優しい子たちと世界の果てで   作:あーふぁ

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1.世界の果てで陽炎と過ごした3週間

 世界は人類の敵である深海棲艦と長いあいだ戦争を続けている。

 海を支配され、日本は資源不足で生活が苦しくなり、時々日本本土にも攻撃をされていた。その時に父と母がなくなり、俺だけが生き残った。祖父母に引き取られたものの、家計の負担を減らすために俺が士官学校に入って軍人になるのは当然だった。

 そして22歳に提督になってから7年ものあいだ、一緒に苦楽を共にしてきた32人の艦娘たちの上司として本土周辺の近海警備、輸送船護衛の任務を続けていた。

 だが戦況悪化に伴い、全艦娘が前線へと異動になった。

 俺は部下だった艦娘たち、中には親友や妹のように接していた彼女たちに別れを告げる間もなく、軍上層部から来た人間がすぐに連れていった。突然のことで寂しさと悲しさを抑えきれず、1人きりになった人生への絶望と無気力感が出て軍人を辞めようと思った。

 だけれど、一週間もしないうちに新しく軍から命令された指示書で提督を続ける理由ができた。

 それは怪我をして前線では使えなくなった艦娘たちの提督だ。

 手や足、または目や耳がダメになった、それぞれ違う身体障害を持つ5人の艦娘を任されることになった。任務の内容は今までやっていたのと同じ近海警備。

 慣れている任務とはいえ、肢体不自由な艦娘たち相手では今までの指揮とは大きく違うと思う。

 それぞれの艦娘に関する書類を受け取ったあとは部隊として艦娘たちが各所から集まって動けるようになるまでの間、障害に関する本を読んで民間の講習会にも参加した。

 新しく勉強することは手間ではあるけれど、自分の幸せのためにしていることだ。だからやる気もある。それに俺に預けられた艦娘はふたたび前線へ行くことはないために取り上げられることもない。あらたな艦娘たちと共に生きていくことで俺は寂しさをまぎらわすことができる。

 提督という仕事を続けることに喜びを感じ、新しい配属先の場所は俺たち以外の人がいない、海沿いにある山を切り開いた場所の小さな海軍基地だった。

 そこは以前30人ほどの艦娘がいる場所だったが、人員は前線へとまるごと行ったために人はいなかった。そのために俺と艦娘の合計6人で基地の運営や警備、雑務をする必要がある。

 港がある海軍基地の周りは結構前に深海棲艦に攻撃されて壊れたままの建物や道路がある。また襲撃される危険があることから、海軍基地周辺には人がいない。

 遊ぶところや物を買うには大変不便だが、ここはとても静かな場所だ。気にするのは艦娘たちだけでいい。

 自分たちしか頼れる相手がいない場所で仲良くやっていきたいため、また別々に呼ばれると俺が混乱するために5人の艦娘たちに俺のことを『提督』と呼ぶように統一させた。

 そして海沿いの小さく静かな軍事基地で、障害のある5人の艦娘たちと艦娘寮で一緒に暮らし、俺の楽しくもある新しい日が始まっていく。

 

 

 ◇

 

 

 新しく配属された海軍基地で働いて3週間。今は11月のはじめを迎え、少しずつ雪が降る時期が近づいてきている。

 そんな寒い外と違い、執務室では暖炉の火で部屋を暖めているから過ごしやすい。

 フローリングの執務室にあるのは俺が座っている椅子とセットである執務机、その机の上には電話がある。壁沿いには壁掛け時計とクローゼットに掃除用具が入ったロッカー、それと天井近くまである高さの本棚があるも本はまだ少ししか置いていない。部屋の中央には丸テーブルとそれを挟むソファーがひとつずつある。

 あまり物がない部屋は寂しいが、これから少しずつ前にいた執務室と同じように増えていくだろう。

 読書中、ふと見た寂しい部屋の光景に小さなため息と共に俺は椅子に深く背中を預けると、斜め後ろにある窓を見る。

 ちょっと汚れた窓に映るのは俺自身の顔だ。

 上司や同僚に見られることもないから髪も伸ばしたままになり、耳を覆う程度には長くなっている。

 紺色をした冬用の第一種軍装を着て、革靴をしっかりと履いている。けれど、楽になりたいために帽子はこっちに来てからずっとクローゼットにしまったままだ。

 体はたるんでいなく、腕立て伏せや走るなどの筋トレをして軍人と言えるぐらいには体を鍛えている。

 そういう自分の体を見て悪くないと重いながら、ぼぅっと窓越しに青空と点々とした雲が広がる寒そうな空と穏やかな波を見る。

 心がリラックスすると視線を地面へと移し、舗装された路面のところどころに小さな雑草が生えているのを見ると全員で草取りをやらなきゃと思う。

 ここは手入れする人が自分たち6人以外にいないから、建物の掃除や補修と維持をしないといけない。

 そんなだから、こっちに来てからは深海棲艦よりも気にするべきは自然だ。

 つい2日前には基地の外に散歩に出た艦娘が、山から下りてきたカモシカにじっと見つめられて怖かったという被害が発生するほどに。

 地面を見ると、つい考え込んでしまうためにまた空を見上げる。

 そうして少しのあいだ、気を休めたあとは再び机に向かう。

 読んでいる本は視覚障害に関する本で、障害関連のものを読むのは結構な精神力を使う。障害を負って苦労する点、支える人が気を付けるところ、法律や医療について。

 5人の艦娘がそれぞれ違う障害だから、全員の障害を知るには中々に時間がかかりそうだ。本だけの知識では不安だから、ある程度の知識を持ったら民間の講習会に行く必要もある。

 ゆっくりと本を読み、頭の中で時間をかけて整理していると執務室の扉を叩くノックの音が聞こえてくる。

 顔をあげて正面にある扉に俺が返事をすると、入ってきたのは駆逐艦娘で陽炎型1番艦の陽炎だ。

 身長は150前半で細めな体つきをして、白色のカッターシャツの上から薄い黒のブレザーベストを着て首元には黄緑色のリボンを着けている。

 薄い赤毛の髪はヒジまで伸びていて、それを黄色いリボンで結ってツインテールにしている。

 顔立ちはまだ幼く中学生ぐらいで気が強そうな目つきだ。手は白手袋をしていて、その手には10㎝連装高角砲を持っている。

 スカートはブレザーベストと同じ色で、その下には以前履いていたスパッツは今はない。

 スカートの下からはすべすべとした感じの健康的な肌が見え、太ももから下は両足共に義足をつけている。

 その義足はスポーツ義足で、かつて膝があった場所には人工の膝。そこから伸びるのはカーボンでできた、板ばねを連想する湾曲した黒色の足。

 

「頼まれていた仕事は終わったわ」

「お疲れ様」

 

 静かな声で報告をされ、硬い足音を鳴らしながら陽炎は部屋に入ってくる。そして部屋の中央にあるテーブルへと10㎝連装高角砲を置くと、暖炉の前へと行って足を放り投げるようにして床へと座る。

 暖炉で体を暖めている陽炎にやってもらった仕事は、施設の中と外の見回りと工廠で使っていない艤装の錆取りと油を差すことだ。他の4人は警備のため出撃しているため、秘書である陽炎に仕事をしてもらっていた。

 その陽炎が砲を持ってきたことに興味を持った。陽炎が何か言うのを待ったが、少し悲しそうな顔で火を見つめているだけだ。

 俺は本を見るのをやめ、立ち上がってテーブルへと行って砲を持ち上げる。

 表面は綺麗に磨いてあり、中身を開けてみるときっちり油を差していた。実弾も装填されていてよほど気に入ったものらしい。

 わざわざ整備して持ってくるほどに気に入ったんだなと思っていると、視線を感じて振り向く。振り向いた先には小さな笑みを浮かべる陽炎と目があった。

 

「軽くていいでしょ。前に使っていた12.7㎝の連装砲より使いやすそうだから持ってきちゃった」

「使ったことがなかったのか」

「私は対空担当じゃなかったからね。これなら、きっと反動も軽くて足に負担は少ないだろうし」

 

 それを聞いて、ここに来た艦娘たちにどれくらい戦闘可能かの攻撃練習をさせた時のことを思い出した。その中で陽炎が砲を撃ったときにバランスを崩して地面へと倒れていたのは印象深くて、よく覚えている。

 その時に悔しそうな顔をした陽炎が、自主的に自分自身がどうやって戦えるようになるかを考えていくのは好感が持てる。

 今日なんて使いやすい武器を自分から探してきたのは良いことだ。

 

「気に入ったら使っていいぞ」

「ん、わかったわ。あとで試し撃ちしておく」

 

 そう言ったあとに陽炎は笑みを消して、さっきと同じ悲しそうなに火を見続けた。 

 その表情を見るのが俺には辛い。

 出会ってから3週間。初めて会ったときから、陽炎はいつも寂しそうな顔をしていた。そんな陽炎が気になり、俺は優しく接していた。

 陽炎を含め、部下となった他の艦娘たちにも優しくしている。理由は以前接していた子たちのように親密な関係になりたかったから。

 それに陽炎には笑って欲しかった。きっと心からの笑顔を浮かべれば、すごくかわいい子なんだと思っている。でもそうなるには時間がかかるだろう。

 陽炎の過去は書類に記載されていたが、少々重いものだった。

 5か月前に艦娘12人で出撃して敵を殲滅して生き残った艦娘。足を食いちぎられた時に深海棲艦によって足を長時間、血で汚染されたために再生することができなかったと。翌日に陽炎が他の艦娘によって発見されたときは浮いている深海棲艦にしがみついていたらしい。

 戦闘の詳細の詳しいことは本人がほとんど言わないため、これだけだった。他には今までの戦歴や怪我をする以前の性格のことについて。

 軍とは別に、医者からの書類もあるが、そっちのほうは怪我の程度や義足に関することが。

 少ない説明の記載で俺は陽炎の苦しみを想像する。

 ―――12人いた中で自分だけが生き残り、足を失った痛みに耐えながら他の艦娘の死体を見続けて助けを待ったことを。

 陽炎は海に沈んだり浮かんだりしていただろう敵味方の死体や血を見ながら、動くことのできないままでいることは俺だったら生きるのが面倒になって自分から海に沈んで自殺してしまいそうだ。

 助け出されたあとは自分の体にショックを受けただろう。足がなくなってしまったことに。

 あくまでもこれは想像で、実際はもっと辛いことを考えているかもしれない。

 陽炎本人が自分から言うまで俺は待つつもりだ。そして言ってくれた時には優しくしてあげたい。ただただ甘やかして。

 10㎝連装高角砲をテーブルの上に置き、ソファーのまんなかへと深く腰掛ける。

 陽炎のことを考えると、執務机に向かって本を読む気にはならなくなった。

 今までの勉強で疲れたこともあって、ぼんやりと何も考え事をしないまま目の前にある砲を見る。

 俺と陽炎はお互いに言葉を交わさず、暖炉で薪が燃える音だけが響く。

 ぼーっとする時間が5分か10分ほど続いた頃に陽炎が立ち上がる音が聞こえ、俺のほうへと近づいて来るのがわかる。

 首を動かして陽炎を見ると、俺から体ひとつ分あけて静かに座った。

 そしてテーブルに置いてある砲を見ながら、ゆっくりと口を開く。

 

「提督はさ、なんで私たちを差別や腫物を扱うようでもなく、自然に優しくしてくれるの?」

「仲良くしたいから」

 

 そう答えると陽炎は素早く俺へと振り向いて、ちょっとだけ目を見開いて驚いたもの、明るい笑みを浮かべる。

 

「うん、それは嬉しいわね。私たちの提督があなたみたいな人で本当に良かったわ!」

「そうでありたいね。陽炎が作り笑いや俺に気を遣いすぎないような人間に」

 

 俺の言葉に陽炎は笑みを固め、5秒ほど経って今までの明るい笑みが表情からなくなった。

 陽炎は俺の目をじっと見つめてくるが、それは俺が何を考えているかを疑うような。

 

「どうして私たちに優しくしてくれるの? 欠陥な艦娘と仲良くなってもいいことなんてないのに。……体が目当てなのなら、私は嫌がるわよ?」

 

 そう言うとテーブルに置いてある10㎝連装高角砲を持った陽炎は砲身の先を自分の頭へと押し付けた。

 今言った言葉には感情の抑揚がなくて冷たく、今すぐにでも死ぬ覚悟はできている目をしている。

 この話でわかったことがある。陽炎は強く生きたいと思っていないことを。なんとなく生き続けているのだと俺は思った。そうでなかったら、自殺するより先に俺を殺すほうを考えるだろう。

 俺に対し不信感で光を失っている目を見ながら、俺は陽炎たちと仲良くしている理由を言い始める。

 

「俺はただ、長い時間をかけて友人のような親しい関係になりたかったんだ」

「人と違うことを不気味に思われている艦娘と? 提督のあなたが?」

 

 陽炎は砲を自分の顔からゆっくりと離し、砲を持った手を膝の上へと置いた。さっきまでと違い、ちょっとだけ俺に興味を持っているようだ。

 

「前にいた鎮守府では俺と仲良くしてくれる子たちが多くてな。中には俺を嫌いだと宣言していたのもいたが。それでも大事な子だった。今では連絡すら取れない、前線に連れて行かれたが」

「……その子たちの代用としてかしら、私たちは」

 

 俺を睨んで低い声で聞いてくる陽炎に対して俺は首を横に振る。

 

「違うと言っても信じてもらえないだろうな。でも本当に仲良くしたいだけなんだ」

「言葉だけじゃ、なんだって言えるわ」

 

 陽炎は俺から視線を外すと、義足へと手をかける。

 深い深呼吸をし、辛そうな表情でひとつめの義足をはずしていく。

 

「義足をつける時、外す時は足を失った戦いのことを思い出すの。なんで私だけ生き残ったんだろうって」

 

 それは強い後悔を思わせる静かで小さな声で言い、はずした義足を床に置く

 陽炎の太ももから先はなく、なくなった足の切断面は綺麗な新しい皮膚で覆われていた。

 

「私は生きている価値があるのかと思って、死んでしまおうとよく考えるのよ。でも死ぬ決心まではまだいけないのが情けないかな」

 

 自嘲の笑みを浮かべながらふたつめの義足を取りはずし、大きなため息をつきながら義足を床へと置く。

 義足を取りはずした陽炎の両足は、どちらの足も膝上での同じ長さになっている。

 

「私の足を見てもさっきと同じことを言える? こんな気持ち悪くて、足の艤装をつけられない無能な私のことを」

 

 悲しげな言葉に対し、俺はすぐに返事ができない。

 初めて義足のない陽炎の足を見た俺が思ったのは『綺麗』と言うこと。切断面はすべすべとした皮膚で覆われていて、てっきりグロテスクな色や形になっていると思っていた。

 陽炎のために読んでいた障害の本では、足の切断面がどうとまでは書いていなかったから、なおさら初めて見た印象は心に強く残る。それと足をさわるとどんな感触なんだろう、とそんなことばかりが頭の中で浮かんでくる。

 

「……口では仲良くしたいと言っても、あなたも他の人と同じってことかしら」

 

 何も言わずに見ているだけを誤解したのか、がっかりとした声で陽炎にそう言われ、その言葉を俺はさわってもいいと解釈をした。

 俺と陽炎の体ひとつぶん空いていたすぐに詰め、陽炎のすぐ隣へと移動する。

 陽炎が何か言おうとする口を開く前に、陽炎の失った足、その切断面に片手を伸ばし、そっと優しくさわる。

 その時に陽炎の口から息が漏れ、体を小さく震わせた。でもやめろと言われないから、そのまま撫で始める。

 陽炎自身は気持ち悪いと言っていたが、俺はそうは思わない。人とは違うところはあるが、失った足は陽炎が戦闘で頑張った証でもある。俺が初めて見て綺麗に感じたのは、前もって勉強して知識を得ていたことと、陽炎の足に一目惚れしたからだろう。

 でも他の人はいったいどうして人は足がないだけで気持ち悪く感じるのだろうか?

 最初は戸惑うかもしれない。今まで見たことがないのなら。でも足がないという、普通の人と違う部分に慣れてしまえば気持ち悪くはない。

 見た目の部分をのぞいても、足がないと艦娘の仕事ができないじゃないかと言う人もいるだろう。

 だが、四肢がある人でも仕事ができない人ややる気がないのもいる。陽炎は足がなくても自分にできることを探し、頑張っている。

 たとえ海に出れなくなっても、艦娘としての仕事はある。陽炎のことを無能と言う人は、陽炎をうまく扱えない言い訳をしているだけだ。

 陽炎は気持ち悪くもなく、無能でもない。かわいい子で努力家で向上心があり、仲間のことを大事にする素敵な子だ。

 

「陽炎の足は綺麗で、気持ち悪くなんてない。仕事面でも無能でもない。秘書として頑張っているし、砲を持ってきては自分はどうすればよりよく働けるか向上心があるのを俺は知っている。だから、俺はそんな陽炎と仲良くしたいんだ」

 

 足をさわる手を止め、じっと陽炎の目を見つめる。

 陽炎も俺に目を合わせてくれ、次第に表情が変わっていく。恥ずかしさと嬉しさが入り混じった、照れている表情へ。それはいつもの無気力や作り物の笑顔と違い、心からの表情だ。

 

「あー、もう! わかった、わかったわよ。あんたが心から仲良くしたいって。だから、その手を早く離しなさい!」

 

 そう言って、結構強めな力で俺の手を叩いてくる。

 叩かれて痛む手を引っ込め、さらに叩かれないために体ひとつぶんの距離を取る。

 俺が離れると陽炎は深呼吸をして赤い顔で俺をにらんでくる。

 

「俺の想いをわかってくれたか」

「ええ、それはもう。まったく、こんなにも恥ずかしくなるとは思わなかったわ。あんなに優しく撫でてくるし、さっきのような言葉を聞いていると私なんかが生きていてもいいと思えてくるわ」

「俺はお前と一緒に生きていきたいが?」

 

 嘘でもなく本当に思っていることを言うと、陽炎は一瞬硬直したあと声に両手を上へと突き上げ、恥ずかしさと嬉しさが混じった表情で言葉になってない叫び声をあげた。そして、両方の手袋を脱いで俺へとぶつけてくる。

 かわすこともせず手袋に当たるが、陽炎の感情の高ぶりはそれでも収まっていない。義足をつけないまま手だけで俺へと近づいてくると、両手を首に回して俺の足の上へと体を乗せてきた。

 荒い息をつきながら、もう少しでキスができてしまいそうな距離で見つめてくる

 

「私のことを見捨てたら、提督を殺して私も死ぬわよ」

「そうなったら言葉通りにしてくれ」

 

 少しのあいだ、見つめあったままだったが陽炎は小さく息をつくと俺の胸へと顔をうずめた。

 

「基地にも周りにも人がいない、軍から見放された場所であなたみたいな変わった人と出会えるなんて思わなかった」

「何が起きるかがわからないのが人生だからな」

「そうね。こんな世界の果ての、寂しい場所で退屈な時間が続くと思っていたから嬉しいわ」

「俺は楽しく、幸せな日々を作っていこうと決めていたよ。陽炎もやりたいことがあるなら好きにやればいい」

「私がやりたいこと……?」

 

 不思議そうに俺を見上げ、少しのあいだ見つめあっていたかと思うと陽炎は俺からそっと目をそむけた。

 

「私と一緒に戦った、11人のお墓を作ってあげたいの。私自身の手で」

 

 悲しげで小さな声の呟きはきちんと俺の耳に届いた。その想いは陽炎がずっと気にしていた部分なのだろう。自分だけ生き残ってしまった罪悪感や寂しさ、そして死んだ戦友のために何かしてあげたいという気持ちを感じる。

 陽炎の優しさはとても素敵で、きっと死んだ11人の艦娘たちも嬉しいと思う。

 

「かわいいな」

「え、なによ、突然」

 

 ちょっと恥ずかしげな陽炎の脇に手をやり、俺は立ち上がりながら体を持ち上げた。足を失った陽炎の体は軽く、これが陽炎の重さであり本当の陽炎を今日をもって見ることができて嬉しくなる。

 

「陽炎が俺のところに来てくれて本当によかった。こんなにもいい子だなんて嬉しいよ」

 

 笑みを向ける俺に対し、陽炎は降りようと抵抗するが俺は頑張って持ち上げ続ける。

 

「待って、恥ずかしいセリフは禁止よ! あと私を降ろして! なんか恥ずかしいから!!」

 

 本気で恥ずかしがっている陽炎を、俺は仕方なくソファーに降ろす。

 降ろした途端に陽炎は義足を置いてある場所まで急いで移動すると、ちらちらと俺の様子を見ながら手早く義足をつけていく。

 

「まったく私だけ恥ずかしい思いをするなんて不公平よ! いつか提督にも恥ずかしい思いをさせてあげるわ! だから、これからも私を秘書にし続けて油断することね!」

 

 義足をつけながら大きな声でそう言い、最後には立ち上がって俺へと指を突きつけた。

 恥ずかしがっていたさっきの姿と違い、今の強がっている姿もかわいいと思いながら俺は立ち上がると陽炎に手を差し出して握手を求める。

 陽炎は俺の手をじっと見てためらっていたが、恐る恐る手を伸ばしてきて優しく手を握ってきた。

 

「これからよろしく頼むよ」

「こっちこそよろしくして欲しいわ、私の提督」

 

 出会って3週間。偽りでなく、心からの笑みを浮かべる陽炎に俺は安心する。今までつまらなそうに生きるのではなく、これからは日々を一緒に楽しく生きていけそうだと。

 陽炎がさっき言った、世界の果てと呼ばれるこの場所で俺と艦娘たちは新しい生活を始めていく。

 軍からはじかれた者たちが仲良くやっていけそうなことに、俺は喜びと安堵の気持ちを得て。

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