現在、新たに作ったSSをメインにしてるので、さらにこちらの話を作るのが遅くなりますが、今後ともよろしくお願いいたします。
「ふんふんふーん♪」
今日は休日、切歌が遊びにくる日という事でクッキーを作っているところだ。ちなみに紅茶の葉を混ぜた紅茶クッキーだ。
ふふ、切歌の「美味しいデースっ!」って言う顔が目に浮かぶわな。
ぴんぽーん。
お、来たっぽいな。焼き上がるまでは少し待ってもらうかね。ドアの鍵を外した途端、勢いよく扉が開けられ、今日も元気一杯な笑顔の切歌の顔が。そして、
「剪兄ぃ!映画館に行くデスよっ!」
開口一番、そんなことを我が妹がのたまった。
とりあえずわけがわからなかったので家の中に入ってもらって理由を説明してもらった。
「司令から余った映画館のチケットをもらったデース!『映画は家じゃなく映画館で見る方が迫力があって見応えがあるぞ!』って言ってたデス!クッキー美味しいデース!」ハグハグ
ふむ、切歌の言いたいことはわかった。そして今度は隣で同じようにクッキーを食べるせんぱいの番だな。
「なるほどね。じゃあクリスぱいせんが一緒な理由はなんだ?」
「その会話してたところにアタシも出くわして、一緒に行ってくるといい。っておっさんに言われたから、仕方なくな...ほんとだからなっ!?仕方なくだからなっ!?別に行ったこと無かったからとかじゃないからな!?しかしうめぇなクッキー。」ハグハグ
まぁうん。司令はアクション映画のことを言っていたんだろうけど、切歌は聞いてなかったか。でもま、クリスぱいせんが一緒ならアクション映画を見ることはないか。
あと凄い勢いで作ったクッキーが減っていってるが、まぁ気にしない。俺の分が無くたって気にしない。
「ほぇ~映画館ってこんな風になってるデスかぁ。」
「へぇ、結構デカいもんなんだな。」
というわけでやってきました映画館。この辺で一番大きな映画館だから施設もちゃんとしていて、初めて来ると結構驚くだろう。俺も響と未来に連れられて来た時は今の二人と同じ反応してたしな。
「そういやここまで来たのはいいけど、何見るか決めているのか?」
「あ、何も考えてなかったデスよ。」
「やってる映画ってのはあそこに映ってるやつか?うわっ結構な数あるじゃねぇか。」
「ここは、この辺で一番デカい映画館だからな。最新のやつから、ちょっとばかし古いやつまでならやってるんだぜ?」
「結構詳しいなおい?何回か来てるのか?」
「あー...まぁなぁ。クラスメートの一人がアニオタでな、ちょっと付き合わされたことがあったんだが...ハハッ。」
あの日のことは今思い出すだけでもゾッとするわ。まさか一日ぶっ通しで映画館に籠る日が来るなんて思わなかったし。あぁ、キャラメルポップコーンが嫌いになる日が来るとは思わなかった。
「お、おい、大丈夫か?」
「はっ!?大丈夫だ、問題ない。」
「剪兄ぃホントに大丈夫デスか?少し休むデース?」
心配そうに俺を見上げる切歌。俺のことを心配してくれて、お兄ちゃんは嬉しいけど、心配させてしまったことには反省はんせい。
「そんなわけにいくかよ、せっかくの切歌とのお出かけ、一分一秒無駄にする気はないっ!」
「剪兄ぃ!なら時間が惜しいから、見る映画はアレに決定デース!」ビシィ!
「えっと、どれどれ...?」
そう言って並んでいる看板のうちの一つを指差す切歌。あー、うん。あれか。
「ちなみにだが切歌?あれが何の映画かは知ってたりするか?」
「いや、知らないデスよ?」
「ふーん、そうか...。」チラッ
そうだよねー直感だよねぇ。中身知ってたら絶対、切歌は選ばないジャンルの映画だもんねぇ。切歌が看板の方に目が行ってるのを確認してクリスぱいせんの方を見ると。
「...。」プルプル
あ、こっちは中身知ってるわ。無言でプルプル震えてるし、変な汗がめっちゃ噴き出してるもん。
「な、なぁおい。マジであれ見る気か?お前も中身は一応知ってるんだろ?」
「もちろん知ってますよ。看板詐欺と言えるホラー映画でしょ?」
「おまっ!?それなら何で止めねぇんだよ!?」
なんで止めないか、ねぇ。そんな野暮な質問に答えなきゃならんのかぁ...。でも答えてあげる!
「そんなもん決まってんだろ。切歌が選んでくれたやつを俺が断れるわけないだろう!」ドヤァ!
「そうだったよ!コイツはそういうやつだったよ畜生!」
「剪兄ぃ!クリス先輩!早く行くデスよー!」
いつの間にか先の方へ歩いていた切歌が俺達を呼んでいる。あぁあんなに目を輝かせる切歌、最高だっ!
「あんな楽しそうな切歌を悲しませるような真似...クリス先輩ともあろう人がやったりしないよねぇ?」
「うぐっ!?あぁわかったよ!行ってやろうじゃねぇか!ホラー映画の一つや二つ、どうってことねぇってとこ見せてやらぁ!」
そう言ってズンズンと切歌の所へ歩いてく、きねくり先輩。やはりちょろい。けど、そこがまたいいんだよな、響達が可愛がる理由がよくわかる。
さて、俺も早く追いつかなくては。一度、休憩席の方にいる黒髪の女の子に手を振った後、急いで切歌の後を追った。
「むぅ...これでもお兄さんには見つかっちゃうんだ。変装は完璧のはずだったのに。」
さて、売店でそれぞれ食べ物と飲み物(きねクリ先輩と俺はポテトフライ)を用意して自分の席に着く。なんでポテトフライかって?きねくり先輩にポップコーン渡したら床が酷いことになりそうだったからさ。
「さぁて、どんな映画なのか楽しみデース!」
「そうだな、だけどここではもうちょい静かにしような切歌?」
「おっとと、そーでした。静かにするデース。」
俺の右側に座る切歌は楽しみでしょうがない様子。さてさて、それとは対称的な様子を見せる俺の左側の人はというと。
「...。」ガタガタガタ
さっきよりも更に震えと汗が酷いことに。少しは緊張を解しておくか。
「やれやれ、手でも握っておいてやろうか?」
「ばっ!?んなひひ必要ねぇっての!」
いや声まで震えてて何を言ってるんだと言いたいが、本人がいいというならやめておこう。しかし小さく怒鳴るなんて器用な真似するなぁ。
ブー!
「お、とうとう始まるな。」
「始まるデスね!」
「お、おう!」
さてさて、最初は皆元気に生活しているが、だんだんと怪しくなる展開。そしてその時が来る時には既に。
「...デース。」ギュッ
「...。」ギュゥゥゥッ
俺の両手は塞がっていた。片方の人。ちょっち強すぎませんかね?
そしてついに最初の被害者がでた瞬間。
「デェェェス!?」ギュッ!
「ひぃぃぃぃぃ!?」ギュゥゥゥゥゥゥッ!
俺もビビってるよ?だって生まれてこのかた、ホラー映画なんざ見たこともねぇんだから。でもさ、俺の左手がもうやばいぐらいに握られてめっちゃ痛いんだ。片手だったのが今両手で握られるようになったし。ホラーよりも、この痛みが続くことの方が怖いんだ。
そして二人目、三人目と消えていくメンバー達。そして最後の一人の番になるまでには。
「剪兄ぃ...!」ダキッ!
「~~~ッッッッッ!!!!」ダキッ!ギュゥゥゥゥゥゥッ!
手どころか腕にしがみついて頭も俺の肩に乗っけている切歌。腕に柔らかい感覚があるけど、その感覚に浸っている訳にはいかなかった。問題は俺の左側にあるわけで。
うん、切歌と同じように腕は完全にロックされ、切歌以上に柔らかい感覚。さらに頭は乗っけてるんじゃなくて押し付けてきている。もう完全に画面は見ておらず、終わるまで絶対に動かないつもりのようだ。しかし周りの客や切歌の悲鳴にいちいち反応する度にびくっと動くので柔らかい感覚と腕を絞める痛みという相反する二つの感覚が襲ってくる、人生で滅多に経験出来ないことを俺は今、経験しているのではないだろうか?
ブー
二時間という俺にとっては長すぎる時間がようやく終わり、お客さんが各々感想を言い合いながら帰っていく中。
「怖かったデスよ剪兄ぃぃぃ!うわーん!!!」
と終わったと同時に泣きつかれてしまった。やっぱり切歌にはだいぶ堪えたようだなぁ。
「よしよし、よく頑張ったなぁ。」
と、ホントなら声をかけてやると同時に頭を撫でてやるんだが...。
「...。」ギュッ
きねくり先輩がさっきからずっと、俺の腕を持ったまま動かないので撫でることができないのである。
「ほ、ほら、クリス先輩?映画終わったんだぜ?」
「...ん。」
顔が見えないので恐る恐る声をかけてみる。するとゆっくり顔を上げて俺のことを見るクリスちゃん。ただ普段からは全く考えられないぐらいに、しおらしいクリスちゃんがそこにいた。いつもの吊り目で勝ち気なクリスちゃんが行方不明になってしまった。と、とにかくまずは場所を移そう。いつまでもここにいたらスタッフ達にも迷惑だしな。
「ほら、切歌もいつまでも泣いてないで、そろそろ行くぞ?とりあえず、どっかの店で一息つこうぜ?」
「ぐすっ、デース...。」
「クリスちゃんも、腕を掴まれたままだと動けないから、離れてくれるとありがたいかなーって。」
切歌は泣きながらも、俺から離れて飲み物食べ物を片付けに動いてくれた。クリスちゃんも腕を解放してくれたのはいいんだが。
「...ん。」
また俺の左手を握ってきた。今度はそっと握ってくれてはいるんだが、その手はしばらく離れそうには無く、結局は俺の家に帰るまで手を離すことはなかった。
俺の家に戻ってからも美味しいもの作ったり、面白いテレビを付けてもクリスちゃんは元に戻らず、そろそろ帰った方がいいんじゃないかと言っても首を横に振るばかり。その日はリビングに布団を引いて三人で一緒に寝ることになった。
さすがに女の子の寝顔を直視する勇気は無かったので、クリスちゃんに背中を向けて寝ようとしたんだが、いつの間にか俺の背中にぴったりくっついて眠っていた。
「...今日は徹夜かねぇ。」
絶対寝れねぇなぁと思いつつ、時計の針が3を回った辺りで俺は意識が無くなった。