東方義(偽)妹守護録   作:桔梗 桜

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九話

無事、カビ臭い我が家に辿り着くことができた。

建付けの悪い戸を開けてみてもルーミアの姿はない。

当たり前だ。ここは逃げて来た時に偶然見つけたのであって、ルーミアの家ではない。自分の住処に帰ったのだろう。それに、ルーミアは人喰い妖怪。自分も一度襲われたのだ。その危険が去ったということをむしろ、喜ぶべきじゃないか。

そう自分に言い聞かせるも、モヤモヤとした違和感は止まない。

 

「…寝よう」

 

頭を横に振り、床に横になる。体は弾幕ごっこをした時よりも更に重く、腹は減っているが食糧を探しに行く気力など微塵も湧いてはこなかった。

床に横になったまま刻々と時は過ぎる。何度フクロウの鳴き声を聞いただろうか?疲れているはずなのだが一向に眠れる気がしない。やはり、食糧を探しに行こうか。そう思い始めた時だった。ガガっと建付けの悪い戸の軋む音が聞こえてくる。

ルーミア…?

 

「ったく、結構使ってなかったからボロが来てんな…」

 

違う。ルーミアではない。鬼の目は夜でも効くようで、ハッキリと弓を持った大柄な男が目の前に映し出される。空き家だと思っていたが間違いだったらしい。

男は建付けの悪い戸をなんとか開けると、やっと俺の存在に気がついたようで、男の顔はみるみるうちに青ざめていく。

 

「お、鬼!?なんでこんな所に!?」

 

男は驚きつつも素早く弓を構える。あわよくば、逃げてくれれば良かったのだが、そうはいかないようだ。ギリギリと震える弓の弦を見せつけられ、次第に恐怖と不安が大きくなる。

 

「お前!天狗の新聞に載ってた鬼だな!!寺子屋には俺のガキも通ってんだ!」

 

ああ、そういうことか。俺が寺子屋の子供を襲うという噂がこの男の行動力の源になっているのか。それにしても、会って直ぐに新聞を思い出すとは、中々の機転の持ち主だ。この男ならなんとか誤解を解けるかもしれない。

男の息は獣のように荒く、相手も怯えていることが十分に伝わってくる。

 

「おい人間。俺は寺子屋を襲う気はさらさらないぞ」

 

相手を刺激しないよう出来るだけ静かにゆっくりと言葉を発する。

男は弓を構えたまま黙り込むが、構わず続ける。

 

「あの新聞はデタラメだ」

 

「やっぱりそうか…。天狗の新聞は本当に信用ならねぇな」

 

男はそう言ってゆっくりと弓を下ろす。

こんなにもあっさり信じてくれるものか?

 

「信じるのか?」

 

「ああ。鬼は嘘をつかないからな」

 

そう言って、男が安堵の溜息を吐いた瞬間、俺の視界から男は消えた。

ぎゃああぁぁ!という叫び声が辺りにこだまする。バキッ!バキッ!と、乾いた音が何度か鼓膜を揺らした後には、既に男の声は聞こえなくなっていた。

俺は闇の中に向かって声を掛ける。

「ルーミア…?」

 

すると、目の前の闇は消え去り、月の光がルーミアを赤く照らし出した。

 

「ラッキー♪久しぶりの人肉なのだー」

 

嬉しそうに肉を頬張るルーミア。血の匂いが部屋の中にまで広がってくる。

 

「零も食べる?」

 

差し出された肉に腹の音が大きく鳴りそうになるが、何とかそれを抑え、首を横に振る。

 

「腹は空いてない…」

 

「じゃあ、私が全部食べちゃお〜」

 

俺は目の前で美味しそうに肉を堪能するルーミアを眺めながら安堵の溜息を吐き出した。

 

 

「零、チルノが明日の朝来いだって」

口の周りに血をべっとりとつけたままルーミアは言う。

 

「その口周りどうにかしたらどうだ?」

 

軽く注意をすると、ルーミアは「あっ、本当だ」と血を舌で舐めとる。

それにしても、チルノは俺に何の用があるのだろう?また弾幕ごっこだろうか?それとも、別の要件だろうか?正直、明日は食糧と服の調達をしたいのだが...。

そんなことを考えつつ、俺はもう一度床に横になる。あの男には申し訳ないが、この小屋は使わせてもらうとしよう。罪悪感がジワジワと湧いて出てくるが、今更後悔しても遅い。あの男はルーミアの腹の中に収まってしまい、もう会話など出来ない。死人に口なしという奴だ。

ルーミアにお休みと一声かけ、瞼を閉じる。先程と違いすぐに意識は深い所に落ちていった。

 

 

朝一からチルノに呼び出され、重たい体に鞭打って昨日の場所に向かう。

途中迷いそうになったが、ルーミアの案内のおかげで何とか集合場所に辿り着くことが出来た。

 

「零、ルーミア、遅いよー」

 

到着そうそう、チルノに文句を言われる。勘弁してほしいものだ。こちとら飯もろくに食ってないし、昨日いろいろあって疲れているのだ。

 

「よーし!みんな集まったね。今からさくせんかいぎだ!」

 

「チルノ〜…もうやめようよ〜…」

 

弱々しくそう言うリグル。一体何が行われると言うのだろうか?

 

「チルノちゃん。私また怒られても知らないよー」

 

「大ちゃん大丈夫だよ!仲間も増えた訳だし、それにあたいがいるからだいじょーぶ!」

 

ハァ…と溜息を吐く大妖精。だから、一体何が行われるんだ?チルノに言われたとはいえ、仲間と言われて少し嬉しくなる。子分と捉えることも出来るが、そこは考えない。

 

「一体何をするんだ?」

 

仲間と言われたことに俺の心は舞い上がり、みんなで“行うこと”を空腹も忘れて聞き入る。

 

「博麗霊夢にイタズラを仕掛けるんですよ。チルちゃんも飽きないよなー」

そう飽き飽きしたように言うミスティア。察するにもう何度か失敗しているようだ。うん?博麗?博麗…ってまさか!

自問自答している間に話は進み、神社の賽銭箱に凍らせたカエルを詰め込むという愚かな作戦が完成した。




飛んで火に入る夏の鬼
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