優しい子たちと世界の果てで   作:あーふぁ

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4.世界の果てで由良と過ごした1か月と1週間

 昨日、陽炎と一緒にイチョウを見てリフレッシュした俺は、基地に戻ってから仕事をする元気が満ちていた。

 艦娘たちが基地内で集めて売って大丈夫そうな物を5日ほどかけて俺と陽炎が車を使い、友人の修理工場のところへ車で往復して軍にばれないようにこっそりと売った。

 自分たちがいる基地への予算配分はとても少ないため、自分たちで稼いでいかないとやっていけない。そうでないと苦しい生活になってしまう。

 物を売って得たお金は陽炎の墓以外にも他の艦娘たちのためや生活の充実のために使おうと考えている。

 物を売り払ったあとの帰りは、陽炎が欲しがっている大理石の墓石を11個注文し、陽炎が彫る練習用として適当な大きさの大理石も購入した。だが、彫るのは基地で教えられる人がいないためにしばらくのあいだは石材店で彫りの基礎を学ぶ必要がある。

 はじめは全部を店の人に任せようとしたが、名前だけは自分で彫りたいと言ったためにお店の人一緒にやることを条件として任せることにする。

 名前以外の部分である、部隊名や戦没地と日時は彫る人にお願いした。

 墓石の購入と彫りの勉強、彫ってもらう予約を入れたあとは陽炎と外食をしてから基地へと戻り、到着した時間は午後の1時。

 眠そうな陽炎を部屋まで送ったあとに執務室へ戻ると、部屋の中は暖房でしっかりと暖められており、ソファーに座っている由良は帰ってきた俺と目を合わせるとにっこりとした笑みを向けてくれた。

 

「おかえりなさい、提督さん」

「ただいま。何も問題はなかったか?」

「はい、何も。でもちょっと見てもらいたいものがあって」

 

 執務机のところにある椅子に座ると、わくわくしている様子で由良が机の前にやってきては1通の封筒を置いてきた。

 その封筒は少し古びていて、何年間か放っていた時間を感じる。

 由良の視線に催促され、封筒を開けると中身には1枚の手紙が入っていた。

 その手紙の文章を読むと、あきれたため息が出る。文章には『宝を隠した。提督と一緒にふたりだけで行動し、この手紙に従って宝を探せ。最初は執務室の暖炉の煙突にある』と書いてあるイタズラな手紙だ。

 

「由良、これをどこで手に入れたんだ?」

「前に売る物を探すために基地内を探したでしょう? その時に寮の空き部屋に入ったら、部分的に色が変わっている壁をさわったら外れたんです」

 

 いつも落ち着いている由良だが、今だけはきらきらとした目をしながら義手が手を握ったり開いたりという動作を繰り返して興奮している様子に俺は意外さを感じる。それほどに宝探しという言葉が魅力的なんだろうか。

 俺としては探しても何もなさそうな気がするが、そう言っても由良は強い不満を感じるだけだと思う。

 だから、この手紙にあるとおりに探して何もなければ由良も落ち着いてくれるだろう。

 

「探したいか?」

「はい! 提督さんも由良と一緒に探してくれますか?」

「……いいだろう。だが、暖炉の煙突に何もなかったら終わりだ」

 

 ため息をついて言う俺に、嬉しそうに何度も強く頷く由良。

 俺は立ち上がると暖炉の前へと行き、暖炉のそばに置いてある火ばさみを手に取ると暖炉内の赤々と燃えている薪を隅っこに分散させる。次に灰取り用のスコップで中央に溜まっている灰を薪へとかぶせていく。これで火は消えていく。

 あとは暖炉内の熱がなくなるまで待つだけだ。そのあいだは由良と一緒にソファーに隣り合って座り、墓石を買ってきたことや陽炎が彫りの勉強を始めるといった今日の出来事について話をした。

 そうして20分ほど時間が経った頃には暖炉の熱もなくなってきて、執務机の引き出しから懐中電灯を取り出して暖炉の煙突の真下へと行く。

 そこから上へと照らすと、真っ暗な煙突の中に、箱のようなものがくっつけられているのを見つける。

 

「由良、あったぞ」

「あ、手紙に書いてあったとおりですね」

 

 狭い暖炉の中、俺と由良はかがむような姿勢で体をくっつけながら煙突の中を見上げる。

 その箱以外は他に何もなく、ススで真っ黒になっているだけだ。

 

「電灯を貸してくれませんか?」

 由良にそう言われ、すぐに渡すと俺の止めるまもなく立ち上がると、顔を煙突の中へと手を突っ込み、手を伸ばしてはススで汚れた金属の箱を取り出した。

 

 黒いススで汚れた顔と手を見て、俺は急いでポケットからハンカチを出して顔を丁寧に優しく拭いていく。

 

「いきなり取るな。由良の顔が黒くなったじゃないか。俺が軍手を取ってくるまで待てばよかったんだ」

「でもそうすると提督が汚れちゃうでしょ? それに私なら義手だから汚れてもいいし、箱がとがっていても痛みはないからいいかなって」

「準備すれば回避できることなのに突っ走るな。もっと自分を大事にしてくれ。俺の精神に悪い」

 

 由良の顔をふいたあとは、由良の手から金属の箱を取って床に置く。そうしてからススで汚れた義手を丁寧にふいていく。

 俺に手を取られ、ふかれていくのを見ているだけの由良は申し訳なさそうな顔をして俺と目を合わせてはくれない。

 

「由良の我がままに付き合ってもらっているんだから、手ぐらい汚れていいかなって」

「次からはそういうのをやめてくれ。俺に変な気を使わなくてもいい。義手でも由良の手なんだから大事にして欲しい」

「……提督にとって由良の手は大事に見えるの?」

「ああ。由良にとっては感覚がない手だが、それでも危ないことはして欲しくないな」

「提督さんの言うとおりに痛みも何も感じない手だから、危ないことがあれば私を好きなように使って欲しいなって思うんだけど」

 

 由良はしっかりと俺の目を見つめ、そう力強く言ってくる。

 俺たちはお互いに相手を大事に想うあまりに、意見が違ってしまう。

 由良の意思も強そうで、無理に止めたとしても言うことを聞かなそうだ。由良は自己犠牲の精神が強すぎるのに困ってしまう。

 もう少し自分を大事にして欲しいが、今は結論を出すことができない。

 由良の義手をふき終わり、汚れたハンカチを持ったまま床に置いた金属の箱を手に取って執務机の上に置く。

 引き出しから未使用な雑巾をひとつ取って箱をふいていく。

 ススが取れた箱は鈍い金属の光を反射し、簡単な留め金がついていた。

 

「箱を開けてくれるか?」

 そう言って由良に声をかけると俺に頼られたのが嬉しいのか、笑みを浮かんで箱を開けていく。その箱の中には1枚の手紙があった。

 由良がその手紙を持ち、声を出して読み上げていく

 

「次は食堂入り口そばの壁、とだけ書いてありますね」

 

 それを聞いて俺は脱力する。これは手の込んだいたずらじゃないかと。でも由良は新しい手紙を見ても目が輝いている。

 この調子だと次も手紙が入っていそうで、かなりの時間を使いそうな予感がする。その手紙の言うとおりに探していくのは面白いかもしれないが、そういうのはとてつもなく暇な時にしてほしいものだ。

 

「俺は仕事に戻―――」

「次にいきましょう、次です!」

 

 と、嬉しそうな声をあげながら俺の手を胸元にまで持ち上げ、義手の動きを見ながら慎重に掴んでくれる。

 そのとても嬉しそうな由良に俺は苦笑し、付き合うことにする。考えてみれば、ここでやめたとしても気になってしまって頭の片隅にずっと残り続けてしまいそうだ。

 暖炉周りの片づけは後回しに、俺は由良に手を引かれて次の場所である食堂へと行った。

 その食堂でもやっぱり手紙はあり、工廠、売店、基地の正門と俺たちが歩かされて得たものは手紙だけ。

 今は提督の私室と書いてあった手紙のとおりに移動し、今は使われていない空き部屋である部屋だ。

 俺と由良はほこりしかない部屋を探すが、変わった色の壁や床は見当たらない。

 軽く探したあと、俺と由良は部屋の中央に行っては部屋をぐるりと見渡す。

 

「この部屋に来れたこと自体が宝って可能性はないか?」

「ここがですか?」

「提督の部屋に来るなんて難しいだろ。だから手紙の指示に従って、ということなら入る許可を与えるかもしれない。今までの手紙の目的は、艦娘の誰かが提督と仲良くしたかっただけなんじゃないか?」

 

 最初の手紙には提督と一緒にふたりだけで行動と書いてあった。それで指示に従いってここにたどり着いた。だから、俺が思ったことは自然的に考えられることだと思う。

 でも由良は違うようで、首を傾げては悩み、天井をぼぅっと見上げて考えているようだ。

 

「ちょっとしたかわいいイタズラだったな、これは。もう他に何もないようだし帰るか」

 

 そう言って由良に声をかけるが、由良は黙ったまま、ふと天井を見上げる。

 俺は由良が見ている視線の先を追って天井を見上げると、そこには天井の色が他と違う部分があった。

 天井には手を伸ばしても届かず、あの高さにまで手を伸ばすなら脚立が必要だ。

 俺が脚立を取ってこよう、と言おうとして口を開くより先に由良が口を開いた。

 

「由良に肩車して欲しいな?」

 

 その上目遣いで甘える声に俺はとても大きなため息をつく。どうやら由良はさっき俺が言ったことを覚えていないようだ。

 

「由良、危ないことはするなと言っただろ。待っていろ、脚立を取ってくる」

 

 そう言って部屋を出ていこうとするが、由良が俺の服のすそを掴んでくる。振り返ると、由良の顔はほんのりと赤みがあって恥ずかしそうにしている。

 いったいどうしてそうなっているかがわからず、由良の言葉を待つことにする。

 10秒も経つと由良は落ち着いてきて、深呼吸したあとにしっかりと俺の目を見つめてきた。

 

「次のも由良が取りたいなと思って。でも脚立だと登るときにスカートの中が見えちゃうでしょ? だから肩車がいいかなって」

 

 それを聞き、女性と接するときのことを忘れていた。由良と出会ってからは仲良く過ごし、最初の時以外は性別のことをあまり気にすることはなかった。

 脚立だけを持ってきて、俺は部屋の外に出ているというのも考えたが、それだと俺に遠慮することが多い由良が気にしすぎてしまうだろう。

 俺は天井の色が変わっている部分の真下に来ると、片膝を床についてしゃがみ込む。

 

「ほら、乗っていいぞ」

「えっと、お邪魔します……」

 

 小さな声でそう言い、恐る恐るといった様子で俺の背後に来ては慎重に俺の首へと足をまたがせていく。

 そうして準備が整ったあと、俺は由良の太ももに手をかける。その肌は見た目どおりにすべすべとしていて、鍛えている健康的な足の感触を感じながらゆっくりと立ち上がる。

 

「あ、もう1歩前、ほんのちょっと右、うん、大丈夫です」

 

 肩車している状態では俺はうまく顔をあげられず、上にいる由良の指示に従っていく。俺の上から聞こえてくる音は天井の一部を外しているのが聞こえ、そのまま作業が終わるのを待つ。

 由良の体は適度に重くて持ちやすく、由良は俺に無理をさせまいと体を大きく動かそうとしていないから態勢が楽だ。

 そのまま待っていると、突然由良が大きく体のバランスを感じると同時に俺の頭へと固い何かがぶつかってくる。

 

「ごめんなさい!」

「態勢を戻せ!」

 

 頭の痛みを我慢し急いでそう言うが1度崩れたバランスはすぐには戻らず、踏ん張る俺の努力とは無関係に体が後ろへと倒れていく。

 由良だけでもなんとか倒れる痛みを減らそうとして由良の足から手を離して受け身を取れるようにし、先に俺の体が床へと落ちていく。そのすぐあとに由良が落ちた音が聞こえた。

 

「大丈夫か?」

 

 背中の痛みを我慢し、すぐに慌てて体を起こして振り向いた。が、両手を床に広げて倒れている由良はなぜか楽しそうに笑みを浮かべて笑い声をあげていた。

 急いで四つん這いになって由良の体の上へと行き、頭を強く打ったかと心配していると段々と笑い声が収まっていく。

 

「楽しいね、提督さん」

「……今のどこが楽しいのか理解に苦しむな」

「一緒に痛い思いをするのって新鮮な感じがするの。それに肩車をしてもらったときに足をさわってもらったのが嬉しくて」

「嬉しい?」

「前に1度、切った腕にさわられたときにも思ったけれど、人とふれあうのってやっぱりいいなぁって。感触があるって幸せなことなんだって思ったの。それに肩車をしてもらうのは仲がいい関係だと思って」

 

 言われて俺は気づく。1度だけ腕にさわった以外は義手としか由良とふれあったことはない。

 由良の言うとおりに、お互いの肌の感触や体温の暖かさを感じることによって仲が良いものと思えくる。

 俺も笑みを浮かべ、由良の後頭部をそっと静かにさわりると由良はくすぐったそうにするだけで痛みがなくて安心した。

 それから由良の上から体を横へと動かして立ち上がると、由良を起こすために手を伸ばす。

 

「ほら、しっかりと手を握ってくれ」

 

 由良は俺の手へと手を伸ばして握ろうとするが、その寸前で戸惑い、伸ばした手は止まってしまう。

 

「気にするな。由良になら、多少の痛みぐらい笑って許せるさ」

 

 戸惑っていた由良の手はしっかりと俺の手を握り、力強く握ってきた。握られた手の痛みが強いほどに俺への信頼の証と感じ、勢いをつけて由良を立ち上がらせる。

 だが、立ち上がっても由良は俺の手を握り続けていた。

 

「ありがとう、提督さん」

 

 嬉しそうに言う由良の目は少しうるんでいて、俺の手を強弱つけて握ってくる。それを何度かやったあとに手を離し、俺の頭へと手を伸ばしてくる。由良が撫でてくるのは落ちた物があたった位置で、優しく撫でてくるのが恥ずかしくてすぐに1歩後ろに下がってしまう。

 由良の物足りなさそうな表情を無視し、床に落ちた箱を見る。落ちた衝撃によって箱の中身はばらまかれており、中にあったのは今までの手紙ではなく写真だった。

 それはいくつもあり、中には古いのも新しいのもある。そのどれもが提督と艦娘たちの集合写真だ。

 床に散らばっているうちの1枚を手に取ると、その写真に写っている全員が楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「確かにこれは宝と言えるものだな」

「どの写真も幸せそうですね」

 

 由良も写真を1枚手に持って、そんなことを言った。

 俺は他に落ちた写真を全部拾い、由良が持っているのも合わせると全部で4枚。それぞれの写真は違う提督と艦娘たちが写っていて、長い歴史を感じる。

 全部の写真を眺めたあと、手に持った写真を箱にしまってフタをする。

 艦娘たちと仲良い写真を撮った提督がうらやましく思え、俺もやってみたくなる。

 

「由良」

「はい、写真撮影ですね?」

「ああ。みんなを執務室に集めてくれ。俺はフィルムカメラを取ってくる」

 

 由良は俺が考えていることをすぐに理解し、俺は全員で初めての写真を撮るということにテンションが上がりながら部屋を出ていく。

 それから40分が経ったあとに執務室に俺と艦娘5人全員がそろった。

 4人の艦娘たちには由良と発見した宝のことを説明し、写真を撮って自分たちも記録を残そうと言うと残りの4人は撮影を承諾してくれた。

 みんなが集まるのに少々時間がかかったが、シャワーを浴びて着替えをするなどの身だしなみに時間がかかるのは仕方がない。男の俺とは違い、髪や肌の手入れに手間がかかるのは当然なのだから。

 俺を含め全員が綺麗な制服を着て整った姿なのを確認すると、俺は持ってきた三脚付きのフィルムカメラを扉の前に置いてセルフタイマーをセットする。そうしてからから早足で執務机の前へと立つ。

 位置は俺を中心とし、右には陽炎と由良。左には瑞鶴、長門、時雨の3人が。5人全員が愛おしい部下である艦娘たちであり、家族や友人のような関係の子もいて仲良くやっている。

 写真撮影を終えたあとに写真は現像し、宝の箱に一緒に入れる予定だ。入れたあとには手紙は元の場所に戻し、俺がいなくなったあとに来る提督や艦娘たちが宝への手紙をきっかけにして仲良くなって欲しいと願う。

 そして宝を見つけ、俺たちや以前の提督たちがここにいたことを覚えて欲しいとも願って。




次の陽炎の話でいったん終える予定。
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