熱砂の戦場   作:こたねᶴ᳝ᵀᴹᴷᵀᶴ᳝͏≪.O

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第一戦

砂漠地帯の道を、一台のバイグ(bi-legs)が歩いている。

卵のような胴体に、二本のネコの――より強靭になるよう改修されたそれは、ネコ科という程度にしか判別はできなかったが――脚、

爬虫類の、あるいは恐竜のような一本の尻尾、胴体の左右に武装の自動杖(オートワンド)を装備したそれは、戦闘用であると一目でわかる代物だった。

周囲の魔力と積み込まれた魔力結晶の魔力を吸い上げて、シキガミ・システムによっての脚部や尾の魔導体化を維持し、稼働させる。

風防の後ろ、民間用の改造品であるこのバイグの操縦席に座っているのは、一人の傭兵の男だった。

「暑いな……」

強い日差しに思わずつぶやく。聞くものは誰もいないとわかっていてもそうしてしまう暑さだった。

後で外せばいいのだから庇ぐらいはつけてくるべきだった、そう後悔をする。

この地域では紛争が続いている、カラブリア政府軍、独裁による強力な発展を掲げるカラブリアクーデター軍、テロリスト組織、時にはゴロツキが戦場に紛れ込むこともある、混沌とした戦いだ。

彼もまた、カラブリア政府軍側に雇われた傭兵としてその紛争に参加した身であり、今まさに戦場へと向かっているのだ。

この調子では仕事場に着くまでにへたっちまうんじゃないか?任務までに少しは休む暇があればいいんだが。

そんな心配をしつつ進む。街はもう、そう遠くはなかった。

 

―――――――――――――

 

「メルヴィン・R・ジョンソン。あんたら政府軍に雇われた傭兵だ。」

「確認している。間違いないな。私はマルセル・ボーディン中佐、この基地の指揮官だ。よろしく頼む。」

明日から任務についてもらう、と続く。バテる心配はしなくてよさそうだ。

「君の任務は、ここ、ガンドヴァ市で行われている戦闘に参加することだ。細かい任務については、現段階では決定されていない。現場の指揮官の指示に従ってもらうか、自らの判断で行動してもらうことになるだろう。」

「単純に戦えばいいってことだな。」

「そうだ。複雑な任務は我が軍の人員が行う。恐らくは通常の戦闘や威力偵察が主になるだろう。当然危険ではあるが、その分の報酬は支払っているはずだ。働きによっては、後金が増えることもあるだろう。

今日のところは、この宿舎の空き部屋とガレージを使ってくれ。明日、輸送騎で部隊とともに前線へ向かってもらう。この略帽と国籍マークを使ってくれ。」

「了解した。」

カラブリア政府陸軍の制式略帽とバイグ用のエンブレムデカール、割り当てられた部屋とガレージ内区画の地図を渡される。まずは部屋を見て、荷物を置いたらバイグの整備をするとしよう。

マルセル中佐へラフに敬礼。綺麗な敬礼で返されたのを見届けて、メルヴィンは退室した。

廊下に出ると、窓の外になにかが見えた。見ていると、それが雨であることがわかる。ざあざあという音が聞こえてきた。

「晴れた空で雨……それもこの砂漠地帯でか。」

珍しいこともあるものだ、とメルヴィンは思った。明日の地面がぬかるまないといいとも。

 

―――――――――――――

 

翌日、メルヴィンはバイグに乗って輸送騎の上にいた。多数の脚が土を蹴る衝撃が小刻みに伝わってくる。周りには、同じように運ばれる政府軍の軍用バイグと兵士たちがいた。

メルヴィン騎を含めて6台。班規模の部隊だった。背中合わせに左右三両ずつ載せられている。前線に着くまでの時間、黙って待機していたり、近くの戦友と話をしていたりする。

「あんた、昨日来たっていう傭兵か?」

隣のバイグの操縦士が話しかけてくる。気さくそうな声だ。

「ああ。そうだが。あんたは、聞くまでもなく兵士だな。」

「おう。トビーってんだ。よろしくな。」

「俺はメルヴィン。世話になるぜ。」

トビーは笑顔を見せる。声の通りの気さくな性格のようだ。

メルヴィンは今回、この班に組み込まれる形で編成されていた。そうは言っても大まかな作戦行動の目安としてのもので、直接命令が下ることはあまりないとのことだった。

任務は通常戦闘。所詮民間用の改造品であるメルヴィン騎は、正面戦闘は他に任せ、側面からの攻撃やかく乱などを行うことになるだろう。

目標の敵勢力はテロ組織の戦闘員。戦車等が出張ってくることもなさそうで、バイグでも正面戦闘が可能な歩兵中心の相手だった。

「そろそろだな。」

「ああ。せっかくこうして話したんだ、あんたを頼りにさせてもらうさ。豪華なものもぶら下げてるしな。」

班員のバイグはそれぞれ多少のカスタマイズがされていた。

トビー騎は大型自動杖やロケットランチャーなどを中心の武装構成をしていた。胴体正面には増加装甲も取り付けられており、単純明快な重装型という趣だった。

「任せとけ、あんたの装備じゃ重装甲には歯が立ちそうにないからな。俺が吹っ飛ばしてやるよ。」

さきほど気さくなものとは少し違う、獰猛な笑みを浮かべる。つられてメルヴィンも笑う。悪くない味方だった。

体が慣性で前へ引っ張られる感覚。揺れが止まる。目的地についたらしい。

荷台の側面壁が開く。右側スティックを前に倒し、騎体を前に傾けて右ペダルを踏みこむ。輸送騎からバイグたちが跳び出す。

着地。左スティックを前に倒して前進。ひとまず建物の影に隠れて停止。周囲を確認する。

『アルファコマンダーより各騎、状況を報告せよ。』

『アルファ1、異常なし。』

『アルファ2、異常なし。』

『アルファ3、異常なし、敵影を確認、歩兵だ。数は明確には確認できない。視認した範囲では10名程度、さらにいると思われる。』

『アルファ4、異常なし、こちらでも確認した。』

『アルファ5、異常なし、こっちもだ。』

通信が飛び交う。メルヴィンに与えられたコールサインはアルファ6だった。右スティックを横に倒して騎体を傾け、建物の角から少し頭を出して様子を伺う。遮蔽物から身を乗り出す10名程度の敵歩兵が確認できた。』

『アルファ6、異常なし、こちらも確認した。』

『アルファコマンダー了解。敵歩兵を撃破せよ。未確認兵力の手榴弾に注意。』

全員が了解を返す。各騎が射撃を開始。正面から銃自動杖を射撃する騎もいれば、遮蔽から片側を出して自動杖を射撃する騎もいる。

メルヴィンも行動を開始する。まずは遮蔽から片側を出しての射撃。風防前部の照準器で狙いをつけ、右スティック人差し指でトリガーを引く。

動力炉から胴体右側、上下に連なる二本の内の上に取り付けられた自動杖に魔力が通る。機関部の彫刻で術式が組み上げられ、先端から黄色っぽいエネルギー弾が連続して撃ちだされる。無属性の単純な自動杖だった。

敵兵に命中。衝撃を受けて吹っ飛び、着ている服が乱れる。右スティック中指でトリガー。胴体右側下の自動杖に魔力が通る。鋭く尖った小さな岩が筒内を通って高速で射出、ビュウという鋭い風の音が聞こえた。岩・風属性の少々旧式な歩兵向けマークスマンワンドだ。

敵兵の胴体に命中。敵兵は起き上がらず、赤い血だまりを作る。旧式とはいえ生身の人間に耐えられるものではなかった。

『アルファ6、ショットダウン、1。』

通信で報告。胴体を水平に戻し、左スティックを後ろに倒して後進。後進は機敏ではなく、揺れも大きい。先ほどまで居た場所を敵の攻撃が飛び抜けた。

周囲を見る。味方は変わらず交戦中。10名はすでに倒している、やはりもっといたのだろう。

左スティックを横に倒して180°旋回、前進。さらに曲がり、撃ち合いの行われている戦場の横の路地に入る。右ペダルを踏みこみ、跳躍して低い建物の上に登る。

右側で撃ち合いが行われている。そちらを向いて左ペダルを踏み騎体をしゃがませる。照準、トリガー。

右下、左下と続けてマークスマンワンドが火を噴く。敵歩兵を撃破。

敵歩兵の数が減り、抵抗も弱まってきた頃、メルヴィンは敵歩兵の布陣のさらに奥からやってくる影を見つける。

操縦席内に備え付けた双眼鏡でそちらをみる。敵のバイグだ。

『アルファ6より報告、敵増援、バイグ、三騎だ。かなりの重装型、動きは相当鈍いが、ロケラン持ちの兵士まで複数人乗せてやがる、下手な四脚戦闘歩行騎並みの火力はありそうだ。』

『アルファコマンダー了解。各騎、速やかに敵歩兵を撃滅し、増援に備えよ。』

味方バイグのうちの装甲が厚いタイプが前に出て歩兵を蹴散らす。多少小火器を喰らうが、バイグと歩兵に連携されることは避けたいのだろう。

エルヴィンは敵バイグに狙いを定める。射撃。

ロケットランチャーを構えバイグに増設された座席に座る兵士を2名撃ち抜くが、他は上体を伏せバイグを盾にして防がれた。バイグの装甲には全く歯が立ちそうにない。

関節部を狙おうと試みるが、機動性を捨てて無理矢理分厚い装甲を付けたしたらしいそれらは関節部もカバーされていた。

『アルファ6、ロケットランチャー兵を2名撃破!他はうまく防がれた、あのバイグの装甲にはこちらの武装では歯が立ちそうにない!』

『こちらアルファ5、ようやく俺の出番ってわけだな。』

トビーの声だ。

『前に出て注意を引き付ける!ロケラン持ちが顔を出したら片づけてくれ!バイグの方にはぶちかましてやる!』

トビー騎が力強く地面を蹴り、重量級の騎体が前に出ていく。味方は敵に狙いを定める。メルヴィンも同様にする。

敵バイグが立ち止まり、トビー騎を向く。ロケットランチャー兵が顔を出した。

トリガー。火器が火を噴き、敵兵の頭を撃ち抜く。他の兵士も味方の射撃に撃ち抜かれていく。

トビー騎が左右にぶら下げた二本のロケットランチャーを斉射。同時に敵騎も攻撃を開始。倒れた敵兵の一部が最後に放ったロケットランチャーも迫る。

敵騎自動杖の弾体がトビー騎に着弾。火花を散らす。トビーが脚を曲げ、左へと跳躍。ロケットランチャーを回避し、遮蔽物へ入りこむ。

敵騎の煙が晴れる。二騎の装甲が大きく抉れ、中の民間用バイグの胴体が見えている。

『こちらアルファ6、装甲が抉れた!あそこを狙うぞ!』

照準、射撃。他の味方も火力を集中させる。

一騎、二騎と魔力の輝く粒子を吹き出し倒れる。トビー騎が再び遮蔽から飛び出し、無傷の三騎目にグレネードランチャーを浴びせる。装甲が抉れ、そこに重自動杖と味方の射撃。三騎目も撃破。

撃破の報告が重なる。敵増援も全滅。

『アルファ1よりアルファコマンダー、敵影確認できず。』

『アルファコマンダー了解。引継ぎ部隊の到着まで、警戒を続けろ。』

『アルファ1、了解。』

『2』

『3』

『4』

『5』

『6』

戦場は一旦静かになった。

「ふぅ、一山超えた、といった感じか。」

メルヴィンはつぶやく。心の中で、まだまだ油断はできないが、と付け足す。

足音。重装型の軍用バイグが近づいてくる。

「メルヴィン、どうだったよ、この俺の活躍は!」

トビーだ、調子の良い奴だ、と思う。しかし、

「ああ、最高だったよ。ロケランを盛った相手に突っ込んでいける奴はそうはいない。」

事実だった。そのようなリスクの高いことを出来る兵士はそう多くはない。そして、彼のその行動によって多いに助けられたことも。

「へっへっへ、当然だな!あんたの狙撃もナイスだったぜ、メルヴィン。」

「ああ、ありがとう。だが、まだ任務は終わっていない。気を抜くなよ。」

「わかってるよ。」

気さくな笑み。悪くない仲間だった。

その後も警戒を続けるが、結局交代の部隊が来るまでに再度の戦闘はなく、メルヴィン達は帰還することとなったのだった。

 




用語

バイグ:
bi-legs、略してバイグ。地球におけるバイクの位置を占める乗り物。
シキガミ・システムによる2本の脚とバランスをとるための尻尾を持つのが標準的。
特に民間用においては、脚には肉球の付け替えにより路面の変化に対応しやすいネコの脚が用いられることが多い。
標準的な操作方式は二本のスティックと二つのペダル、いくつかのボタンによるもので、左スティックの前後で前後進、左右で旋回、右スティックで上体を傾けることができる。
左ペダルを踏みこむことでしゃがみ、右ペダルで跳躍。右スティックを傾けている場合その方向に跳躍する。

シキガミ・システム:
月下之国に式神という近い技術が存在していたこと、またその技術が多いに参考になったことからついた名前。
媒体を動物の体の一部へと変身、制御する魔術。
媒体はより変化対象に近く作られていた方が燃費がよく、非使用時にそれを整備、カスタマイズすることができるため、急造品や生産性を突き詰めたものでなければ変化対象のある程度精巧な模型が媒体に使われる。前述の肉球の付け替えなどはこれによって行われるもの。

自動杖:
銃火器にあたるもの。魔導書や魔法陣等と同等の機能を有する彫刻が施された機関部が基本部位。発動する魔術によっては銃身砲身がついていたりする。歩兵携行のものはマガジンのように付け替えて使用する魔力結晶、ビークルに搭載されるものはその動力炉からの魔力供給を受け、トリガーが引かれるなどの操作によって魔術を発動するのが基本である。単に自動杖、オートワンドと言った場合、大抵は戦闘用の遠距離武器としてのものを指す。

魔力結晶:
その名の通り魔力の結晶。魔力に還元できる。

輸送騎:
輸送用のビークル。輸送車両にあたるもの。装輪装甲車の類は、ネコ科の脚を何脚も装備するタイプが多い。

四脚戦闘歩行騎:
戦闘用装輪装甲車にあたるもの。四脚が多いため、四脚意外もこう呼ばれることが多い。

ロケットランチャー:
実弾武器も存在する。使い勝手は自動杖に比べて悪いが弾に高度な機能を持たせられる(各種信管やHEAT弾、ホローポイント弾などなどの類)ことが特徴で、ロケットや大口径砲に使われることが多い。推進や炸裂など構造は地球のものと変わらないが、使われるテクノロジーは違う。
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