ふたりはVSプリキュア!   作:カードは慎重に選ぶ男

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第八話:Alright! 運命のエンカウント!

「ショーコ、シズエ! まずいことになっちゃったよ! このままだと、この学校は壊滅する!」

「大体わかった! ……ってなるかーい!? 順を追って話してよ!」

「……出たわね。珍獣1号」

 

ΩΩΩ<な、なんだってー!?

なんてネタはさておき。

放課後の教室にて、ショーコたちに微妙に古いネタを振ってきたのは、同じ学年の水沢エリカだった。

引坂ハナと並ぶぐらいに小柄な背丈で、背中にかかった髪の毛先が妙に波立っているのが特徴といえば特徴だろうか。

 

開幕の台詞から分かる通り、生粋のお調子者である。

その場のノリとテンションに身を任せるタイプとも言う。

果たして、水沢エリカが持ち込んだ厄介事とは、いったい何なのだろうか?

 

 

「実は、ツボミが隣のクラスのイツキに告白するらしいんだよね。そうすると何が起こるかっていうと?」

「やったね、失恋メイツ!」

「……家族が増えるわね」

 

おいやめろ、という声が放課後の教室のあちこちから聞こえた。

幸運にも、失恋メイツの現職である中島メグミと美山イチカは教室には居なかったようだが。

 

それと、ツボミというのは生物学系のリケジョで、水沢エリカの親友だ。

本名は水樹ツボミで、園芸部に所属していたはずだ。

たしか、地球外でも育つ植物を創るのが夢だとか言っていた気がする。

校内の裏番付にて『将来バイオハザードを引き起こしそうな人間』ランキングの名誉の1位を獲得した才女でもある。なお、2位は野上ホノカである。

 

 

「今までの失恋メイツが実質無害で済んでるのってさ、メグミとイチカがアホだからでしょー? つまりさ……」

「今週末までには学校中に『吸血木』みたいなのが生えるかも?」

「……早急な対策が必要ね」

 

生物兵器は冗談だが、いつも真面目で良い子な水樹ツボミが闇落ちするのは、目に毒である。

いやまぁ、中島メグミや美山イチカも普段は良い子ではあるのだけれども。

普段ボケ気味なメグミやイチカが死ね死ね団紛いのことをしているならギャグで済むのだが、ツボミがやると鬱展開があり得る。

 

 

「ってかさ、根本的な疑問として、ツボミちゃんはイツキちゃんの性別は知ってるわけ?」

「知らないんじゃないかなー? 私が早めに教えてあげれば良かったんだけど、なんか言いだしにくくてさー」

 

ノリとテンションに任せて生きてるから、そういう事になるんだよ!

水沢エリカには是非、今後の身の振り方を考え直して欲しいものである。

もちろん、それが出来ないからこそ、エリカは『珍獣』1号なわけだが。

 

補足情報を出しておくと、桑島イツキは男装系の女子である。どこのエロゲだ。

男子用の学ランを着込んでいるものの、特に性別を隠しているわけではない。

なので、同じクラスになって体育を一緒に受けた生徒なら全員イツキの性別を知っているのだが、ツボミは違う模様。

 

 

「思ったんだけど、なんで女の子同士じゃダメなんだろ?」

 

ここで珍獣エリカが議題に石を投げ込んだ!

しかも結構大きな石かもしれない。

目を真ん丸にして、何も考えていないような顔をしているくせに……!

 

 

「あたしは性別なんて気にせずに自由恋愛で良いと思うんだけどね」

「……」

 

ショーコは割と恋愛沙汰の噂話を仕入れている一方、シズエは恋愛沙汰自体にそもそも興味が無さそうであった。

窓の外に視線を向け始めたシズエは、いつものクール系美少女ロールを全うしている模様。

一応、付き合いが長いショーコには分かる。アレは今日の夕食の献立を考えている顔だ。

失恋メイツの闇落ちに関してはシズエも気にしているようだが、その原因である恋愛には頓着しない姿勢ということだろう。

 

 

「ショーコが言うと、それはそれで別の意味に聞こえるっていうか……。正直、ショーコってほぼ男子じゃん?」

「うん? エリカちゃんも、あたしに惚れちゃった? 人気者は辛いなー」

「……!」

 

窓の外を見ていたシズちゃんが、ショーコの言葉に一瞬だけ反応したような?

どの部分が心に引っかかったのだろう。

これ以上愛人が増えたら嫌よ、的な意味だったりして?

 

まぁ、それはそれとして。

一応ショーコは、肩にかからない程度の長さとはいえ髪は手入れしているし、顔立ちも別段男顔という訳でもないのだが。

アホ毛は……まぁ、男子女子どっちも居るだろう。

 

 

「ってかさ、あたしが男子っぽいって、どんなところ?」

「それは、うーん……仮面ライダーとか好きなところ?」

 

「でもさ、ヤヨちゃんとかも特撮好きだけど、あっちは普通に女子扱いじゃん?」

「そういわれれば、そうかも。逆に隣のクラスの皆川君とかは男子でもプリキュア好きだし……」

 

一応補足しておくと、金元ヤヨイは巨大ロボから美少女系まで幅広くカバーしているタイプのオタである。

ショーコと絡む時は東映系のネタが多めになるだけだったりする。

確かに、あちらの金元ヤヨイは小動物系女子であって、間違っても男子扱いなんてされないだろう。

 

 

「ううーん、ショーコとシズエとの間の相対的なモノかなぁ? なんか二人が一緒にいると、奔放亭主と良妻賢母の雰囲気を感じるっていうか……」

「そうかな? 仮面ライダーWに出てくる所長と照井竜の夫婦をイメージすると、むしろシズちゃんがクール系の竿役に見えてこない?」

「……それは、褒められているの……?」

 

竿役言うなし。

だが確かに、所長と照井竜の夫婦で考えると、ショーコの方が妻役な気がしてくるのが不思議である。

あの夫婦も、食事は基本的にハイスペックな照井竜が作っているわけだし。

なお、クール系の竿役という評価に対して、シズエは喜んで良いのかどうか分からず困惑していたりして。

 

 

「ぶっちゃけて聞くけどさ、クールで一図でメシウマな旦那って羨ましいっしょ?」

「羨ましいっしゅ! そんな旦那に一生支えて欲しいー!!」

「……」

 

話が脱線してんぞ、おい。

ツボミの恋バナは何処に行った。

一方、シズエは窓の外を見ていた。少し照れているのかも?

あと、結局男子っぽさって一体何なんだろう……。

 

ちなみに、シズエが寡黙で一図な料理キャラなのは、シズエの人格モチーフが7割方ルパンブルーだからである。(唐突な制作秘話)

残りの3割は歴代の紫キュアの要素を適当にレッツ・ラ・まぜまぜして完成した模様。

 

 

「でさ。正直、男と女なんて言うほど違わないでしょ。要はツボミちゃんが『男が好きなんじゃない、お前が好きなんだ!』って言えれば良いワケ」

「言いたいことは分かるけど、なんでBL風味?」

「……ショーコは、雑食」

 

一応、残る問題として、イツキのストライクゾーンに女子が入っているのかという疑問があるが……。

そこは当たって砕けろとしか言えないだろう。

結局、相手のストライクゾーン次第なのは、どんなカップリングでも男女問わずに同じわけだし。

 

 

「あとは、ツボミちゃんが告る前に、今の話を要約して言い含めれば良いってこと。オーケー?」

「よーし! 任せた、ショーコ!」

 

「あんたがやるんだよ」

「えっ? キコエナカッタナー」

 

いや、絶対に聞こえてるだろ。

目を点にしているエリカは……もしかして、マジボケしているんだろうか?

そんな返しが来るなんて思わなかった、という顔である。

耳に手を当てても、ダメなものは駄目なのだ。言い出しっぺのお前がやれ。

 

 

「自慢じゃないけど私、夏休みの宿題は最終日までとっておくタイプなんだよね」(キリッ)

「シズちゃーん、このアホを縛り上げて園芸部のツボミちゃんの所まで連行して!」

「……仕方ないわね」

 

ショーコが頼んだ瞬間には、シズエが足払いでエリカを転ばせていた。

しかも、いつの間にか教室の隅から延長用の電気コードを拝借していたらしく、瞬く間にエリカの両手を背中側で縛って拘束した。

手順的に考えて、ショーコが頼む前から延長コードを回収していたとしか思えない。凄まじい手際と連携である。

そのまま、芋虫になったエリカを、シズエは肩に担ぎ上げた。

 

 

「イヤぁーっ!? もっと優しく抱き上げてよぉー!?」

「エリカちゃんみたいなアホは、お米様抱っこで十分でしょ。シズちゃん、いってらっしゃーい」

「……行ってくるわ」

 

がらり、と教室のドアを開閉させる音を残して。

ひらひらと手を振るショーコを後に、シズエとエリカは教室を出て行ったのであった。南無。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……朝加さん……」

 

……か細い声が、一仕事を終えた後のショーコを呼び止めた。

ふとショーコが回りを見ると、同じ学年の村中アオイが近くまで来ていた。

村中アオイは軽音部と料理部を掛け持ちしている元気っ娘で、そのハスキーボイスはジャンプ系アニメの主人公に居そうだと評判である。

だが、そんな体力を持て余しているタイプの女子が、か細い声を出すとは思えない。

村中アオイを盾にするような形で、もう一人女子が居るようだ。

 

 

「その、さっきの話、イチカちゃんにも話してもらえないでしょうか……?」

「うん? ああ、その声はヒマリちゃんか」

 

よく見ると、村中アオイの背中側に隠れているのは、同じ学年の福原ヒマリだった。

水沢エリカや引坂ハナと同じぐらいの小柄な体系で、リスのように臆病な料理部の女子である。

……この学年、なんか小さい子多くね?

 

 

「ええと、私が説明できれば良いんですけど、自信が無くて……」

「どうしたヒマリ? なんか全然話が呑み込めないんだけど?」

 

福原ヒマリは、その小さな頭を村中アオイの背中側から覗かせながら、言葉を続けてきた。

臆病なりに勇気を出してショーコに話しかけてきたであろう、微笑ましい光景であった。

盾にされている村中アオイは、若干困っているようだが。

 

 

「あたし、分かっちゃったかも。イチカちゃんがフラれた理由も、アキラ先生が女性だからってことなわけ?」

「そうなんです……」

「ええっ!? アキラ先生って女性だったのか!?」

 

というか、福原ヒマリの話を詳しく聞いてみると、どうやら美山イチカは告白してすらいないらしい。

幸か不幸か、学校医の森アキラ先生が実妹と電話で会話している場面に、美山イチカは居合わせたとのこと。

電話越しにアキラ先生が「お姉ちゃん」と呼ばれた様子から、イチカは全てを察して涙を流したそうだ。

 

 

「仕方ないなぁ。そういうことなら、この朝加ショーコさんが一肌脱いでやりますか!」

「あ、ありがとうございます……!」

 

頼りにされたとあっては、人助けメイツとして動かねばなるまい。

美山イチカの尻を叩いて、男とか女なんて関係無ぇ! と言ってきてやるか。

 

 

「あれ? なんかエリカの時と対応違うような?」

「いやいや、珍獣のエリカちゃんと小動物系のヒマリちゃんが、同じ扱いな訳無いじゃん!」

「お米様抱っこは嫌です……」

 

エリカェ……。

真面目なヤツは基本的に好きなショーコさんなのである。

村中アオイの苦笑いが、やけに印象に残った一幕であった……。

 

 

 

 

 

そこで終われば「イイ話」だったのだが。

そうは問屋が卸さないのである。

具体的に言うと、戦闘ノルマの時間がやってきた。

 

窓の外に、巨大ナメクジを抱えて走るカナシミーナの姿が見えたのだ。

ショーコは即座に非常階段へと隠れた。

 

「プリキュア! ビクトリー・チェンジ!」

 

そのまま校舎の3階から飛び降りつつ。

ピンクのツインテールに付いた金環を左手に二つ嵌め直しながら、ビクトリーは考えていた。

今回の被害者は誰だろう、と。

巨大ナメクジがカナシミーナを作る時は、宿主はカナシミーナとは別行動をとるはずだ。

 

裏山に駆け込もうとしているカナシミーナを、ビクトリーは追跡しようとするが……。

 

 

「おっと、またあんたか!」

「……邪魔は、させない」

 

黒の下地に紫の上着を羽織ったプリキュアが、影の刃で切り込んできていた。

キュアサイレントの攻撃を横っ飛びに回避したキュアビクトリーであったが、状況は宜しくない。

既に、カナシミーナと巨大ナメクジは裏山の森の中へと姿を消していた。

 

 

「昨日の友は今日の友、って訳にはいかないか。やっぱり」

「……貴女と友になった覚えはないわ」

 

正確には、大学生女子のカナシミーナを倒したのは昨日の出来事ではないのだが、慣用表現というヤツである。

案の定、キュアサイレントはツンデレなんて柄ではないらしい。

冷たい視線を突き刺されて、ビクトリーは身の危険を感じた。平常運航(いつものこと)である。

影の刃を侍らせて、キュアサイレントは戦闘態勢だった。

 

 

「待った! 作戦タイム! 交渉を要求する!」

「……言ってみなさい。命乞いなら聞かないわ」

 

が、ここでビクトリーは左掌を突き出して、一時休戦を要求してみた。

サイレントは、眉を顰めながらも一応提案に乗ってくれたようだ。

まぁ、サイレントはビクトリーの足止め(+殲滅?)を目的として現れただろうから、時間稼ぎはサイレントの方に有利に働くのだ。

というか、今から走っても多分カナシミーナには追い付けない。

 

 

「万が一あたしたちが共倒れになると、カナシミーナを倒す人が居なくなって被害者は廃人一直線なんだよね。ここは、お互い会わなかったことにして一度退散しない?」

「……聞くだけ時間の無駄だったわね」

 

キュアサイレントは、容赦なく影の刃を伸ばして襲い掛かってきた。

交渉は決裂である。予定調和(いつものこと)である。

キュアビクトリーは、既に左手に2つの金環を装備していたので、全体的に上がった身体能力をフル活用して逃げに徹した。

 

 

「今あたしたちが戦っても、良い事は無いんだってば!」

「……今後も『不幸の果実』の収穫の障害になる貴女を排除しておくメリットは、私にはある」

 

学校の裏手の開けた土地で、ビクトリーは身の振り方を考えていた。

この間のビクトリー・ホールドは、二度も通じる手段とは思えない。

ビクトリーの戦法が基本的に「近づいて殴る」だけなのに対して、サイレントの戦法が多彩過ぎるのが辛い。

 

 

「ふんっ!」

 

仕方がないのでビクトリーは……少しだけ気合を込めて、足元のマンホールの蓋を踏んだ。

衝撃で少しだけ浮いたマンホールの蓋を、ビクトリーはそのままサイレントへと蹴りつけた。

流石のサイレントも、乱回転している鋼鉄製の金属板を豆腐のように切断することは出来ず、回避を余儀なくされていて。

その隙に、ビクトリーは下水道へと一目散に逃げだしたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

そんな、いざこざの後。

変身解除して学校に戻ってきたショーコは、まっすぐに保健室へ走った。

巨大ナメクジの被害者がいれば、まず保健室に運ばれると予想できるからだ。

救急車を呼ばれる可能性もあったのだが、学校付近で救急車のサイレンらしきものを聞いた覚えは無かった。

 

 

「朝加さん? そんなに息を切らせて、どうしたんですか?」

「ショーコ……!」

 

……ちょうど良いタイミングで、保健室から出てきた二人組が。

真面目なリケジョの水樹ツボミと、お調子者の水沢エリカだ。

ツボミは普段から知的な雰囲気はあるが、エリカと並んでいると更に2割増しぐらい知的に見える。フシギダナー?

 

ツボミの様子は、落ち着いて普段通りに見えた。

一方のエリカは、どこか平常心を欠いているように思えた。

ショーコは……カナシミーナの被害者に、9割方予想がついた。

 

 

「ツボミちゃん、今の体調は? さっきの巨大ナメクジにやられたんじゃないの?」

「ビックリして、ちょっと転んだだけです。大きな怪我は無くて助かりました。ね、エリカ?」

「そ、そーだね!」

 

なるほど。

このパターンは、やはり嶋村ハルカの時と一緒だ。

 

まだ、ショーコにも勝利の目は残されている。

嶋村ハルカとの会話の中から「花」というキーワードを見出してカナシミーナを探し出したように、水樹ツボミにも同じ手が使えるかもしれない。

水樹ツボミの記憶の中から印象深いキーワードを抽出して、カナシミーナを探せる可能性はある。

ただし、切り込み方が重要だ。

 

・桑島イツキへの恋心を抱いた水樹ツボミ。

・地球外で育つ植物を創る夢を追う水樹ツボミ。

 

ショーコは、二つの水樹ツボミを知っているのだ。

どっちの方面から切り込む?

 

 

……恋愛の方で攻めるかなぁ??

 

 

朝加ショーコは、黙って水樹ツボミとの距離を詰めた。

ツボミは困惑しながら後退り、ショーコは構わずに歩み寄った。

壁際へとツボミを追い詰め、ツボミの頭の横の壁に手をついて、逃げ道を塞いでやった。

追い詰められたツボミへと、ショーコは真剣な眼差しを向けていた。

 

 

「ツボミちゃんが巨大ナメクジに黒い種子のようなものを植え付けられたのを、遠目に見たよ」

「そっ、それは、その……ごめんなさい、ウソつきました……!」

 

もちろん、このショーコの台詞はデタラメである。

金元ヤヨイが使った引っ掛けを、そのまま自分で使ってみたのだ。

効果は……覿面だった。

水樹ツボミは、ショーコと目を合わせることが出来ず、視線は泳ぎっぱなしである。

 

同性からの壁ドン程度で挙動不審に陥るとなると、ツボミはかなり初心な乙女なのかもしれない。

そんなツボミの顎に手を伸ばしたショーコは、やさしくツボミの顔の向きを正面に直してやりながら、囁いた。

 

「教えてよ。ツボミちゃんの内緒にしてるコト、全部さ」

「なっ……!? そんな、いけませんっ! 私たち、まだ、でも……あああうっ!?」

 

顔を茹蛸のように真っ赤にした水樹ツボミは、目をぐるぐる回して座り込んでしまった。

と同時に、「スパァン!」という小気味の良い音が廊下に響いた。

水沢エリカが、紙製のハリセンで朝加ショーコの後頭部へとツッコミを入れた音だった。そのハリセンどこから出したの?

 

 

「やっぱりショーコ、男子じゃん! オオカミじゃん! 海より広い私の心も、ここらが我慢の限界よ!!」

 

ツボミの純潔は私が守る、なんて息巻いているエリカが、ショーコの背後に仁王立ちしていたのだ。

まぁ、紙製ハリセンの一撃なので、別にショーコは後頭部にダメージを負ったわけではないのだが。

 

 

「ゴメン、ゴメン。壁ドンはセーフだと思ってるけど、顎クイと思わせぶりなコトを言ったのは完全に悪乗りだった。ゴメンね、ツボミちゃん」

「はぅ……」

 

頬を紅潮させたまま、放心状態のツボミは……まだ、現実世界に帰ってこられない模様。

意外に純情な乙女心をハートキャッチされてしまったようだ。

リケジョと乙女心の間の相関は不明なので、統計データが欲しいところである。

 

 

「まったく、ショーコはシリアス顔をしてると謎のイケメン補正入るよね。アレはツボミ以外でも危ない威力だったよ?」

「え? そうなの??」

 

ショーコとしては、若干悪ふざけをしたぐらいの印象だったのだが、エリカ的にはアウトらしい。

謎のイケメン補正と言われても、ショーコとしては何が何やらである。

学校医の森アキラ先生がイケメン女子なのは分かるのだが、自分が言われるとは思ってもみなかったのだ。

 

 

「こうか?」(キリッ)

「それは、いわゆるハーフボイルド顔ってヤツじゃないかなー」

 

しかも自力再現が出来ない。不思議である。

水沢エリカの妄言である可能性を疑った方が話が早いかもしれない。

ツボミちゃんは、不幸の種子のせいで普通に体調不良で倒れたんだろ!

 

 

「でさ。実際ツボミちゃんの容態は、どうなの?」

「全体的に身体中に違和感があって、悪寒がするって保健室で言ってた。本当は口止めされてたんだけど……」

 

引坂ハナと嶋村ハルカの例を考えると、巨大ナメクジは廃人化までの流れを説明してから去ったのだろう。

言いづらそうにしている水沢エリカの様子から、朝加ショーコは察していた。

 

 

「ダメです、ううっ、私には心に決めたイツキ君という人が……っ! はっ? ここは??」

 

ツボミ は しょうきに もどった !

水樹ツボミが現実世界に復帰したのだ。

何やら愉快な夢を見ていた様子。

その夢の内容が容易に想像できるのが微笑ましい。

 

 

「あれ? 覚えてないの? 驚いちゃったよ。ツボミちゃんが、あんなに『激しい』なんて」

「なっ、なななななっ!? 夢じゃなかった!? ち、違うんですっ! 本当に気の迷いだったんですっ!」

 

さらなるネタを投下しようとしたショーコの後頭部へ、本日二度目のハリセンツッコミが炸裂したのであった……。

 

 

 

 

 

 

「それでさ。ツボミちゃんは、この後どうする? 本命の桑島君のところに?」

「もうっ、からかわないでください! 実は園芸部で苗を植え替えようと思っていたんです」

 

……あれ? 告白じゃないの?

エリカは桑島イツキの性別の話をしたんだよね?

そう思ってエリカへと視線を送ると、アイコンタクトが返ってきた。説明済みらしい。

んん? どういうことだ?

 

 

「今告白しても、私が居なくなった時にイツキ君に余計な気を使わせてしまいますから……」

「ツボミがそう言うもんだから、私もそれ以上言えなくてさ……」

 

ショーコとエリカの無言の会話を察したツボミが、回答を提示してくれた。

なんとなく、ショーコはツボミの考えが分かる気がした。

明日地球が滅びるとしても今日私はリンゴの木を植える、的なヤツだろう。

もしくは、花が咲くまで生き延びられるように、という願掛けかもしれない。

 

これは……ショーコは、二択を間違えた可能性が濃厚である。

地球外で栽培できる植物を創る夢の方が、ツボミの中ではウェイトが大きかったようだ。

 

 

「園芸部で思い出したんだけどさ。ツボミちゃんって、なんで宇宙でも育つ植物を創るって言い始めたの?」

「お恥ずかしい話ですけど……小さいころにお祖母ちゃんと一緒に、花に囲まれた大空の樹の広場で満天の星を見たんです」

 

その時に、宇宙の星々を花で満たすという夢を抱いたとのこと。

なんだか色々と飛躍があるような気もするが、小さいころの思考回路なんてそんなものだろう。

というか、その時の感動を中学生になるまで持ち続けているのは、実は稀有なことなのかもしれない……。

 

 

「その……おかしい、ですよね、やっぱり。でも私、その時の感動が忘れられなくて……」

「いいじゃん、いいじゃん。どれぐらい難しい事なのか分からないから、無責任に「絶対叶うよ!」とかは言えないけど」

 

この年で仮面ライダーを見続けてるあたしだって良い勝負だし、なんてショーコは笑いながら。

頭の隅で、ふと思った。

あたしの夢ってなんだろう、と。

まぁ、今は水樹ツボミの命を救うのが先決な訳だが。

 

 

「そうだなぁ、もしツボミちゃんが躓いて、夢に向かって頑張れなくなる日が来たら……さっきの『続き』をして慰めてあげても、いいよ?」

「えっ……」

 

ばぁん、なんて指鉄砲でツボミのハートを打ち抜くようなマネをしながら。

いたずら好きを思わせるウィンクを残して、朝加ショーコは立ち去った。

目的地はもちろん、大空の樹の広場である。

 

そんなショーコの背中を、胸を押さえたツボミは何も言えずに見送ったのであった。

 

 

「ショーコは大変なものを盗んで行ったね! ツボミの恋心を!!」

「わわわっ!? ち、違いますっ! 本当に何かの間違いなんです! 私が好きなのはイツキ君なんですってばぁ!!」

 

ニヤニヤ顔のエリカと、我に返って慌てふためくツボミ。

二人は……意外といいコンビなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで。

変身して学校の裏山を走り抜けたショーコは。

大空の樹の広場で……無事にカナシミーナを発見できたのであった。

カナシミーナの頭の植物は、葉が6枚ほどに成長しており、結実にはまだ遠いようだ。

巨大ナメクジは、どこかへ一人で逃げたのか、姿が見当たらない。

 

……広間では、既に戦闘が始まっていた。

カナシミーナが、三毛猫を追い回している??

 

 

「カナシミ・ブロッサムゥ!」

「ぎょえええっ!? 吾輩は食べても美味しくないのであーるっ!!」

 

巨大な黒マネキンが、喋る三毛猫を掴み取っていた。

ビクトリーも意味が分からなかったが、とりあえず助ける以外の選択肢が無い。

 

 

「プリキュア・パンチッ!」

 

あいさつ代わりに金環を一つだけ纏った右拳を叩き込んで、カナシミーナをブッ飛ばしながら。

キュアビクトリーは、難を逃れた三毛猫に注意を向けていた。

尻尾の先が三味線になっている、摩訶不思議な生命体は……どこかで見たような?

 

 

「其方は、もしや? 伝説の戦士プリキュア、であるか……?」

「勝利の光! キュアビクトリー!!」

 

とりあえず名乗りつつ、ビクトリーは自身の記憶を漁っていた。

この化け猫、どこで見たんだっけ?

 

そうだ!

UMA捜索ツアーのしおりに載っていた奴だ!

 

 

「って、あんたミミンガじゃん!? 実在したの!?」

「助けてくれて感謝なのである! しかし、積もる話は後にするであるぞ!」

 

歓談の暇も与えずに、カナシミーナが突撃をかましてきた。

掌を肩の高さに構えて、掌底を放ってきたのである。

とっさにプリキュアパンチで相殺しようとするビクトリーだったが、

 

 

「カナシミ・インパクトォ!」

 

まるでカナシミーナの掌の先で爆発でも起こったのかと思うような衝撃が、ビクトリーを弾き飛ばした。

プリキュアという生き物は総じて筋力に釣り合う体重を持っていないため、割と簡単に宙を舞ってしまうものなのである。

 

大空の樹に背中から叩きつけられたビクトリーであったが、それほどのダメージも見せずにすぐさま起き上がることが出来た。

体重が軽いということは、落下・激突のダメージが小さいという事でもあるのだ。

 

 

「ビクトリー殿! ここで戦うのはマズいのである! 大空の樹にダメージが入ると、異界門が壊れて『黄昏の園』に帰れなくなるかもしれないであるぞ!」

「聞きたいことは一杯あるけど、とりあえず分かった!」

 

三毛猫の焦った声を聴きつつ、ビクトリーは考えた。

カナシミーナの掌底による弾き飛ばし攻撃は面倒だが、攻撃力は見た目ほどではない。

加えて、『不幸の果実』が実る前であるせいか、カナシミーナのスペックは全体的に低めのようだ。

ただし、嶋村ハルカの時のようにクレーターパンチを撃ってしまうと、大空の樹にダメージが入る恐れがある。

しかも、あまり戦闘が長引くと首狩り族のサイレントさんが遊びに来てしまうかもしれない。

 

少しだけ考えを巡らせたビクトリーは……両手にはめていた金環を、右手に重ね掛けした。

作戦は決まった。

多少相手が小賢しくても、スペック的にはビクトリーの方が上っぽいのでゴリ押しで良いんじゃないか、と。

 

 

「カナシミ・インパクトォ!」

「プリキュア・ビクトリー・マグナムッ!」

 

何かが破裂するような音を立てながら、掌底と拳が激突した。

衝撃で、カナシミーナとビクトリーは互いに後退してしまうが……ビクトリーは弾き飛ばされる方向を下方へと調整し、瞬時に地面に踏みとどまった。

そのまま、ビクトリーは再度の強襲をしかけた。

 

 

「カナシミ・インパ……」

「その技は見飽きたっての!」

 

三度の掌底攻撃を放とうとしたカナシミーナの手首を……ビクトリーは、ハイキックで宙へと蹴りあげてやった。

そして、体勢を崩したカナシミーナへとビクトリー・マグナムを叩き込んで勝負を一気に決める予定だったのだが……、

 

 

「カナシミィ!」

「おっと、今のをかわすか!」

 

カナシミーナは、上空へとハイジャンプして難を逃れていた。

だが、すかさずビクトリーは、落下予想地点へと回り込んだ。

 

 

「カナシミ・フォルテウェーブッ!!」

「なんのっ!」

 

カナシミーナが、上空から球体状の光弾を放ってきた。

とっさにビクトリーは、高速回転を始めていた右手側の2つの金環に当てる形で光弾を受けた。

正面から受け止めるのではなく、いなして弾き飛ばす要領で光弾を凌いだのである。

 

空をジャンプ中のカナシミーナと、地上から見上げるビクトリーの視線が交差した。

カナシミーナは、指揮棒のような武器を取り出して、振り下ろし攻撃を仕掛けようとしているようだった。

そんなカナシミーナの攻撃のタイミングを外すべく……ビクトリーは、自分もハイジャンプによって空中の敵へと肉薄した。

 

 

「カナシミィッ!?」

「これで決まりだ! プリキュア・ビクトリー・マグナムッ!!」

 

なまじ長柄の武器を取り出してしまったカナシミーナは、意表をついて懐へ飛び込んできたビクトリーに対応できなかったのだ。

耳をつんざくような爆音を伴いながら、カナシミーナは爆炎へと消えていったのであった……。

 

 

 

 

 

 

カナシミーナを撃破したキュアビクトリーは、即座に三毛猫モドキを掴み、戦場からの離脱をはかった。

恐怖の化身ことキュアサイレントが来る前に、大空の樹の広場から逃げ出さなければなるまい。

 

……と思ったのだが。

突如として、周囲の雰囲気が一変した。

ぴりぴりしている、と言えばいいのだろうか。

森の木々が何かに怯えているような、そんな騒めきが広場を支配していたのだ。

 

空間に突如として浮かび上がった漆黒の渦が、口を開いた。

中からは、生理的嫌悪感を催す異形が姿を現した。

 

その異形は、全体的に緑色の体躯と両生類の粘液の質感を持っていた。

首から下は筋肉質な男性のようなシルエットなのに、首から上はカエルのものだった。

身長は2メートル超えようかという巨体で、キュアビクトリーを見降ろしていたのだ。

特に敵意は感じられない、朗らかな笑顔を見せている筋肉ガエルの正体は……。

 

 

 

 

 

「やあ、初めまして、キュアビクトリー君。私が『雨の軍勢』の親分、トノサ=マッスルだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふたりはVSプリキュア!』

第八話:Alright! 運命のエンカウント!

 

 

 

 







・今回のNG大賞

サイレント(……ビクトリーを追って下水道に入ったら、普通に迷って出られなくなったわ)



・次回予告!

朝加ショーコと夜野シズエの前に、人参の妖精を自称する着ぐるみマンが現れた!

人参の妖精マナッシーは、友達の人参嫌いを直す手伝いをしてほしいと依頼してくるが……!?

次回『Happy Go Lucky! マナッシーからの依頼!』あなたに届け、マイスイートハート!
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