優しい子たちと世界の果てで   作:あーふぁ

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2.世界の果てで由良と過ごした4週間

 執務室で陽炎と仲良くなった日から2日後。

 今日は出撃もなく、俺と5人艦娘たちは穏やかな時間を過ごしながら施設の補修をする予定だった。

 だが、その一部の時間を使って陽炎がやろうとしている墓作りをみんなで手伝うことに。

 そのきっかけは、昨日の陽炎が前よりも楽しそうに過ごしていることを他の子たちに疑問に思われ、俺と話したことを全部言ったためだった。

 話したことは陽炎の過去のこと、俺を寂しがり屋で障害がある未来のない自分たちなんかと仲良くしたいバカですごく優しい人と説明をした。

 俺のことをそうまとめられるのがちょっと不満だったが、だいたいは間違っていないのでよしとした。細かい説明が欲しければ、あとで聞きに来るとも思って。

 それらの話で4人は涙が出そうなほどに感動したらしく、休みの日でも陽炎の墓作りに協力すると言ってきた。

 特に急ぎの任務も仕事もないため、艦娘たちがやりたいことをやらせてあげたいと思う。もちろん俺も少しは協力をする。

 俺は収入や支出の確認、陽炎は墓のデザイン、由良は施設内でどれくらい老朽化しているかの確認。残りの3人は陽炎が墓を建てるのに理想とする場所探しだ。

 そのために今、俺は暖かい執務室で机に向かって書類を見ながら悩んでいる。それはどうやって墓の資金をやりくりするかだ。はじめに考えていた御影石で11人分ともなると、かなりの値段だ。だから、安くあげるために木でできた十字架のもどうかと試算をしている。

 多くの場合において、お金に余裕があって困ることはそんなにはない。

 だが、そのお金を出すためにご飯の食材を減らすと反乱を起こされるだろう。他に思いつく節約は施設の老朽化を犠牲にしてメンテ費用を少なくするのがある。そのために今は由良に施設を調べてもらっている。

 部屋に一緒にいる陽炎はソファーに座っていて、テーブルに紙の束を置いては墓のデザインを真面目に、でも楽しそうにやっている。

 そんな様子とは正反対の俺は机にヒジをついて頭を抱えていると、執務室に軽いノックの音が響き渡る。

 そのノックに陽炎が俺の代わりに返事をして、入室を許可した。

 入ってきたのは軽巡洋艦で長良型4番艦の由良だった。

 150㎝後半の身長で上半身は薄い水色と白色のセーラー服を着て、スカートは薄い水色で膝ほどまでの長さで、黒いブーツを履いている。

 薄いピンク色の髪は膝に届くほどに長く、さらさらと風になびく美しい髪をポニーテールにして黒いリボンでぐるぐると巻いている。

 高校生ぐらいのまだ幼さが残る顔つきだが、すべすべとした白く綺麗な肌でかわいいと美人の間ぐらいだ。目は薄い黄色で優しげな表情を浮かべて俺を見ていた。

 その由良の腕はヒジから先がなく、その先にあるのは黒いカーボンを素材として見た目がいかにもなロボットの腕をしている国産の筋電義手(筋電電動義手)だ。

 筋電義手は筋肉が収縮する際に出る微弱な電流を機械で把握し、それに合わせてモーターを動かして義手が動くというものだ。かなり便利に見えるが、腰に巻いているベルトにバッテリーがついていて物がたくさんある場所で動くのは不便で、バッテリーは2日程度しか持たない。

 

「言われていた仕事、きちんとやってきました。他に何かありますか?」

 

 そう言って、執務机の前にまでやってくると、手に持っているクリップボードを差し出してきた。

 

「ありがとう。今、頼めるような仕事はないんだ」

「わかりました。でも小さなことがあったら由良に任せてくださいね?」

 

 俺は由良からクリップボードを受け取ると、由良は少し俺に迫ってそんな仕事熱心なことを言うと、絵を描いている陽炎の向かいのソファーへと行き、ゆっくりと座った。

 絵を描く手を止め、陽炎は由良に笑みを向けていた。由良も笑みを返して「ただいま、陽炎ちゃん」「はい、おかえりです由良さん」との挨拶をしてから仲良く話をし始める。

 ふたりの仲がいい姿を見届けたあと、俺はクリップボードに挟まれている紙を読む。

 由良に任せた仕事は施設全体の簡単な状態報告で、今いる艦娘の中で最も繊細で細かいことによく気づく由良だからこその仕事を任せた。

 紙に書かれていたことは元から古いものを修復や修理を重ねた建物。基地にあるすべての機械は古く、そのために艤装の整備や食堂での料理を作る効率が悪くなっているとのことだった。それと電球など消耗品の在庫ももうすぐ尽きるとのこと。

 クリップボードの報告書見るとため息しか出てこない。予算に余裕がないうえに、施設の維持費すらも足りないだなんて。

 今までは潤沢に与えられた資源や資金でやっていた。だが、なにもかもが足りないここでは、陽炎が作りたいという墓のためになんとかしてお金の余裕を作り出すしかない。

 落ち込んだ気持ちで陽炎を見ると、生き生きとした様子で微笑む由良に考えたデザイン案を見せながら描いている。

 そんな楽しそうな陽炎に『墓を作るのをやめよう』と言葉にすれば、今悩んでいるものはすぐ解決するが1度言ったことは簡単にはやめるわけにはいかない。それに陽炎があんなにも嬉しそうなのを止めるなんてしたら、強い罪悪感を得てから侮蔑の目で見られることを考えると猛烈に胃が痛くなりそうだ。

 名案が思い浮かばないかと、ふたりの姿をぼぅっと眺めていると陽炎が急に難しい表情をして顔を紙に近づけた。

 何があったのかと思っていると、義足の足をばたばたと動かして床に当たる硬い足音が部屋へと響く。

 

「問題でも起きたのか、陽炎」

「絵なんて作戦案の図を描くぐらいしかなかったから苦戦してるのよ。ほら、これ見てよ!」

 

 少しいらだっている陽炎はソファーに座ったままで俺へと描いた紙を見せてくるが、距離が少しあることもあって細かいのが見えない。それでもわかることと言ったら、紙いっぱいにたくさんの何かを描いてあるのがわかる程度。

 陽炎自身、何を描きたいかはわかっていないみたいだ。情熱だけが先行し、それが考えていることに追いついていない。

 口を開き、陽炎の問題点について言おうとしたがそれより早くに陽炎は由良に新しい紙とペンを渡そうとする。

「由良さんお願い!」

「えっと、私が描いていいの?」

「由良さんじゃないとダメなの。うちの提督に頼ろうにも絵心がないし」

 急に話題に出され、ふたりの視線が俺へと向く。

 昨日、陽炎から俺の画力が見たいと言ってきたから真面目に描いたのだが、それを見て微妙な顔をしていたのが強く印象に残っている。

 そのためにこうやって今、陽炎のため息をついた残念な人を見る目と、由良のおつかれさまです的な優しい目を向けられて何も言えない俺は目をそむける。

「じゃあ、描いてみようかな」

 と、俺が目をそむけている時に話が進んでいく。以前、由良から絵を描くのが趣味と聞いていたから放っておいても安心ができる。

 紙にペンが走る音が聞こえてから俺はそむけた目を戻すと、難しい顔で線を描いていく由良とわくわくしながら笑みを浮かべている陽炎の姿が。

 ひとまず俺に対して興味を失ってくれたなら、からかわれなくて済むと安心する。

 再び報告書に目を通し、予算について考え始めていると「あー、もうっ!」と由良のいらだった叫び声が聞こえてきた。

 驚いて顔をあげると、由良は義手からペンを離していて、今は両足のブーツを脱いでいる。

 いったい何をやるのかと見ていると、ブーツも靴下も脱いだ足にペンを持たせると絵を描き始めた。

 足を動かすときにちらちらとスカートの中からすべすべした白い太ももと黒いパンツが見え、すぐに視線をずらして陽炎に視線を固定する。

 見えてしまうスカートの中身は少しばかり刺激がある。由良に対して性的な興味はないものの、スカートの中身を見るという男としての宿命に逆らうことはなかなかに難しい。

 あまりにも見すぎて艦娘たちからの信頼を損なわないよう、まだ色気のない陽炎に集中した俺を褒めてやりたい。

 足で描いていく由良の姿はよく見えないものの、驚きと感動の表情が浮かんでいる陽炎を見るといい感じな絵を描いているみたいだ。

 由良の様子が気になり、そっと視界の中に入れると、楽しそうに足で描いている姿が見える。

 なぜ足で描いているのか疑問を覚えたが、以前調べたときに義手の性能はドイツが1番だと知った。だが、深海棲艦によって貿易ができなくなると入手できないために国産になったが、国産義手は細かな動作がやりづらいらしい。きっと足のほうが描きやすいのだろう。

 それに由良も義手を手にいれたのが4か月前で、腕を失ってから3年が経っている。そのあいだに足で描く技術を得たはずだ。

 その3年の月日で思い出したが、今の明るい由良と違って腕を失った頃はひどく無気力で放っておくと今にも自殺してしまいそうだったと書類に書いてあった。

 由良が腕を失ったときは5人の駆逐の子たちを連れて敵の偵察部隊を攻撃するために出撃していた。でもそれは罠で、深海棲艦によって包囲された。はじめは士気高く戦っていたが、勝ち目がないと判断した由良は駆逐の子たちを逃がすために2体のレ級と死闘を繰り広げた。

 その際にレ級の尻尾部分にある怪物を殺すために、2回、単装砲を装備している腕を口の中へと突っ込んで砲撃。レ級に大打撃を与えるもその際にヒジから先を噛み切られた。

 辛うじて撃退し、両腕を失った状態で海の中へと沈みかけていたが、援護にやってきた味方に助けられる。その後は鎮守府に戻って治療をしたものの、深海棲艦によって汚染された腕を元に戻すことはできなかった。

 逃がした駆逐の子たちは由良がレ級から逃がしたあとに鎮守府へと戻っておらず、捜索をしたが見つからずに作戦行動中の行方不明として扱われた。

 そのことを聞いた由良は、自分のしたことが無駄だったと思ったのか、半年は無気力になって放っておけば食事もしない状態になっていたらしい。けれど、1年が経つ頃には次第に元のように明るくなったが、かなりの世話焼きとなった。

 ここの新しい基地に来てからもそれは続き、他の艦娘たちに困ったことがあれば助けてあげる。

 それは俺に対しても同じようで、朝に起きるのが遅ければ起こしに来て、洗濯や掃除もやってくれている。毎日やってもらうのはダメな人になりそうで断ったが、とても寂しそうな顔で見上げてくる顔に負けて週に2回で妥協してもらっている。

 

「……こんな感じでどうかな?」

「うん、いいわね。あ、由良さんペン貸して? ありがとう。あとはこう細かく彫刻したいんだけど……」

 

 由良と陽炎の言葉で絵を描き終えたのを知り、安心して由良と陽炎の姿を見る。

 大まかなデザインが決まり、あとは陽炎が微調整をするだけで完成しそうな気配だ。

 もう問題がなく進みそうで、由良が持ってきた報告書を見ようと下を見た瞬間に陽炎の「できたー!」という大きな声と同時に俺のほうへとやってきては机の上に紙を差し出してくる。

 その紙に描かれていたのは、大理石と注意書きされた四角い石の板に艦娘の名前が書かれた墓石だった。墓の周りには死んだ艦娘が好きだった花や木などの植物を植えると文字で書かれている。

 絵の美しさ、発想に自然と感心する声が漏れ出てしまう。

 

「どう、これなら提督も許可出してくれるわよね!?」

「あとは大きさが何cmかの詳細な設計図を描けば大丈夫だ」

 

 そう言うと陽炎は両手を思い切り横に広げ、部屋の中でくるくると回転しては喜びを表現している。

 そのあまりの喜びに連られて俺も笑みを浮かべていると、ブーツを履いた由良がいつのまにか横に来ていて穏やかな笑みを浮かべている。

 

「提督も困りごとがあれば、この由良がお手伝いしますよ?」

「いや、特にはない。あとは俺がやる仕事だけだからな」

 

 そう言うと由良から笑みが消え、悲しそうな表情で小さく開いた口からささやくような言葉が出てくる。

 

「……由良は提督の役に立っていますか。由良が任された仕事は意味のあることですか。……提督にとって由良は必要ある存在ですか?」

 

 静かに、けれど力強くまっすぐに俺を見つめてくる目。俺は由良を見つめ返し、決して視線をそらすことはしない。

 ここに来た艦娘たちは全員が大切な存在だ。俺にとって大事な部下であり、まだ短い期間しか一緒に過ごしていないが、ゆくゆくは家族のような暖かい関係になっていきたいと思うほどに。

 言葉でそのことをどう伝えればわかってもらえるか。考えても言葉が浮かばず、由良と見つめあったまま気まずい空気になっていく。

 その時に、回転し続けて気持ち悪そうな陽炎が俺の机へと倒れこんできた。

 言葉にならないうめき声をあげている陽炎に、俺は由良から目を離してはあきれたため息をつく。

 

「陽炎、お前は食堂に行って飯を作ってきてくれ。由良、陽炎を連れていってくれないか?」

「はい、提督が言うのなら」

 

 言葉を聞いた陽炎は気持ち悪そうにしながらもふらつきながら部屋の外を出ていき、由良は陽炎の後を追っていく。

 その後ろ姿は落ち込んでいるように見え、このままにしておくのは悪い気がする。

 

「由良」

「なんでしょう?」

 

 俺の声を聞いて振り向いた由良。その後に続く言葉なんて頭になく、どこか遠くに行ってしまいそうに感じて声をかけてしまった。声をかけたからには何かをする必要があり、でも言葉が思いつかない俺は立ち上がると由良の目の前まで歩いていく。

 由良の正面に立つと、意味もなく口を開くがやっぱり言葉は思いつかず、握手をしようと手を差し出す。

 

「由良がいつも頑張っているのはわかっているつもりだ。その丁寧な仕事にはいつも感心しているよ。他の子たちも由良は親切で優しいと言われているのも知っている。そういう頑張り屋な由良が俺のところに来てくれてよかった。由良がいると俺は安心できるんだ」

 

 俺の言葉を聞き始めた頃は戸惑っていたが、すべてを聞いたあとの由良は俺の手を恐る恐る握ってこようとしたが、握る寸前で手を引き戻した。

 嫌われたかと思っていると、由良は左腕で右義手のバッテリーと義手をはずして床に置き、ヒジから先を切断された腕を俺へと向けてくる。

 何も言わず、静かに、でも力強く何かを訴える目で見てくる由良に対し、俺は割れ物を扱うかのように優しく腕を握る。

 切断された由良の腕。その切断面は肌で覆われている。そこに、そっと優しく指を当てて撫でる。

 由良はくすぐったそうにしながらも、どことなく安心した様子だ。

 

「俺は由良を信頼しているし、今までと同じように俺を助けてくれると嬉しい」

「はい、これまで以上に提督に忠誠を」

「由良が疲れない程度に頼むよ」

 

 真面目な表情で言ってくる由良に苦笑しながら手を離すと、ちょっと寂しそうな顔で俺の手を目で追ってくる。

 そこでいたずら心が沸き、驚かそうという考えが浮かんできた。

 俺は由良に見つめられたまま、しゃがみ込んで義手を手に取ると、そのまま片膝をついて義手を両手で持って差し出す。

 その姿は昔の映画でよくあるような、紳士がレディの手の甲にキスするかのような姿勢で。

 

「レディ、どうか腕を」

 

 ほんのり顔を赤くした由良は落ち着きなくあたりを見回したあとに、そっと義手の中へと腕を入れていく。俺は立ち上がって義手を固定していき、床に置いてあるバッテリーを取って由良の後ろへと回って取り付けていく。

 ちょっとしたおふざけが終わり、改めて由良と向き合うと急に自分のしたことが恥ずかしい。由良も何も言ってくれず、どう言葉を出せばいいか困って視線をあちこちにさまよわせると、廊下側の扉から顔を半分だけ出している陽炎と目があった。

 その陽炎はにやにやとした笑みを浮かべていて『提督の恥ずかしい姿を見た』と言いたげだ。

 あとで必ず陽炎がからかってくるのが容易に想像でき、かといってここで追い払っても俺への被害が悪化するだけだ。

 だから、由良に全部を任せて事態を打開してもらうことにする。

 

「由良、陽炎が見ているぞ」

「えっ?」

 

 扉を指差し、その指先の向こう側へと目を向けた由良は硬直したあとに勢いよく陽炎めがけて全力で走りはじめた。それを見た陽炎は慌てて逃げていく。

 開けっ放しになった扉からは、由良と陽炎の走る足音が聞こえてきた。

 これでやっと落ち着けると小さくため息をつき、執務机のそばまで歩いてきたところで走ってくる音が部屋の中までやってきた。

 振り向くと息を荒くした由良がいて、俺の目をしっかりと見つめてくる。

 

「えっと、提督、その、ありがとう!」

 

 そう言うと由良はすぐに部屋から走っていなくなった。

 その言葉の意味はきっと、俺が信頼してくれたことに嬉しくなったからだと思う。正確な答えはわからないが、そうだったら俺は嬉しい。

 そんな由良とも、今日のような仲がいい関係を続けていきたいと強く思う。




続きは未定。
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