ふたりはVSプリキュア!   作:カードは慎重に選ぶ男

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第九話:Happy Go Lucky! マナッシーからの依頼!

「やあ、初めまして、キュアビクトリー君。私が『雨の軍勢』の親分、トノサ=マッスルだ」

「ええ……っ?? あたしはキュアビクトリーです」(万丈並の感想)

 

丁寧な低い声で自己紹介をしているマッチョガエルを前に、キュアビクトリーは思った。

今トノサ=マッスルが言った『雨の軍勢』は初めて聞いた単語だ、と。

なんだそれ? 質問して良いの?

この筋肉質な巨大ガエルは、一見すると温厚そうに見えるので、意外と真面目に答えてくれるかもしれない。

ここは……軽いノリで対応してみて、様子を見るのがベタか?

 

 

「はい、質問! 『雨の軍勢』って何ですか??」

「そこからなんだね。簡単に言うと、不幸の種子を使って『ゲーム』をしている愉快なサークルさ」

 

やべー奴じゃん(粉ミカン)

しかも、もしかしてさっき、親分って言いました?

確かに、筋肉質な2メートルな巨漢は、見るからに強そうである。

顔はカエルだし、身体は粘液に包まれた緑色だけど。

 

 

「なるほど。親分ってことは、もしかして凄く強い? キュアサイレントと戦ったことあったりして?」

「いやぁ、キュアサイレントは強敵だったね。どっちが勝ってもおかしくない名勝負だったよ。私が勝ったから『黄昏の園』は滅んだけどね」

 

ビクトリーは作り笑顔をキープしつつ、一歩後退していた。

トノサ=マッスルは朗らかな笑顔を崩さないままに言い放ったが、ビクトリーは何となく思った。

多分嘘だ、と。

本当は、この筋肉ガエルはもっと強い。

確証は無かったが、そう直感した。

 

 

さらに懸念事項として、サイレントの動向が読めないのが厄介であった。

『黄昏の園』を滅ぼされた件について、間違いなくサイレントはトノサ=マッスルを恨んでいるだろう。

だが、現状でサイレントがトノサ=マッスルの討伐を是とするかと言えば、そんな事は無いと思われる。

なぜなら、トノサ=マッスルを急いで倒してしまうと、『黄昏の園』を復活させるために必要な『不幸の果実』の入手が出来なくなるからだ。

 

つまり、この場にサイレントが来てしまうと、良くて三つ巴だ。

悪くすると、サイレントとトノサ=マッスルが二人がかりでビクトリーを殺す危険性すらある。

不安を隠しつつ、ビクトリーはあくまで下手に出ながら、筋肉ガエルの様子をうかがった。

 

 

「ところで、本日はどのような御用件で?」

「なぁに、ゲームはクリア条件が分かっていないとフェアじゃないからね。君達が『どういうボス』を倒したらこのゲームをクリアできるのか、教えに来たのさ」

 

朗らかに笑うカエル面の奥に潜む悍ましいモノの正体に、キュアビクトリーは気付いていた。

……遊び心だ。

この筋肉ガエルは、純粋にゲームをして遊んでいるのだ。

人間の子供がアリの巣に水を流し込んで無邪気に遊ぶように。

悪意と等号で結ばれるような、どす黒い遊び心が、トノサ=マッスルの穏やかな笑顔の本質に違いない。

 

そして、今日姿を現したのも、単なる顔見せ……という訳では無いだろう。

 

 

「おやおや、察しの良い子は好きだよ。どこからでも遠慮なく、かかってくると良い。ラスボスといえど、意外とあっさり倒せてしまうかもしれないよ?」

 

筋肉ガエルが言い終わるや否や。

ビクトリーは、右手に金環を二つ装備した状態で、殴りかかった。

 

 

「あだだだだだだっ!!」

「ほっ、ほっ、よっと。良いぞ。頑張れ、頑張れ」

 

拳をひたすらに打ち込み、時々蹴りも混ぜつつ、ビクトリーは攻め続けた。

筋肉ガエルは、ビクトリーの拳を裏拳で受け流し、時に掌で受け止めた。

折混ぜた蹴りも、的確に足技で防御されてしまう。

 

トノサ=マッスルが攻撃してこないのが、不気味であった。

とくに焦りの無いカエル顔からは余裕すら垣間見えるが……もしや、実は一杯一杯なんてことは?

何にせよ、このままでは攻め疲れでビクトリーのスタミナが尽きそうである。

 

ここは……勝負に出る!

キュアビクトリーは、相手の膝を砕くつもりで、重心を落としつつ下段回し蹴りを放った。

筋肉ガエルは小ジャンプでビクトリーの攻撃を回避するが、

 

 

「跳んだな! くらえ! プリキュア・ビクトリー・マグナムッ!!」

 

空中で動きが鈍ったトノサ=マッスルの脇腹へ、容赦なくビクトリーの渾身の右拳が叩き込まれた。

踏ん張る足場のないトノサ=マッスルは、広場の端にあった岩場へとブッ飛ばされ、大量の土埃と岩に埋もれてしまっていた。

 

おもわず「やったか!」なんて叫びそうになったビクトリーは……考えるよりも早く、2つの金環を左手に付け直していた。

ぞわり、と嫌な予感を感じ取ったのだ。

 

 

「プリキュア・ビクトリー・ウォール!!」

 

次の瞬間には、煙の中から跳び上がった筋肉ガエルが、砲弾のような速度でビクトリーへと迫っていた。

左手に金環を二つ付けることで防御力を最大まで上げたビクトリーの障壁は、なんとかトノサ=マッスルの跳び蹴りを受け止めることが出来た。

 

 

「か、はっ……!?」

 

……そう、ビクトリーが思ってしまったのは、ただの現実逃避だった。

一瞬だけ役割を果たした障壁は甲高い音とともに砕かれ、トノサ=マッスルの跳び蹴りを受けてしまったビクトリーは、大空の樹へと叩きつけられた。

背中から伝わった衝撃に、おもわず呻き声が漏れ出した。

受け身も取れずに地面へと落ちたビクトリーの頭上から、盛大に揺れた大空の樹の葉が降り注いだ。

 

 

「なかなか良い一撃だったよ。やっぱり君は『アタリ』だ。これからも期待しているよ」

 

少しだけ黒ずんでいる脇腹を、さすりながら。

朗々とした調子を崩さないままに、トノサ=マッスルは森の中へと姿を消していった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おはよう、ショーコ」

「ぐはっ……? シズちゃん、おはよ……」

 

筋肉ガエルと遭遇して、1週間。

……今日も、朝加家の朝は平和だった。

いつも通り、ベッドから蹴り落されて目が覚めた朝加ショーコであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふたりはVSプリキュア!』

第九話:Happy Go Lucky! マナッシーからの依頼!

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっただきまーす! あむ。あ、ミケちゃん、ニボシ出してあげるね?」

「……いただきます。その子、見事に居ついたわね」

「ニャーゴ」

 

夜野シズエは、この1週間で朝加家に居ついてしまった三毛猫の正体を知っていた。

一見なんの変哲もない三毛猫に見えるが、コイツは『黄昏の園』の妖精である。

名前をミケマタといい、本来は尻尾の先に三味線のような器官をもつ不思議な生命体なのだ。

今は尻尾を普通の猫のように擬態させているようだが、立派に知的生命体なのである。

 

 

「でへへー! なでなで、ごろごろー!」

「ニャ、にゃぁ……」

「……ショーコに撫でられて逃げない猫なんて、珍しいわね」

 

助けて欲しいである、なんて声なき声が夜野シズエに届いた気がした。

もちろん無視するが。

ショーコが幸せそうだから、止める理由なんて殆ど無い。

あと、ショーコは猫の気持ちが分からないタイプの猫好きなので、近所の猫はショーコを見ると大体逃げる。

 

 

――どうして、ミケマタが朝加家に居るの?

――サイレント殿に久々に会おうと思って、この家の近所まで来ていたら、ショーコ殿に餌付けされたである。(大嘘)

 

先週、ショーコが風呂に入っている間に一人と一匹で内緒話をしたところによると、そういうことらしい。

ミケマタを文字通り猫可愛がりしているショーコは、ミケマタの正体なんて知る由もないんだろう……なんて夜野シズエは思う。

シズエの見た範囲では、ミケマタはショーコの前では普通の猫の素振りを見せている訳だし。

 

じっと、シズエはミケマタの方へと視線を下した。

ミケマタは、無言の視線で助けを求めている!

 

 

「んん? なんか、シズちゃんとミケちゃん、目と目で通じ合ってない?」

「ニャ!?」

「……気のせいよ」

 

変なところで勘が良いショーコにビックリである。

ひょっとすると、以前に樹元サキ達と話した時の、シズエが猫っぽいというネタを思い出したのだろうか?

私ってやっぱり猫っぽいのかしら? なんて思ったシズエであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、放課後の教室にて。

 

「こんにちは、夜野さん! ボクは人参の妖精『マナッシー』だニンジン!」

「…………!!?」

「大体わかった」

 

ニンジン が あらわれた !

全高170センチ程度の人参が、教室に現れたのだ。

これには、流石のシズエさんも困惑であった。

新手のカナシミーナか??

 

 

「ボクの友達の人参嫌いを直すために、夜野さんの力を貸してほしいニンジン!」

 

いや、一応人間の手足に相当するパーツがあるので、おそらく着ぐるみの中に人間が入っているのだろう。

その友達ってホントに人間なんだろうな?

というか、その「ニンジン」って語尾なの?

登場する世界を間違えてない?

実はプリキュアの世界の90分前ぐらいの世界から迷い込んで来たヘボ??

 

一体、この着ぐるみ人参の正体は何者なのだろう。

頼み事の内容から察するに、夜野シズエが朝加家の食卓を支えていることを知っている人間だろうが。

顔が広いショーコなら、正体に心当たりがあるのではないか。

そう思ってショーコの方を見てみると。

 

 

「マナッシー……! いったい何者なんだ」(棒)

「……把握したわ」

 

シズエは理解した。

今週はこういうノリなんだろう、と。メタメタである。

マナッシーに中の人など居ない。メタメタである。

ミケマタがレギュラーになったからといって、ミケマタが活躍する話を書くとは限らないのだ。メタメタである。

 

 

「それで、マナちゃ……じゃなくてマナッシーは友達の人参嫌いを直したいんだっけ?」

「その通りだニンジン!」

「……今、聞こえてはいけない何かが聞こえたような気がするのだけれど」

 

話を聞いたところによると、人参の妖精ことマナッシーの友達は、アグリという子らしい。

小学4年生の女の子だそうだ。

 

え? そこだけは真面目な相談なの?

こんなフザけた人参の着ぐるみを相手に、真剣な悩み相談を始めるの?(困惑)

 

 

「……その子は、人参のどんなところが嫌いなのかしら?」

「匂いがダメらしいヨ! あと、微妙に甘味があるところが気持ち悪いらしいニンジン!」

 

マナッシーは、頭の緑葉を左右にふりながら真面目に答えてくれた。

相談内容と質疑応答だけは、不気味なぐらいマトモである。

一応、真面目に相談に乗った方が良さそうだ。

 

 

「……月並みだけれど、カレーは如何かしら?」

「実はカレーは既に試してみたニンジン! でもダメだったヨ!」

 

カレーは鉄板なのに……。

まぁ、マナッシーの方でも手を尽くした末に相談に来ているということなのだろう。

 

 

「……具が大きすぎたか、ルーが薄かった可能性は?」

「ああー、あたしもカレーはあんまり甘いとイヤかなー」

「言われてみると、そんな気もするニンジン……」

 

具の人参が大きいと甘味がダイレクトに感じられるので、甘目のカレーが嫌いな人は割とつらかったりするのだ。

あと、単純にカレーの具材が大きいと、具材の中の温度が下がりにくい。

そして、中が高温の具材を咀嚼すると、口内火傷の原因になりやすい。

特に小さい子供が居る環境では、具材を小さ目に切ってやると小さいお友達も安心して食べられると思います。(豆知識)

 

 

「ま、そんな頻繁にカレーを食べるわけでもないだろうし、そこの改善は次の機会を待った方が良さそうかな」

「今思い出したけど、きんぴらゴボウも無理だって言ってたニンジン」

 

あまり頻繁にカレーを食べていると、弾けるレモンの香りじゃなくてカレーの匂いがしそうである。

まぁ、学食のメニューが充実していなかったりすると、週1以上で食べていても不思議ではないが。

なお、ショーコとシズエは基本的に弁当派なので、ほぼ学食とは無縁である。

 

 

「あと一応最終手段として、人参農家のお手伝いに行かせて農作業体験をさせる案があるニンジン」

「……それは、効果はありそうだけれど、本当に最終手段ね」

 

一歩間違えれば、ストックホルム症候群を利用した手法と言えるので、なるべくやめた方がいいだろう。

労働と人格否定のストレスの合間に優しさらしきモノを見せられるとブラック企業に対する信仰心が発生するという、例のアレである。

 

ここで夜野シズエは、人参を使った料理を考えてみた。

キャロットライスなんていうモノも作れるし、料理部に行けば人参を使ったスイーツを知っている人が居るかもしれない。

しかし、そもそも人参に対して苦手意識を持っている人間に対して、あまり人参を前面に押し出した料理を出しても、苦手意識を刺激するだけかもしれない。

それに、あまり手がかかるものだと、家庭で作るのが大変だったりするだろう。

手間がそれほどかからず、かつ人参をあまり前面に押し出さないメニューと言えば……?

 

 

「……一般的な料理で言うと、麺類か揚げ物ね」

「さすが専業主婦だニンジン!」

 

麺類なら、ラーメンなり焼きソバなり、人参が入ったメニューは割とお手軽かつ一般的である。

揚げ物は、逆に人参の甘味が引き立つメニューなので、どう転ぶか読めない。

 

 

「揚げ物食べたくなってきた」

「……そうするわね」

 

ショーコがそう言うんだから、今日の朝加家の夕食は揚げ物で決定である。

冷蔵庫の中身を思い出しながら、シズエは足りない素材を脳内でピックアップしていった。

どう見ても、本来の住人であるはずの朝加ショーコよりも朝加家の冷蔵庫の中身を知り尽くしている夜野シズエさんなのであった。

 

 

「マナッシー達も夕飯、ウチ来る?」

「ありがとうニンジン! アグリちゃんに相談したいニンジン! ショーコちゃんも一緒に寄るニンジン?」

 

短く見える手足をバタバタと降って、喜びを表現する人参妖精。

食事の時、その着ぐるみは被ったままなのだろうか?

どうやら、ショーコも一緒にアグリちゃんの家に寄るようなので、マナッシーはその隙に着替えるかもしれない。

 

 

「……私は、足りない材料を幾つか買い足して帰るわ」

「ありがチュー!」

 

ありがチューって何ぞ?

引坂ハナの「めちょっく!」みたいなモノだろうか。

たぶん「ありがとう」+「Thank you」かな?

 

 

 

 

 

で、スーパーで材料を買い足して朝加家に戻った夜野シズエであったが。

ぶっちゃけると、卵・水・てんぷら粉を混ぜてコロモを作るぐらいしか、事前準備は要らない。

あとは、あらかじめ人参を細長く切っておくぐらいか。

揚げる作業は食べる直前に実行した方が良いので、意外と時間が余ってしまった。

 

本日分の授業の復習でも済ませておこうかしら。

……なんて思っていたら、『静寂の輝石』が異変の予感を教えてくれていた。

カナシミーナが現れたようだ。

 

 

「……プリキュア・サイレント・チェンジ」

 

朝加家から出て、適当に人目に付かない場所で変身したシズエは……現場へ急行したのであった。

サイレントが人間離れした脚力で駆けた先には、既に3メートルほどの黒マネキン人形に加えて、先客がいた。

白い下地に桜色の上着を羽織ったプリキュアが両手に金環を輝かせながら、カナシミーナと交戦中だったのだ。

 

 

「カナシミ・ハートォ!」

「……」

「おっと! 来たか、首狩り族!」

 

とりあえず、あいさつ代わりに影の大鎌を振るってキュアビクトリーの首を落としにかかった。

もっとも、ビクトリーも不意打ちは警戒していたらしく、あっさり回避されてしまったが。

やはり、新しい奇襲方法を編み出さないといけないのか……?

伝統と信頼の重量挙げを始めたときに上手く奇襲を仕掛ければ、あるいは何とかなるかも??

 

 

飛び退いたビクトリーと、奇襲に失敗したサイレントと、窮地を救われたカナシミーナ。

三者は、完全に立ち尽くしてしまっていた。

 

サイレントから見ると、現状ではカナシミーナは倒すべきではなく、ビクトリーは基本的に殺しておいた方が良いけれど生かす利点も一応ある。

カナシミーナの視点を想像すると、おそらくサイレントもビクトリーも敵だろう。

ビクトリーの立場を考えると……カナシミーナは倒すべき敵だが、どうもサイレントを必ずしも倒すべきだとは思っていない様子だ。

 

……ならば、サイレントとしては、このまま三者で睨み合いを続けるのが得である。

目的物である『不幸の果実』が実るまでの時間が、今は欲しいのだから。

逆にビクトリーの立場からすれば、時間経過は好ましくないはずなのだが……不思議と、ビクトリーも動こうとしなかった。

先に動いた場合に、サイレントとカナシミーナから挟み撃ちにされる事態を警戒しているのだろう。

 

 

「カナシミ・アロー!」

「うげっ、遠距離攻撃は嫌いだぁーっ!」

 

と、ここでカナシミーナが動いた。

カナシミーナは、どこからともなく弓のような武器をとりだして、おもむろに構えたのだ。

標的が主にビクトリーだったのは、サイレントにとって幸運と言えるだろう。

ビクトリーは両腕に金環1ずつのバランススタイルを維持しつつ、反撃の機会を窺いながら矢を回避している様子であった。

 

遠距離攻撃の手段に乏しいビクトリーにとって、遠距離から狙撃されるのは苦しい展開のようだ。

もっとも、サイレントも他人を笑えるほど遠距離攻撃が出来るわけではないが。

サイレントの影は身体から離すと時間経過で消滅する制約があったりするので、案外攻撃範囲が狭いのだ。

必殺技のサイレント・リッパーも、実は投擲の有効射程は甘く見ても20メートルぐらいだったりする。

……ゆくゆくは、遠距離攻撃の手段を考えておくべきかもしれない。

 

 

とりあえずサイレントは、影を細く糸のように伸ばして地面を這わせた。

カナシミーナの方に意識を傾けているビクトリーの移動先を予想して、影版の草結びトラップを仕掛けてみた。

 

 

「ほげぇっ!!?」

「カナシミ・アローッ!」

 

足をとられて盛大に転倒したビクトリーへと、カナシミーナが矢を放った。

まぁ、ビクトリーは左右の手首に一つずつ金環をはめているバランスモードなので、左手の障壁で一応防げてしまうだろうが。

 

 

「プリキュア・ビクトリー・ウォール!」

「……プリキュア・サイレント・リッパー」

 

だからこそ、このタイミングでサイレントも大技を仕掛けた。

影を固めて三日月型の巨大刃を練り上げ、殺人的な速度でビクトリーへと投擲したのだ。

カナシミーナの矢がビクトリー・ウォールに防がれた次の瞬間には、サイレント・リッパーがビクトリー・ウォールを突き破っていた。

 

障壁のせいでサイレント・リッパーの軌道が少し変わってしまったらしく、影刃はビクトリーの胴体を両断することは出来なかった模様である。

それでも、ビクトリーは左腕に特大の斬傷をこさえて、辛うじて左腕は胴体から離れていないという状態であった。

ビクトリーの表情が一気に険しくなったのが窺えた。

 

これは幸運だとサイレントは思った。

四肢を半分程度失っても最低限の戦闘行為が可能なサイレントと違い、手足のどれかが機能停止するとビクトリーのパフォーマンスは格段に落ちることが予測できるからだ。

攻撃の要となる右腕が残っているのでビクトリーが逆転を狙うのは不可能ではないが、左手の障壁が使えないと防御面は相当厳しいと予想できる。

 

 

「こうなったら、奥の手だ! カモン、ミケマタッ!!」

「猫使いが荒いであるぞ!」

「……!?」

 

……なんて思っていたら、ビクトリーが右手の指先で輪っかを作り、指笛を吹いた。

指笛に応えて、草むらの中からミケマタが現れた!

 

なんで?

ミケマタ、あなた『黄昏の園』の味方じゃないの?

想定外の極地に立たされたサイレントをそっちのけで、ミケマタはビクトリーの指示に従った。

 

 

「火車変化! メタモルキャッパーであるぞ!」

「ひゃっはー! バイクだぁ!!」

 

ビクトリーの指示で、煙を立てながらミケマタが変化したのは……三毛猫の意匠を残した二輪車であった。

バイクと呼ぶには大分小さいような気がするのだが、もしかして、それはスクーターでは……?

当たり前のようにミケマタバイクに乗ったビクトリーは、

 

 

「シー・ユー!」

「ごきげんよう、であるぞー!」

 

逃げた。

エンジンをふかすような音を立てながら、車輪跡を残してビクトリーは戦場から去っていった!

百歩譲ってスクーターもどきに変化できるのは良いとしても、絶対エンジンみたいな機械構造は再現できていないだろうに……。

 

 

「……」

「カナシミ……?」

 

サイレントとカナシミーナは、顔を見合わせて困惑していた。

割と勇ましい印象があるビクトリーなのに不思議なぐらいあっさり逃げたわね、と。

顔を見合わせたついでにカナシミーナの頭の植物を確認してみると、花が付いていた。

 

そこでようやく、サイレントは理解が追い付いた。

おそらくビクトリーは、巨大ヘビ製のカナシミーナの成長が早いのを考慮にいれたうえで、カナシミーナをサイレントに任せたのだろう。

既に悲しみの植物が花の段階まで来ているのならば、怪我を押してビクトリーが無理をするよりも、サイレントに頑張ってもらった方が良いという判断に違いない。

大学生女子のカナシミーナの時にも思ったが、ビクトリーは意外と冷静に退き時を見定められるヤツなのかもしれない。

 

 

「カナシミィ!」

「……これはこれで、好都合だけれど」

 

サイレントへと、断続的に矢が飛来していた。

しかしサイレントも然るものである。

影の傘を作り出し、盾のように構えをとってみせた。

絶対的な防御力ではビクトリーの障壁には劣っており、実際に影の傘を突き抜けてくる矢もあった。

だがサイレントが傘をくるくると回転させたことで、貫通してくる矢は軌道を曲げられ、一発たりともサイレントの胴体へは届かなかった。

 

そして……矢による攻撃が途切れた一瞬の隙をついて、サイレントは三日月型の巨刃を練り上げていた。

 

「……プリキュア・サイレント・リッパー」

「カナシミ・アロー!」

 

三日月型の影刃とカナシミーナの矢が、すれ違った。

お互いに攻撃の後の一瞬の隙が生まれ、回避もままならない。

 

回避が間に合わなかったカナシミーナは、弓で三日月刃を防御しようとしたが、攻撃の要の弓を両断されてしまっていて。

一方のサイレントは、回避が間に合わないかと思われたが……細く伸ばしていた影の紐で自身の足首を引っ張ることで、転倒するような形で影の矢を回避していた。

 

さらにサイレントは、足先に爪のように伸ばした影を作り、完全に転倒する前に踏みとどまった。

そのまま、足先の影の爪をスパイクのように使って、サイレントは瞬く間にカナシミーナへと肉薄した。

 

 

「カナシミ・スイートハー……」

「……遅い」

 

カナシミーナが、胸部から砲台を生み出し、光線攻撃を繰り出そうとしていたようだが。

一瞬だけ早く至近距離まで踏み込んだサイレントは、スライディングの要領で股抜きを成功させ、カナシミーナの背後に回り込む。

そのまま、見当違いの方向へと砲撃を放ってしまったカナシミーナの背後から……手の先に延ばした影の刃でカナシミーナの両脚を切り飛ばした。

腕を振るって抵抗しようとしたカナシミーナは、その腕も容赦の無い影の槍で串刺しにされてしまって。

 

攻撃手段を失ったカナシミーナの四肢を削ぎおえて、ようやくサイレントは一息つくことが出来たのであった……。

あとは、カナシミーナの頭に『不幸の果実』が実るのを待ってからトドメを刺せば任務完了である。

 

数分後。

カナシミーナの断末魔の声が、閑静な住宅街に響き渡った。

サイレントが必要とする『不幸の果実』は、あと2つ。

 

 

 

 

 

 

 

カナシミーナの中から出てきた今回の被害者は、シズエ達と同世代と思しき女子だった。

どこかで会ったような気がする被害者女子のために、救急車を呼んでやった後に。

夜野シズエは、無事に朝加家へと帰宅を果たしたのであった。

誰も居ない朝加家で、揚げ物のコロモを作ってタネの水を切っていると、ようやく玄関の辺りから足音が聞こえてきた。

 

 

「ただいまー、シズちゃん!」

「おじゃましますわ」

 

ショーコが、小学校高学年ぐらいの年齢の女の子を連れてきている。

腰まで届く栗毛に、ルビーの瞳が印象的な女の子は……おそらく、マナッシーが言っていたアグリちゃんなのだろう。

あれ? マナッシーは何処に行った?

 

 

「……マナッシーは?」

「なんか、着替えのために一人で自宅まで歩いてたところを、例の怪物に襲われたっぽい」

 

着替えとか言っちゃっていいのか。

人参の妖精って設定には、どこまで乗ってやれば良いのだろうか……?

っていうか、さっきの被害者女子ってマナッシーの中の人だったのか。

 

一応、病院にお見舞いに行ってマナッシーの様子を見る案もあったようだが。

朝加家で用意したであろう食材が勿体ないという理由で、結局ショーコとアグリは朝加家へ来たのだという。

まぁ、4人分を想定して用意された食材は、どのみち今夜中に消費しきることは無いだろうけれども。

 

 

「私、頑張りますわ。倒れていったマナのためにも……!」

「……辛かったら、無理はしなくてもいいわ。別のタネも沢山用意してあるから」

「そそ! 『美味しい食べ方もあるかもしれない』ぐらいに思っとけば良いよ! マナッシーだって、辛いものを無理して食べろとは言わないだろうし」

 

揚げ物のタネは、人参だけでなく緑黄色野菜やキノコ類に加えてカボチャなんかも有ったりして。

人参が食べられなくても問題が無いメニューではある模様。

 

無理強いして食べさせると、危険だという事情もある。

食べる側が、軽度のアレルギーなどの不快感をうまく言語化できていない場合があるからだ。

そもそも味覚というのは体質に合わない食材をブロックするための機能でもあるので、味覚を無視して食料を食べさせ続けるのは意外と危険なのである。

食事も戦闘も、引き時が肝心なのは一緒なのだ。

 

かくして、精進揚げの晩餐会が始まったのであった。

果たして釘宮アグリは、人参の揚げ物を美味しく食べることが出来たのか……?

 

 

 

 

 

 

 

朝加家の屋根の上で、三毛猫が大あくびを漏らした。

3人の会話を聞きながら、ミケマタは決意した。

次から、ショーコの『お触り』が嫌な時はしっかり拒絶しよう、と。

何事も、無理はしないことが肝心であるぞ……。

 

 

 

 








・今回のNG大賞

マナッシー「アグリちゃんの人参嫌いを直すために力を貸して欲しいニンジン!」
ショーコ「とりあえず、食育のためにアマゾンズの映画を見せようか。アレを見るとマジで、食事を残さずに食べようって気になるよ」

なお、連れていかれたアグリちゃんは映画館でゲロった模様。




・次回予告!

料理部で用意した特製のケーキが盗み食いの被害にあったんだって!

容疑者は小清水ヒビキと三瓶ノゾミの二人!

面白がったショーコはミステリー研究会からトレンチコートを借りてきて、シズエを名探偵に仕立て上げちゃった!

一体犯人は誰なのか? どうなる第十話!

次回『盗み食いの犯人はノゾミ! GO GO!』みてみてみてねっ!
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