今回は説明回、ものの全部ではないけど。
【CYCLONE MAXIMUM DRIVE】
突風を纏った手刀が怪物の身体を切り裂いた。荒ぶる風の勢いは鋭利さを持ちさながらそれは本物の刀のようで、いとも容易く一線の傷跡を刻んだ。派手な爆発が晴れると怪物になる前の男が横たわって倒れていた。その傍らにはおそらく先ほどのメモリが砕けたらしき残骸が散っていた。
「凄い……」
これが仮面ライダー。翠の風、そう比喩する人もいたけど、まさに流れるように軽い戦闘だった。終始仮面ライダーのペースで、相手の怪物はあの傷だからか圧倒されっぱなしだった。もしかしたらあの傷もこの緑色の戦士によるものだったのかもしれない。
ベルトのスロットを縦に起こしメモリを抜く。溢れるようにそのアーマーは外れ風に消えた。再び青年が現れる。
「ふぅ……君、大丈夫かい?」
「は、はい!」
差し伸べられた手に落ち着かない感情のまま手を重ねる。あんな戦いをしたとは思えない華奢な細い手だった。身体を引き起こされ改めて感謝を口にする。
「構わないさ。ただ、このことは秘密にしてくれると助かるよ」
正体がバレないようにしているらしい、その詳しい理由は教えてくれなかったけど。
「あの怪物は?」
「あれはドーパント、このガイアメモリを不当に使用したがために、最終的に力が暴走してしまい溺れてしまった成れの果てさ」
「ガイア、メモリ……?」
「これのことさ」
そう言って手元のUSBメモリを振って示す。半透明な緑色。その中央部分には何かしらを意味したイラストが描かれている。よく見るとアルファベットのCのようだ。なんでも地球の記憶という、あらゆる生き物、物質、事象や概念などがデータとして保存されているとのこと。例えばこの人が使っていたのは「サイクロンメモリ」で、風の記憶が内包されているらしい。それを身体に挿すことで限定的にその記憶に因んだ力を得る、まるで個性の付与だ。ただし使いすぎたり、体質的なもので合わなかったりすると、メモリの力が暴走してあの怪物体「ドーパント」に変貌してしまうのだとか。ある種薬物的なもので毒素のようなものも含めているらしい。だから本来は使用するべきではなく、ここ最近陰ながらに流通し始めたもののために、まだ完全に取り締まりの対策は出来ていないのだと。
「そのベルトはその暴走を食い止めるためのもの、ってことですか?」
「大方はその通り。ベルト越しで使えば毒素による影響を軽減してくれる、とどのつまりフィルターのようなものだ。それにドーパントを倒すためには、ベルトの力が必要不可欠だ」
そのための仮面ライダー、ガイアメモリに飲み込まれてしまった異形、ドーパントという名のヴィランを倒す専門のヒーロー。そういえば仮面ライダーが倒したヴィランはみんな異形系らしいとあった気がする。あれは異形系の個性持ちではなくドーパントだったということらしい。
それにしても、自分の正体を秘匿する割にはすんなり教えてくれた、色々なことを。だったらもう少し教えてくれるかもしれない、そう思った。僕の
「……僕持ってます、ガイアメモリ」
「なんだって……?」
いつも持ち歩いている黒い半透明のメモリを見せる。どうにもこのイラストはJと示されているらしい。
「これは……!君、このメモリをどこで?」
幼い頃にハットを被った男の人に貰ったと、あの日のことを伝える。ずっとなにかを考えているようで、顎に手を当ててしばらく沈黙していた。そしてこっちを見てなにかを口に出そうとした時だった、僕を呼ぶ親の声が聞こえた。
「あ、行かないと……」
「……君、明日もここに来てくれないかい?話したいことがある」
やけに重い顔で話すもんだから、思わず肯定した。最後に名前を聞いてなかったから、それだけ聞いて家族の元に戻った。
「フィリップ、そう呼んでくれたまえ」
そして翌日、同じ場所に同じ人がいた。ふんわりとした風のなか、ただそこに佇んでいた。
「フィリップさん!」
「やぁ、緑谷出久。ちゃんと来てくれて嬉しいよ」
「話というのは……?」
「……君に提案があるんだ」
またも重苦しい口調。心なしか風が少し厳かになった気がする。僕の目を射抜くように鋭く見つめる。次の一言の重みを感じた。
「仮面ライダーにならないかい?」
「……え?」
疑問以前の問題、言葉の意味を理解できなかった。いやその言葉そのものの意味は分かる、ただその意味がここで発せられたという衝撃に脳が追いつかない。
「なにを言っているのかよくわからない、そんな顔をしている」
「え、だ、だって、え?」
困惑した目の前の少年を見てフィリップさんは笑っている。まるで悪戯しているかのように。
「……君の持つメモリ、ジョーカーメモリはぼくにとっても所縁あるものだ。ぼくの大切な相棒が使っていた、そのメモリをね。……君の話を聞いた限り、そのメモリを君に託したのはその相棒と特定してほぼ間違いないだろう」
僕にヒーローとしての在り方を説いた薄らぐ記憶の中の憧れ。その人が僕の目の前の仮面のヒーローと関わり深い存在。縁とは紡がれていくものなんだなって思う。
「それがどうして僕が仮面ライダーになることと繋がるんです?」
「彼が君にそのメモリを託した。渡したわけではない、託したんだ。それは決して意味がないことではないからだ。……ぼくはこの世界の人間じゃない」
「……え」
二度目の衝撃は一度目とのスパンが短かった。正直この人はなにを言っているんだろうって思った。不思議な人のようだと感じていたけど、その不思議が如実に繰り出された。
「原因はこちらの世界に来た際の衝撃のためか記憶にない。ただどうにもぼくがいた世界とは違うと分かった。なぜならぼくの世界にはヒーローを職業とした人々はいなかったから」
そして取り急ぎ情報を集めたフィリップさんは、この世界のことをおおよそ知った。そして何故かこの世界でもガイアメモリが出回っている。フィリップさんは調査することにした、別世界に来た理由も元の世界に帰る手段も分かると思ったから。どうしてだか持ち合わせていたサイクロンメモリとベルト(ロストドライバーと言うらしい)を手にして。それがこの世界における仮面ライダーの誕生。仮面ライダーの正体がバレないようにしているのは、あらゆる危険性を考慮したもののようだ。誰が敵なのかもはっきりとしていない、そんな状態なら隠せる情報は隠しておいた方が武器になる。
「そして一つ問題ができた。ぼくが今使っているガイアメモリはこの世界で作られたものだ。そしてぼくは別世界の人間だ。この違いのせいかこのドライバーを上手く使いこなすことができない。サイクロンメモリの適合率も他のメモリよりは高いがそれほどではない」
そのために変身してもその状態を維持するのに制限時間ができてしまったらしい。力が50%しか出ないのではなく、100%出せるけど数分しか保たない、そういった制約。もし連戦が続くようなものなら変身できずにドーパントと戦わないといけないかもしれない。だから探していた、他の人がなる仮面ライダーを。
「……それが僕、ですか」
ずっとヒーローになりたいと思ってた。それは漠然と小さい頃から描いていた夢にも満たないちっぽけな思い。現実に押し潰されそうになりながらもなんとか形を保っていた。ただそれがこういう形で実るとは思ってもいなかったわけで、反射で肯定的な返事が出来ないくらいに動揺している。
「今すぐというわけではないさ。第一今の君はさすがに戦うのに適しているとは言えないだろう。幼いし身体も出来ていないし戦闘の経験もない。だからぼくが教えよう。安心したまえ、以前筋肉や格闘技について調べたことがある。知識は十分だ」
習うより慣れろという言葉については調べてないのだろうか。
「……もし君が快く受け入れてくれるのであれば、ぼくも出し惜しみはしない。全力で支援しよう」
細くも力強い言葉だった、気圧されるほどに。
「……フィリップさん、僕になれると思いますか」
疑問。個性も持たない、ヒーローを目指しながらどこか諦めていた。唯一してきたことと言えばヒーローに個人的に研究していたことくらい。今なら思う、それ以外にもしなきゃいけないことがあったのではないかと。才能はない、技術もない、あるのはマニア的な知識の大群のみ。それじゃあヒーローにはなれない。誰かを助けることのできる、そんな前時代的意味のヒーローにはなれるかもしれない。けれど僕がなりたいのはそうじゃない。今のヒーローなのだ。ならば足掻くしかないんだ、きっとそうなんだ。
「なれるさ、君がなりたいなら」
その一言が欲しかった。
「僕にも、なれます、か……!
「ぼくの相棒が認めたんだ、君ならなれる。僕もそう思う」
差し出された手を涙を零しながら受け取った。思ってた以上に温かかった。
……ねぇ、
ぼくがこっちにやってきたとき、倒れたぼくの隣に転がっていたこのサイクロンメモリとロストドライバー。そして短い言伝。
『あとは頼むぜ、相棒』
君が託した少年と出会ったよ。……ぼくにはまだわからない、君の意思を継ぐ者として相応しいのか。けれどこういうときの君の勘は馬鹿に出来ないからね、とりあえずぼくも今は信じることにするよ。少しずつ知っていこうと思う、緑谷出久というこの少年を。だからどうか……。
目の前で泣き噦る少年の頭を軽く撫でた。
フィリップの口調こんなだっけか?再現度の低さはできるだけ気にしない方向で。あとちょくちょくオリジナル設定出てきてるのでご注意を。
次更新するとしたらしばらく後だと思われる。忘れた頃にまた。感想意見誤字報告などお待ちしてます。