むしろこのSSを読んでから映画を観に行った方が内容を理解できる説まであるラビ!
あと花寺のどか役の悠木碧さんはキュアショコラガチ勢ラビ!
「イチカちゃんも目が覚めたし、これで一安心だね」
「……本当に良かったわ」
雨の軍勢を壊滅させて、2週間後の休日に。
夜野シズエは、朝加ショーコとともに市内の病院を訪れていた。
2人の目的の人物は美山イチカだった。
巨大ナメクジによって悲しみの種を植え付けられた美山イチカは、昏睡状態で入院していたのだが、先日意識が戻ったそうなのだ。
これで、悲しみの種によって昏睡状態に陥っていた人間は全員復調したということになる。
地球人たちを危険にさらして『不幸の果実』の回収を試みていた夜野シズエとしては、少しだけ肩の荷が下りた思いだった。
自身の故郷である『黄昏の園』の復活のために必要だったとはいえ、やはり罪悪感は重かったのだ。
今まで負ってきた咎が消える訳ではないと思いつつ、やはり安堵が心に沸いたのは仕方のないことだろう。
「ってか、入退院のドサクサでアキラ先生に告ってOK貰うとか、イチカちゃん図太すぎっしょ……」
そう。そうなのである。
あの美山イチカが、なんと学校医の森アキラ先生に愛の告白をしたらしいのだ。
一体どんな過程があったというのだろう。
気になる反面、それを聞き出しに行ったら延々と惚気話を聞かされそうなのが考え物である。
まぁ、それぐらい図太く生きてくれた方が、わざとカナシミーナを見逃した夜野シズエとしても気が楽なのだが。
……と、そんな取りとめのない会話をしていた時だった。
ふと朝加ショーコが足をとめた。
もうすぐ病院の敷地を抜けるという所で、ショーコは病棟と塀の間の何もない広場へと視線を向けて、立ち止まってしまっていたのだ。
シズエも釣られて同じ方向を見たが、ぶっちゃけて言うと注視すべきものが無いスペースである。
休憩用のベンチがある訳でも無く、何かの記念碑がある訳でもなく、本当に「病棟と塀の間の少し開けた空間」としか呼べないスペースへと、ショーコの視線が向いていたのだ。
病院だけに、まさか幽霊でも居るというのだろうか……?
「……何か、あるの?」
「ちょっとした思い出が、ね。小学生のころ、そこの広場で友達と一緒に集まってストライクウィザードの特訓をしてたことがあったんだ」
すとらいくうぃざーど……?
ショーコがこういう聞きなれない横文字を出す時は、大体仮面ライダーの必殺技だ、とシズエは察した。
一応ショーコに聞いてみたところ、その認識であっているらしい。
側転からバック宙へ繋いで、そのまま飛び蹴りをかます技なんだとか。*1
病院の近くなら怪我しても平気だよね、とかいう小学生特有のガバ理論によって、病院の敷地内の妙に開いたスペースで子供たちが集まって特訓していたそうだ。
「ふと思ったけどさ……。シズちゃんの身体能力なら、イケたりしない?」
ショーコが、期待の眼差しを向けてきている!
確かにシズエは同年代の地球人に比べれば身体能力は高いので、可能かもしれない。
プリキュアに変身すればショーコだって出来るでしょう、なんてツッコミが喉まで出てきたシズエであったが……。
「…………仕方ないわね」
幸い、本日の夜野シズエさんはパンツルックである。
少しばかり渋りながらも、シズエはリクエストに応えることにしたのだった。
長髪にゴムをかけて背中側でまとめつつ、とりあえず広場を見渡して技の最終的な命中位置を見定めた。
すると、1本の樹の地上1メートルぐらいの高さに、幹がボロボロになっている個所を発見した。
おそらく……昔のショーコのような子供たちによってライダーキックを頻繁に受けているのだろう。
数秒の間、瞑目してイメージを固めたシズエは、助走をつけて踏み切った。*2
側転は、特に問題なかった。
そのまま勢いを殺さないように、身体の向きを90度ズラして。
バック宙の動きに切り替えつつ、最後にタイミングを見計らって右足を伸ばし、目標の樹の幹へと右足キックをお見舞いすることに成功した。
鈍い音が響いて、樹が大きく揺れた。
危なげなく着地したシズエの頭上から、少量ながら落ち葉が降り注いだ。
クール系美少女ロールをきめながら、シズエはショーコの反応を窺った。
ショーコは……大興奮の御様子だった。
「「すごーいっ!!」」
しかし、一つシズエの期待と違ったのは……歓喜の声が二人分聞こえたということだった。
シズエとショーコは、思わず顔を見合わせた。
そして周囲を見回すと、病室の窓から外へ視線を寄越している女の子と目が合った。
ショートボブの10歳ぐらいの女子で、入院着を着てベッドの中から上半身だけを起こしている様子だ。
「ふわぁー! お姉ちゃん、すっごく、生きてるって感じ!!」
『ふたりはVSプリキュア!』
番外編:Touch! 手と手で分け合う祝福!
病棟の窓から顔を出していた10歳ぐらいの女子は、花寺のどかというらしい。
なんでも、小学校に入る前から原因不明の病に侵されて入退院を繰り返しているのだとか。
幸薄そうな顔をしている子だ、と内心で思っていたシズエとしては、納得の説明である。
なのだが……。
「実は2週間ぐらい前にすごく調子が悪くなった時があって、何日か意識が戻らなかったみたいだけど……今は、調子も落ち着いてるんだ」
この発言を聞いて、シズエは気持ちが重くなった。
2週間前というのは、トノサ=マッスルを倒して、悲しみの種子を町中にバラまいてしまった日なのだ。
そんなタイミングで容体が急変したと言われたら、大体の事情は察せる。
結局ビクトリーとサイレントが二人がかりで町中のカナシミーナを倒して回ったものの、病弱な花寺のどかは一歩間違えば命を落としていたかもしれない。
「大変だったみたいだね。ここで会ったのも何かの縁だし、手を貸せることがあったら手伝うよ?」
マッスルを倒すためとはいえ、命を危険にさらしてしまったのは申し訳ない。
どうやらショーコもそう思ったらしく、軽々しい笑顔で花寺のどかへと申し出を口にしていた。
のどかは、ショーコの発言が想定外だったようで、少しだけ考え込んでしまった。
「ええっと……その……。最近、病院の中で赤毛の凄く格好良いお医者さんが居るよね。その人のことって、何か分からないかなぁ……?」
考え込んでいた花寺のどかが、両手の指先を合わせながら、恥ずかしそうに紡ぎ出した言葉だった。
ショーコとシズエは、どちらからともなくアイコンタクトを交わしてしまっていた。
赤毛で凄く格好良いお医者さん、と言われたら……まず連想するのは、森アキラ先生だ。
普段は学校医として働いているアキラ先生だが、2週間前のカナシミーナ大量発生の後は、怪我人が多数運び込まれた近隣の病院の手伝いをしているんだとか。
つまり、花寺のどかが仄かな恋心を抱いている対象は、ほぼ森アキラ先生だと考えていいだろう。
非現実的なまでのイケメンだし、アキラ先生に恋する乙女なんてダース単位ではきかないほど居るに違いない。
……まぁ、美山イチカがアタックして射止めた訳だが。
「……森先生なら、先日彼女が出来たそうよ」
「ちょぉっ!!? シズちゃああん!!? 患者に対する告知は、細心の注意を払うんだよぉっ!?」
「ゲフッ」
のどかちゃんは、絵に描いたように血を吐いている!!
泣きながらゲホゲホいっている花寺のどかは、見るからに死にそうである。
まぁ、バケツを用意しているところを見ると、血を吐くのも慣れているのかもしれないが。
「こんなのって無いよ……。あんまりだよ……」
さよなら私の初恋、なんて呟きながら花寺のどかは口まわりの血をぬぐった。
かなり顔色が悪くみえるものの、ナースコールをする気配はない。
このぐらいの症状は日常茶飯事なのだろう……。
それに慣れてしまっているというのも、色々な意味でマズいように思えるのだが。
「……ごめんなさい。早めに真実を伝えた方が傷は浅くて済むと思ったのだけれど」
「私、生ける屍って感じぃ……」
辛うじて小康状態と呼べる状態なのだろうが、心へのダメージが重い様子だ。
きっと入院が長引いて心が弱っている時にイケメンのアキラ先生に優しくされてコロっと落ちてしまったんだろうな、なんてシズエは失礼なことを思った。
そして目の前にぶら下げられた希望を取り上げられて、さらに泥沼にはまっていると見える。
「のどかちゃん! もっと、何か明るい話をしよう!!」
ここで、ショーコが話題転換に出た。
のどかとシズエに会話の主導権を任せると、相乗的に暗くなると察したのだろう。
もっとも、ショーコ自身も突発的に言いだしたことなので、特にその先は考えていない模様。
少し考え込んだ花寺のどかは、ベッドの枕の下から、大切そうに何かを取り出した。
シズエとショーコは、その物体に見覚えがあった。
その黒い種子は、どう見ても悲しみの種だ。
思いがけない宝物に、二人はドキリとしてしまっていた。
「多分、この間の怪物騒ぎの原因だと思うんだけど……何かの役に立つかも、って思って持ってたんだ」
この黒い種と同じもののせいで死にかけた過去があるにしては、のどかちゃん神経太過ぎない……?
もちろん、悲しみの種のせいでカナシミーナが生まれると理解しているらしい。
そんな危険物を枕の下に置いておきながら、よく眠れるものである……。
「……悲しみの種は、非常に危険よ。私が責任をもって処分するわ」
なので、シズエは処分を申し出た。
焚火に放り込んで焼却処分してしまうのが確実である。
下手に切り刻んでも、破片から悲劇が生まれたりするので……。
「え……。でも色々凄いモノみたいだし、何かの薬の材料になったりしないかなぁ……?」
無数のカナシミーナによって故郷を滅ぼされた夜野シズエにとっては、花寺のどかの発言は暢気すぎると言わざるを得ない。
せっかく雨の軍勢を壊滅させたのに、地球が滅んだら無駄骨にも程がある。
シズエは、睨みを効かせた。
ベッドに座っている花寺のどかが、少しばかり気圧された様子だった。
「まぁまぁ、確かに未知の物質ではある訳だし、本職の科学者に研究してもらうっていうのは悪くない選択肢だと思うよ?」
「……悲しみの種の危険性は、ショーコも身をもって知っているでしょう?」
シズエとしては、ショーコの発言に危機感を募らせていたりして。
不幸の果実が揃ったあの日に、悲しみの種のせいでどれだけ大変だったか忘れたわけではあるまいに。
ここで処分以外の選択肢が出てくるのが、シズエは納得いかなかった。
少しだけ、シズエは心がささくれ出っているのを感じた。
病弱少女の持つ悲しみの種を力ずくで奪うか破壊するのも仕方ないかな、なんて思い始めていた。
そっと、懐の静寂の輝石へと手を伸ばした。
花寺のどかは、何となく不穏な雰囲気を察しているらしく、ショーコとシズエの方を交互に見てオロオロしている様子だ。
「シズちゃん。プリキュアだって、人間を犠牲にしてしまったら怪物と同じだ、って前に話したことがあったよね」
――他人の命を犠牲にしたら……もう、戻れなくなる。プリキュアだって、一線を越えてしまったら怪物の仲間入りだよ。
忘れもしない、決着の日のことだ。
シズエは、当時のことをありありと思い出すことができた。
しかし、何故その話を今になって持ち出してきたのだろうか。
「怪物の力だって、一緒だよ。怪物の力を使うならワルモノになる……なんて道理はないよ。結局、使い方次第なんだ」
確かに、そう言われるとシズエとしても思うところはあった。
ショーコが自らを犠牲にして不幸の果実を作った件については納得していない部分もあるが、それで救われた人間が居るのも事実なわけで。
ある意味、不幸の果実の正しい使い方というヤツを実践してみせた朝加ショーコが言うのだから、相当の説得力があるように思われた。
「……でも、そういうのは研究されているうちに暴走したり新種が生まれたりするものでしょう? ショーコがたまに言っている『フラグ』って、多分そういうものよね」
「大丈夫、大丈夫! なんていったって、あたしとシズちゃんが居るんだから!」
なんというか、いつものようにショーコは何も気負っていないかのように笑った。
シズエの不安を和らげてくれる温かさが、確かに伝わってきていて。
いつのまにか、シズエは静寂の輝石へ指先をかけるのを、やめてしまっていた。
ほっ、と息を吐く音がシズエの耳に届いた。
一触即発という程でも無かったが、若干空気が張り詰めたのを、のどかは過敏に感じ取っていたのかもしれない。
「それにさ。たぶん、愛しの森アキラ先生と話す口実として取っておいた物なんでしょ? 取り上げたら気の毒じゃん?」
「ありがとう、お姉ちゃんたち……。でも、できれば死ぬ前に、もう少し希望が持てる恋をしたかったよ……」
え、そうだったの?(困惑)
そこまで察することが出来ていなかったシズエは、少しばかり動揺した。
というか、その初恋は先程シズエが粉砕したばかりなんですが、それは……。
絶妙に気まずい。
シズエは、思わず花寺のどかから目を逸らしてしまっていた。
「そうだ! 今度の正月に、のどかちゃんのためにシズちゃんが杵を振って餅をついてくれるから、一緒に食べよう!」
「ええと、杵? お餅? うん、ありがとう……?」
「……それでよければ」
シズエの感じている気まずさを察してか、ショーコがフォローを入れてきた。
初恋を粉砕してしまった代わりに、シズエがのどかへとサービスしてやれ、ということなのだろう。
確かに朝加家では正月には毎年餅つきをしているので、その餅を分けてやる分には問題は無い。
しかし、死ぬ前にもっとマシな恋がしたかったという話から、どうして餅つきの話に飛んだのだろうか?
そもそもショーコ達の習慣で、餅つきって何の意味があるんだっけ……?
花寺のどかも、イマイチよく分かっていないという顔をしている。
そんな夜野シズエと花寺のどかの様子を察してか、朝加ショーコは人差し指をピンと立てて補足してくれた。
「父さんが言ってた。正月につく餅は年齢を重ねることへの祝福の意味があるんだって。今まで死なずに生きられてよかった、次の一年も生きられると良いなぁ、って具合にね」
杵を振り回すみたいなジェスチャーを交えながら、ショーコは餅つきの意味を解説した。
昔は誕生日ではなく正月に年齢が増える数え方をしていたんだとか、その時に用意する餅をお年玉と呼んだらしいとか。
つまりショーコは、血を吐いている花寺のどかへと、願掛けも兼ねて餅つきの話題を振ったのだろう。
次に餅をつく時まで生きてみせろ、その時には次の一年分の祝福をくれてやるぞ、ということだ。
「そっか。そうやって、年をとるたびに祝福を重ねていくんだね。なんだか、『生きてく』って感じ」
いつか元気になれたら私も杵を振ってみたいな、なんて病弱少女はちょっとだけ笑ってくれた。
こんなふうに、か弱い命を少しでも笑顔にしてやれるショーコを凄い人だとシズエは思った。
そして来年の餅つきは気合をいれよう、と密かに決意したシズエさんなのであった……。
結局、正月を待たずに花寺のどかは転院してしまって。
約束は果たされずじまいとなる訳だが……縁があれば、また出会うこともあるだろう。
生きていれば、機会はいくらでもあるのだから。
「ふわぁ……」
14歳の花寺のどかは、電車の中で微睡みの中から現実へと戻ってきた。
仲間達と一緒に東京に旅行に来て、現地で友達になった子の誕生日会をやって、のどかは帰りの電車の中で眠ってしまっていたのだ。
エゴエゴという狐のような妖怪の暴走を止めたり、ゆめアールという不思議なシステムを使って遊んだり、色々ありすぎて体力が尽きていたのだろう。
それにしても、懐かしい夢をみたものである。
元気になったらやってみたかった事をまた一つ思い出せたのは、幸運だったと見るべきに違いない。
「そういえばさー? あの戦いの最後に、のどかっちが出したハンマーって何だったんだろ?」
「確かに、人を元気にするときにハンマーって、ちょっと不思議な感じよね」
「ゆめアールは使った人のイメージに左右されるはずですから、のどかがハンマーを想像したのでしょうか?」
底抜けに明るい声と、理知的な声が電車内に流れてきた。
最後の落ち着いた声による推測は、半分ぐらい正解と言っていい内容だった。
誕生日を迎えるカグヤちゃんへの祝福、という部分までは発想が及んでいない様子だが、流石にコレは予備知識がないと完答できない問題だろう。
そういえば餅をついてくれると言っていた二人は元気かなぁ、なんて思いながら。
花寺のどかは、少しばかり笑みを漏らした。
「みんな。アレはね……ハンマーっていうより、杵だよ」
・今回のNG大賞
ダルイゼン「俺の救済ルートは……?」
※ないです。
・次回予告!
ごく普通の人間である日高ローラは、自分は実は人魚だなんて言っちゃうタイプの中学2年生まっさかりだった!
ところが、それを本気で信じてしまう田舎者のマナツちゃんと出会ってから、日高ローラの中で何かが変わり始めた!
マナツへと真実を打ち明けられず、悩む日高ローラ。
最後の手として人助けメイツへと助けを求めるが……?
次回『Viva!Spark! 泡に消えた友情!』今日もみんなでトロピカろうっ!