切札持った僕のヒーローアカデミア   作:ソナ刹那

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遅くなると言ったな、あれは嘘だ(たまたま)。
今回は初のバトル描写、バトル描写大の苦手な作者なので、先に謝罪を。申し訳ない。



Jの始まり/君へ、この手を伸ばせ

 

 

 

 

 

 

 

 修行をした。第一に身体の基礎能力の上昇、平たく言えば肉体改造つまり筋トレだ。詳しいことは省くけど、おおよそ中学生がするような内容ではない。最初からオーソドックスな腕立て伏せや腹筋から始まり、やがてベンチプレスやバーを使っての懸垂など、中には紐で吊るしたタイヤを正面から受け止めたり、トラックを押したり、もはや筋トレとは違うのではないのかということもやった(出来たわけではない)。フィリップさんがやたら熱を入れて楽しそうに教鞭を振るってるのを見る限り、後半の内容はフィリップさんの完全な趣味だろう。ずっと思っていたがどこかあの人の知識には偏りがある気がする。ほぼ確信だ。

 

 とりあえずそんなわけで一般の中学生と比べると、だいぶ群を抜いた身体つきになった。20代のアスリートの卵くらいにはなった。中学生の今の自分には充分だ。付けすぎるとデフォルトの身体が耐えられない。身体が重くなり過ぎるのも良くない。

 

 加えて柔軟。しなやかに身体を動かすにはストレッチは欠かせない。何度か身体が引きちぎられそうになったが、無事に生きているから問題なしとしよう。筋肉を柔らかくするということで山の中を走ったりした。なんでもでこぼこした足場の悪い場所で走り込みするといいらしい。名称があったが忘れた。

 

 最後に戦闘技術。今時プロヒーローが個性だけで生き残れるのは絶対的じゃない。むしろ直接的に戦闘向きではない個性も多い中、力を得るためにはある意味古来の武術なり対人戦闘のスキルなりを身につける必要がある。特にそういったものに精通しているヒーローの中には、映像や書籍などで自分の技術を残している人もいたりする。僕はそういった中からフィリップさんと相談して、いくつかピックアップし混ぜ合わせ自分なりのスタイルを作っていくことにした。あまりパワーに依存したものではなく、むしろスピードやフットワークを意識したもの。結果的になんとも言えないスタイルになった。もはやただ喧嘩が強くなっただけかもしれない。そこは対人戦闘の相手になってもらったフィリップさんのお墨付きだ、複雑な気持ちだけど。

そして最後に総仕上げだ。

 

 

 

 

 

 

 

「メモリドープ……?」

「そう、ガイアメモリを身体に挿し込むことでメモリの力を限定的に発動するもの、らしい」

「らしい?」

「あぁ、ぼくの世界のガイアメモリは身体に挿したら問答無用でドーパントになったから。どうやらこことあそこでは同じガイアメモリでも少々システムが違うらしい。現に他にもあっちのメモリは使うにあたって「生体コネクタ」を身体に刻む手術が必要だ。だがこちらのメモリは初めに身体にメモリの端子を当てれば自動的にその箇所に生体コネクタが生成される。その後は利用する度にメモリのボタンを押せば表面に出現し、それ以外の時は刺繍は消えている。なんとも便利なものだ、これではメモリ犯罪を取り締まるのは難しいだろう。特に事前に防ぐことは。使うことが容易になるということだからね。……いったいどのようにしてこのメモリを開発したのか、ますます興味が尽きないよ」

 

 

 と言いながらもその目は陰っていた。この世界で何よりも誰よりもガイアメモリに詳しいはずの自分にとって知らない情報が流れ込んでくる。しかも不穏な方向に。心中穏やかじゃないだろうことは僕にも分かる。

 

 

「と言っても悪いことばかりではない。こちらのガイアメモリ、ぼくが仮に命名したASガイアメモリは、謂わば麻薬だったガイアメモリが少々危険な薬になったようなものだ。正確に用法を守れば基本問題ではない。だとしても危険なものに変わりはないから、取り締まりはするべきだと思うけどね」

 

 

 メモリとの適合率、もしその数値が著しく低いメモリを使おうものなら一瞬で命がデータにすら残らず消えてしまうことだって考えられる。その決して小さくないデメリットを考慮するとやはり使用は避けるべきだろう。僕にも無闇矢鱈に、特に人前で使うことは避けるように言われた。フィリップさんのように特例として認められているわけでもないし。

 

 説明し忘れていたけど、一応『仮面ライダー』自体は正式なヒーローとして認められているらしい。ただしその正体がフィリップさんだと知っているのは、その中でも僅かだとか。フィリップさん自身は表向きは『ライブラリ』というヒーロー名で活動しているらしい。それを知った時の衝撃。なぜならその情報ヒーロー『ライブラリ』も一度も表には出ていない名前だけがごく一部に知れ渡るマイナーなヒーローだから。知る人ぞ知る、というやつだ。詳しいことは不明だが、表立ってヴィランと交戦するのではなく、情報提供などの形で他のヒーローの支援に徹するという珍しいタイプのヒーローだ。まさかその正体がフィリップさんだったとは……。そのフィリップさんはというと僕のその食いつき具合になんともぎこちない微笑を浮かべていた。そうやって幾重にも自分の姿を作って隠していることからも、今起きている事の重大さがひしひしと感じる。そりゃあそうだ、この人なんかは別世界から来てるのだから。今になって不安という感情が僕を染め出した。少し身が震えた。

 

 

「その点君は適合率の問題はなさそうだ。およそ73%、充分すぎる数値だ」

 

 

 どうやって測ったのだろう。疑問に思ったけど、数値の高さに驚いて頭から落ちてしまった。

 

 

「では身体に挿してみてくれ」

 

 

 随分軽く言ってくれるなぁと悪態を吐きながらも、小さく震える右手でメモリを持ち左の掌に端子を当てた。瞬間絵を描くように一本一本ラインが入り中央にそのコネクタにあたる部分がプリントされた。これで僕がこのメモリの使役者になったわけだ。機械の下の方のボタンを押す。

 

 

【JOKER】

 

 

 そしてコネクタ部分に挿すとメモリがすぅっと身体の中に入っていく。

 

 

「ーーーッ!」

 

 

 肌に溶け込んで入った先から身体全身を駆け巡るように低度の痺れが奔る。それに伴い紫と黒を半々で混ぜたようなラインが薄らに刻まれていく。機械的な幾何学の線。それが僕の身体を余すことなく染める。痛覚に訴えてくるような刺激、けどそれは耐えきれぬ苦痛などではなく、むしろそれを引き金にある種快感とも言えるような高揚感が染み渡る。力を手に入れた、シンプルな事実を頭をかち割るように素直に伝えてきた。

 

 

「ジョーカーメモリの効果は人間としての能力値を大幅に上昇させるというものだ。シンプルゆえに力を実感しやすい。その力に飲み込まれないように気をつけたまえ」

 

 

 痛いくらい刺さる。麻薬とはなんとも的を得た例えだ。中毒症状があるというのも理解できる。おそらくこれでもかなり緩和されている方で、おそらく僕自身ひ弱だったから余計に魅力的に感じるのだろう。まずはこれに慣れるようにしないといけない。

 

 

「今君のメモリドープの一度の継続時間は、安全面を考慮して2分半といったところだろう。一定のインターバルを空けた上で1日の上限使用回数は3回。合計7分半以上だ。ちなみにドライバーを用いて変身する場合1日1分だろうね。これは慣れと適合率の上昇で改善されていく。辛抱して使い続けたまえ」

「は、は……いっ……!」

 

 

 感覚としては初めて炭酸飲料を飲んだようなもの。慣れれば大したことないが、慣れないうちはその刺激がもろ痛覚に直結する。身体にこの力を覚えさせる。力は使うものだ、使われるものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こういった修行が続いた。しかしあくまで修行。ヒーローでない僕が闇雲に力を使うわけにもいかないので、確かな実感を持たないまま中学を卒業しようとしていた。

 

 

「ところで緑谷出久、君は進学先はもう決めたのかい?」

「はい、一応雄英高校のヒーロー科を目指そうかと。……周りには無個性がって笑われましたけど」

 

 

 仕方ない。みんなも分かっているのだ、そんなヒーローというのは甘くないって。少なくとも個性を持たずしてなれるものではないほどには。

 

 

「問題ない。君自身の能力値は一般中学生のそれよりもずっと高い。最悪メモリの力を使えば問題ない」

 

 

 仮面ライダーがそれを言ってしまうのか。確かにどんな形であれ僕の力なんだろうけど、そんな軽くオーケーを出すものでもないような。

 

 

「……ん?」

 

 

 フィリップさんと談笑しながら学校からの帰宅途中だったわけだけど、妙に向こうの方が騒がしい。2人顔を見合わせて無言で頷きそちらへ駆けた。

 

 

「どうしたんです?」

「なんでも子供がヴィランに取っ捕まえられてるらしい。おかげでヒーローも手が出せないとか」

 

 

 非情だ。この現実が非情だ。人並みにその子のことを可哀想だと思う。自分がそうだったらと思うと恐ろしくてたまらない。しかも長時間捕まってるらしく、誰も救えないこの現状に絶望を抱く。せめてその少年が無事救われるように祈ろうと、顔を見るため身を乗り出した時だった。

 

 

「ーーーっ!!」

 

 

 走っていた。フィリップさんが止める声が聞こえたけど、そんなことはどうでも良かった。行かなきゃいけないと思った。もしかしたら見覚えのない顔だったらこんなことしなかったかもしれない。ああそうだ、きっとしない。

けれど君だった。求める先のない空白に助けを欲していたのは、他でもない君だった。

 

 

【JOKER】

 

 

「メモリドープ……!」

 

 

 気づいたら黒いメモリの黒い端子を掌に押しつけていた。さっき言ってた最悪がもうやってきた。いくらなんでも回収が早い。瞬間力が巡る。段々と君に近づく距離が短くなる。

 

 

「かっちゃん!」

「デ、ク!?なんで……テメェがっ!!」

「君が……君が助けてって言ってたから!!」

 

 

 そんな目をしていたから。

 

 

「このガキィ……!」

「っ!」

 

 

 腕なのかわからないおそらくそこに該当するであろう部分のドロのようなものをを伸ばしてくる。身体を屈めて回避、そのまま頭上を通る粘液にめがけありったけの拳を振り抜く。

 

 

「ーーー!?」

 

 

 その衝撃で一瞬風穴が空く。しかし空いたところを埋めるために流動体は流れ穴を塞ぐ。どうにも打撃は有効ではないらしい。とすると困った。今僕が得ている能力は基礎身体能力を著しく向上させるもの。トリッキーな芸当ができるわけではない。ようは殴って蹴ってをするしかないのだ。

 

 繰り出した拳を腕ごとドロが包もうとする。手首あたりを掴まれて咄嗟に繋ぎ目を手刀で割いた。間一髪、完全に飲み込まれたら単純なパワーでは流されて無となってしまう。それはいけない。どうにか捕らないようにしなければいけない。

 

 頭を回す。どうする。そもそも何をする。何が優先だ。救出、囚われた幼馴染の救出。倒すことは必要ない。かっちゃんさえ助け出せればあとはプロヒーローがどうにかしてくれる。ならば考えろ。倒すことを考えるな。戦闘じゃないこれは救出だ。一瞬隙を作ればいい。隙を作ることができればかっちゃんなら反応できる。

 

 動け、動け、動け。撹乱しろ。相手は速い方じゃない。僕の方がスピードは速い。僕に伸びるドロドロは僕がいた場所の空を切ってばかり。追いつけてない。相手の周りを囲うように回れ。目を回せ。僕を見失え。その都度僕がパンチする。痛覚を認知した頃には視覚は認知できない。次の場所へ移動、懐に潜り込みすぐさまパンチ。急いで距離を取る。繰り返し。有効的じゃない。むしろ効き目はない。けれど確実に溜まる。ダメージじゃなくフラストレーションが。そして苛立て。感情的になれ。怒りに身を任せれば爆発力は増す。けれど代わりに雑になる。

 

 

「ガキがぁ……!!!」

 

 

そしてその時は今だ。

 

 

「最大爆発!!」

「っ!ぉぉぉぉおおおおらあああっ!」

 

 

 かっちゃんの両の掌から冗談ではない爆発がドロドロの体内に向かって放たれる。その爆風で少し僕も流される。ダメだまだだ。慌てて姿勢を整え再びダッシュ、幼馴染の手を探す。濃い巨大な煙の中確かに掴んだ。そして勢いよく引っ張る。煙の中からよく見覚えのある刺々しい姿が現した。ただ先っちょにドロドロが往生際悪くくっついてる。だがそれでいい。それは謂わばさっきまで付きまとってた残滓でしかない。そこ一部分に強い執着はない。だから、逃げられる。

 

 かっちゃんを外に放り投げ、自分も避難しようとした時だった。思ってた以上にしつこいドロが僕の足を掴んだ。不意打ちの爆発で完全に意識が覚醒しているわけではないから、近くにあった僕の足にたまたまそれでいて力強く纏わりつく。これが一つ目の誤差。そしてもう一つの誤差。力を振り絞って逃げようとした、今ならメモリの力をフルに出せば振り切れる。しかしそうはいかなかった。

 

 

「制限時間……!」

 

 

 メモリドープの一度の継続時間を超えた。僕はただの無個性の中学生になった。まずい。終わった。否応無しに自分の終了を悟った時だった。

 

 

「情けない……!」

 

 

 強い声がした。

 

 

「か弱き少年が身を投じて助けようとしたのに、それを黙って見過ごして何がヒーローか!」

 

 

 いたのは平和の象徴、僕の最初の憧れ。

 

 

「……ヒーローはいつだって命がけ!!」

 

 

 平和の象徴の拳は僕なんかの拳とはまるで違って、その一撃で全てを吹き飛ばした。僕はその衝撃なのか、安堵なのか、静かに意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めたのは割とすぐだった。周りに大人たちがたくさんいて、未だに現場は荒れている。救急車とか消防車とか忙しそうに働いている。僕はヒーローたちに怒られた。それもそうだ。本来僕がするべきことではなかったのだから。外野が出しゃばるとむしろ大変なことになる。今回はたまたま運が良かった、よく分かってる。フィリップさんも心配そうに見ていた。そのくせ止めずに僕のしていたことを見ていたのだから、怒られる筋合いはない。実際怒らなかった。

 

 

「色々と言いたいことはあるが……よくやった」

 

 

 その一言がたまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

 僕が初めてなにかを成し得た日。そしてこの日は僕に新しい出会いを運んできた。平和の象徴の真実、を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何気に初登場かっちゃん。もはやヒロイン。仕方ないネ。次でオールマイトと接触。出久のヒーローへの道が変わり始める。
「Jの始まり」はようやく終わり(多分)。次こそ更新は先になるかと思うので気長におまちを。
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