ジョンの伝記   作:ひろっさん

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方針変更

夜、ジョンが宿泊している迎賓館の地下室。彼が昨夜に寝泊まりした場所でもあった。

今夜は、そこにジョンに関わる主要な人物達が揃っている。カナタン元伯爵による機密漏洩事件に伴って、軌道修正が必要になったからだ。

 

「ハレリアの最新型星王器がエルバリア貴族の手に渡ったという情報が、昨夜降りてきました」

 

カナタン元伯爵は、エルバリアの略奪部隊を傭兵として雇い入れ、神殿を襲撃したのである。

神族を擁するハレリアの星王術は周辺諸国に比べて進んでおり、星王器の作成にも高い技術が用いられていた。そのハレリア製最新型の星王器が奪われたということは、半年後の戦争の相手が質の良い星王器を使用してくるということを意味しているのだ。

 

「ハレリア王国の星王器は、マグニスノアでも有数の質を誇ります。それを解析され、模倣されるだけでも、戦力は大幅に変動します。あちらは必須素材である神石(かみいし)の生産地ですからね」

「それは相当にまずい話だな……」

 

話を聞いて、黒髪ロリも事態の深刻さに気付いたようだ。

 

「マグニスノアの戦闘は、神族(かみぞく)でも係わらない限りは星王術で決まると言っても過言ではない。もちろん、数や質、戦術も関係してくるから、一概には言えないだろうがな。彼女の言った通り、神石の保有数でこちらは絶対的に不利だ。この上に質まで近付かれれば、太刀打ちできなくなるかもしれん」

「実際は高級器の保有数で勝っていますから、そこまで悲観することではありません。

しかし、戦力が互角に近付き、戦争が長引けば、その分ハレリアの国力に大きなダメージが入ります。特にブロンバルドは洗脳術によって国民を簡単に動員できますからね。そうやって波状攻撃を仕掛けられれば、ハレリア王国は崩壊します。

『悪魔からの手紙』で止めることもできますが、その場合は政権に致命傷を与えなければ、高品質の星王器を揃える時間を与えるだけになるのですよ」

「つまり、勝つのがより難しくなったということだ」

「だから、方針変更ってわけか……」

 

赤毛偽ショタが難しい顔をして腕を組むと、白ローブの少女がフードの奥から彼に視線を向ける。

 

「まだ議論の最中なのですが、おそらく兵器で対抗することになるかと思います」

「つまり、弩砲か」

「それもありますが……。洗脳兵は、洗脳を解けば普通の農民や兵士ですから、出来れば生かしたまま捕らえたいのです」

「矢の方を改造すりゃいいだろ。そんな難しくねえよ」

「いえ、ブロンバルド正規兵を狙い撃ちにする、射程距離と精度が欲しいのです」

「んー……なるほど。ってことは、『工場』は今回は見送りってことでいいのか?」

「仕方がないでしょう。元々実験的な意味の強かったものですし」

「了解。アリシエルは借りていいか?」

「ええ、行くところまでやっちゃっても構いませんよ」

「ちょっ!?」

「了解。ちょっとボロボロになるかもしれねえから、神殿のお世話になるかもな」

「えーっ!?」

 

なにやら金髪ツインテール黒ローブ娘がやかましい。

 

「じょ、冗談よね?」

「あらあら、私は目一杯扱き使っても構わないといったのですよ?」

マグニスノア(こっち)の連中は、基本的に分単位の仕事なんて慣れてねえからな。俺の感覚で扱き使うと、ボロボロになっちまうかもしれねえ」

 

赤毛偽ショタと巨乳少女は、2人してニヤニヤ顔で真っ赤な顔のアリシエルをからかう。

 

「ぐぬぬぬぬ……!」

 

からかわれた彼女はテーブルをバンバン叩きながら唸った。エヴェリアは呆れた様子で眺める。

 

「2人していい性格だな」

「今の、どんな話だったんだ?」

 

真顔で首を傾げるモーガンに、思わず全員の視線が集まる。

 

「え、なんで?俺、変なこと言ったか?」

「い、いえ……」

「子供は龍が運んでくるというアレは、こっちでも通用するのか?」

「知らないわよ……」

「アリシエルが、扱き使うのと子供を作るのを勘違いしたんだよ」

 

少女3人がそれぞれ恥ずかしがる中、ジョンは恥ずかしげもなく言ってのけた。

 

「言っちゃったー!?」

「むむむ、扱き使うのと子供を作るのですか……その表現でしたらセーフかもしれません」

「というか、ジョン殿は恥ずかしくないのか?」

 

女3人寄れば(かしま)しいというが、大体その通りである。女性は男性に比べて会話に必要な脳神経が発達しており、相性が良い女性が3人も寄れば、いつまでも会話が続くと言われている。

 

「前にも言ったけどよ、俺ぁ前世で50年生きてたんだぜ?」

「50年も生きてこの変態ですよ!変態ジジイですよ!」

orz(オウフ)

 

目を反らしたい事実を述べられてジョンは落ち込んだ。単に50年も生きていれば、シモネタにも慣れるというだけの話である。

変態性は……弁明の余地もないが。

 

 

 

「さて、では人払いも済んでいるでしょうし、そろそろ大剣を回収してきますか」

 

白ローブの少女が皆に言った。

 

「了解、台車とスコップ用意してくる」

 

モーガンが早速動き、足早に部屋を出る。

 

「モーガンって動くの早いわよね?大丈夫かしら?」

「若い内はあのぐらいで丁度いいんだよ」

「時々大事なことが抜けていることもあるが、平民出身であの歳ならばあんなものだろう」

「エヴェリアさんも、あまり人のことは言えませんからね?」

「お前達のようなバケモノどもと一緒にするな」

 

4人はそれぞれ、こそこそと部屋を出て、昼間に埋めておいた大剣を回収してくるのだった。

 

 

 

「ふぇ~、ホントにツルツルピカピカね。これ、半日でやったの?」

 

部屋に戻ってきたアリシエルが呪紋石の明かりの下で大剣を確認し、驚きの声を上げる。

 

「いや、移動の時間も合わせれば、半日のさらに半分といったところだろう。

確かに転生者と疑われるには十分な仕事だ。私も、彼女に言われるまでその可能性を失念していたが」

「いやー、あの時は研ぎ直すので頭ん中一杯になっててな……」

 

ジョンは後頭部を掻いた。

 

「でも、相手が軽銀(アルミ)で錬金術でも1時間で結構ギリギリなのよ?手作業で1時間半って、ちょっと早過ぎない?」

「元々、傷がそこまで深くなかったんだ。やっぱ焼き戻しが上手く行ったからだろうな」

「焼き戻し?ジョン殿は何度も焼き入れをしていたのではなかったのか?」

「焼き入れは高い温度から一気に水で冷やすことで、硬くて脆くする方法だ。

全部脆いと、折れやすくなっちまう。普通の使い手だったらそんな心配はしねえんだが、相手がマルファスだしな。だから、一度焼き戻して刃だけ再焼き入れして、鉄の粘りを残してんだ」

「作業が早く終わった理由に、この剣の性能もあったのか……」

 

エヴェリアは話を聞いて感心する。

 

「おそらく、鉄製の剣としてはマグニスノアで最高の性能を誇るでしょうね」

 

その白ローブの少女の言葉には、誰も異論がなかった。たった1人、それを作ったジョンを除いては。

 

「錬金術なしでなら、今のところこれ以上はねえだろう。作る奴の腕次第だ」

「錬金術で鉄器なんて作れないわよ?」

「この間、俺が言ってマンガンを抽出しただろ?」

「ああ、うん、確かにそうだけど……」

「マンガンってのは、精錬した鉄に混ぜると強度が増すんだ」

「『合金』……ですか」

「異世界じゃ、鉄主体の合金ってことで『鉄合金』って言い方もする」

 

ジョンは頷く。

世界で最も多用途に使われ、加工も入手も比較的容易な『鉄』という金属は、現代地球においてそれだけで冶金学の中の1分野として成立するほどの、合金の種類の多さを誇っている。

 

「マンガン鋼で作った両用剣(バスタードソード)が、工房にある。試作品なんだがな、多分強度はコイツとどっこいだろ」

 

彼は目の前の大剣を示しながら言った。

 

「えー、それ持ってくれば研ぎ直ししなくて良かったんじゃ……?」

 

モーガンが頭をひねる。

エヴェリアも白ローブの少女も同意見だった。だが、それについてジョンは首を横に振る。

 

「ハートーン卿なら、見破るかもしれねえ」

「異世界の技術で作られた剣だぞ?」

「俺が知ってて一般的じゃねえからって、異世界の技術だって決めつけることもできねえんだ。実際、師匠は焼き入れが俺より巧い。焼き戻しも知識だけは話してるけど、受け入れなかったってだけで、俺より巧いんだろうぜ」

「そんな……」

 

エヴェリアにとって、それは衝撃的だった。異世界の知識を持つジョンよりも、鍛冶の腕で上回る人間が存在するというのだ。

考えてみれば当然の話なのだが。異世界の知識というのも、所詮は知識でしかないのである。何十年と研鑚を積んできた天才鍛冶師に、腕で勝るというわけではないのだ。

 

「ハートーン卿の工房で、銀色の延べ棒(インゴット)を見かけた。あれって軽銀(アルミニウム)なんだろ?」

「そりゃ、11年間ランキング1位の、不動の王者だぜ?錬金術で抽出した金属を使っててもおかしくない」

 

これはモーガン。

 

「そっか、ハートーン卿も錬金術の支援を受けてるって言いたいのよ。だから、マンガン鋼みたいな合金のことも知ってるかもしれないわ。

ハートーン卿みたいな貴族にバレると…………………………………………どうなるの?」

「そこで私に振りますか」

 

アリシエルに話を振られた白ローブの巨乳少女は苦笑する。

 

「実際は、そうそうバレるものではないというのが宰相の判断です。

しかし、もしも何の対策もとらなかったしますと、少々厄介なことになります。具体的には、ジョン君の優遇状況について、苦言を呈されるでしょうね。

ジョン君本人ではなく、役所へ向けた言葉として、ですが。権力者である以上、気付いていて黙っているというわけにはいきません。ハレリアは、権力者には常に相応の資質を問いますからね。

問題は、ジョン君を優遇している理由を、宰相府は説明できないということです。

錬金術の支援を受けられるのは、ランキング上位5位まで。ジョン君は急激にランキングを伸ばしているとはいえ、まだ23位なのです。

今回の本戦出場で一気に5位以上に浮上はするでしょうが、それ以前の時期に錬金術の支援を受けていたとあれば、それは大きな問題となります。明らかな依怙贔屓(えこひいき)なのですから、訴えられるのは当然です。最悪、その時点で異世界転生者であることを公表することになるでしょうね」

 

白ローブの少女は説明した。

 

「それってかなりまずいって話だったじゃん!」

「あくまで、バレた場合に対策を打たなければ、ですよ。それに、ハートーン卿も大々的に公表はしないでしょう」

「まあ、元々あの人、感付いてるっぽいからな。その上で黙ってくれてんだ、あんま迷惑はかけられねえよ」

 

この辺は、ジョンの日本人的な甘さとも言える。

 

「今、猫耳を作るために必要な針金の生産調整に追われているそうなのですけどね」

「ちょっと土下座してくる」

 

部屋を出ようとした彼は、当然のように取り押さえられ、簀巻きにされた。

具体的には、エヴェリアに転ばされ、白ローブの少女とアリシエルの魔法で一時的に眠らされ、モーガンが持ってきた簀によって簀巻きにされ、身動きを封じられたのだ。

 

 




ジョン少年観察記録中間報告、その4。

武術大会に参加した彼の剣を破壊しようとした兵士は、実はその作業を断念した模様を上司に報告していた。

私も観察していたが、理由としては単純に剣が破壊されにくいように、部分焼き入れが行われていたからだろうと考えられる。
焼き入れによって刃は硬く、脆くなるのだが、それを支える土台、つまり峰の部分に灰を混ぜた泥を塗り、焼き入れの熱が通りにくくしておくことによって、焼の入りを中途半端にする技法だ。
これは日本刀に使用される技法で、日本刀の切れ味と共に、信じられないほどの柔軟性を担保する技術として確立されていた。

ただ、ジョン少年ははっきりとこれを知っていたわけではなく、灰を混ぜた泥の代わりにアルコールを用いていた。温度が高まるごとにアルコールを塗り、揮発する際に熱を奪う作用を利用し、剣の峰を部分的に低温に保っていたのである。
それの実験と練習のために、彼はマンガン鋼の剣を作り、同じようにアルコールによる温度低下を利用した部分焼き入れを何度か行っている。

どちらかというと鍛冶師ではない、技術者としての彼の顔が出てきたと言っていい。
しかし、同時に火薬を用いる兵器を披露する気はないらしい。
それだけ無駄かもしれない苦労を重ねてでも、ある程度のアイデアで収まる範囲で解決するつもりのようだ。

おそらく予定されている世界会議の場で、ということになるだろうか、ハレリアにて予想されている大きな戦争が終了し、落ち着いたタイミングで、この地の管理者に打診してみようと思う。
どういった結果になるかは分からないが、彼がただの技術者でないのは明らかだ。
このまま何の対策も打たずに放置しておくことはできない。

そして、半年後のタイミングならば、諸国としても『ジョン少年を各国の王と同列に扱う』というこの提案を、真剣に考えることができるだろう。

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