東方義(偽)妹守護録   作:桔梗 桜

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五話

「ほ~う、それで取材を受けたと?」

 

慧音の前で正座をしていた俺は俯きながら小さく縦に頷く。

 

およそ三時間前。

 

昨日の取材のことなどすっかり忘れ、スヤスヤと心地の良い眠りに就いていたのだが、障子が勢い良く開く音と慧音の「零!!」という金切り声で目が覚める。

 

な、何事だ!?

 

布団から上半身を素早く起こすと顔面スレスレの所に一枚の紙を差し出される。

 

どうやら新聞のようだ。

 

まだ眠気のある眼を擦りながら、少し顔を離し無数の文字と何枚かの写真が掲載された新聞に目を通す。

 

 

 

『人肉同好会の設立か!?人間は厳重な警戒を!!』

 

 

 

他の文字より一際大きく書かれた見出しがまず目に入る。

 

物騒なものだなぁ。出来れば関わりたくないものだ。

 

そう思いながら、新聞を読み進めていく。

 

 

 

『現在、人里で噂となっている「地獄の鬼」というのをご存知だろうか?

 

今回、私はその本人を取材することに成功した。

 

そもそも、「地獄の鬼」とは何か?簡単に説明しよう。

 

この間の人里で行われた夏祭りに突如として現れた白装束を着た鬼のことである。

 

取材により、名前を「柊 零」記憶喪失により年齢不詳、住居 寺子屋(仮)ということが判明した。

 

自警団の頭である上白沢慧音氏によって当日確保され、彼の目的は不明と言及されているが、取材によりその目的が徐々に浮かび上がってきた。

 

人里の目撃者によると「通りすがる人たちを順番に睨みつけて、まるで品定めをしているようだった」と語っている。

 

そう。この品定めとはもちろん、誰を喰うかの品定めである。

 

この回答に不安を覚えた私は、更に取材を進め、確たる証拠を激写した。』

 

 

 

俺はわなわな震える手を落ち着かせながら、恐る恐るその ”確たる証拠 „ に目を移す。

 

予想通り、そこには人喰い妖怪こと黒い球体と対峙した時の写真だった。

 

今更ながら、昨日の取材を後悔する。

 

何ということだ...俺は三色団子一本と引き換えに自分の信頼性を完膚なきまで叩き潰したのだ...。

 

もう精神はズタボロだが、目を覆いたくなる文はまだまだ続く。

 

 

 

『この写真は、度々人里を騒がせている人喰い妖怪ルーミア氏と「地獄の鬼」こと柊零氏による密談の様子を激写したものだ。

 

目撃証言や寺子屋、ルーミア氏との密談。これらから、とんでもない目的が浮かび上がってくる。

 

それは、人間の子供を喰らう計画だ。

 

現れた当日に何の抵抗もせず捕まったというのは、どうにも腑に落ちないが、寺子屋に潜入するためだと考えれば納得がいく。

 

そしてさらに、あの人里の自警団の頭である上白沢慧音氏も共犯である可能性があるのだ。

 

この密談が行われたのは、柊零氏を確保した次の日の夜に行われている。

 

まだ、確保され数か月、いや、数週間ぐらい経っていれば、警戒も緩むだろうが、まだ確保し三日も経っていない状態で密談に成功しているのだ。

 

生真面目である彼女がこれを許すとは到底思えない。が、わざと見過ごしたと考えればこれも納得がいくのである。

 

人里の人間は、子供達を寺子屋に通わせるのをやめさせた方が無難かもしれない。』

 

 

 

一通り新聞を読み終わった頃には、ショックよりも遥かに困惑が頭の中を支配していた。

 

一体全体、どういうことだ...?

 

つまり、俺があの黒い球体と手を組んで寺子屋の生徒たちを狙っている...と?

 

頭の中で事の整理をしていると、ゆっくりと新聞が下げられ怒りに燃えた慧音の目が現れる。

 

…今はこの状況を打破することが優先だな。

 

「零...居間で話を聞こうか」

 

 

 

 

 

 

そして今に至る。

 

もう隠し通すことは出来ないと思った俺は、実行した計画と目的を洗いざらい慧音に話した。

 

「零。お前の言い分もわからなくはない。人里の人間や私からの信頼を早く築き、仲良くやっていきたかったんだな」

 

ただ、無言で頷く。

 

分かってもらえて良かった...。

 

「立派な理由じゃないか...。」

 

寝起きの邪険な雰囲気は消えつつあった。そう、あっただ。

 

「…それが本当ならな。実のところどうなんだ?」

 

慧音から発せられた言葉に驚き、顔を上げる。

 

そこには、いつもの優しい目でもなく、先程の怒りに燃えた目でもなく、ただ、殺気に満ちた目がこちらに向けられていた。

 

「…えっ?」

 

思わず、呆けた声が出る。

 

「だから、実際の所はどうなんだ?と聞いているんだ。零。私もすっかり油断してしまったよ。こんなに礼儀正しい妖怪...それも鬼に出会ったのは初めてだったからね。まさか、天狗の新聞に気づかされるとは思ってもみなかったよ」

 

心臓の鼓動が速くなる。

 

どう話しても信じてもらえそうにない。

 

何か話さなければ...。

 

そう思い何か言おうとするが、喉に何かが詰まったかのように声が出ない。

 

何か言わなければ、何か話さなければ、もっと疑われてしまう。

 

そう自分に言い聞かせるのだが、やはり声が出ない。

 

「どうなんだ零?!お前は私の生徒たちを襲おうとしたのか!?」

 

中々答えない俺に嫌気がさしたのか慧音は声を荒げる。

 

その時だった。

 

ドンドンドンと扉を叩く音が聞こえ、複数人の男女の叫び声が聞こえてくる。

 

「慧音先生!いらっしゃいますか!慧音先生!!」

 

どうやら、新聞を読んだ人間が真偽を問いに寺子屋まで駆けつけて来たようだ。

 

名前を呼ばれ我に返ったのか、慧音は一回大きく深呼吸すると、「ここで待っててくれ」と俺に言い、そそくさと居間から出て行ってしまった。

 

一時的に緊張感から解放された俺は一気に崩れ落ちる。

 

まさか、取材一つでこんなことになってしまうとは...。

 

昨日の自分の判断を恨めしく思いながら、ただじっと居間で慧音の帰りを待つ。

 

セミと自分の腹の音をずっと聞いていたせいか、自然と慧音たちの会話が耳に入り込んでくるようになる。

 

「私の失態で皆の不安を煽ってしまい本当にすまない」

 

慧音の謝罪の声だ。

 

するとすぐに、謝罪に対する返答が返ってくる。

 

「慧音先生は悪くありません!」

 

「どうせまた天狗のでっち上げだ!」

 

「そーだ。そーだ。悪いのはあの鬼と天狗だ!」

 

「博麗の巫女に頼んで退治してもらいましょう!」

 

退治。そう聞いた途端、自然と体が動いていた。

 

縁側から生徒たちが休み時間中遊ぶらしい裏庭に出て、塀を超えて、ただただ、がむしゃらに走った。

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