「う…」
不知火はベッドに仰向けの状態で寝ていた。
こめかみを強打されたせいか、多少眩暈がするが、堪えて辺りを見回す。
「ここは…診療室…」
不知火がいたのは診療室であった。
医療薬の臭いが部屋に充満しており、鼻にその匂いが擽り、意識が徐々に覚醒されていく。
その時、不知火は手首に冷たい感触を覚えた。
よく確認するとベッドのサイドフレームに
繋がれていた手錠で手首を拘束されていた。
手錠は上部に固定されており、万歳した形になっている。
不知火は辱めを受けた気分となり、憤りを感じた。
「くっ…よくもこんなことを…」
「少しは落ち着きましたか?」
「?!!!」
不知火は聞き覚えのある声を聞いて、再度意識を覚醒させた。
暗闇の中、窓から入ってくる太陽の光にその青年の姿が露わとなる。
キルヒアイスは実に颯爽としていた。
「私はそんなに不審に見えますか?フロイライン・シラヌイ」
「貴様!!」
普段冷静な不知火が激高し、キルヒアイスを睨みつけた。
キルヒアイスは顔を顰め、肩を竦める。
「私は提督なのですが…そのような態度をされると困りますね。。。」
「何ッ?!私を馬鹿にして…ッ!貴様は一体何者だッ!!
CIA?!それともKGBの諜報員かッ?!」
聞いたことのない単語が出て一瞬困った顔をしたキルヒアイスであるが、すぐに言葉を返す。
「いいえ、そのどちらでもありません」
「なんだとッ!貴様…どこの国の諜報機関の者だッ?!」
普段、冷静な不知火が声を荒げる。彼女は内心焦っていた。
この未知なる青年の存在に…
と、逆にキルヒアイスも焦りを感じていた。
「私は…」
その時、キルヒアイスは後ろから何者かの気配に気づいた。
不審者が長い武器でキルヒアイスの首を狙う。
その横薙ぎの攻撃をキルヒアイスは体を逸らして回避する。
薙刀らしき武器を持った女性が姿を現した。
「あはははっ♪よく今のを避けたわね。えらいえらい!」
「龍田さん!」
「不知火ちゃん、ちょっと待っててね~。今からこの不審者を始末するから~」
不知火が歓喜の声を挙げた。
龍田と呼ばれた女性をキルヒアイスは改めて確認する。
紫がかった黒のセミロングヘアーと同色の瞳を持っており、
実にグラマラスな体型をしている。
頭上には天使の輪のようなものが存在しており、キルヒアイスとっては、
実に非科学的に思えた。
「私は不審者ではなく、提督ですよ。フロイライン・タツタ」
「ふろいらいん…?ん~?なんかよくわからないけど、
提督であろうと、不知火ちゃんを虐めるのはよくないな~。おしおきよ~」
と、龍田は薙刀のような武器でキルヒアイスに迫る。
「その程度ですか?」
「なッ!?」
一撃必中の攻撃をなんなりと躱したキルヒアイスは、龍田の鳩尾を狙う。
「ぐほっ!」
いくら龍田が軽巡級の中で優秀であろうと、実戦で培ってきた戦闘術に勝るものは無い。
龍田は、鳩尾にキルヒアイスの正拳突きを喰らっていた。
痛恨の一撃にたまらず龍田は後方に下がる。
以外にもダメージは大きかった。龍田の膝が激しく揺れる。
「ぐ…な、なん…」
「所詮、あなたはその程度なのです」
キルヒアイスは余裕を見せ、がら空きとなった、
龍田の顎に軍隊式の掌底打を放った。
「がっ?!」
顎への衝撃が脳をクラッシュさせ、龍田は一時的に
脳震盪を起こす事となり、膝から崩れ落ちて、最終的には意識を失った。
「龍田さん!うッ!うそでしょ?!こんな簡単にッ?!」
百戦錬磨の軽巡クラスである龍田がただの人間に、
格闘戦でやられてしまった光景を見てしまい、
不知火はおもわず悲鳴に近い声を上げてしまった。
「では、次は貴方の出番ですよ」
「ひっ!」
不知火は心の底から恐怖した。ただの軟弱な優男だと思っていたが、
今となっては、鬼にも見える形相をしている男が、
ゆっくりと近づいてくる。
不知火自身、恐怖のあまり失禁しそうであった。
しかし、提督から出た言葉は意外な内容であった。
「貴方は、過度のストレスにより乱心し、提督に歯向かってしまった…
という事にしておきましょう。そこで失神している彼女もです」
「え…なぜ…」
不知火は仰天した。自分が敵だと思っている輩が何を言っているのだろうと。
キルヒアイスは、こう言った。
「私とて、孤軍奮闘はあまりしたくないものですからね。。。」
不知火は、その言葉の意味が分からなかった。