。

至近距離からの大技を、ビクトリーとサイレントは難なく回避した。

 

だが、水流弾の標的はプリキュアではない。

プリキュアの後方にいたカナシミーナへと、水流弾は吸い込まれるように……、

 

 

「……プリキュア・サイレント・リッパー」

 

……水流弾は、カナシミーナへは命中しなかった。

サイレントが振り向きざまに流れるような動きで影の三日月刃を投擲し、水流弾を引き裂いたのだ。

一瞬マッスルへと背中を見せてしまったサイレントへと、マッスルが容赦なく回し蹴りを叩きこもうとするが、

 

 

「プリキュア・ビクトリー・ウォール!」

 

いつの間にか左手側に金環を嵌めなおしていたビクトリーが、障壁によってサイレントの隙をカバーした。

二人で協力して戦った機会こそ少ないが、それでも二人は互いの動きを理解しあっていた。

 

魂への継続ダメージによってマッスルの身体能力が落ちているのも大きいが、それ以上に二人のプリキュアは普段以上のパフォーマンスを叩きだしていた。

特に、体力はとっくに限界を迎えているはずのサイレントだが……不思議な高揚感が疲労を凌駕していた。

 

バック宙で距離を少しだけプリキュア達との距離をとったマッスルは、両脚に力を漲らせて再跳躍した。

同じフォームからの跳び蹴りは……かつて、ビクトリー・ウォールを粉砕した技であった。

 

 

「「プリキュア・デュアル・ウォールっ!!」」

 

薄紅と黒の絡み合った螺旋状の障壁が、二人のプリキュアの繋いだ手の先から生み出された。

一瞬、世界から音が消えた。

次の瞬間には、凄まじい負荷が障壁へと圧しかかった。

マッスルの渾身の跳び蹴りが、マーブル模様の障壁によって受け止められていた。

 

 

マッスルがプリキュアへ殴りかかると見せかけてカナシミーナを狙えば、影の紐がマッスルの脚を引っ張って、金環を纏った拳が殴り倒した。

ビクトリーがマッスルへの殴打を防がれても、その隙を突いてサイレントが斬りかかった。

そんな小競り合いを繰り返して、どれぐらい経っただろうか。

 

 

「「プリキュア・デュアル・マグナム!!」」

 

二人のプリキュアの、金環と影の輪を纏った拳を受けて。

マッスルは……ついに、膝を折った。

警戒心を緩めない二人分の視線を受けつつ、マッスルはそのまま地に倒れ伏したのであった。

 

 

 

「ああ、負けた。負けたよ。でも最後にイイモノを見せてもらった。年甲斐もなく、うるっと来たよ」

 

カエル顔は相変わらず朗らかな笑顔を保っていた。

自身を斃した相手に対する恨み怒りといった感情は、全く無い様子であった。

夜野シズエには、理解できない感覚だった。

黄昏の園を滅ぼされた時の怒りや悲しみは、一生忘れることは無いだろう。

 

 

 

「ビクトリー君。君は、私のようになってくれるなよ?」

「当たり前だよ。あたしにはシズちゃんが居るからね」

 

 

そうかい、要らない世話だったようだね。

そんな言葉を呟いたきり、マッスルは目を閉じて動かなくなってしまった。

湿気を帯びて緑色に光っていた皮膚が、乾いて灰色へと固まっていく。

マッスルは一回り小さなミイラとなって、活動を完全に停止してしまった。

 

 

 

 

 

 

「おっ、と? あらら……」

「……ショーコ?」

 

傍らで立っていたビクトリーが、ふらついたかと思いきや、糸が切れた人形のようにブッ倒れてしまった。

そんなビクトリーを支えようとしたサイレントも、脚がもつれて倒れてしまった。

糸が切れたのはサイレントも一緒だったらしい。

二人は、仲良く仰向けに倒れてしまっていた。

 

 

「そうだ、猫のチョコレート。また作って、今度こそシズちゃんにプレゼントするよ」

「……猫のチョコレート? 『また』って?」

 

すこしだけ落ち着いたころに、ショーコが聞きなれない話題を振ってきた。

猫のチョコレートなんて貰った覚えが無いけれど、『また』ってどういうこと?

 

 

「先週一回作ったんだけど、料理部の冷蔵庫に入れといたら、ヒビキちゃんに食われちゃってさ……」

「……絶対に許さない」

 

小清水ヒビキといえば、さっきカナシミーナにされそうになっていた、盗み食い系女子の名だ。

たぶん既に遠くへ避難しているだろうが……夜野シズエとしては呪怨を吐かずには、いられなかった。

どうも、折笠カナデが無類の猫好きであることから察して、猫チョコレートはカナデ作だと勘違いした模様である。

 

 

 

「……ショーコに、たくさん酷いことをしてしまったわ。ごめんなさい」

「まぁ、『黄昏の園』が滅びた原因の一端があたしなのは本当だし、それは言いっこ無しでしょ」

 

いつもなら、手をひらひらと降るジェスチャーを見せるところなのだろうが。

ショーコもショーコで消耗が激しいらしく、軽い口調だけで返してくれた。

 

 

「それにね。あたしは、サイレントの正体がシズちゃんで良かったと思ってる。あたしが背中を預けられる、世界で一番の大切な人だから」

「……それも、仮面ライダーの名台詞?」

 

ショーコのそれっぽい台詞は、大体仮面ライダーの迷台詞だ。

主に天の道を往く男の言葉が多いが、割と満遍なく使っているらしい。

だから、今回のそれっぽい台詞も、そうだろうとシズエは思ったのだが。

 

 

「あたしの言葉だ」

「……そう。私も、ビクトリーがショーコで良かったわ」

 

このやり取りそのものがカブトっぽいな、なんてボヤいているショーコをよそに。

夜風で若干涼しくなってきた校庭で、夜野シズエはそっと目を閉じた。

まだ疲労とダメージは抜けきらない。

 

それでも、夜の静寂が心地よく感じられ……

 

 

 

「カナシミーナァ!」

 

 

 

夜の静寂が……

 

 

 

「カナシミーナァ!!」

 

 

 

静寂が……?

 

 

 

「カナシミーナァ!」

「カナシミーナァ!」

「カナシミーナァ!」

「カナシミーナァ!」

 

 

 

 

 

……ちょっと。

遠くから聞こえちゃいけない声が一杯聞こえてきてるんですが、それは……?

 

 

 

「そういえば、シズちゃん。カナシミーナって育ち切ると、どうなるんだっけ?」

 

 

――このカナシミーナ達の頭に付いた双葉が成長して最後に種子を撒き散らす時、人間の魂にかかる負荷が限界に達し、お前たちは廃人になるナメェ!!

 

そういえば。

カナシミーナが育ち切ったから、マッスルは廃人化したわけで。

つまり、マッスルが廃人化する直前に、完成した『悲しみの種』が撒き散らされていた……!?

まぁ、人間離れした耐久力を持つマッスルが本当に廃人化するかどうか分からなかったので、マッスルの方の様子に注意していたのは間違いではなかっただろうが。

 

 

アカン(察し)。

 

夜野シズエは、頭の中が真っ白になった。

今から町中のカナシミーナを倒して回るの?

 

 

「大丈夫だよ。だって、あたしたち……」

 

 

そんなシズエの手を、そっと握ってくれる手があった。

ショーコの手だ。

幾度となく傷つけあってきたけれど、シズエの一番大切な人の、温かい手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ふたりはプリキュアなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






・今回のNG大賞

マッスル「それで、二期はあるのかい?」
シズエ「……あと、プリキュアの定番ネタで消化していないのは……子育てかしら?」
ショーコ「子育てといえば、アマゾンズのSeason2だよね」
ミケマタ「それだけはいけないであるぞ……」

ご愛読ありがとうございました!(完結)





・次回予告(大嘘)

悲しみの種の力を浴び過ぎた朝加ショーコ(14)は、不幸の力を宿した子供を身籠ってしまった!
子供がこのまま育てば、世界中に悲しみの種が撒き散らされてしまう!?

「……ショーコが、お腹を痛めて生んだ子供でしょう! 殺すなんて間違っているわ!」
「あたしの子供だから、あたしが殺すんだよ」

「……プリキュア・サイレント・チェンジ!」
「プリキュア・ビクトリー・チェンジ!!」

ふたりはVSプリキュア! シーズン2、乞う御期待!
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