ジョンの伝記   作:ひろっさん

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防護策

「大きな問題はなさそうだな」

 

控室にて、ジョンはマルファスの装備を調整していた。

 

「すみません、鎧の隙間を狙えれば、もっと傷も少なく済んだとは思うんですが……」

 

金髪の大男は申し訳なさそうに、自分の剣を研ぐ少年に謝る。

 

「あの系統の鎧に隙間なんかねえよ。大なり小なり、金属部分を切ることになる。むしろ腕や頭じゃなく、胴体を狙った方がいいってのはあるが――。

余計なことは考えるな。この剣は、どこを狙っても切れるし貫けるように作ってあるんだからな」

「はい」

 

マルファスは素直に頷いた。

 

「本戦まではこの調子で問題ねえだろ。問題は、二つ名を持ってるような、有名どころと当たった時だが……」

「……総長は純粋に恐いです。あの強さに勝てるかどうか……」

「心配すんな、『雷神』の術に対抗する方法はある。そっから先は接近戦だ」

「接近戦が一番怖いですね」

「小細工ならできるんだがなぁ……。それでどうにかなんのかって言われると、正直首を傾げちまう。まあ、言っちまえば卑怯臭い手だからな」

「それが、あの鎖が付いた鉄の棒ですか……」

「武器としちゃ相当に使い勝手が良くて、相手からすれば対処が難しい。ただ、マルファスや総長のレベルの話じゃない。作ってはみたもんの、役に立つかどうかは怪しい。使うかどうかは自分で決めてくれ」

「わかりました」

 

話は次の試合へと進む。

 

「次は圧縮空気を飛ばしてくる相手だ。弾が見えにくいから難しいかもしれねえが、避けられるんなら避けた方がいいな。爆発も、完全装備の人間が吹っ飛ぶってのは結構な威力だ」

「そうなんですか?」

「そうだ。一番怖いのが、急激な気圧の変動によって鼓膜が破れること。そうなると、身体のバランスを保つ器官がやられる危険がある」

「身体のバランスを保つ器官?」

「そう、内臓みたいなもんだが、こいつがやられても死にはしねえから、心臓や脳みたいに有名じゃねえんだ。でも、そこに受けたダメージの大きさによっちゃ立てなくなっちまう、戦闘には重要なもんだ」

「もし食らったら、どうすればいいんですか?」

「原則として、食らうな、全部避けろ。万一食らった場合だが……避けられないと思ったら地面に伏せろ。口を開けて息を吐くって方法もあるんだが、あっちも気休めだからなぁ……」

「わかりました。やってみます」

 

マルファスは素直に頷いた。

 

ちなみに。

戦時中の日本では、爆弾が近くに落ちた時は、親指で耳を、残りの指で目を塞ぎ、口を半開きにしろと教えられたそうだ。

 

 

 

そして次の試合。

圧縮空気の弾を連発してくる騎士に対して、マルファスは冷静に回避重視で臨んだ。

何度目かの攻撃で当たらないと見るや、足元の地面に当てて爆風に巻き込もうとするが、なんとマルファスは芯をずらして前に踏み込むことで、爆風を背中に受けて騎士に接近する。圧縮されていても空気なので、かなり見えにくいはずなのだが、彼にはあまり関係ないのかもしれない。

 

接近戦と見るや、相手は切り替えて槍で攻撃してくる。

それを大剣の刃のない部分で弾き、リーチの長さを生かして反撃、相手も受け流そうとしたが、受け切れずに槍の柄が半ばで折れ曲ってしまった。

そのまま戦意喪失の意を伝え、マルファスの勝利。

 

「なんだか、俺の助言(アドバイス)、あんま役に立たなかったな」

「いえいえ、口を開けて息を吐くっていう助言(アドバイス)がなければ、突っ込めませんでしたよ」

「そうきたか。別に避けてるままでも勝ててたと思うが……まあ、いいか」

 

ジョンも、アリシエルが説明したような、強力な術を使った際の消耗の激しさについては、1回戦目の試合を見て気付いていた。圧縮空気の弾を爆発させるという戦法は、集団戦においては無類の力を発揮するが、こういう1対1の戦いには向かないようなのだ。

術の強力さの割にシード扱いでないのは、その辺が理由なのだろう。

 

ともかく、予選初日は無事突破である。両手用大剣の破損もなく、予備に作ってあった武器の出番もなかった。

 

「じゃあ、とりあえず、明日に向けて今日はしっかり休め」

「はい」

 

 

 

火外(ひそと)2区にある練兵場で行われる武術大会の3日間は、一般客のためにも闘技場が解放される。

唯一、軍のセキュリティが甘くなる、ならざるを得ない3日間でもあった。そのためか、錬金術師や貴族を始めとするVIP達は、指定された宿に寝泊まりすることになる。なぜならば、その方が守りやすいからだ。ジョンのような隠れVIPも同様である。

 

「軍の大型施設ばっかだって聞いてたけど、こんな豪邸もあるんだな……」

 

ジョンが部屋を見回しながら呟いた。

2階建て、一部屋15畳近くの広さ、トイレは共同だが、絨毯やソファ、天蓋付きベッドなど、調度品は完備されている。ただ、天蓋付きベッドと言ってもそこまで上品な作りではないのだが。

 

「ここは元々騎士用の宿舎だったのを補修改築(リフォーム)した宿泊施設です」

 

同じ部屋に来ていた白ローブの少女が、自分で作ってきたという差し入れをつまみながら説明する。差し入れは(きじ)肉の唐揚げだ。地球でも西洋では定番のターキーである。小麦粉らしき衣が付いていて、ほどよいキツネ色にこんがり揚がっている。

 

「リフォームって聞くと解放感を求めたくなるな」

「老朽化していたのを補修したついでに、部屋割を変えて漆喰(しっくい)で整えただけですよ。

そもそも、この部屋に解放感を求めるのは、特別客を守るという観点からすれば本末転倒ですからね。高めの場所にあるガラス窓で我慢してください。

……なんですその顔は?」

「予想外の真面目な返答(マジレス)にびっくりした」

「冗談でしたか……」

 

白ローブの少女はがっくりとうなだれる。

 

「んで、他の奴らは?」

「エヴェリアさんは留学生ですから、武術大会を見物に来た貴族達に交じってパーティに出席しています。モーガンは武術大会の事務処理、アリスは錬金術師棟の方です」

「貴族と錬金術師で分かれてんだったか」

「ええ、ジョン君は万一にも他の貴族と接触されては困りますから、この地下迎賓室で、夜間は軟禁状態でお願いしていますけども」

 

ジョンとしても、それで余計なトラブルを回避できるなら特に文句はない。なので、彼は別の気になったことを訊くことにする。

 

「あれ?ハレリア貴族にも俺のことって秘密なのか?」

「武具大会ではあまり人が集まってきませんし、そこまで注意することもなかったのですが、武術大会では他国の貴族も見物するのですよ。それに、ホワーレン王国の貴族も来てますしね」

「ホワーレン?ホワーレンって、ハレリアに吸収合併されたんじゃねえのか?」

「やはりそういう認識ですか……」

 

ジョンは2年ほどナンデヤナで暮らした経験を元に話したのだが、少女は渋い顔をした。

 

「ホワーレン王国は、現在ハレリア王国が統治を代行しているだけで、ちゃんと国としての体裁を保っているのですよ」

「統治を代行って、そんなのが(まか)り通るのか?」

「お互いの事情が絡み合った結果ですね。

ホワーレンはハレリアの庇護下に入りたいし、ハレリアは領土を広げるわけにはいかない理由があったのです。そこで苦肉の策として、自治権を代行するという形となったのです。

ナンデヤナとルクソリスで行政の形態が少し違っているのは、それが大きな原因なのですよ」

「ああ、そういえば……」

 

ジョンは初めてルクソリスへ来た時のことを思い出す。

神殿の大きな敷地に、役所と衛兵の詰所があったのだ。彼はそれを知らなかった。それはつまり、ナンデヤナでは違ったということである。

 

「今は、少しずつ独立へ向けて動いている状況ですし、ホワーレン貴族も世襲制を復活させようとしています。特に現ホワーレン王は産業開発に力を入れていまして、ハレリアから優秀な職人や錬金術師を、登用(スカウト)して囲っているそうなのですよ」

「それに引っ掛かるとまずいってことか……」

 

彼は武術大会が始まる前から、弩砲の生産工場建設について話を進めていた。既に弩砲を部品ごとに作り上げる工場設備について、設計も済ませている。後は非魔法による武術大会本戦出場という快挙を行って名声を挙げ、職人の協力者を集め、施設を作り上げるだけだ。

 

ただ、設備も施設も問題無いと言っても、運営上のトラブルを解決するには経験者が必要である。そのため、前世に工場で働き、様々なトラブルを経験してきたジョンの存在は必要不可欠だった。

 

「うん、美味い」

 

少年は(きじ)肉の唐揚げを1つ口に放り込んで唸った。

 

「ところで1つ聞きたいことがあるのですが……」

 

白ローブの巨乳少女がジョンに尋ねる。

 

「ジョン君は、控室で『総長の術に対応するための策はある』とおっしゃったそうですね?」

「ああ、仕掛けはしてある」

 

中身オッサンな少年は頷いた。

 

「グレゴワール・デンゲル騎士団総長は、武におけるハレリアの切り札です。そういう対策があるとご存知なのでしたら、先に私達に教えていただきたいのですが……」

 

白ローブの少女が苦言を呈する。

 

「あー、そりゃそうだ。悪かった」

 

ジョンはばつの悪そうな顔をして後頭部を掻く。

 

「デンゲル総長が使う単唱器の属性は、電撃だろ?」

「ええ、究極にして不可避の属性です。最近までは高級器でしかその属性は使用不能でしたが、最近は威力も範囲も弱いながら、一般の単唱器でも使用できるようになってきています」

「その電撃、電気ってものは、原則として流れやすい方に流れる。鉄、石、木なんかだと、より流れやすい鉄の方に向かう。表面が濡れてたりすると、木の方に行くこともある。鉄で表面が濡れてたりすると、覿面(てきめん)だな」

 

彼は説明した。

 

「ですが、装備を見ますと剣は鉄ですよね?」

「その通り、両手用の大剣は鉄製だ」

「では、結局使い手が電撃を受けてしまうのでは?」

「人間の体に流れなきゃいいんだ。要は、鎧の表面で止めるってことだな」

 

ジョンは懐からメモ用紙と紙を巻いた炭の棒を取り出す。そしてまずは円を描き、その円に接する棒線を引っ張った。さらに、円の内部に棒人間を描く。

 

「円を鎧、この棒は剣と思ってくれ、中のは人間な」

「はい」

「普通の鎧だと、剣に流れた電気ってのはこう流れる」

 

赤毛偽ショタは剣から、円(鎧)に接している部分から人を通るように線を引っ張った。

 

「人体を通るわけですね」

「大きな理由は、汗だ。動いてれば人間は汗をかくからな。その水分が服や皮膚の表面を湿らせる。そういう水分ってのは、電気が流れる絶好の通り道だ」

「しかし、汗をかかないようにはできないでしょう?」

「ああ、だが、鎧と人体を隔離するってことはできる」

 

中身オッサンな少年は、円の内側にもう一重の同心円を描く。

 

「要は、鎧周りまで電気が流れる経路が届かなきゃいいんだ。そのために、綿入れ、軟皮、なめし革、鉄の層構造にした。鉄の鎧の内側になめし革を張り付けるってのが手間だったらしくて、相当に文句言われたけどな」

 

もっと詳しく言えば、防具を繋ぐ金具も、肌に接する部分はなめし革を使っているという、徹底ぶりだ。

 

「こんな革一枚で防げるものだったのですか……」

「革鎧だけじゃいけねえよ。革は電気が流れにくいから、武器から直接人体に流れる。革の外側に鉄なり銅なりの、電気が流れやすいもんが必要になるんだ」

 

日本なら、中学校の理科の授業で習うかもしれない。

鉄粉、鉄の輪、磁石を使った実験だ。

紙の表面に鉄粉を蒔き、裏側から磁石を近付けると、磁力線に沿って鉄粉が動く。だが、鉄の輪が表面に置かれていると、その内外で鉄粉の動きが隔離されてしまうのである。

磁気と電気は、同じ電子の動きによって発生するものなので、電気についても同じ、隔離作用が発生するのだ。

 

パソコンなどの電子機器を静電気から守る仕組みも、原理は同じだ。また、落雷時に飛行機、自動車、電車などの内部なら安全というのも、同じ原理によるものである。

 

「これは使えそうですね……。電撃属性は、今まで術以外の対抗策がなかったからこその、究極の属性だったのです」

 

白ローブの少女は顎に手を当てて呟いた。

 

「もし手に入るんなら、ゴムを鎧の内側に焼き付けてもいいかもしれねえ」

「ゴム、ですか?」

「ゴムの木から採れる樹液だな。俺がいた世界じゃ、南の暑い地方でそういうのがあったんだが……。マグニスノアじゃどこで採れるのか、俺はよく知らねえ」

「わかりました、探してみましょう」

 

少女は力強く頷く。

こうしてジョンの知識による様々な魔改造を経て、1つの奇跡に繋がるのだった。

 

 

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