ふたりはVSプリキュア!   作:カードは慎重に選ぶ男

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第六話:Let's go! キュアビクトリーが大凶にナール?

人影のまばらになった放課後の教室で。

朝加ショーコに話しかけてきた、1人のクラスメイトが居た。

ショーコと非常に仲が良い特撮オタの、金元ヤヨイだ。

やや低めの背丈にボブカットの髪が印象的な、小動物系女子である。

金元ヤヨイは「特撮オタ」というよりは、「特撮も好きなオタク」だったりするのだが、まぁそれはそれとして。

 

 

「あのね……ショーコちゃんに、大事な話があるんだけど……」

「どうしたの? もしかして、あたしに告白してる……?」(万丈並の感想)

 

ショーコがそういう冗談ばかり言うから、金元ヤヨイは朝加ショーコの愛人だなどという噂が立つのである。

なお、本妻は誰かという点に関しては、周知の事実なので語るまでも無いのであった。

 

 

「プリキュアの正体、ショーコちゃんだよね?」

「えっ? ヤヨちゃん、どうしたの急に??」

 

突然の追及に、ショーコはビビった。

周りに聞いている人間が居ないのは不幸中の幸いだろうか。

とりあえず惚けてみたものの、この時点でショーコは既に一杯一杯だった。

 

 

「私、見ちゃったの。ショーコちゃんが、変身してるところを」

「現場を見られちゃったら、誤魔化すのは無理そうだね……」

 

下手に嘘に嘘を重ねて泥沼になるよりも、事情を話して口止めした方が良いのでは?

ショーコは、テンパって全く回っていない頭で考えた末に、そう判断した。

 

……ところが。

ショーコの返事を聞いた金元ヤヨイの方が、逆に目を丸くして固まっていた。

うん? あたし何か変なこと言った?

 

 

「ええっとね……。知り合いに手当たり次第に試してて、ショーコちゃんで8人目だったんだけど……。本当に、ショーコちゃんがプリキュアだったの??」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!! やっちまったああああああ!!!?」

 

マヌケが見つかったようだ。(白目)

っていうか、他に7人も被害者が居るのか。誰だよ、その7人。

小動物系女子に見えて、お前の心臓には鉄の毛でも生えているのか。金元ヤヨイよ。

 

ショーコは、頭を抱えて叫んだ。

一生の不覚である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ショーコ。おはよう」

「ぐえっ……? お、おはよう、シズちゃん……」

 

そこで、ショーコは目が覚めた。

今日も、シズエにベッドから蹴り落されて目が覚めたのだ。

なお、先程までの金元ヤヨイとの会話は、夢落ちではなく回想夢である。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふたりはVSプリキュア!』

第六話:Let's go! キュアビクトリーが大凶にナール?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきまーす。ぐむっ。まったく、酷い夢だったよ本当に……」

「……いただきます。最近多いわね。どんな夢だったのかしら?」

 

いつも通りの幸せな朝食の時間を過ごしつつ。

朝加ショーコは、金元ヤヨイの件について頭を悩ませていた。

冗談抜きで、夜野シズエに全ての事情を話して相談に乗ってもらおうかと思うレベルである。

もっとも、シズエを危険に巻き込むのが嫌なので、なかなか実行できないわけだが。

 

 

「いやぁ、トラック転生したと思ったらさ、出てきた神様がブラッドスタークだったんだよね」

「……ショーコは、トラックに轢かれそうな子供を、いつか本当に助けそうね」

 

そういや、轢かれそうな子供を庇って転生する主人公って最近見なくなったような……?

時代の流行り廃りとは無常である。

ちなみに、その夢をショーコが見たのは昨日の話だったりして。

それとナイトローグの正体は氷室幻徳だ。

 

 

「流石のあたしでも断ったけどね。どう考えても罠だし。でも万丈構文からシズちゃんを引き合いに出してきやがってさぁ……」

 

お前が異世界転生を断るのは勝手だ。

だが、代わりにトラックに轢かれて転生するのは誰だと思う? ←万丈だ。じゃなくて、夜野シズエだ。

 

 

「……罠といえば、三日前に金元さんから『夜野さんがプリキュアに変身するところを見た』って言われたわ」

 

7人しかいない被害者が、こんなに身近に居ただと!?

その話を昨日の朝にしてくれていれば、あたしは引っかからずに済んだのに!

戦慄する朝加ショーコの内心を知ってか知らずか、夜野シズエは相変わらず静かに言葉を継ぎ足した。

いつものクール系美少女ロールである。

 

 

「……もちろん、人違いか見間違いだとしか答えられなかったけれど」

「あははハ、そうですよネー」(動揺)

 

まぁ、誰だってそーする。

キュアサイレントだってそーする。

ビクトリーがやったらギャグで済むが、サイレントがやったらキャラ崩壊待ったなしである。

 

 

「……そもそも、もし本当にプリキュアだったとしても。その程度の誘導尋問に引っかかるのは、余程の間抜けだけよ」

「うぐっ……。い、意外と、誰か引っかかってるかもしれないよ?」(大動揺)

 

その引っかかった間抜けが目の前にいるなんて、シズちゃんは思いもしないんだろうなぁ。

というか、シズエ本人に自覚は無いとはいえ、ナチュラルに馬騰されたせいでショーコの精神ダメージは重い。

この間もビクトリーとしてシズエに会った時に、微妙に辛辣な言葉を投げつけられた気がするし……。

 

 

「……確かに、キュアビクトリーなら。……無いとは言い切れないわね」

「そ、そうかナー??」(MAX大動揺)

 

 

――頼りないわね。格好悪い。

シズちゃん、なんかキュアビクトリーの事になると毒吐くよね?

キュアビクトリー嫌いなん??

 

とりあえず、プリキュアの事情を夜野シズエに説明するのは止めよう。

シズちゃんに冷たい目で見られたら悲しいから、絶対に秘密にしよう。

そう決意を改めた、朝加ショーコであった……。

 

 

「今日は愛人に慰めてもらうか……」

「……噂の金元さんね。夕飯までには帰ってくるわよね?」

 

愛人ってワードだけで誰の事だか把握できるのが流石すぎる。

シズエさんは、最後に家に帰ってきてくれれば良いと言えるタイプの本妻なのであった。

 

 

 

 

 

で、放課後に適当な空き教室で金元ヤヨイと落ち合ったわけだが。

 

「で、なんで事情を知ってる人が増えてるのかな?」(#^ω^)ピキピキ

「ご、ごめんなさーいっ!」

「それは私がウルトラハッピーだからです」(真顔)

 

朝加ショーコ先生も、これにはオカンムリである。

世界観が違えば金元ヤヨイの首が引っこ抜かれてもおかしくない所業だと言える。序章(エピローグ)。

一応、事情を聴くまではバイオレンスな罰ゲームは実施しないが。

 

 

「それで、どうしてミユキちゃんにまでバレたわけ?」

 

そう。

新たに増えた関係者は、同学年の福圓ミユキだった。

チョココロネのように独特な形に髪を巻いた、能天気系女子だ。

その頭の中身は、まだチョココロネの方が密度が高そうだと密かに噂されている。

 

……なお、頭の中身の密度と聞いて『ゾウアマゾン』という言葉が脳裏をよぎった人には、良い診療所を紹介してあげよう。

あそこの診療所は最近行方不明者が多いようだが、別に心配はいらないさ。

 

 

「ヤヨイちゃんからLINEでメッセージが来たからだよ」

「ちがっ、違うの! 誤爆したの! 本当はショーコちゃんに送るつもりで……っ!」

「はぁ……。まぁ、仕方ないか」

 

バレてしまったものは仕方ない……。

ほっと息を吐いている金元ヤヨイの様子を見ても、あまり責めるのも可哀そうだ。

 

 

「良かったぁ……。腹パンぐらいされるかもって思ってたけど」

「あたしを何だと思ってんだ……」

 

さすがに事故に関しては、そこまでバイオレンスなことはしないっての。

わざとor重過失だったらギルティだけど。

 

 

「でもてっきり、『そしてナイトローグの正体は氷室幻徳だ』みたいなノリで軽くバラしちゃったのかと思ってたよ」

「えっ……そ、そんなことしないヨー」(ハイパー大動揺)

 

金元ヤヨイは滝のように汗をかきながら、目を白黒させている!

さすがにコレはモロバレすぎる。瞳孔開いてんぞ。

朝加ショーコは、黙って福圓ミユキへと右の掌を見せた。

福圓ミユキは、すぐさまスマフォを朝加ショーコへ渡してくれた。

アホだと評判の割に、ミユキはコントになると急に頭のキレが上がる娘である。実はそんなに頭が悪いわけではないのでは……?

そして、LINEの会話履歴を見たショーコは、『そしてキュアビクトリーの正体は朝加ショーコだ(キリッ)』という文面をすぐさま発見した。

ショーコが握っているミユキのスマフォが、みしり、と音を立てた。

 

 

「敗者に相応しいエンディングを見せてやる……!」

「朝加ショーコォ! 何故キミがキュアビクトリーに変身できたのかァ! 何故正体がバレ「ゲキトツ! クリティカルストライクゥ!」げそぉっ!!?」

 

※流石に腹パンしました。

この期に及んで開き直ってネタに走った奴に手加減するほど、ショーコの心は広くなかった。

床に転がってビクンビクンしている金元ヤヨイへと朝加ショーコが落とした視線は、チベットスナギツネのように冷たかった。

 

 

「話はよく分かんないけど、ヤヨイちゃんたち、とっても楽しそうだね!」

「ミユキちゃんって、もしかして狙って惚けてない??」

 

 

 

……閑話休題。

 

 

 

「それで、一応呼ばれたから来てみたけどさ。正直、プリキュアの件には踏み込まない方が良いと思うよ」

 

まだお腹をさすっている金元ヤヨイを、起き上がらせて。

学校給食の時間のように机を向かい合わせながら、3人は話し合いを続行していた。

お誕生日席に座っている福圓ミユキは、どこか御機嫌な様子である。

 

 

「身バレしたのがあたしだったから良かったけどさ。もしキュアサイレントに当たってたら、太平洋に沈められてたかもだよ?」

「ええっ……? キュアサイレントってそんなに危険なの……?」

「何だか私が思ってたプリキュアと違う……」

 

頭がお花畑な福圓ミユキでも、何となく危険を感じているらしい。

オタ仲間の金元ヤヨイは、言わずもがなである。

まぁ、あのクールなキュアサイレントが、誘導尋問なんかに引っかかるとも思えないが。

……いや、むしろギャグ的には、サイレントが引っかかった方が笑いがとれるうえにギャップ萌えを狙えた可能性が微粒子レベルで存在する?(迷走)

 

 

「ショーコちゃん、ニチアサ的にざっくり言うと、どんな感じ?」

「あたしが龍騎であいつがナイトで」

「大体わかっちゃった」

「はっぷっぷー……二人とも何を言ってるのか全然分かんないよー?」

 

朝加ショーコは、思わず溜息を漏らした。

どうやっても、金元ヤヨイの好奇心を止めることは出来ないだろう。

こうなったら、毒を食らわば皿まで、というヤツだ。

 

机の上に、『勝利の輝石』と半分だけの悲しみの種を1つずつ提示しつつ。

ショーコは、洗いざらい話した。

キュアサイレントの目的やその達成手段から、ショーコが『黄昏の園』の滅亡の遠因を作ったことまで。

 

 

「話を聞いた感じだと、『悲しみの果実』が既に完成してる状況なら、ビクトリーとサイレントは共闘できそうかも?」

「二人が協力できるなら、ウルトラハッピーだね!」

「いや、でも『悲しみの果実』が完成するのは、あたしにとっては本当に最悪の一歩手前でしかないんだよね。ハルカちゃんは、もう2週間も目を覚ましてない訳だし」

 

そうなのである。

2週間前に被害にあった嶋村ハルカが、未だに目を覚まさないのだ。

しかも、今後目を覚ます保証もない。

やはりカナシミーナの放置はショーコ的にはアウトなのである。

 

 

「なんとかして、滅んだっていう『黄昏の園』に行けないの? 手掛かりがあるかも?」

「さすがに4歳の時の詳細な記憶なんて無いよ」

 

10年前に一度行ったんだよね? と金元ヤヨイがショーコへ聞いてきた。

だがこれも難しい。

当時3歳か4歳だったショーコは、どうやって『黄昏の園』に行ったのか、まるで覚えていないのだ。

ただ、当時手に入れた桜色の輝石と、美しい茜色の空だけが記憶の片隅に辛うじて残っている状態なのである。

 

 

「サイレントと交渉しようにも、切れるカードが無いんだよね……」

 

……行き詰まった。

ビクトリーとサイレントの間に妥協点は存在しない。

そして、手掛かりを得る手段も殆ど無い。

あと試していないのは、敵幹部を捕まえて尋問して新たな情報を入手するぐらいである。

一応サイレントを捕縛できれば新情報を得られる可能性は高いが、捕縛難易度的には限りなく不可能に近いだろう。

 

三人寄れば文殊の知恵という格言もあるが、これには落とし穴が存在するのだ。

ある程度知恵がある奴が三人集まらないと文殊の知恵には絶対にならない。現実は非情である。

 

 

「気分を変えて、『勝利の輝石』で色々試してみない?」

「ヤヨちゃん、絶対それが目当てだったよね」

「難しい話はオシマイダー!」

 

もろ手をあげて喜んでいる福圓ミユキは……半分ぐらいは、話についてきていなかったような気も。

金元ヤヨイは「あたしが龍騎であいつがナイトで」の時点で9割方理解していたようだが、オタク侮りがたし、である。

ショーコはヤヨイへと白い目を向けているが、ヤヨイは知らぬ顔であった。

 

 

「この『勝利の輝石』って、ショーコちゃん以外の人でも変身できるの? ちょっとミユキちゃん変身してみて?」

「うん! プリキュア・ビクトリー・チャージ!!」

「チャージじゃなくてチェンジね。って、変身出来るんかーいっ!?」

 

……普通にできた件。

ナニコレ可愛いー! なんて自分の身体を見下ろしているのは、間違いなくキュアビクトリーだった。

白の下地に桜色の上着を羽織って、ピンクのツインテールの先に金環を備えた、いつものキュアビクトリーである。

紛らわしいのでミユキビクトリーとでも呼ぼうか。

 

 

「っていうか、ヤヨちゃんは自分で変身するって言いだすかと思ったけど、そうでもないの?」

「万が一、カイザギアみたいな事になったらイヤかなって、ちょっと思っちゃって。テヘっ(はーと)」

 

いやいやいや。

カイザギアみたいになる可能性を想定してたなら福圓ミユキに変身させんなよ。悪魔か。

せめてギャレンバックルぐらいにしとけ。あれは変身失敗しても片腕がモゲるだけで済むからさ。

 

 

「マジでカイザギアと同じ仕様の可能性って、実はまだあるよね?」

「そういえば、カイザって無資格者でも変身は出来るけど、解除時か一定時間で死ぬって……」

 

若干嫌な汗を背中にかきながら、朝加ショーコと金元ヤヨイはミユキビクトリーの方を見た。

自撮り棒を使ってスマフォで写真を撮っているミユキビクトリーは、心の底から楽しそうである。

 

ショーコとヤヨイは、目と目で頷きあった。

すなわち、何も気づかなかったことにしよう、と。

格好良く言うと、流れに身を任せる作戦である。見殺しともいう。

『勝利の輝石』が万が一カイザギアと同じ仕様だったとしても、今からショーコ達に出来ることは何もないのだから、仕方ない。

 

 

どごっっ、と。

ミユキビクトリーから目を離している隙に、低い音が空き教室に響いた。

ショーコとヤヨイが、恐る恐るミユキビクトリーの方へと再度視線を向けると……ミユキビクトリーが、天井に突き刺さっていた。

 

 

「はっぷっぷー!? 跳びすぎちゃった!?」

「マミった! 3話完!」

「ヤヨちゃんは、ちょっと自重しようか?」

 

首から上が完全に天井に埋まってしまっているミユキビクトリーは、プリキュアの伝統的な失敗をやってしまったのだろう。

すなわち、大ジャンプの制御ミスである。

あれを天井が低い場所でやらかすと、こんな悲劇が起こってしまうという訳だ。

悲劇じゃなくて喜劇かもしれない。

 

 

「もしもーし、自力で降りられそうー?」

「腕に力をいっぱい込めれば脱出は出来ると思うけど、たぶんそれで別の物を色々壊しそう!」

「ライダーみたいに水道の蛇口を捩じ切るシーンも後で見せて!!」

 

学校の備品をこれ以上破壊させるなよ!?

既に教室の天井に大穴が開いてるっていうのに。

まったく、人気のない空き教室だからまだ良かったものの、目撃者が居たらプリキュア指名手配待ったなしである。

とりあえず、下から人力で引っ張ってやるのが良さそうだ。

 

 

 

「……この教室から凄い音が聞こえたのだけれど、何か穏やかじゃない事でも……? え? ……え??」

 

まさかの、夜野シズエが現れた!!

朝加ショーコは、頭が痛くて眩暈がした。

頭を天井に埋めたままジタバタしているミユキビクトリーへと、夜野シズエが困惑の視線を向けていたのだから。

夜野シズエの視線が絶対零度の冷たさに変わるまで、大した時間はかからなかった……。

 

 

 

 

 

結局、ミユキビクトリー以外の3人で足を引っ張ったら、何とか救出に成功して。

4つの机を小学校の給食の時間のように突き合わせて、夜野シズエを加えた4名で会合を再開したわけだが。

普通に中学の制服を着ている3人に紛れて、フリフリなミユキビクトリーが着席しているのは、普通にシュールである。

 

 

「や、夜野さん。キュアビクトリーの現物を見ての感想は、どう?」

「……そうね。想像していたより五倍ぐらいアホそうだと感じたわ……」

「あははー、夢を壊してごめんねー」

「ぐっ、ぐぬぬ……!」

 

ショーコは頭を抱えて悶えていた。

普段のキュアビクトリーはそこまでアホじゃねえ! と叫びたかった。

でも言えないっ! 悔しいいいいっ!!

ミユキビクトリーが天井に突き刺さってマミっている姿を見られたのが痛恨過ぎた。

この間の出遅れた姿といい、何だかシズエには格好悪い姿ばかり見られている気がする!

 

しかし、今ショーコがすべきことは、キュアビクトリーの名誉挽回ではない。

いかにキュアビクトリーの正体を夜野シズエから隠し通すか、である。

ここまで状況が整っているなら全部説明してしまえよ、という気もするが。

 

流れ的には、ショーコがシズエを連れて一緒に帰るのが一番自然な解散方法である。

しかし、それだとミユキから『勝利の輝石』を回収できない。

明日返してもらえれば良いのだが、福圓ミユキに『勝利の輝石』を一晩預けるというのは、正直に言って不安しかない。

今日一日福圓ミユキのエンターテイナーぶりを見ていた限りだと、フラグにしか見えないのだ。

次の朝には、誤って『勝利の輝石』が北海道に発送されているなんて展開があり得そうで怖すぎる。

それ以前に、今夜カナシミーナが作られたら戦えないというのも普通にあり得る。

 

かといって、シズエとミユキビクトリーを二人だけ残すのも論外だ。

ミユキの頭の出来から考えて、シズエとミユキビクトリーが二人っきりで会話を始めた時点で、誘導尋問やらハッタリやらで根こそぎ情報を搾取されてしまうだろう。

そうなれば、選択肢は一つしかない!

 

 

「シズちゃん、ヤヨちゃん。ちょっとキュアビクトリーと二人きりで話したいことがあるからさ、シズちゃんとヤヨちゃんは席を外してもらっていいかな?」

「えええっ!? 常識的に考えて愛人と本妻を二人きりにするとかサイテーだよ!? 殺人事件が起こるよ!」

 

※常識的に考えて愛人が居る時点でサイテーです。

っていうか、もしかしてヤヨちゃんって、シズちゃんに苦手意識ある?

シズちゃんって表情が分かりにくいし、クール系美少女ロールのせいで怖がられてるのかな??

 

 

「……ショーコが困っているわ。行くわよ、金元さん」

「私は嫌だぁ!(ヤヨイの怯える声) ダークネビュラ送りは嫌ぁ! ファントムを生みたくないぃ!!」

「ヤヨちゃん、意外と余裕ありそうだね?」

「夜野さん、ヤヨイちゃん、またねー!」

 

金元ヤヨイの首根っこを掴んで連行するシズエに、手を振りながら。

屠殺場に連れ込まれる家畜を見送るような笑顔で、ミユキビクトリーたちはヤヨイとシズエを送り出したのであった……。

ヤヨイがガチ泣きしているように見えたのは、きっと気のせいだろう。

シズエに例の誘導尋問をかけたぐらいなのだから、二人が本当に仲が悪いということは無い筈だ。

まさかシズちゃんに限って、昼ドラみたいな愛人イビリなんてある訳ないよね。(浮気者の希望的観測)

 

 

「二人は行ったみたいだし、とりあえず変身解除しよっか。やりかたは何となく分かるでしょ?」

「あっ、できた」

 

変身解除したミユキから『勝利の輝石』を返してもらって、やっとショーコは一息吐くことが出来た。

……と、ここでショーコは無駄な第六感を働かせた。

左右をキョロキョロと見まわして、何かを警戒し始めたのだ。

 

 

「ショーコちゃん、どうしたの?」

「いやぁ……なんか、前フリっていうかさ、こういう油断したときに巨大ナメクジ達が出てくるパターンかなって思ったんだけど、気のせいだったかなー……?」

 

昨日今日で不幸な事件が多発したせいで、思考がネガティブになっているショーコさんである。

心なしか、自慢のアホ毛も緊張に揺れている気がする。

今週の戦闘ノルマが来るんじゃないかと、警戒心を高めているようだ。

なお、↑のショーコの台詞を見て画面端のスクロールバーの位置を確認したオトモダチは作者と握手!

 

 

「巨大ナメクジ達って、さっきの苦い種を使ってカナシミーナを作る人達のことだっけ?」

「そうそう、悲しみの種を人間に植え付けることでカナシミーナを……」

 

そういえば、さっき机の上に悲しみの種子の残骸を提示して、説明したっけ。

先週キュアサイレントによって両断された悲しみの種子の残骸を、ショーコは拾っていたのだ。

一応証拠物品を失くさないように回収しておこうと、ショーコが机の上を見ると……机の上には、何も無かった。

 

……ここでショーコは、直前のミユキの台詞の中に、聞き逃してはいけない言葉が入っていたのに気づいた。

 

 

「えーとさ、ミユキちゃん、今何て言った?」

「巨大ナメクジ達が苦い種を使ってカナシミーナを作るんだよね? あれ? 違ったっけ?」

 

ちょっと、待とうか。

福圓ミユキさんや、あんた、どうして悲しみの種が苦いって知ってるの?

朝加ショーコは、自分の顔が真っ青になるのが分かった。

おい、吐き出せぇ!!(貴虎並)

 

 

「あれ? 何だか眠気が……カナシミーナァ!!」

「ちっくしょおおおおっ!! どれが前フリだったんだっ!? カイザギアか? 全部草加雅人って奴のせいなのっ!??」

 

福圓ミユキの身体が悲しみの黒い泥に包まれ、瞬く間に怪人カナシミーナへと変化していった。

残念ながら、今週の戦闘ノルマからは逃れられなかったようだ。

先週のキュアサイレントさんは殆ど戦闘ノルマを放棄していたって? 気のせいでしょ。貴方疲れてるのよ。

 

どのタイミングで福圓ミユキが悲しみの種子を食べてしまったのか不明だが、すぐにカナシミーナ化しなかったのは、一体なぜだろう?

摂取量が通常の半分だったからか、ミユキビクトリーに変身していたせいで症状の進行が遅れたか、もしくはサイレントが種を両断した時に何らかの突然変異が起きたのか?

その辺りは特定が困難なので、今すぐに考えるべき内容では無さそうだった。

 

 

 

「カナシミ・ハッピーロボォ!!」

「プリキュア・ビクトリー・チャージ! ……違った! チェンジ!!」

 

いつもの桜色のプリキュアに変身したショーコは、ピンクのツインテールの先に備わっている2つの金環を両手首に移動させ、ファイティングポーズをとった。

一方、カナシミーナはというと……いつもとは、装いが違った。

頭部は市販のプリンのような円錐台の形状をしており、肘先や膝下など各所が一回り太くなっている模様である。

身長はいつも通りの3メートルだが、いつもの黒マネキンとは少し趣が違うようだ。

どこか機械の雰囲気を感じさせる幾何学的な意匠は、まるでメタルヒーロー系のロボットのようであった。

不思議なことだが、突然変異の理由に心当たりが多すぎて、何が原因なのか究明するのは無理そうである。

 

 

「カナシミーナァ!!」

 

カナシミーナ・ロボが巨大な腕を振り回すだけで、空き教室内の机や椅子が舞い飛び、教室の窓ガラスが瞬く間に割れていく。

とりあえず、キュアビクトリーは回避につとめた。

室内の物品に関しては、少し待てば吹き飛ばす物も無くなるだろうし。

 

 

「空き教室で暴れてる奴は誰だぁっ! ……って怪物!? それとプリキュア!!?」

「学校の先生!? ちょうど良かった、生徒達を避難させてください! それと天井の穴をやったのも氷室幻徳……じゃなくて怪人です!」

 

 

駆け付けた先生に避難誘導を頼みつつ。

ビクトリーは、どこで戦うのが正解かと考えていた。

デカブツのカナシミーナ・ロボは狭い教室内だと動きにくそうなので、小回りの利くキュアビクトリーの方が有利である。

だが、死角が多い場所で戦うと、キュアサイレントが奇襲を仕掛けてきたときに、反応が遅れて首を落とされるかもしれない。

 

……広いところで戦った方が良いな。

ビクトリーは、両手首に装備していた2つの金環を、右手首へと重ね掛けした。

同時に、カナシミーナ・ロボも攻撃態勢に入っていた。

 

 

「カナシミ・ウルトラパンチィ!!」

「プリキュア・ビクトリー・マグナムッ!!」

 

カナシミーナ・ロボから放たれたのは、まさかのロケットパンチであった。

今から金環を換装して防御へ切り替えるのは無理だと判断したビクトリーは、こちらも攻撃にて迎え撃った。

巨大な拳を弾き返すべく、2つの金環を唸らせながら、ビクトリーは渾身の右拳を放った。

 

……次の瞬間には、ビクトリーの背中が校舎の壁をぶち破っていた。

コンクリートや鉄筋の残骸に紛れて、桜色の人影が校舎から叩き出された。

ビクトリーはパワー負けして、校舎の外まで吹き飛ばされたのである。

 

 

「が、はっ……!」

 

地面を転がったキュアビクトリーを追って、カナシミーナ・ロボも校舎から飛び出し、学校の裏手へと轟音と共に着地していた。

マズい。

ふざけた姿をしているのに、カナシミーナ・ロボは意外と強かった。

そういえばギャグ回の敵って雑に強い奴多いよな、なんて無駄な思考にソースを割いている余裕もない。

 

目を輝かせたカナシミーナ・ロボを見るや否や、ビクトリーは反射的に2つの金環を左手に付け直しつつ起き上がった。

カナシミーナ・ロボは、腰だめに両手を構えた。まるで『かめはめ波』のようだ。

 

 

「カナシミ・シャワー!!」

「プリキュア・ビクトリー・ウォール!!」

 

直後、漆黒の極太光線がキュアビクトリーに襲いかかった。

本当に光線系の技だったらしい。

半透明の障壁の向こう側は、完璧なまでに真っ黒に染まっていた。

 

 

「カナシミィ!!」

「負けるかぁっ!!」

 

しかも、やはり雑に強い。

ビクトリーの足元が、電車道のように抉れていく。

それでも……ビクトリーは、耐えきった。

攻撃の余波で体中が軋みをあげているものの、何とか凌ぎ切ったのである。

 

でもコレどうやって勝つんだよ、と頭の片隅で思ったビクトリー。

ところが、敵の姿を見た瞬間に考えが変わった。

 

……カナシミーナ・ロボは、尻を地面について座り込んでいる!

もしや、エネルギー切れか?

あれだけ強かったのは、スタミナ配分をまったく考えずに戦っていたからか?

 

座り込んでいるカナシミーナ・ロボをタコ殴りにするべく、キュアビクトリーは敵へと走り寄った。

 

 

「……待ちなさい」

「おっと!?」

 

走り寄ろうとしたが、敵とビクトリーの間に新手が割り込んできたので急停止せざるを得なかった。

言わずもがな、皆のアイドル……キュアサイレントさんである。今日も美しい。

 

 

「……あのカナシミーナの素体は誰?」

「福圓ミユキって子だけど、なんでそんなこと聞くわけ? 今日も邪魔しに来たの?」

 

不思議なことに、普段は絶対に来ない質問が来た。

何故サイレントは、今日に限ってそんなことを気にしたのだろうか?

カナシミーナの形状がいつもと違うからか?

ビクトリーの返事を聞いたサイレントが、無表情なのに、少しだけ安堵の感情を漏らしたような??

 

 

「……当然よ。それと、貴女の持つ『勝利の輝石』も回収させてもらうわ」

「こちとら朝から不幸続きで大凶気分なんだよぉ! あんたも地獄を見ろぉっ!!」

 

プリティでキュアキュアなんて無かった。(白目)

完全に私怨から来る八つ当たりである。

 

キュアビクトリーは、一直線に走ってキュアサイレントとの距離を詰めた。

当然、影の刃がビクトリーを串刺しにせんと、襲い掛かった。

だが、今のビクトリーは左手に2つの金環を装備している。

そして、左手に金環を装備している時の効果は、全体的な緩やかな身体能力上昇と防御力アップである。

その左手補正が二重にかかったキュアビクトリーは、速くて硬い台所の黒い影のような戦闘能力を誇る!

もっとも、右手装備時の圧倒的な打撃力強化が失われているのが非常に痛手な訳だが……。

 

 

「タイタンフォーム戦法を、なめるなよっ!」

「……調子に乗らないで」

 

キュアビクトリーは影の刃をもろともせずに、キュアサイレントの間合いへと踏み込んだ。

とっさに足元から直撃コースで影の刃を伸ばすサイレントだが、あくまで直進をやめないビクトリーは、足元の影の刃をそのまま踏み壊した。

さらに、サイレントの退路を断つべく複数の小さなビクトリー・ウォールを設置して、逃げ場を失くしながら。

左手の二つに金環を嵌めなおす時間的猶予もないままに、超至近距離へと踏み込んだ。

 

このまま殴っても決定打にならないのは、キュアビクトリー自身も承知済みである。

ならば、どうするか?

 

 

「プリキュア・ビクトリー・ホールドォ!!」

「……っ!」

 

超至近距離まで踏み込んだビクトリーは、両腕を広げてサイレントへと抱き着いた。

いわゆるホールド系の締め技で、肝臓ぐらいの高さの胴体と両腕を圧迫したのである。HUGっと!

予想外の追撃に対して怯んだサイレントに対して、ビクトリーは一切の躊躇なく両腕に万力を漲らせた。

我に返ったサイレントが、影の刃を無数に生み出してビクトリーを穴だらけにしようとするものの、防御特化モードのビクトリーには浅い傷がつくばかりであった。

 

「うおおおおおっ!!」

 

ビクトリーに抱えられているサイレントの両腕と背骨あたりから、人体から聞こえちゃいけない類の音が漏れ出していた。

抱きつき攻撃が決まってから、1秒未満の出来事である。

プリキュアの腕力って恐ろしい。

さすがのサイレントも、涼しい顔をキープ出来ないらしく、苦痛に顔を歪めた。

 

 

「……バースト!」

 

サイレントが咄嗟の判断として実行したのは……最終防壁の起動であった。

けたたましい音とともに、サイレントの装備していた紫の上着部分が、盛大に爆破されたのである。

さしもの重戦車ビクトリーといえども、たまらずに弾き飛ばされてしまっていた。

まさかプリキュアの装備にリアクティブアーマー機能が搭載されているとは思わなかったのだ。

 

千載一遇の勝機を逃したビクトリーは、すぐさま起き上がって、敵の様子を確認した。

サイレントは……衣装の紫の部分を殆ど完璧に失い、簡素な黒いワンピースのような衣装を残した状態であった。

よく観察してみれば、サイレントは背中側から伸ばした影を蜘蛛足のように使って、何とか立っているようだった。

だらりと下がった両腕と下半身は、おそらくまともに力が入らないのだろう。

 

変身を解除すれば物理的外傷は消えるとはいえ、痛みは残るので、まず丸一日は活動できないはずだ。

ビクトリーへと険しい目を向けているサイレントだが、かなりの重傷を負っている様子が見て取れた。

一方のビクトリーは、全身に切り傷と刺し傷をこしらえながらも、しっかりと二本の足で地面に立っていた。

 

 

「あたしは、まだ人間を手にかけたくない。今、サイレントが撤退するなら、あたしはカナシミーナを優先して倒す。だから……退いてよ、サイレント」

「……私を見逃したことを、後悔する日が来るわよ」

 

陰で形成された蜘蛛足を器用に使って、サイレントはあっという間に学校の裏山へと消えていった。

やはり、自力で走るのが無理なレベルの深手だったようだ。

 

サイレントの後ろ姿が消えたのを見送ったビクトリーは、ようやく緊張を半分だけ解くことが出来た。

あとは、カナシミーナにとどめを刺せば終幕だ。

幸いなことに、カナシミーナ・ロボは、未だに座り込んだまま動かない。

残る問題はといえば……、

 

 

「引いてくれなかったら、マジで危なかった……!」

 

キュアビクトリーの右手が、ぐちゃぐちゃに潰れていることである。

最初にカナシミーナ・ロボのロケットパンチをビクトリー・マグナムで相殺したときに、既に右拳は潰れていたのだ。

サイレントと戦った時に左手に2つの金環を装備したままだったのも、無暗にパンチが撃てないからだったりして。

ハッタリ頼りの、薄氷の上の勝利であった。

 

でも、倒れているとはいえカナシミーナ・ロボにとどめを刺すには、やっぱりビクトリー・マグナムが必要な訳で。

撃ったら絶対に、泣くぐらい痛い。

なお、撃たないという選択肢はない。

 

 

「ホントに大凶日和だよ……。って言ってても仕方ないか。最後に一発ぶちかましてやる! プリキュア・ビクトリー・マグナムゥッ!!」

 

直後。

カナシミーナ・ロボの頭部がマミって、素体となっていた福圓ミユキが姿を現して。

同時に、勇ましい勝鬨とは程遠い、情けない悲鳴が響いたのだった……。

 

 

 

 

 

 

その後、変身解除して自宅に戻ったショーコは、自身の携帯端末に入っていたメッセージを目にして絶望を深めることとなる。

なんでも、シズエの体調が悪いらしく、夕飯は自分で何とかしてほしいゴメン、とのこと。

さらに、変身解除後も丸一日残った右腕の痛みのせいで色々と日常生活に支障をきたし、カップ麺をひっくり返すなど本当に厄日であった模様……。

あわれである。

 

 




・今回のNG大賞

二人っきりで部屋を出て行ったシズエとヤヨイはといえば?

ヤヨイ(ガクブル)
シズエ「……ショーコは、『あたしの小指は友達みんなと赤い糸で繋がってるからー』なんて言う人だもの。交友関係に口出しなんてしないわ」

ヤヨイ「その迷言って、続きがあるんだよ。たぶん『だが、全ての指が赤い糸で繋がっているのはお前だけだ!』ってショーコちゃんも言いたかったんだよ」
シズエ「……」

ヤヨイ(あれ? 無表情っぽいけど、もしかして照れてる? ちょっとカワイイかも……??)
※その迷言を残したライダーは人妻にモーションをかけた挙句、その夫の手で殺されました。




・次回予告!

家電屋の一人娘の高橋ミライは、留学生のリコと一緒に、テディベアの『モフルン』に命を与えるべくロボット工学を勉強しているんだって!

そんな高橋ミライは、小さいころはモフルンとお喋りできたんだ、なんて言い出して……!?

次回『Dokkin♢約束のモフモフモフルン!』わくわくモンだぁ!
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