昭和の罠とか毒キノコとか尺の無駄とかをネタにしていた時期のメタメタでユルい感じが無性に恋しくなることって、ありませんかね……?
とある休日の虹ヶ丘邸にて。
窓から差し込む朝日を尻目に、虹ヶ丘ましろは台所に立っていた。
焼けた小麦粉の香りも、ずいぶんと馴染み深くなったものだった。
鼻歌交じりに、オーブンから雲パンの群れを取り出して。
会心と思える焼き加減を確認して、少しだけ笑顔を零しながら。
ましろは、本日の来客たちの顔を頭の中に思い浮かべていた。
かつて虹ヶ丘邸に居候していたスカイランド人たちが、遊びに来る日なのだ。
スカイランドの王女にして、過酷な運命を背負って生まれた赤ん坊……プリンセス・エル。
プニバード族の少年であり、スカイランドの次期賢者と目される夕凪ツバサ。
そして……ましろのことを初めての友達と呼んでくれた、誰よりも格好良くて、でもちょっとだけ抜けたところがある、最高のヒーローガール。
ましろが朝早くから焼いている雲パンは、その友人らに振舞うための朝食の一品なのであった。
真っ白な雲パンの中に紛れた、少しだけ茶色の混じった一つのパンを虹ヶ丘ましろは手に取った。
その一つだけは普段とは違う試作品で、ピーナッツバターが入っているのだ。
これが美味しければ、雲パンのバリエーションに加える予定なのだが……はたして、お味の方は如何に?
『聞いてくれ、虹ヶ丘ましろ』
「ひゃわあああっ!!!??」
……なのだが、新作雲パンを試食しようとした虹ヶ丘ましろの目の前に、全高10センチ程度の立体映像が突如出現した!!
予想外すぎて喉の奥から変な声が出たうえに、新作雲パンを床に落としそうになってしまったが……ましろは何とか空中でキャッチに成功した!
そして、爆音を立てている心臓をなだめつつ、全高10センチほどの立体映像に再び目を落としてみた。
立体映像は年齢不詳の女性の形をしており、その顔には見覚えがあった。
「プリム……?」
かつて地球に飛来し、破壊の限りをつくした迷惑極まりない宇宙怪獣の名がシュプリームだ。
そんな迷惑な宇宙怪獣が、人間に化けた時の名前がプリムだった。
全高10センチほどの立体映像は、まさにプリムの姿をしている。
それが新作雲パンから垂直に生えているのは、意味不明としか言いようが無かった。
感情の乏しいプリムの雰囲気が、意味不明さを倍増させているのかもしれない。
『君たちに敗れたことで自分の強さを見詰め直すことにした僕は、あれ以来ずっと各地のプリキュアに戦いを挑み続けていた』
「迷惑行為の原因が私たちみたいな言い草!!?」
プリム、そんな迷惑宇宙人を絵に描いたみたいな辻斬り旅をしていたの??
ツッコミが山のように喉まで上がってきた虹ヶ丘ましろであったが、言ってもあまり意味は無いのかもしれない。
どうも、立体映像のプリムは録画されたものを再生しているだけのようで、会話が出来るようには作られていないように思われた。
『でも僕は、とあるプリキュアを前に行動不能になるまでダメージを負ってしまった。
負けた訳じゃない。少し油断しただけだ。動けないけれど、負けた訳じゃない』
「負けた人の言葉だよね、それ……」
ましろは戦慄した。
かつてキュアプリズムを含む一団でシュプリームと戦ったときは、80人近いプリキュアとミラクルライトの力を集結してようやく勝利したはずなのに。
そんなシュプリームを単騎で撃破できるプリキュアって何者なんだよ、というハナシなのだ。
間違っても関わり合いになりたくない。
ましろは痛切にそう思った。
もちろんフラグである。
『戦いが終わったあと、身元引受先を聞かれたんだ。けど、僕には家が無いから答えようが無かった。
仕方なく、代わりに「ひろがるスカイプリキュア」のアジトを教えておいたよ』
「待って!? まるで私達がプリムをけしかけたみたいな話になってない!??」
神速のフラグ回収である。
最強のプリキュアと名高いキュアシュプリームの面目躍如といったところだろう。
だが、ましろとしては堪ったものではない。
間違っても関わり合いたくない危険人物に、虹ヶ丘邸の住所を知られてしまったのだから。
ブワッ、なんて音とともに背中から汗が噴き出した気がした。
雲パンから生えている立体映像は、そんな虹ヶ丘ましろの焦燥など知らぬといった様子だ。
全く表情を変えずに、プリムは淡々と言葉を継ぎ足した。
『君たちも、彼女の強さを体感してみることをオススメするよ。
すぐに君たちの元に辿り着くはずだ。勝利の名を冠したプリキュア……キュアビクトリーがね』
「その恐ろしく強いプリキュアが報復に来る……ってコト!!???」
とんでもなく迷惑千万なことを真顔で
シュプリームに喧嘩をふっかけられた強豪プリキュアが、その報復として虹ヶ丘邸にやってくるようにしか聞こえない。
ましろは恐怖に顔をひきつらせた。
この若い身空で、まだ死にたくはない。
『なおメッセージ終了とともに、この雲パンは自動で消滅する。……というのが、「様式美」らしい』
「勝手に人の雲パンから生えてきておいて、何言ってるの??? 作った私が食べられないの、おかしいよね???」
直後、ましろの視界は眩い光によって塞がれた。
雲パンが自爆したのだ。
虹ヶ丘邸を木っ端微塵に吹き飛ばしながら、立体映像のプリムは消滅していった……。*1
「はっ!!??」
……ましろは、虹ヶ丘邸の自室のベッドの上で飛び起きた。
清々しい朝日が窓から差し込んでいる。
ぐっしょりとパジャマを濡らした寝汗の気持ち悪さが、清々しい朝日のせいで逆に際立ってしまっていた。
虹ヶ丘ましろの14年の人生の中でも、ぶっちぎりで最悪の寝覚めだった。
「爆発オチと夢オチの掛け算なんて、いまどきギャグマンガでもやらないよ……」
さっさと身支度を済ませて、スカイランドからの客人たちに振舞うための雲パンを焼かなくちゃ……。
そんな最悪の寝覚めの記憶を頭の片隅に追いやりつつ……スカイランドからの来客3人を出迎えて。
元気いっぱいに笑う親友の顔を見たら、暗い気持ちなんて吹き飛んでしまっていた。
ヒーローガールの笑顔は、心の疲れによく効くビタミン剤なのだ。
あっという間に、いつもの賑やかな面々による食卓が出来上がった。
他愛もない話をして笑い合う団欒のひとときが、ましろは好きだった。
町内会のメンバーで温泉旅行に行ってしまった祖母も居れば尚良かったのだが、まぁそれはそれである。
ソラ・ハレワタールは青の護衛隊の一員として働きながら修行にも人助けにも精を出しているそうだ。
虹ヶ丘ましろは新作の絵本の制作が順調だと口にした。
夕凪ツバサは次期賢者として見分を広めるべく、スカイランド各地へと赴く生活をしている模様。
聖あげはは最強の保育士を目標としつつ専門学校生としての日々を過ごしている。
プリンセス・エルは……まだ2歳児なので、そこまで特徴的な生活をしている訳では無さそうである。
アンダーグ帝国との戦いも終わり、それぞれが自分自身の人生を歩み始めている。
それでも、時折こうして一同が虹ヶ丘邸に集まってくれる。
たったそれだけのことが、ましろは何よりも嬉しかった。
何でもない語らいの時間こそが、幸せなのだ。
\ピンポーン/
そんな平和な朝の時間に、虹ヶ丘邸の呼び鈴の音が響いた。
宅配便の業者が来るには大分早い時間帯である。
回覧板でも回ってきたのだろうか。
たまたま椅子から離れていた聖あげはが、来訪者の対応のために玄関へと赴いてくれた。
そして、玄関の外の来客と少しばかり言葉を交わした後に。
あげはは、一人の女子を連れてリビングへと戻ってきた。
初めて見る顔だ。
たぶんソラ達と同年代の中学生で、肩にかからない長さの茶髪からアホ毛を生やしている。
軽々しく笑っていて、でも底知れない何かを持っているような、不思議な女の子だった。
「はーい、みんな注目! この子もプリキュアなんだって!」
「お食事中にお邪魔してゴメンね! 『ひろがるスカイプリキュア』の皆さんだよね?
あたし、プリムの紹介で来たんだ。名前は朝加ショーコ。またの名を……勝利の光、キュアビクトリー! よろしく!」
手の甲を見せる独特のVサインを作りながら、来客はニっと笑って見せた。
……今、プリムの紹介って言いました?
しかもキュアビクトリーって??
ましろは、その自己紹介を聞いて笑顔のまま凍りついた。
今朝の起床時と同じぐらいに、滝のような冷や汗が全身から噴き出した。
シュプリームより強いプリキュアが虹ヶ丘邸へと報復に来る、という夢のお告げが脳内に蘇ったのだ。
思い思いに朝加ショーコへと自己紹介をしている仲間達の声が、どこか遠く聞こえた。
その子は危険人物だよ、と叫ぶことすら出来なかった。
唐突なストレス過多に耐えきれず、ましろの脳は目の前の現実を拒否することで精神を守ろうとした。
「あはは~? そっかぁ、コレまた夢オチだ~?」
目を濁らせながら、ましろは空笑いを漏らした。
仲間達が、ギョッとしながら虹ヶ丘ましろへと視線を集めた。
そんな冷え冷えの空気に全く気付かないまま、ましろは本日2度目の夢オチ展開を思い描いた。
「プリム~? 出番だよプリム~? また爆発オチの時間だよ~?」*2
IQ一桁みたいな空笑いを浮かべながら雲パンへと話しかけ始めた虹ヶ丘ましろを前に、仲間達に緊張が走った。
そもそも一同は、ましろが見た夢の内容なんて知らないのだ。
ましろが唐突におかしくなったようにしか見えない。
こんな状況をノータイムで理解するなんて、スカイランドの賢者だろうと不可能なのである。
……ヨヨさんなら何とかなる可能性は否めないが、生憎ヨヨさんは留守中だ。
「ええっと? あたしまだ『ひろプリ』のノリがよく分かってないんだけどさ。
コレは右斜め45度からのチョップとかで治す感じなの? あたし、やろうか?」
「ダメですよ!? そんな昭和のテレビの迷信みたいなこと、ましろさんにしないでください!?」
困惑しているのは初対面の朝加ショーコも一緒のようだが、ソラのナイスセーブによって惨劇は回避された。
たぶん、錯乱した虹ヶ丘ましろをチョップで治すのはギャグでもアウトである。
錯乱しているのがソラだったら、チョップで治しても許されたかもしれないが……。
なお、「雪空のともだち」的に考えると、精神操作された仲間は殴り合いでは元に戻らない。
現実は非情である。
プリキュア20周年を迎えた今になって思い返してみても、恐ろしい時代だったと言えるだろう。
「ソラさん、昭和のテレビが叩くと直るのは迷信じゃありませんよ。
回路の接触不良を衝撃で微調整することで、画面のブレを軽減できることがあるんです」
「ツバサ、すごい! かしこい!!」
さすがスカイランドの賢者。かしこい。
……いや、ホントに?
スカイランドの賢者が昭和のテレビの直し方に詳しいの、おかしい……おかしくない??
まぁ、スカイランドの王女殿下がそう言うのだから、そういうものなのだろうが……。
なお、あげはがプリティホリックの香水を嗅がせてみたところ、ましろはあっさりと正気を取り戻した模様。
スポンサー様の偉大さを思い知ったプリキュア一同なのであった……。
そんなこんなで、ショーコさんも交えての懇親会である。
偉大なるスポンサー商品の力で正気に戻った虹ヶ丘ましろは、来客との間で情報の確認を行ったのであった。
プリムの夢のお告げ通りに朝加ショーコは報復に来たのか、と尋ねてみたのだが。
ひらひらと手をふって、ましろの疑念を否定するショーコ。
どうやら報復に来た訳でも無いし、単騎でシュプリームと戦った訳でも無いとのこと。
その言葉を聞いて、ようやく安堵の息を吐くことが出来た虹ヶ丘ましろなのであった……。
「特に番外映画みたいなトラブルを持ってきた訳じゃないから、安心してくれて良いよ。
あたしが遊びに来たのは『ひろプリ』の人達がなんか面白そうだったからってだけなんだ。だから、聞かせてよ。あんた達の物語ってヤツをさ」
早くも「ひろプリ」のノリに順応し始めて、メタなことを言い始めたショーコさん。
というか、ショーコ的にはシュプリームとの死闘を終わらせてきた後なので、既に番外映画のエピローグ部分のような気分なのだろう。
そんなショーコの要望に応えて、ましろ達は語り始めた。
アンダーグ帝国とスカイランドの300年にわたる確執と和平の物語を。
スカイランド王女のエルちゃんが、1歳の誕生日に誘拐されて。
誘拐犯からエル王女を奪還したのが、当時13歳のソラ・ハレワタールだった。
エル王女を奪還したもののスカイランドへと帰還する術もなく地球へ取り残されたソラを、虹ヶ丘ましろ達が支えて。
初めての友達が出来て自分自身の感情に戸惑うソラへと、ましろが自らの想いをぶつける場面もあり。
空を飛ぶことを夢見るプニバード族の少年や、未来の最強の保育士も加わり、エル王女もプリキュアへと変身するようになって。
5人で最後の決戦に挑んだプリキュアらは、無事に女帝カイゼリンを救うに至ったのだった。
「おおー! 良い物語だった! 感動したよヒーローガール! ブラボー!」
ましろの製作した絵本を開きながらの語りを聞いて、朝加ショーコは満足そうだった。
皮肉とか愛想笑いとかではなく、本当に心から満足している者の感想に思われた。
拍手をしてくれるショーコを前に、あげはやツバサも嬉しそうだった。
「全体的な構造としてアンダーグ帝国の詳細情報を後回しにしたのは、あんまりヒーローものとしては馴染みのない構成だったかもだけど……結果論としては後回しで正解だったと思うよ」
「アンダーグ帝国の情報を早出しすると、何かマズいんでしょうか……?」
ショーコのコメントは、一本の絵本としてのストーリー構造へのものなのだろう。
一方、質問を返しながらソラは首を傾げてしまっている。
あげはやエルちゃんも、分かっていない様子だった。
考え込んでいるツバサは……ひょっとすると、頭の中に正解の候補を幾つか思い浮かべているのかもしれない。
ましろとしては、絵本の作者としてショーコのコメントの意味が分からないのが少し悔しいかも、なんて思いつつもショーコの解説を待った。
「ララたちの物語を聞いた時にも少しだけ思ったんだけどさ。
敵があんまりにも可哀そうだと、それと戦うヒーローが格好良く見えづらくなるっていう構造上の問題が出てくるんだよ」
ララ、というのはサマーン星人のララのことだろう。
ソラたちも過去に遭遇したことがある、「スタプリ」の一員だ。
そして、そう言われるとソラたちにも話が見えてきた。
悲劇に見舞われたカイゼリンの情報を早期に絵本読者に明かしてしまう場合、その悪事を一つずつ対処するキュアスカイたちが格好良く見えづらくなるのだ。
もちろん毎回の怪人から人々を守ることでヒーローとしての実績は積み重なるにしても、「可愛そうなカイゼリンを救えないヒーロー」という構図を長引かせることにもなってしまう。
それよりは、「今回の怪人を倒してハッピーエンド」という読後感を絵本読者に与える期間を長くする方が理にかなっているように思われた。
絵本作者としては、自身が意図しない部分を褒められたのは嬉しいような複雑なような、何とも言えない気持ちになった虹ヶ丘ましろなのであった……。
「みんな過去と現在未来がしっかり繋がってるし、良い出来だと思うよ」
ショーコの満足そうなコメントを聞いて、各々が嬉しそうにしている……と、ましろは思った。
絵本の出来を褒めるコメントだが、同時にソラたちへの賛辞でもあるのだから、やはり嬉しいに違いない。
ましろとしても、作者冥利に尽きるという心境だった。
……だが。
「ボクの物語って、本当に過去からしっかり繋がっていますか……?」
喜んでいるとは言いづらい顔をしているのは、夕凪ツバサだった。
ましろたちは、ツバサの言わんとする意味をそれぞれが考えてみた。
プニバード族は飛行できないという定説を覆して空を飛ぶのが、出会った頃のツバサの夢だった。
だが、いつの間にかツバサはその夢を口にすることは無くなった。
キュアウィングになった直後ぐらいまでは、空を飛ぶ練習をしていたハズなのだが……。
「繋がってるよ。だってさ、ぶっちゃけ夕凪君って、別に空を飛びたかった訳じゃないでしょ」
そして、何でもないことのようにショーコの繰り出した返答を聞いて、ましろはその意味を全く理解できなかった。
周りを見渡しても、ソラは当然理解できていないし、他の面々も予想外だという顔をしている。
だが、ましろは確かに感じた。
誰かが発している、「怒り」の感情を。
「うそつき! エルしってる、ツバサがんばってた! ショーコ、うそつき! きらい!!」
小さな目を三角にして、エル王女が怒りを露わにしていた。
ベビーチェアの手すりを叩いて、2歳児なりに怒りを表現しようとしている様子だ。
エルちゃん本人は大真面目なのだろうが、ちょっと微笑ましい姿に……何だか和やかな雰囲気になってしまった一同なのだった。
興奮しているエル王女を全員でなんとか宥めて。
苦笑いを漏らしながら、一同はショーコの言葉の意味を頭の中で噛み砕いて考えてみた。
虹ヶ丘邸で航空力学や各種科学技術の本を読んで知識を取り入れていた夕凪ツバサの姿は、誰の目にも印象深い。
空を飛ぶという夢を追いかけるツバサの情熱は、確かなものだったはずだ。
やはり、ショーコの言葉は腑に落ちない。
「今朝からの短い付き合いですが、ショーコさんが無暗に人の夢を否定するような人でないことは分かるつもりです。
だから、聞かせてください。先ほどの言葉の真意を」
そんな仲間達の中で一番に口を開いたのは……ソラ・ハレワタールだった。
真剣でまっすぐな目で、ショーコへと問いかけたのだ。
ひろプリチームの切り込み隊長として聞いたというよりは、単に思考に行き詰ったからなのだろうが。
ましろが聞いても良かったのだが、なんだかショーコの言葉の意味が分からないと口にするのが悔しいような気がして、出遅れてしまったのだ。
聖あげはも同様の気持ちなのかもしれない、なんて虹ヶ丘ましろは密かに思った。
「ヤーキターイの話の類題でしょ? 夕凪君は空が飛びたかったんじゃなくて、命懸けで自分を助けてくれた父親みたいな人になりたかったんだろうなぁ、ってあたしは思ったよ」
――ボク、気付いたんです。
――本当はただヤーキターイを食べたかったんじゃなくて、父さんや母さんと一緒に食べた、あの楽しい時間を過ごしたかったんだって。
だが、ショーコの推論を聞いて……ましろは何かが腹の底にストンと落ちたような気がした。
きっと夕凪ツバサ自身ですら気付いていなかった、夢の複層構造が築かれていたのだ。
夕凪ツバサの本当の原初体験は、父親への憧れで。
それが象徴として表出したものが「空を飛ぶ夢」だったという訳だ。
だから、キュアウィングとして覚醒してプリンセスを守れる人間になったことで夕凪ツバサは満たされてしまった。
その後も少しの期間だけ空を飛ぶ練習をしていたのは、ツバサ自身も満たされたという認識を持てずに居たからなのだろう。
言葉というのは、時に自分自身をも騙すのだ。
かなり極端な話をしてしまえば、キュアウィングが飛行できるというのも大して重要ではないのかもしれない。
もしキュアウィングに飛行能力が無かったとしても、敬愛するエル王女を守れる人間になれたという実態があれば夕凪ツバサは満たされた可能性が高い。
もちろん飛行能力が派手で戦闘に役立つというのも大切なことではあるが……別にそれは、夕凪ツバサという人物の根本ではないのだ。
ツバサは……どこか、憑き物が落ちたような顔をしている。
少なくとも、ましろの目からはそう見えた。
「ボクは……心のどこかで、後ろめたさを感じていたのかもしれません。自分の夢を裏切ってしまったんじゃないか、って。
でも、何だか心に整理がついた気がします。本当に……ありがとうございました」
「夢っていうのは呪いと同じなんだ、ってあたしが尊敬する大先生たちが言っててね。
でも、呪いを解く方法があるならそうした方が良い。それが、あたし自身の持論だ」
ショーコさんと話せて良かったです、なんてツバサは穏やかに笑ってみせた。
夢に呪われて生きていくのは辛いからね、などと軽い調子でショーコは手をひらひらと振りながら答えた。
朝加ショーコには物事の奥底にあるものを見抜く目のようなものがあるのかもしれない……と、虹ヶ丘ましろは密かに思った。
「えるぅ……」
エルちゃんは怒ってしまった手前、話が丸く収まって少しだけバツの悪そうな顔をしていたりするが。
……そんなエルちゃんの様子を目の当たりにして、ショーコは一瞬だけニヤリと笑った。
イタズラを思いついた悪ガキの笑顔である。
「ショ、ショーコさん?」
「えるっ!?」
ガシッ、なんて音が聞こえるかと思うような力加減で、ショーコはツバサを抱き寄せた!
困惑するツバサや仲間達をよそに、ショーコはその体勢をエルちゃんに見せつけて意地悪そうに笑った!
「エルちゃんも早く頼れるお姉さんにならないと、愛しの夕凪君が取られちゃうぞ~?」
「え゛っ、え゛う゛う゛う゛う゛う゛っ!!!」
プリンセス・エルは激怒した!!
御年2歳にして初めて体験する略奪愛の恐怖を前に、プリンセスは未だかつて無いほどの怒りを露わにした!!
これには仲間達も大慌てである。
このときソラましの脳裏には、鬼の形相で「カイザアアアアアアアアッ!!!」と叫ぶエルレインの姿が蘇ったのだという……。
あわやスカイミラージュを使おうとしたプリンセスを、ハグから脱出した夕凪ツバサを含めた面々で何とか宥めて。
あげはとツバサがエルちゃんを連れて散歩に行くことで、何とか場を収めた一同なのであった……。
虹ヶ丘邸に残されたソラとましろは、額の汗を拭って大きく息を吐いた……。
朝加ショーコは、面白がっている!!
「いやぁ、悪いね! エルちゃんが気まずそうにしてたから雰囲気を変えたくてさ!
寝取りもギャグなら許されるかと思ったんだけど、期待した以上にマジギレさせちゃった! メンゴ!」
「ギャグで地球とスカイランドの戦争を起こそうとするの、やめてよ!!?」
からからと軽い調子で笑うショーコに対して、グツグツと腹の底から怒りが煮え滾ってきた虹ヶ丘ましろなのであった……。
一度ソラちゃんを
そんな物騒な発想を、トゲトゲした心の底に何とか沈めて。
淹れ直したお茶を飲みながら、ようやく心を静めることが出来た。
「井上大先生の脚本だったら、痴情のもつれで『ビクトリーVSマジェスティ』の
「その大先生って、300年の眠りから覚めたアンダーグエナジーの化身か何かなんですか……??」
冷静になったところで……虹ヶ丘ましろは、朝加ショーコという人物について改めて頭の中で考えを巡らせた。
ソラと一緒にヒーロー談義を始めて、相も変わらず軽々しく笑っているショーコは……なんだか、気質としてはソラに近いように思われた。
青の護衛隊のシャララ隊長に憧れたソラと同様に、ショーコにも憧れたヒーローが居る。
そんな含みが聞こえた気がしたのだ。
あと、なんか犬っぽい。
桃太郎の劇をしたときに、満場一致でソラが犬役をやることになったのが虹ヶ丘ましろとしては印象深い。
そして、それに近い気配をショーコからも感じるのだ。
行動力があって、まっすぐで、光り輝く道標みたいな人に思えた。
物事の根本を見抜く力には底知れぬ恐ろしさを感じるものの、大まかな方向性としては近い気がしたのだ。
「なんか偶にさ、大先生の書く大味なライダーバトルが無性に恋しくなることがあるんだよね。その気持ち、分かんないかなぁ?」
「ヒーローは無暗に力を振りかざすものではないと思います!」
まぁショーコは、真面目なソラと違って悪ノリが過ぎるところもあるようだが。
ソラちゃんはそんな方向に成長しないでほしい、なんて虹ヶ丘ましろは痛切に思った……。
イヌ科な二人のヒーロー談義が、一段落した時分に。
ましろは、心の中で思っていた疑問を口に出していた。
「ねぇ、ショーコちゃん。さっきツバサ君に指摘したみたいな『心の根本』って、私にもある?」
ツバサの憑き物が落ちたような顔を頭の片隅に思い浮かべながら。
ましろは、ショーコへと尋ねた。
自分自身でも気付いていないような心の構造があるならば、ショーコに聞いておきたいと思ったのだ。
だが……ショーコは、少しだけ戸惑った様子だった。
何か、言いづらい理由があるのだろうか?
「一応言っとくけどさ。心の根本を指摘するのって必ずしも良い事ばっかりじゃないよ。むしろ、さっきの夕凪君みたいなのの方がレアケースなんだ」
「そうなんですか……?」
ソラはショーコの言葉の意味がピンとこない様子だった。
ましろも、正直に言ってあまり理解できていない。
そんな二人に対して、ショーコは「例えば」なんて言いながら説明を始めた。
「本人がここに居ないから言っちゃうけどさ。あげはさんの夢が『最強の保育士』なのって、何か引っかかる点があるって思わなかった?」
そうは言われても……?
ソラとましろは、揃って首を捻ってしまった。
ショーコの言わんとするところを理解するには、まだステップが足りないのかもしれない。
「ソラちゃんの夢が『ヒーロー』なのは、それが自分がなりたい姿とイコールだからだよね。絵本作家や賢者も一緒だ」
そこまでは、ましろ達もすぐに頷ける話だ。
ソラは気付いていない様子だが……ましろは少しだけ不穏を嗅ぎ取っていた。
あげはだけ、冠詞が付いているのだ。
「あげはちゃんにとって、なりたい理想像と『保育士』はイコールで繋がってないってコト……?」
これ見よがしに「最強の」という冠詞が付いてる。
以前、あげは先生とタケル君のお別れイベントの際に、夕凪ツバサが掘り下げようとした話だ。
あげはが幼い頃に虹ヶ丘ましろと別れた後で世話になった保育士に憧れを持ったというエピソードは、先程ショーコにも話したのだが。
考え直してみたら、そのエピソードだけだと「保育士」に憧れる理由としては十分だが、「最強の」と冠詞を付ける理由の説明としては若干怪しいのだ。
頭の中で「保育士」と「最強」がイコールで繋がっているなら、「最強の保育士」という言い回しを使うには至らないのでは……?
聖あげはは、聞かれたくないことを回避するためのデコイとしてそのエピソードを語ったというのか?
ましろは、何だか心の中に不穏なものを感じ始めていた。
「はぐらかした……っていうよりは、あげはさん自身も無意識なんじゃないかな。表層的には忘れてるのかも?
たぶん、尊敬できないような別の保育士の姿が頭の片隅に残ってるんだと思う。それと区別しての『最強』……だったりするのかもね?」
言葉には魂が宿る、なんて言葉もあるが。
言い草一つ、口癖一つに、その人の心根が垣間見えたりするのだ。
その手の掘り下げが出来るようになってくると、「キラやば」や「トロピカってる」には明るい幸福が見えるが、「生きてるって感じ」には闇が煮詰まっているみたいな見分けがつくようになるのである。
「ま、あげはさん本人に聞いても、表立って激怒したりとかは無いと思うけどね。でも内心は別だと思うよ。
さっきの夕凪君の夢の話で、エルちゃんが大声で怒ったから目立ってたけどさ。内心ホントは一番キレてたのって、あげはさんだった気がするんだよね」
あたしの勘に頼る部分が大きいけど、なんて補足しながら。
ショーコは、それなりに自身の勘に自信を持っているように思われた。
――ぶっちゃけ夕凪君って、別に空を飛びたかった訳じゃないでしょ。
ショーコの指摘通り、夕凪ツバサの夢を否定するようなことを言われたら聖あげはが怒るのも順当だと言える。
それでもすぐに声を荒らげなかったのは、あげはが理性で感情を制御したからだ。
初対面の朝加ショーコに対しての距離感を決めかねていたというのも、あるのかもしれない。
もしエルちゃんが騒いでいなかったら、多少強引にでも聖あげはが話題の転換を試みていたのだろうか。
「あげはさん、良い意味で大人だと思うよ」
実のところとして、聖あげはの怒りには虹ヶ丘ましろも感づいていた。*3
あげはとは、長い付き合いだからだ。
ソラやツバサは気付いていない様子だったが、あげはが怒っていたというのは間違いないと思った。
「不覚ながら、全然気づきませんでした……。隠している感情なんて、分かるものなんですか……?」
「表情が読みづらい子と長いこと相棒やってるからね。ずいぶん鍛えられた」
そこまで聞いて、ましろはショーコの言わんとするところを理解し始めていた。
今の話を聖あげは本人に振ったら、嫌なことを思い出させてしまうかもしれない。
だから朝加ショーコは聖あげはには今の話をしなかった。
そして、ましろの方にも伝えるべきかどうか迷っている話がある……ということだ。
ふと、ショーコと目が合った。
心根を見抜かれるのはストレスに成り得るぞ、と目が言っていた。
ましろは、怖いと思った。
自分でも認識していないような心の奥底を暴かれるのは、思った以上に恐ろしいことかもしれない。
「ホントに聞く? 必ずしも良い結果になるとは限らないよ?」
「それでも、聞いておきたいって思ったよ。きっとそれが、世界を広げるってことだと思うから」
ましろは、怖いと思いながらも選んだ。
目を逸らして生きる方が楽なことだって、世の中にはあるのかもしれない。
でもそれはきっと、狭い沼底で濁り続けていたダークヘッドと同じ生き方だ。
一歩を踏み出す勇気を、ましろはヒーローガールたちから貰ったのだ……と思った。
「でもちょっと怖いから、ソラちゃんからで良いかな?」
「ましろさん????」
ましろは、ソラの背中を押してショーコの前に差し出した!
突然の人柱宣言に、ソラは慌てふためいている!
文句を言いたそうな目を返してきたソラの気持ちも尤もだなんて思いつつ。
やっぱり、ましろだって怖いものは怖いのだ。
「ヒーローは頑張る人の背中を支えるって言ってたよね? ほーら、ヒーローの出番だよ!」
「むしろ私今、背中から押されて地獄に落とされてませんか??」
納得いかないという顔をしているソラを人身御供にして、ましろはショーコの様子を窺った。
ショーコは呆れ半分であったが、微笑ましいと顔が言っていた。
ソラは少しだけ冷や汗を流しつつ、ショーコの宣告を受ける覚悟を決めた様子だった。
お手柔らかにお願いします、なんて小声で申告してきているのは御愛嬌である。
「や、ソラちゃんは特に心の多層構造とか無いでしょ。シャララ隊長に助けられて憧れてから今に至るまで、分かりやすく一貫してると思うよ。
強いていうなら道中でメンタル弱めなのは気になったけど、アレは厳しい修行の割にヒーローとしての実績が無かったから自信が無かっただけだろうし?」
「ほっ……」
……幸いにして、ソラ・ハレワタールには心の闇なんて無かったようだが。
大きく息を吐いて安心しているソラの様子が、嬉しいようなそうでもないような……複雑な想いの虹ヶ丘ましろなのであった。
でも、そんなソラの姿に少しでも勇気を貰えた気がして。
ましろは、ショーコへと向き合った。
力強く頷いて、ましろはショーコへと言葉を促した。
「確証がある訳じゃないんだけどさ。ましろちゃんが『私なんか』って言っちゃう子に育った理由に関して。
もしかして、両親に会えないことが多かった時期の寂しさと苦しみを『私なんかのワガママで困らせちゃいけない』って自分に言い聞かせながら育ったから……だったりする?」
そんな訳ない、と否認が口を突いて出そうになった。
でも言葉にならなかった。
私の両親を悪く言わないで、と怒りが心の奥に燻った。
でも原体験としての孤独感も、確かに心の奥には一緒にあった。
私が良い子にしていたらもっと両親も一緒に居てくれるかも、と自身に言い聞かせながら待ち続ける幼少期の自分自身の姿が脳裏に見えた。
でもそうはならなかった。
たまに会いに来て愛を提示してくれる両親を、大好きだと思っていたはずだった。
でもそう思い込もうとしていただけなのかもしれない。
……頭の中で黒いモヤモヤが渦巻いて、ましろは考えれば考えるほど気分が悪くなった。
虹ヶ丘ましろは、本当に両親のことが大好きだったのか。
孤独感が少しずつ心を壊していったせいで生まれたのが「私なんか」という卑屈さだったのではないか。
どんどん泥沼が深くなっていくのに、ましろは頭を止めることが出来なかった。
私は愛されているはずだ、と自分自身に言い聞かせようとした。
言い聞かせようとしている、と自分自身でも分かってしまった。
「私、愛されてなかったの?」
「それはあたしが答えられる質問じゃないよ。100人いれば100通りの愛情の形はあるし、離れていても問題ない愛だってあるでしょ。
そんな一般論じゃなくて、ましろちゃん自身がどう思ったかが大切だと思う」
ズルい答えだと思うかもだけど、なんて言いつつも、こればかりはショーコも冗談めかしたニュアンスは混ぜなかった。
ましろが少なくないストレスを感じているのを、ショーコも察しているからだろう。
結局……散歩に出ていた夕凪ツバサたちが戻ってくるまで、ましろの重苦しい堂々巡りは続いて。
そんな親友にかける言葉が見つからないソラの迷いをよそに、エルちゃんとショーコの小さなケンカが再燃したりなんかして。
なんやかんやで、賑やかな時間は瞬く間に過ぎていくのだった……。
朝加ショーコは、お土産を持たされて帰路についたのだった。
特に気負った様子もない足取りで、朝加家で待っている親友の顔を思い浮かべながら歩いた。
……そんな時分に。
「ショーコさん! 待ってください!」
「どうしたよ、ヒーローガール?」
朝加ショーコを追いかけてきたのは、ソラ・ハレワタールだった。
少しだけ息を切らせているものの、立ち話をするのに支障は無い様子だ。
「私、自分でも嫌になるぐらいに未熟で……ましろさんが苦しんでいるなんて、全然気づきませんでした。
でも、どうしても力になりたいんです! だから……ショーコさんの知恵を貸してください! お願いします!」
「ソラちゃん落ち着いて。ステイ」
開幕で頭を下げてきたソラに対して、とりあえずショーコは落ち着いて話をするべきだと促した。
道端に備え付けられていたベンチを見つけて、そこに二人で座って。
掌サイズに見える虹ヶ丘邸を視界に収めながら、ショーコは少しだけ苦笑いを漏らしつつ口を開いた。
「ましろちゃんの孤独感ってさ。ぶっちゃけ、もう終わった話だよ」
「ええっと……??」
ソラは、ショーコの言わんとするところを理解できていない様子だった。
だがショーコはソラたちの物語の中に、確かにその解答があったことを看破していた。
「ましろちゃんは、ソラちゃんが出ていくときに行かないで欲しいって言えたし、ちゃんと泣けたんだ。
ソラちゃんと出会ったばっかりの頃だったら、きっと言えなかったでしょ」
ショーコは、ましろ達の物語の一節として聞いた話を思い起こしながら言葉を継ぎ足した。
幼き日に聖あげはとの分かれを余儀なくされたとき、寂しくても涙を見せないというのが虹ヶ丘ましろのスタンスだったはずだ。
そして、それが虹ヶ丘ましろの優しさであり強さでもある、と聖あげはは言った。
辛いことに耐える強さも、確かにあるだろう。
しかし、ましろは変わった。
弱くなった、と言ってしまうことも出来るのかもしれない。
それでも……ショーコは、それが悪い変化だとは思わなかった。
「今のましろちゃんは自分の寂しさに自覚的だし、それを口に出せる相手だって居るんだ。
ましろちゃんを変えたのは……救ったのは、間違いなくアンタだよ」
やるじゃんヒーローガール、なんて
不器用で真面目で、しかしそれ故に考え続けるヒーローガールへの……最大の賛辞として。
ソラは一瞬だけ言葉の意味を飲み込めない様子であったが、こそばゆいという顔へとすぐに変わっていった。
ヒーローを目指しつつも実績のない期間が長かったので、褒められ慣れていないのだろう。
だがそんなソラが一緒に居れば、少し気落ちした虹ヶ丘ましろもすぐに元に戻るだろう……と、ショーコは思った。
「ましろさんも私も、変わったのかもしれません。これも、世界が広がるということなんだと思います」
嬉しそうにしながら、精一杯の言葉を紡ぎ出してくれたソラ。
どうやら本人としても、変わったという自覚がある様子だった。
ヒーローなのかと問いかけられて言葉に詰まっていた初期の人物像から考えれば、傍目に見てもかなり変化があると言える。
やはり、自信がついたのが大きい。
そしてその自信をくれたのが誰なのかは……まぁ、説明するまでも無いだろう。
「確かに変わったよね、ソラちゃん。
初期の人物像だったら『ましろさんは私にとって初めての友達ですけれど、私はましろさんの沢山いる友達の一人なんです』とか言いそうな感じだったよ」
「よく、そんなに的確に当てられますね……? でも今の私なら、それは絶対に言いません」
自信が無い子の考えてることは何となく分かるよ、なんて。
相も変わらず……ひらひらと手を振りながら、ショーコは軽い調子で言ってのけた。
実は、ましろたちの語った「私なんか」というキーワードを聞いた時から、頭の隅に蘇っていた言葉があるのだ。
――……私が刃を動かせば、貴女は死ぬ。
――……私の死を悲しんでくれるぐらいに善良な人なら。一時の悲しみに暮れても、他の誰かが必ず手を差し伸べてくれるわ。
ショーコの親友も自信に欠けるが故の発言をしていたのを、思い出しながら。
ソラたちなら、この先も何があっても大丈夫だろう……なんてショーコは思えたのだった。
「と、話がイイ感じにまとまったところで……『令ジェネ』*4のジオウVSゼロワンみたいな唐突なプリキュアバトルが始まったりなんてしない?」
「その『令ジェネ』というのは分かりませんが、私達は『ヒーロー対決』は天丼気味なので、やめておきましょう」
ソラは、苦笑いでショーコの誘いを断った。
残念ながら締めのプリキュアバトルという流れは無さそうだ。
だいぶメタなことを言っている気もするが、それもソラたち「ひろプリ」の持ち味なのかもしれない。
改めてソラたちの物語を思い返してみると、確かに「ヒーロー対ヒーロー」の構図は多かった。
シャララボーグの件もそうだし。
カイゼリンもダークヘッドによってヒーローだと指摘されたことがあったらしい。
シュプリームの騒動も疑似的なプリキュア対決だった訳だし。
未遂気味であったものの、ダークスカイVSキュアプリズムなんて対戦カードもあった。
更に言うと、ダークスカイとは別にブラックスカイなんてモノも居たり居なかったりするとか……。
確かにこれでは、締めに「ビクトリーVSスカイ」のプリキュアバトルを始めても目新しさなんて欠片も無いだろう。
カナシミーナも今回ばかりは出る幕は無さそうだ。
というか、ショーコ的にはシュプリームに襲われた時に初手で不幸の種を打ち込む戦法を実行してきたばかりだったりするのだが……まぁそれはそれである。
「そんじゃ、また縁があったら会おう! 完成された未熟者のヒーローガール!」
「喜んで良いのかどうか迷う称号ですね?」
何も背負ったものなどないと言わんばかりの、軽々しい態度で手を振って。
嵐のように来訪した招かれざる客は、飄々と空を流れる風のように去って行ったのだった……。
もし縁があれば、また会う機会もあるかもしれない。
前に進むことを恐れないヒーローガールの道は、無限に広がっているのだから。
――立ち止まるな! ヒーローガール!!
・今回のNG大賞
スカイランドの賢者が昭和のテレビに詳しいの、おかしくない??
ツバサ「ヨヨさんから聞きました!」
あげは「少年、その返しは強すぎるから禁止カードにしよっか??」
ソースとして「ヨヨさんから聞いた」を通すと大体の胡乱なものが通ってしまうので……。
次回予告!
迷い犬となった犬飼こむぎを探し、犬飼いろはが辿り着いた先は朝加家だった!
しかしそこで犬飼いろはが目の当たりにしたのは、朝加ショーコによって「チン〇ン」の芸を仕込まれているパピヨン犬の姿だった!
日曜の朝にお出しできない芸を仕込まれてしまったこむぎに対して、いろはが下した非情な決断とは……!?
次回「さよならこむぎ! 涙のevolution!!」ワンワン、わんだふる~!!