ふたりはVSプリキュア!   作:カードは慎重に選ぶ男

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第五話:まかせて! 裏山の妖精ミケマタ!

4年前。

戦いに敗れた『黄昏の園』は、その存在そのものを自ら凍結させた。

空間全体を圧縮冷凍することで、戦火の広がりを防ぐとともに『黄昏の園』そのものを守ったのである。

ショーコやシズエが通っている中学校の裏山の大樹には『黄昏の園』に続く異界門が隠されていて。

そこの異界門に強い感情のエネルギーを発するオブジェクトを10個ほど集めれば、『黄昏の園』の封印は解けるはずだ。

 

 

「キュアサイレント殿。顔を上げるである。其方はよく戦ったであるぞ」

「……ごめんなさい」

 

尻尾の先が三味線のようになっている、二足歩行の三毛猫。

そいつは、『黄昏の園』に住まう妖精だった。

空間自体を圧縮冷凍させることが決定した『黄昏の園』から、キュアサイレントを連れ出したのだ。

 

 

「誰も、其方を責める者は居ないであるぞ。願わくば、吾輩たちのことも戦いのことも忘れて、地球で穏やかに暮らしてほしいである」

「……ありがとう、ミケマタ」

 

べんべん、と。

尻尾の先の三味線を控えめに鳴らす妖精……ミケマタ。

故郷が滅びたのが辛いのは同じはずなのに、ミケマタは終始恨み言の一つも漏らさなかった。

 

だが、キュアサイレントからは、ミケマタの頭頂部にできた十円ハゲが見えていた。

本当はミケマタだって、悲しみや不安から来るストレスを貯め込んでいるに違いない。

というか、戦いの中で苦楽を共にした仲間の考える事なら、全部とは言わないが大体は分かる。

 

 

「路銀と戸籍は用意したである。どうか、達者で暮らすであるぞ!」

「……ミケマタも、元気でね」

 

ミケマタの鳴らす尻尾三味線の音を背中に聞きながら。

キュアサイレントは、異界門のある山を後にしたのであった。

それ以来……ミケマタとは、会っていない。

 

 

 

 

「……この夢、久しぶりね。ミケマタ、元気かしら……」

 

夜野シズエは、六畳一間の安アパートで、目を覚ました。

感傷に浸るのも悪くはないが、早くショーコを起こしに行かないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

『二人はVSプリキュア!』

第五話:まかせて! 裏山の妖精ミケマタ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっただきまーす! もぐぐ! そういえばさ、なんかUMAの目撃情報があったんだって!」

 

今日も元気に揺れるアホ毛を視界に収めながら。

朝加ショーコとともに過ごす朝食の時間は、平和そのものだった。

 

「……いただきます。UMAって、1週間前に嶋村さんや引坂さんと一緒に見た、巨大ナメクジかしら?」

 

……巨大なヘビや巨大ナメクジが、『雨の軍勢』の主なメンバーだ。

その上には首領が居たりするのだが、最近姿を見ないし、気にしなくて良いだろう。

それより、敵幹部が有名になった場合、プリキュア活動における利益と不利益はどのように発生するだろうか?

そんな生真面目な発想で物事を考えていた夜野シズエであったが、

 

 

「コレ、回覧板の端っこに載ってたんだけど、町内会主催でUMA捜索ツアーがあるんだって! あたし行ってくるよ!」

「……ごほっ!?」

 

お約束の咽込むリアクッションを強いられた。

どこからともなくショーコが取り出してきた回覧板に掲載されたイラストに、見覚えがあったのだ。

そこに描かれていたのは。

 

 

――吾輩、名前はミケマタと申すである。可愛い可愛い妖精さんであるぞ。

 

……尻尾が三味線になっている、二足歩行の三毛猫の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、朝加ショーコと夜野シズエは揃ってUMA捜索ツアーという名の町内会ハイキングに参加したのであった。

学校の体育の時に使うジャージを着こんで、ついでに軍手と帽子なども完備である。

 

ツアー参加者に配られたガイドブックによると、ミケマタは『ミミンガ』と呼ばれているらしい。

注意事項として、巨大ナメクジや巨大ヘビに関しても言及しているあたり、ガイドブック作成者の良心を感じさせる。

 

(……ミケマタ。貴方、ついにUMAになってしまったのね)

 

古い友人の末路に同情しつつ、夜野シズエは心に誓っていた。

何としても自身の手でミケマタを保護してやらねばならない、と。

およそ20人の頭数が揃ってしまっている山狩り隊の面々を見渡して、シズエは決意をあらためた。

 

 

「おっ? サキちゃん、マイちゃん。二人もUMAに興味あったんだ?」

「げっ、まさかこんな所で知り合いに会うなんて……!」

「そ、そうなのよ! ね! サキ?」

 

と、ショーコが山狩り隊の中に知り合いを見つけたらしい。

改めて確認してみると同じ学校に通う生徒2名だった。

たしか……樹元サキと榎本マイだったはずだ。

樹元サキはソフトボール部に所属する元気っ子で、榎本マイは美術部でいつも静かに絵を描いている子だ。

シズエから見た印象として、樹元サキと榎本マイは、何だか挙動不審に思えた。

 

 

「……樹元さん、榎本さん。何か、気にかかることがあるのかしら?」

「そんなこと無いわよね! いつも通り絶好調よね?」

「その通り、今日も絶好調ナリ!」

 

怪しい。

怪しいが、夜野シズエには言及するだけの材料が無いので、これ以上は突っ込めない。

 

 

「考えてみれば、朝加さんって怪獣とか怪人とか好きっぽいし、むしろUMA狩りなら来て当然かぁ……」

 

どうやら、樹元サキはショーコの人柄をよく理解しているらしい。

それに便乗して、榎本マイも新たな話題の方へ舵を取り始めたようだ。

 

 

「でも、こういう事に夜野さんが来るのは、ちょっと意外ね。朝加さん、無理矢理連れ回してない?」

「無理矢理じゃないってば。なんでか、シズちゃんも今回は乗り気だったんだよ?」

 

……まさか、話の矛先がこちらに向くとは思わなかったシズエさんであった。

確かに普段のシズエなら、UMA捜索の山狩りなんて絶対に参加しないのだが。

どう説明したものか。

 

 

「それは私も気になってた! 夜野さんって猫派じゃなくて犬派っぽいし。今回の猫っぽい『ミミンガ』は守備範囲外だと思ってたんだ」

「サキのその感覚は、私にはよくわからないけれど……??」

 

仲良しのサキとマイでも、時々お互いのことがよく分からない時があるようだ。

まぁ、シズエとて時々ショーコの考えている事が分からない時があるので、そういうものなのだろうが。

ちなみに夜野シズエは、どちらかというと犬派である。ミケマタェ……。

 

 

「あたしには何となく分かるかも。猫好きなのは疲れてる人、犬好きなのは寂しい人、って感じだよね!」

「それだ! 私も大体そんな感じの事思ってた!」

「何だか意気投合してる……?」

「……」

 

困惑している榎本マイを置いてけぼりにして、朝加ショーコと樹元サキは二人で盛り上がり始めた模様である。

UMA狩りそっちのけで、お喋りに火がついてしまったようだ。

まぁ、ぶっちゃけUMA捜索ツアーというよりも町内会のハイキングと言った方がいいような集まりなので、足を動かし続けていれば問題は無いのだが。

 

 

「あとやっぱり、朝加さんと特に仲が良いから、夜野さんは犬派っぽいって思ったかな」

「え? あたしって犬っぽい?」

「それは何となく分かる気がするわ。逆に夜野さんは何だか猫っぽいわよね」

「……?」

 

私って本当に猫っぽい? なんて真面目に首を傾げてしまったシズエさんであった。

一応、ショーコが犬っぽいのは何となく分かる気がする。

食事を嬉しそうに頬張るショーコの姿から、尻尾を振っている犬っぽい雰囲気を感じることがあるのだ。シズエ的には。

 

 

「そういうサキちゃんとマイちゃんは……動物で言うと、なんだろ?」

「……タヌキと、キツネ」

 

あくまでフィーリングの問題だが。

どこか人が良さそうで丸い感じがある樹元サキはタヌキで、どこか切れ者の雰囲気がある榎本マイはキツネっぽい。

夜野シズエの個人的な印象として、そんな気がしたのである。

 

 

「なるほどなるほど! タヌキ・キツネ・ベストマッチ! イェーイ!」

「私、タヌキ……? もしかして最近、ちょっとお腹出てきた……??」

「私も、どうしてキツネなのか、ちょっと分からないかも……」

 

樹元サキと榎本マイは、どちらも困惑しているようだ。

だが、よく考えてほしい。

夜野シズエは、どちらがタヌキでどちらがキツネか、言っていない。

にもかかわらず、サキとマイが自身の担当動物を把握できたということは?

つまり、この二人は消去法で自身の担当動物を把握したということなので、以下の二つの解が導けるだろう。

 

・樹元サキは、榎本マイのことをキツネっぽいと思っている。

・榎本マイは、樹元サキのことをタヌキっぽいと思っている。

 

要するに、自覚が無いのは本人だけという訳だ。

サキとマイは首を捻っているようだが、ショーコはシズエと同じイメージを持っているようなので、シズエのイメージは的外れでは無さそうだ。

 

 

「何だか納得いかない感じ? 今度、イチカちゃんの動物診断やってもらおうよ。キラっと閃いたー、っていう例のヤツ」

 

イチカちゃんとは、料理部所属の美山イチカである。

他人のふるまいから動物のインスピレーションを見出すことを得意としており、それを反映させたスイーツを作るのが特技なんだとか。

なお、美山イチカ自身のパーソナルアニマルはウサギらしい。

 

 

「それは……サキは最近、失恋メイツの二人に追い回されたばっかりだから、勘弁してあげて?」

「中島さんと美山さんには当分は関わりたくないナリ……」

 

【悲報】失恋メイツ、まだ活動を続けていた!【驚愕の事実】

朝加ショーコと夜野シズエは、心の底から樹元サキに同情した。

 

 

「ああー、そういえばサキちゃんって、マイちゃんのお兄さんのコト好きなんだっけ? それが失恋メイツの耳に入っちゃったかー」

「ええぇっ!? どうして知ってるのぉっ!?」

「まさか、サキの初恋がそんなに噂になっていたの……??」

「……」

 

女子の情報網って怖い。(粉ミカン)

恋の噂話は乙女にとってビタミン剤みたいなモノだからね。仕方ないね。

まぁ、シズエも普通に初耳だったので、ショーコが耳聡いだけかもしれないが。

 

 

「もうすぐサキちゃんも失恋メイツの仲間入りかー。悲しいなー」

「ウチの店のパン、1つだけ半額にしてあげるから、ホントにその弄りだけは止めて欲しいナリ……」

 

冗談だってばメンゴー、なんて笑うショーコと、胸をなでおろしたサキは。

明るい者同士の、なんというか牧歌的な雰囲気を醸し出していて。

ショーコのその笑顔がずっと続けば良いな、とシズエは密かに思ったのであった。

 

快活な者同士で笑いあいながら先を歩くサキとショーコの背中を追いながら。

ふと、シズエは隣を歩くマイの姿を見た。

一瞬だが……榎本マイの横顔に憂いが垣間見えた、ような?

 

 

「……?」

 

気のせいだったか?

……。

 

 

 

 

 

 

UMA捜索隊もとい町内ハイキング隊は、順調に歩みを進めていた。

一行はそれぞれ軽く汗をかいているものの、まだまだ余裕がありそうだった。

いつも無駄に元気な朝加ショーコや、ソフトボール部の樹元サキにスタミナがあるのは分かるが、意外にも榎本マイも平気そうであった。

シズエとしては、美術部にはあまりバイタルに優れたイメージは無かったのだが、マイはフィールドワークを頻繁に行うタイプの美術部員なのかもしれない。

なお、夜野シズエは涼しい顔である。クール系美少女の面目躍如である。

 

……と、榎本マイの姿を視界の端にとらえていた夜野シズエは、マイの異変に逸早く気付いていた。

マイが、ハイキングの一行からこっそり離れて、単独行動を始めたのだ。

少しだけ興味を引かれたシズエは、こっそりとマイの背中を追って獣道へと踏み込んだのであった。

 

マイを尾行した先は、林の中に存在する広間だった。

林の一部を人為的に切り崩して作られたであろう広間は、1本の巨大な樹の周りを囲むように形成されている。

広間の中には小さな祠も存在しており、広間の中央の巨木が何らかの形で神格を持っていることを匂わせた。

 

 

――願わくば、吾輩たちのことも戦いのことも忘れて、地球で穏やかに暮らしてほしいである。

 

夜野シズエは、その巨木と広間に見覚えがあった。

ミケマタと最後に分かれた場所だ。

つまり、異界門が隠してある場所でもある。

そんな場所に、なぜ榎本マイが一人で来たのだろうか?

巨木の前で立ち尽くしている榎本マイの背中を見る限りだと、絵を描きに来たわけでも無さそうである。

 

 

「……この場所に、何かあるのかしら?」

「ひゃっ!? や、夜野さん!? ビックリした……」

 

という訳で、忍び足で榎本マイの背後に歩み寄り、耳元で声をかけてみた。

特殊な封印で誤魔化してある異界門に気づく地球人が居るとは思わないが、念には念を入れていくスタイルである。

 

驚いて跳び上がった榎本マイは、胸を押さえて平常心を取り戻そうとしているようだった。

そんな榎本マイの動揺に紛れて、ほんの少しの落胆が見えた気がして。

広間の祠の階段に腰掛けながら、シズエはいつもの静かな口調で問いかけてみた。

 

 

「……誰かを、待っていた?」

 

誰かを、と言いながら、夜野シズエは見当をつけることが出来ずにいた。

真っ先に頭に浮かんだ待ち人は、樹元サキだ。

しかし、待ち合わせをしていたという雰囲気では無い。

そもそも、一緒にUMA捜索ツアーに来ているのだから、一度離れてから再度待ち合わせて合流する意味が無い。

 

ならば、誰だ?

まさか……ミケマタ?

 

 

「この大空の樹はね、私が初めてサキに会った場所なの」

 

……違った模様。

我ながら勘が悪いわね、なんて頭を痛めながら、しかしシズエは黙って話を聞いた。

何だか、流れで話を聞く雰囲気になってしまったのである。

 

なんでも、マイは5年前に一度、夏祭りの日に家族でこの町を訪れたらしい。

そこで、不思議な光のようなものを追っているうちに、この巨木の広間に辿り着いたのだという。

偶然にも、同じように不思議な光を追ってサキも同じ場所を訪れ、二人は何となく同じ時と過ごしたのだとか。

そして去年マイの一家がこの町に引っ越してきて、学校でサキとマイは運命的な再会を果たしたのだそうな。

 

 

「私、人と話すのがちょっと苦手だった。だから、サキの明るさと人懐っこさに助けられたの。そんなサキが、私は大好き」

 

そう言われると、シズエにも共感できるところがあった。

4年前、戦いから開放されたシズエは、ミケマタが用意してくれた偽戸籍と嘘設定を使って小学校へと転入した。

しかし、度重なる戦闘と故郷を失くした悲しみから、シズエは死んだ魚のような目をしていた。

そんなシズエに纏わりついて、いつの間にか暖かな居場所を作ってくれたのが、ショーコだったのだ。

今では、ショーコの保護者から家計簿と家計費を預かっているぐらいには、絵に描いたような通い妻である。

 

 

「サキも私の事を友達だと思ってくれているのは、信じているわ。でもね、時々、サキが手の届かない遠いところに行ってしまうみたいな胸騒ぎを感じるの」

 

シズエは、今日以前、あまり榎本マイと接点があった訳では無い。

だが、何となく思った。

 

 

――まさか、サキの初恋がそんなに噂になっていたの……??

 

渦中の人物であるサキ本人が噂を知らないのは自然な流れだが、思い返してみればマイも噂を知らなかった。

察するに、榎本マイは交友関係があまり広くないのだろう。

そして同時に、マイがこの巨木の広場へと一人で来た理由も、シズエは納得がいった。

この広場が二人の思い出の場所だから、マイが居なくなったことに気付いたサキも広場に来るかも、と期待したのだろう。

 

夜野シズエは……少しだけ、榎本マイへと共感を抱いていた。

朝加ショーコは学校でも友達は多く、シズエと別行動で噂話や人助けメイツの活動をしていることが割とあるのだ。

そんな朝加ショーコの姿を遠目に見ていて、全く淋しさを感じないと言えば嘘になる。

 

 

「……大丈夫。樹元さんの恋が実って榎本さんになれば、一緒に暮らせるようになる。小姑として一生付き合っていけばいいわ」

「アドバイスの内容が妙に現実的で生々しいわね……。でも実際、それが一番堅実なのかしら……」

 

中学生同士の会話がそれでいいのか、プリキュアよ。

まぁ、榎本マイの兄と樹元サキがゴールインすれば、事実上義姉と義妹の関係になるのは間違いない。

そうなれば、一生の付き合いとなるだろう。マイの兄がそれで良ければ、だが。

 

 

……そういえば。

夜野シズエは、もし『黄昏の園』を再建したら、その後はどうするのだろうか?

今まで、考えもしなかった案件だった。志半ばで死別するかもしれない、と考えたことはあったが。

意外と、地球でこれまで通りにショーコと一緒に暮らすのもアリなのでは?

故郷に残してきた家族に所には、盆と正月に帰るぐらいでも良いのかもしれない。

 

なんだか、柄にもなく明るい気分になったシズエさんであった。

……まぁ、そのためにはキュアサイレントの正体がバレたらアウトな訳だが。

ショーコの身の回りの人間を見捨てていたことがバレたら、流石に気まずいだろうし。

 

 

 

 

 

「話は聞かせてもらったニョロ! お前の未来は絶望ニョロォ!」

「きゃああああああっ!!?」

「……!」

 

やせいの 巨大ヘビが あらわれた !

どうしてミミンガじゃないの?(困惑)

お前じゃない! お前じゃないんだよ!!

 

シズエは、日除けのために持ってきていた帽子のツバに指をかけて、巨大ヘビから容貌が見えないように注意してみた。

敵幹部にキュアサイレントの素顔が知られると、困るからである。

 

 

「お前みたいな神経質な小姑なんて、嫁に構い過ぎて『鬱陶しい』って言われるのが目に見えてるニョロ!」

「う、嘘よ! 私のサキがそんなことを言う訳ないわ!」

「……」

 

巨大ヘビは、露骨な精神攻撃で悲しみを稼ぎに来ている模様。

だが待って欲しい。

爬虫類に嫁姑問題を語られる筋合いは無いはずだ。

卵生の爬虫類に、嫁姑問題なんて絶対に関係無いだろ! いい加減にしろ!!

 

 

「どうせ『愛が無駄に重くて面倒くさい』とか言われて敬遠されるのがオチだニョロォ!」

「はうっ!?」

「……」

 

何だか、巨大ヘビの精神攻撃がクリティカルヒットした雰囲気である。

言葉の刃が榎本マイのメンタルに突き刺さった様子だ。

膝をついて泣きそうな顔をしているマイは、自身でも自覚があったのかもしれない。

夜野シズエが思っていても言わなかったことをヌケヌケと言いやがって! この冷血爬虫類め!

 

 

「今がチャンスだニョロォ! カナシミーナ、作成ニョロ!!」

 

巨大ヘビは、口から黒い種子を射出した。

狙いは当然、榎本マイだ。

悲しみの種子を人間に打ち込み、怪人カナシミーナを育てるゲームを始める気に違いない。

 

 

「……プリキュア・サイレント・チェンジ」

「ニョロォッ!? プ、プリキュアニョロッ!?」

 

次の瞬間には、キュアサイレントが伸ばした細い影刃によって、黒い種子は空中で両断されてしまったが。

……真っ二つになって地面に落ちた悲しみの種子を一瞥しながら、シズエは思った。

つい助けてしまった、と。

自身の故郷である『黄昏の園』を復活させるためならば、榎本マイを見捨ててカナシミーナの発育を待つのが正解のはずなのに。

 

 

――時々、サキが手の届かない遠いところに行ってしまうみたいな胸騒ぎを感じるの。

 

なんだか少しだけ、シンパシーのような物を感じてしまったからかもしれない。

榎本マイの感じた淋しさを、ほんの少し、夜野シズエも感じていたから……なのだろうか?

 

 

――やっぱりカナシミーナを放置するのは、あたしは賛同できない。

 

一瞬、最近出会ったイケ好かない誰かさんの顔が脳裏に浮かんだ気がしたが、頭の中のイメージは次の瞬間には影のトゲで滅多刺しになって滅んだ。

『黄昏の園』の滅ぶ遠因を作ったアイツを、そう簡単に許すわけが無かった。ブッタギルモフ!

次からは、また非情なキュアサイレントに戻らなければ。

 

文字通り尻尾を巻いて逃げていく巨大ヘビの後ろ姿へと、冷ややかな視線を送りながら。

キュアサイレントは、自身の戦闘の最短記録を更新したのであった……。

 

 

「ええと……助けてくれて、ありがとう? まさか、夜野さんがプリキュアだったなんて」

「……このことは他言無用よ。情報の拡散具合によっては、貴女だけではなく家族にも危険が及ぶわ」

 

地味に榎本マイに正体がバレてしまったのも、痛手である。

一応脅迫に近い理屈でクギは刺しておいたものの、どこまで有効なのかは不明だ。

変身を解除しながら、膝をついていた榎本マイを起こしてやって。

 

 

「……それに、貴女を心配して探しに来てくれたタヌキさんのためにも、ね」

 

耳を澄ませば、獣道を進む人間の足音が聞こえた。

それは……きっと、榎本マイの待ち人だ。

再会を喜ぶ二人を見守る夜野シズエの視線は……どこか、優しさを含んでいたのであった。

 

たまには、こういうのも……悪くは、無い。

もしこの場所で下手に戦闘を行っていたら異界門が壊れた危険性もあったし仕方なかった、と夜野シズエは心の中で言い訳を追加してみたのであった。

樹元サキと榎本マイの二人は、そんなシズエの内心など知る由もなく再会を喜んでいた……。

 

 

 

 

「悲鳴はこっちからか! 光の勝利! キュアビクトリー!」

 

……空気を読まずに、3人の前に桜色のプリキュアが姿を現した!

ご丁寧に、手の甲を相手に向けた独特のVサインを見せて名乗りをあげている!

たぶん、最初に榎本マイがあげた悲鳴を聞きつけたものの、山の中で悲鳴が木霊してしまったために正確な位置が分からなかったのだろう……。

ご丁寧に登場と同時に名乗ってくれたようだが、完全に出遅れてしまっている模様。

 

 

「って、あれ? カナシミーナも巨大ナメクジ達も居ない……??」

 

時すでに遅し。

とっくに巨大ヘビは逃げてしまっているし、シズエは人間態に戻ってしまっているというのに。

マジで何しに来たの、お前?

 

 

「わあっ! もしかしてプリキュア!? まさか本当に会えるなんて! これも大空の樹の御縁かも!」

「キュアビクトリーさん。巨大なヘビは、キュアサイレントさんが追い払っちゃったわよ」

「……頼りないわね。格好悪い」

 

「うぐっ……ぐぬぬ……。あたしだって頑張ってるのにーっ!!」

 

シズエの悪態は、モロに私怨だが。

意外とキュアビクトリーの心には刺さった模様である。

少なくとも樹元サキはビクトリーに会えたことを喜んでいるのだから、そっちに反応すれば良さそうなものだが。

ガックリと気落ちしているビクトリーは、飼い主に怒られた犬のような哀愁を纏っているように思えた。

両断されて地面に落ちていた悲しみの種子を手に取って確認していたビクトリーであったが、怪人が居なければ巨木の広場に用事も無いわけで。

 

とぼとぼ、と。

肩を落として森の中へ消えていくキュアビクトリーを、夜野シズエたち三名は見送ったのだった……。

あわれである。

 

「……少し休憩したら、ハイキング集団に合流しましょう」

 

 

なお、ハイキング集団に戻ったところ、なぜだかショーコがドンヨリしていた模様。

ショーコを置いて他3人で寄り道をしたから、仲間外れにされたと思ったのかな? なんて思ったシズエさんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後。

 

「ミケマタさーん、居るー?」

「ツナマヨパン持ってきたよー!」

 

巨木の広場にこっそりと訪れた、樹元サキと榎本マイ。

二人が呼びかけると……広場に備え付けられた祠の縁の下から、ひょっこりと小さな影が姿を現した。

 

 

「サキ殿、マイ殿。これは有難いである。感謝であるぞ」

 

べんべん、と尻尾の先を変化させた三味線を奏でながら。

二足歩行の三毛猫がサキとマイの前へと現れたのだ。

しかも当然のように人語を話している。

どう見ても、先日のUMA捜索ツアーのガイドブックに掲載されていた『ミミンガ』そのものである。

肉球を器用に使ってツナマヨパンの代金をサキに渡している姿からも、ミケマタが尋常なネコでは有り得ないことが窺えた。

 

 

「お釣り無しでピッタリね。まいどありがとう!」

「吾輩こそ、御二方には世話になりっぱなしであるぞ。この間も、吾輩が留守の間に一騒動あったようであるな?」

「ちょっと勘が良い子が居たのよね。うまく誤魔化せて良かったわ」

 

サキとマイがミケマタを見つけたのは、本当に偶然だった。

1年ほど前に、転校してきたマイがサキと再会してすぐの頃、たまたま巨木――大空の樹の広場で、野良犬に襲われているミケマタを発見したのだ。

それ以来、サキとマイは時々ミケマタの様子を見に来ているという訳だった。

 

 

「良いのよ。大空の樹の下で出会った者同士の縁もあるんだから、言いふらしたりしないわよ」

「そうそう! ウチの飼い猫のコロネだって、時々人の言葉っぽく鳴くし。そんなもんでしょ!」

 

それはちょっと違うんじゃないかしら、なんていうマイの突っ込みを流しつつ。

サキとマイの間に流れる暖かな雰囲気に、ミケマタもリラックスしている様子で尻尾三味線を鳴らしているようだ。

 

 

「しかし、『雨の軍勢』がまた動き出したとなれば、いずれ異界門が開く日も来るであるかなぁ?」

 

陽気に、可能性を口にするミケマタ。

その頭頂部の十円ハゲは……ほとんど、治っていた。

 




・今回のNG大賞

マイ「時々、サキが手の届かない遠いところに行ってしまうみたいな胸騒ぎを感じるの」
シズエ「……貴女、樹元さん以外に友達居ないの?」

マイ(´;ω;`)ブワッ
ウララ(´;ω;`)ブワッ
リンちゃん(´;ω;`)ブワッ







・次回予告!

ショーコの特オタ仲間の金元ヤヨイが、留学することになったんだって!

でも、エイプリルフールの時に転校系の嘘をついた前科があるから誰にも信じてもらえないみたい!

ヤヨイちゃんは誰からも見送られずに寂しく日本を去るハメになるの!?


次回『Let's go! 悲しみのピース!』みんな笑顔でウルトラハッピー!!
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