「GutenTag(こんにちわ)」
「ん?」
どこか聞き覚えのある言葉で後ろから声を掛けられた赤髪の青年は、
自然と振り返った。
そこには、肌の白い凛とした女性が居た。
その服装は、全体的に軍服にしか見えない。
赤髪の青年は、目の前を女性を軍人と見抜いた。
更に観察してみると白の軍帽、軍服の上にケープを羽織っており、これも白。
しかし、軍人には似合わない黒色のプリーツスカートをまっとっている。
また、黒色のネクタイをしていたが、その中央には何か特徴のあるマークがある。
(何だろうな?このマーク…)
好奇心の塊でもある赤髪の青年が、そのマークを物珍しそうに眺めていると、
凛とした女性は、自身の素晴らしい二つの双丘を見られていると勘違いし、
憤りを感じた。
「何だ?気安いな…」
「え?」
(初対面にしては棘のある人だな…しかし、一体僕に何の用だろう…
一応軍人みたいだし、女性といえども警戒をしなくてはいけないな…)
お互いに色々と勘違いしており、話が見えない状況となった。
数秒程の沈黙が続いたが、
凛とした女性は、感情的になったのを落ち着かせ、自分から言葉を発した。
「こほん。私が航空母艦、Graf Zeppelinだ。
貴方が新任のAdmiralだな。道に迷っていたのか?
しかし、変わった軍服を着ているな(良いデザインだな)…」
赤髪の青年は、この女性が言っている事が、全く理解出来なかった。
「コウクウボカン?アトミラール?
一体貴女は何を言っているのです?」
「は?…
何を冗談を言っているのだアトミラール。
ドイツ海軍より日本へ異動を命じられて
この鎮守府へ配属となったのだろう?取り敢えずこれを見てみろ」
グラーフは、手に持っている書類を赤髪の青年に見せる。
その内容は、彼自身の情報が詳細に記載されていた。
明らかにドイツという国から、転属を命じられた旨が記載されていた。
その情報は、キルヒアイス的に全て身に覚えの無い内容であり、
あからさまに架空レベルの内容であったが、
名前の欄には確かに「ジークフリード・キルヒアイス」と記載されており、
彼の混乱に拍車がかかる。
「い、いや、わ…私は…」
あからさまに狼狽しているキルヒアイスに対し、グラーフは少し怪訝に思ったが、
面倒なので無視する事にした。
「Na, gut(まあ、いいだろう)。同じ祖国の人と会えるのは久し振りだ。
ようこそ舞鶴鎮守府へ。私も半年前に祖国から
この軍基地に配属されたばかりだ。
同じ祖国の人同士であるし、また私が秘書艦だからな。
特別に案内しよう。アトミラール、私の後について来るといい」
グラーフは上官に対し、敬語を使用せず、
キルヒアイスからすると実に無礼な態度であったが、
キルヒアイスの頭の中は、それ以上に混乱していた。
だが長年の軍人としての経験上、すぐに落ち着くと
キルヒアイスは、飄々とした態度でグラーフの後についていった。
(状況的にこの女性についていくしかあるまい…
ここが、「どこであろう」とね…)
ところで、話は一時間前に遡る。
妄想に耽る少女(親潮)を敵と判断し、
首を絞めて気絶させたキルヒアイスは、小橋海岸から遠ざかり、
近くの森に身を潜め、今の状況を把握するのに努めていた。
(ここは一体どこだ…ヴァルハラの世界観とは、想像していたのとは全く違う…
一番理解に苦しむのは、ブラスターの光線で致命傷を負ったのにも
関わらず、傷痕は皆無。しかも不思議な事に僕の心臓が再び鼓動している事だ…)
キルヒアイスは、森から一面に見える景色を確認した。
その景色は、自分が今迄居た世界とあからさまに旧世代的に見えたが、
確かに人間が生活を営んでいる風景があった。
ここで妄想レベルとも言えるが、突拍子な考えに思い当たる。
(ここは、まさか…異世界なのか?)
それは昔、小説で読んだ経験がある。
内容としては、全く知らない世界に転移したとある主人公の物語の小説であるが、
置かれている状況としては、「それと」全く同じではないのか。
キルヒアイスは、自身の置かれている状況を改めて考えると、
自分の考えは、あからさまにおかしいと感じていたが、
このままでは、何も進展は無い。
取り敢えず、キルヒアイスは森を後にし、近くの軍事基地を目指した。
どのような状況化であっても、軍人としての経験があるキルヒアイスは、
まずは軍事基地に潜入し、この「世界」の情報を少しでも得ようと
考えたのである。
(しかしこれは、ナンセンスだな…武器すら持っていないのに…)
そう思いながら自分の直感を頼りにし、遂に辿り着いたのが舞鶴鎮守府である。
舞鶴鎮守府は、京都府舞鶴市に存在する鎮守府である。
最近では、日本には深海鶴棲はあまり存在せず、海外に多く発見される為、
昔は、三個艦隊が配属されていた舞鶴鎮守府でも、
現在は、一個艦隊しか配属されていない。
しかも、国内では空母の数が慢性的に不足しており、
日本が同盟国に頼って、最近グラーフが舞鶴鎮守府に配属されてきたばかりである。
キルヒアイスは、その舞鶴鎮守府にどのように侵入しようかと、
鎮守府の辺りを民間人を装って彷徨っている内に、
最終的にはグラーフに声を掛けられた。
話は、最初の辺りに戻る。
グラーフの後をついていったキルヒアイスは、
鎮守府の正門まで来ていた。
そこには、二人の少女が居た。
グラーフが声を掛ける。
「シラヌイ、オヤシオを見つけたのか?」
不知火と言われた少女は、申し訳なさそうに答える。
「はい、グラーフさん。やっと見つけました。
あとで教育しておきます」
「教育」という恐ろしい言葉を出すと、不知火の側にいた親潮という少女は、身震いをする。
「し!不知火姉さん!な、なんという事を…」
「当然の事です」
無表情で不知火は、答える。
「それで、グラーフさん。後ろの御方は?」
不知火が、グラーフの後ろにいた赤髪の青年を確認した。
その瞬間、その不知火は身震いをした。
(この人、出来ますね…しかも修羅場を幾度も経験している感じです…)。
「ああ、彼が新しいアトミラールだ」
満面の笑みで、グラーフがキルヒアイスを紹介するが、
親潮がキルヒアイスの顔を確認すると吃驚し、叫ぶ。
「え?この人が新しい司令?!
先程の海岸では…」
「あ、いや、此方こそ突然の事とはいえ、申し訳ありませんでした」
キルヒアイスは親潮に対し、頭を垂れて謝罪したが、
その光景に周りは驚く。
その中、全く驚いていない不知火は、親潮の発言に対し、首を傾げる。
「親潮…貴女は何を言っているのです?」
「私を気絶させたのは目の前にいるこの方…司令ですよ。不知火姉さん」
「!…そうですか」
不知火が、一瞬驚きの表情をしたのをキルヒアイスは、
見逃さなかったが、
すぐさま、不知火はキルヒアイスを冷酷な目で見つめる。
その目はまるで、「貴方は一体何者ですか?」と言わんばかりに。
あくまで、提督という存在は指揮に特化している人材であり、
艦娘という戦闘のエキスパートに対し、「提督」如きが「艦娘」を
「素手で拘束する事」は出来ない事は常識である。
しかし、キルヒアイスは、格闘戦において、
ローゼンリッターのシェーンコップと同等に戦える事が出来るなど、
格闘技術においても、群を抜いている。
キルヒアイスは冷酷に見つめる不知火に対し、こう思った。
(確かぬいぬいとか言われていたかな?この少女。
年齢的にとても若く見えるが、人を見る才覚は確かなようだ…
しかし、この状況…どう説明するか困ったな…)
経験豊富なキルヒアイスは、
このような修羅場に来ても、苦笑する余裕があった。
ぬいぬいはその苦笑しているキルヒアイスを見ると、
眉間に皺を寄せた。
「気に入りませんね…その堂々たる態度が…」
ぬいぬいは小声で言ったが、その言葉をグラーフが始めの方だけ拾った。
「ん?何が気に入らないのだシラヌイ?」
その言葉とは別にグラーフは不知火の発言に一抹の不安を感じた。