「マルファスさんが選出された、近衛騎士候補というのはご存知ですか?」
白ローブの少女は言った。
「近衛騎士候補?」
「近衛騎士というのは、軍を司るマディカン公爵家に唯一所属しない、ハレリア国王直属の、現在12人の手勢です。国王を守る騎士隊と言っても構いません」
「12人?」
「たったそれだけ?」
ジョンもモーガンも首を傾げる。国王を守る騎士隊にしては、明らかに数が少ない。
そもそも、近衛兵というのは、国王や皇帝など、君主を直接護衛する部隊のことである。国によっては親衛隊と呼んだこともあるし、現代アメリカなどでは『シークレットサービス』と呼ばれたりもする。
実は、現実の地球で近衛
wiki教授に聞いても理由はよく分からなかったが、どうもほとんどは『近衛兵』や『親衛隊』など、『騎士』という兵科を示す言葉を外して呼ばれていたようだ。そのため、現在地球で使われている近衛騎士や親衛騎士などという名称は、おそらく語感の良さから、アニメやゲームなどの創作もので多く用いられているのだろうと考えられる。
しかし、マグニスノアでは近衛騎士や親衛騎士という呼び方も通用する。なぜならば、星王器、特に単唱器を持った兵士を、一般的に騎士と呼ぶからである。つまり、ハレリアでは国王、君主を警護する役目を持つから近衛兵、そして魔法武具で武装しているから騎士、というのは、マグニスノアにおいては両立してしかるべきなのだ。
それだけに、ハレリア王国に近衛騎士が12人しかいないというのは、どう考えてもおかしい。朝昼夜で交代すると考えると、王宮の防衛は4人しか当たっていないことになる。
これでは、失政に怒り狂った民衆が押し寄せたり、他の貴族達が反乱を起こしたりした場合、または暗殺者が送り込まれた時など、様々な敵から国王を守るのに、とても十分とは言えない。
「近衛騎士隊は、1人1人がデンゲル総長と同等の怪物達なのですよ。それでいて、戦場に出ると自分以外の兵のことなど考えられなくなる、そういう方々が近衛騎士に選ばれます。
要するに、人並みの兵士が無理についていこうとすれば、その怪物以外は全滅ということになりかねないわけですね。なので、兵の無駄な損耗を防ぐためにも、一見名誉職である、国王直下の護衛ということで、一般の騎士や兵士とは『隔離』されているのです」
「……その理屈だと、『雷神』デンゲルが真っ先に候補にならねえか?」
その質問は失礼になるかもしれないと思って、ジョンは言わなかったのだが、モーガンは気付いていない様子だ。
「あの方は、あれでも戦場で周囲に気を配ることができる人なのです。そうでなければ、ハレリアの騎士団総長は務まりません」
「後は力加減さえしっかりしてくれればな……」
赤毛ショタジジイはぼやいた。
「うふふふ、余程効いたと見えます」
「そのせいでもう一回聞きに行かねえといけなくなっちまったんだが……」
ぼやきついでに、ウサギ耳を白ローブの少女の頭に付けてみる。
「ついでにその妙な性癖も治ってくれればいいのですけれど、ねっ!」
「ぷげらっ」
頬をグーで殴られ、ジョンはもんどりうって床に倒れた。
「今度のは、毛布の切れ端を
「……確かに頭を締め付ける感触が減って、しっかりした装着感の割には……って、何を言わせるのですか!」
「ハウッ!?」
椅子ごと床に倒れながらもガッツポーズするジョンの股間を、白ローブの少女は容赦なく踏みつける。
「なあ」
生まれつき悪人顔の赤毛少年役人はなぜか青い顔をして声をかける。
ジョンと白ローブの少女がドタバタしている間に、何かに気付いたようだ。
「まさか、『雷神』デンゲルが武術大会に出たりってことは……」
「ありえますよ」
「マジかよ……」
悪人顔の少年役人は、絶望の表情をした。
「……もしかして、予選から彼が出てくるとか思っていませんよね?
本戦は御前試合ですし、シード枠は4つ確保されています。本戦に出場しない限り、二つ名付きの高級騎士は出てきませんよ。高級武具も禁止されていますしね」
「へ?」
モーガンは間の抜けた声を上げる。
「そりゃそうだろ。『雷神』が相手になるんだったら、俺は異世界のヤバイ兵器に手を出さなきゃいけねえ。そりゃハレリアにとっても相当にリスクが高えはずだ」
「大正解です。なので、踏んであげますねー」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「ジョン……お前……」
悪人顔の少年役人は哀れみを込めた目で踏まれる友人を見つめた。
「ローブの下のズボンと思ってるこれはな、実は分類的にはぱんつなんだぜ!」
「な、なんだとう!?」
「え゛っ――!?」
ジョンのひと言に、その場にいた男女2人ともが過剰なほどに反応する。
モーガンは椅子を蹴倒して立ち上がり、白ローブの少女はババッと物凄い勢いでローブの裾を抑え、2人から距離を置いた。
ちなみに。
日本紳士達の間でパンチラが持て
それ以前、西洋風のヒラヒラスカートが流行り出した時期、日本ではぱんつを
日本では、ご存知の通り、男性はフンドシだった。
そのイメージが世界でも先行し過ぎていて、女性がどんな下着を着けていたのか、あまり知られていない。
日本女性の古来の下着は、腰巻という、布を巻いて腰のところで紐で留める、内スカートのようなものが主流だったそうだ。間違ってもフンドシなどではない。
ところが、明治時代に入って西洋文化が入るようになってきて、日本にスカートが普及し始めた。その時に下着として何を着用するのか。
実は、腰巻という、股下に接触する部分のない下着に、日本女性が慣れてしまっていたため、西洋のズロースなどといった、現代のぱんつのご先祖様は敬遠されていた、過渡期と呼べる時期が存在したのだ。要するにヒラヒラスカートのまま、『ぱんつはいてない』状態で女性達は街中を出歩いていたわけである。
その後。ある事件経て、日本でもぱんつが普及し始めた。
その事件というのが、1932年、白木百貨店火災だ。この
それ以前、『パンチラ』は日本には存在しなかったのである。そしてそれ以降、ズロースやパンティといった女性用下着が普及し、『パンチラ』が誕生。
ところが、パンチラの誕生時、男性はパンチラには見向きもしなかったそうだ。なぜならば、『ぱんつはいてない(ガチ)』という状態に男性が慣れ過ぎたためである。今で言えば、スカートの下にスパッツや短パンをはいているのにも等しい、裏切り感があったと言うべきか。そんなこともあり、『パンチラ』が男性の間で持て
ちなみになぜ戦後なのかというと。
第二次大戦中、女性は女性用のズボンとも言えるモンペの着用が推奨されたからだ。戦時中の日本からは、色気すらも贅沢として奪い去られていたのである。
(※ 贅沢と認識されていたかどうかは知りません)
なお、なぜハレリアで現代地球のパンチラ的な価値観が罷り通るのか、それは誰も知らない。というか、中世の女性は大体カボチャパンツのはずである。ハレリアもそうだ。それを見て喜ぶような男が、果たしているのだろうか?
――謎である。
「是非見せてくれ!できればそのおっぱいも一緒に!」
「待ていモーガン!」
白ローブの少女に襲いかかるところだった赤毛悪人顔の肩を、赤毛三枚目は掴んで引き留める。
「止めるなジョン!」
「いいや止めるね!」
「地獄へ行く覚悟なら出来ている!」
「じゃあ止めね」
「いよっしあべし!」
右ストレートが一歩踏み出そうとしたモーガンの顎に突き刺さり、一撃で床に平伏させた。その様子は、見ていたジョンに拳銃で頭を撃ち抜かれた人の倒れ方を連想させる。それくらいに無造作に、白ローブの少女はモーガンの意識を刈り取っていた。
「シャーッ!」
少女は気勢を上げてガッツポーズ。
「今の、マジで訓練受けてねえのか?」
「今のは術で身体能力を上げたのです」
「いや、ありえねえから!筋力とか上げたところで、今みたいなキレを出すの無理だから!」
「そうなのですかー?」
「それ、マジで訓練してる奴に張り倒されるぞ?」
とりあえずモーガンが完全に失神していることを確認したジョンは、モーガンを部屋の隅に移動させておく。
「意外と暴走しないのですね、ジョン君自身は」
「俺は前世で50年生きてきたオッサンだぞ?」
「その割には変態ですが」
「変態だとしても、俺は紳士という名の変態だ。女の子の愛でるべき部分は弁えてる」
「愛でるべき部分?」
「さっきのぱんつの話で言うとだな……。女の子は恥じらう姿こそに価値があるのであって、パンチラや猫耳やミニスカメイド服なんてのは、おまけってことだ。そういう反応的な部分がないんなら、人形を相手にしてるのと変わんねえだろ?」
「それは暴走しない理由にならないと思いますが……」
「要するに、本気で恐がらせちまうと、萌えるより先に気の毒に思っちまうってことだよ」
この辺はやはり、前世が日本人だからなのだろう。日本人は色々と控えめなのである。
「だからそういう目で見る時は、絶対に自分からは手を触れねえ。
それに、後に禍根が残るようじゃいけねえからな。場所も選ぶしやり方も選ぶ。反撃があれば、相手をスカッとさせるためにも甘んじて受ける!それが変態紳士ってもんだ!」
「……すみません、マニアック過ぎてよく分かりませんでした」
「
ジョンはがっくりとうなだれた。
「orz」とは。
いわゆる絵文字の一つで、両手両足を地面につく四つん這いの状態を示している。
表形文字の一種として認識されているようだが、いつ頃発祥なのかはよく分かっていない。
四つん這いを示すだけで、どのような感情を示しているかは、読者の解釈次第となる。
精神ダメージを受けてうなだれていると取ることもあれば、土下座しているとも取れるし、精神的に屈服していることを示す場合もある。
こうした絵文字は日本発祥のものである。
日本には元々表音文字であるひらがなとカタカナがあり、そこに中国から表形文字、表意文字である漢字が入ってきたことで、3種の文字を組み合わせて表現する特殊な文字系が用いられている。
それによって今なお日夜造語が増え、発展を見せており、微妙な機微を表現することが可能な言語として知られている。
同時に、その表現の幅ゆえに、日本語は世界で最も難しい言語であると、他国からは評される。
絵文字は近年、パソコンやインターネットの普及によって、掲示板が発展したことで、アルファベットや記号を用いた新しい表現法として誕生し、発展してきた。
絵文字というと一般的に1行で表現するものを指し、感情を表現するものをその特徴から顔文字とする場合が多い。
さらに複数行にまたがるものを、AA、アスキーアートと呼ぶ。
遡ると、絵文字となる以前は漢字を並べることで情景を表現する試みが、1980年代の雑誌などで既に行われている。
この手の文字で遊ぶ文化の始まりは、いつが発祥なのかは実はよくわからない。
ただ、逆に絵によって熟語を表現するクイズ的なものは、江戸時代には『判じ絵』として既に存在していた。
日本以外にこういった文字で遊ぶ文化が存在したのかについては、長くなるためまたの機会としたい。