かなり久し振りの投稿となりました。
何分学生なので不定期投稿になりますが、よろしくお願いします。
早朝、朝日が地を照らし気候も涼しくとても清々しい朝だ。いつもなら伸びをして全身でそれを味わうのだが今日はそういう気分ではない。俺は布団をたたみ重たい足取りで台所へと向かった。
タンタンタンタンと具材を切る音が近づいてくる。ハァ、気まずい...昨夜の一件が原因で慧音に話かけづらい。
台所をこっそりと覗いて見る。どうやら朝食はまだ完成していないらしい。話しかけるのを躊躇っていると、包丁を置き何かを探し始めた。
「うーん。しまった。塩の買い置きも無いなぁ~」
どうやら塩を切らしてしまったらしい。俺はある考えが浮かび慧音に話しかける。
「俺が燗兵と一緒に買ってきましょうか?」
「おお、零じゃないか。おはよう。すまないが頼んでもいいか?」
上手くいったと思ったのもつかの間、慧音はニヤリと笑みを浮かべる。
「さては零。私の機嫌を取りに来たな」
図星である。
人里・万屋
朝食は塩がなく少々残念な物になってしまったが、慧音との談笑もあり楽しいひと時を過ごせたので良しとしよう。
俺は燗兵に事情を話し、寺子屋から塩が売っているという万屋へ直行した。
「塩を二袋くれ」
店の扉を開けるのと同時に燗兵が言い放つ。
「はーい。少々お待ちを」
元気よく男の声が返ってくる。
それにしても…万屋というだけあっていろんな物が売っているな。食材や道具、中には用途がよくわからない物まで売っている。
興味本位で弄り回しているとバキッと音がし壊れて(壊して)しまった。
や、やってしまった。チラッと値段を見てみる。
多い…単位が多いぞ…こんな物が…嘘だろ……。
「うわああぁぁ」
突如、男の悲鳴が店内に響く。
とっさに壊してしまった商品を後ろに隠し声がした方向を向く。
そこには腰を抜かした男が目を見開きこちらを指さしていた。
そこまで貴重な物だったとは…許してもらえるかはともかく謝るしかない。
しかし、謝罪の言葉を口にする前に男が口を開いた。
「お、鬼だ!地獄の鬼だ!燗兵さんあんた退治屋だろ!なんとかしてくれよ!」
失礼な。確かに俺は鬼だが、至って普通?の鬼だ!とそう言ってやりたいが、俺が喋ると余計に恐怖を煽ってしまいそうだ。
「おい、落ち着け。こいつは確かに鬼だが、敵意はない」
男はこちらをゆっくりと見る。
「敵意なんてありませーん」
全く...昨日の聞き込みもこんなことがあったが、勘弁願いたい。
あっ、そうそう。忘れる所だった。
「あの、すみません。この商品壊しちゃいました」
俺は後ろに隠していた商品を男に差し出し、すみませんでしたと頭を下げる。
どんな返答が返って来るかとドキドキしながら床を眺めていると自分の腕がブルブルと震え始めた。
俺の震えではない。男の震えである。きっと怒りのあまり体が震えてしまっているのだ。
そう考え出すと思考はズルズルと悪い方向に流れ出す。
多額の弁償...倒れ込む燗兵...慧音の.....頭突き。
ごくりと生唾を飲む。なんとしても避けなければ...。
俺はもう一度顔を上げ弁解を試みる。
しかし、そこに思っていたような鬼の顔はなく変わりに今にも泣きだしそうな男の顔が二つそこにあった。
察するに、俺に対する恐怖のあまり商品どころではない男と、壊れた商品の値札と自分の財布の中身を何度も見比べ金の心配をする燗兵といったところだろう。
男二人が涙目になっている空間というのは、なんとも異様なもので何も言い出せずにいると男が口を開いた。
「お、お代は結構なのでどうか...どうか命だけは!...。」
どうしてここまで怖がるのか?俺も鏡を見た時は驚いたが、流石にここまでパニックに陥ったりはしなかった。
本人に聞いてみようかとも思ったが、これ以上怖がらせるのも申し訳ないので塩を二袋抱え店を後にした。
*
店の物を勝手に触るなと説教をきつく受けてから、ずっと疑問に思っていた事を燗兵に聞く。
「なぁ、燗兵さん」
「燗兵で構わん。で、どうした?」
「俺はどうしてこんなに怖がられるんだ?」
「お前が鬼だからだ」
いや、そうじゃなくて...。俺が聞きたいのはあの異名についてだ。『地獄の鬼』なんて名乗ったこともないし、聞いたこともない。
もう一度聞き直そうと隣を歩いている燗兵に顔を向ける。
しかし、そこに燗兵の姿はなく変わりに後ろの方から野太い声が飛んでくる。
「零!すまねぇ!便所行ってくる!」
はは~ん。さては燗兵。弁償せずに済んだ安堵感が今更来たな。
そう思いつつも、俺は夏の猛暑を少しでも和らげるため、すぐ側にあった団子屋の縁台に腰掛ける。
「いらっしゃーい。何にします?」
店の男が必然的に注文を取りに来るが、生憎俺は金を持っていない。
注文を断ろうと店の男を見上げた時には既に歯の根は合わなくなっていた。
ハァ。と大きく溜息を吐き改めて注文を断ろうとした時だった。
「三色団子を二本お願いします」と隣から声が聞こえてくる。
見てみれば、カメラを首から掛けており、天狗や山伏が被る頭襟を身に着けていることが特徴的な少女がいた。
白装束を着てウロウロしていた自分が言えることではないが、変わった格好をしている。
そして奇妙なことがもうひとつ。
彼女もまた俺のことをじっと見ているのだ。
確かに頭から二本の角が生えている鬼が隣にいるのだ物珍しいのは確かだろう。
だがしかし、何故恐れない?
少々戸惑いつつも、俺は少女に声をかける。
「どうかしましたか?」
すると少女。ハッとした表情を一瞬浮かべ抑揚のある声で自己紹介を始める。
「これはこれは失礼しました。私、清く正しい『文々。新聞』の射命丸文と申します。この度はあなたにいくつかご質問があり、取材をしに参りました」
取材?俺にか?最初は少し戸惑ったが、徐々に気分が高揚してくる。
取材を頼まれて嬉しくならない者がいるだろうか?
気分に任せ承諾しようとするが、ふと踏みとどまる
鮮明に蘇ってきたのだ。昨夜の痛みと言葉が…。
『あなたはもう少し自分が監視されている身だという事を自覚して下さい』
…また勝手な行動をしてそれがバレてしまえば、慧音のあの強烈な頭突きが飛んでくるにちがいない。
「すみませんが取ざ」
取材を断ろうとすると、ある魅力的な一言で言葉が遮られる。
「三色団子、一本どうですか?」
*
こうして俺は一本の三色団子と出来るだけ手短に済ます、という条件で取材を受けることにした。
何処から来たのか、なぜ白装束を着ていたのか等。最初は予想していた通りの質問だったが、徐々に雲行きが怪しくなってくる。
寺子屋で何をしているのか、なぜ昨日黒い球体のことを訪ねまわっていたのか、そして、文は一枚の写真を取り出し俺に見せる。
「これ、あなたですよね?」
紛れもなく俺だった。妖怪退治に向かう道中と黒い球体と対峙した時を撮影した物だった。
サーっと血の気が引くのを感じる。
素直に答えることが出来ずに口籠っていると、懐かしい声が聞こえてくる。
「おーい、零!待たせたな!」
「今日はここまでですね。それでは私はこれで」
そう言い文は立ち上がると背中にバサッと烏のような立派な羽が現れ飛び去ってしまった。
彼女が人間ではなかったことに驚きだが、それよりも、彼女が飛び去る寸前にボソリと言った言葉に大きな不安を抱いた。
『面白い記事がかけそうです』