ジョンの伝記   作:ひろっさん

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風神の貫禄

武術大会、本戦1回戦。

 

『この火外(ひそと)2区闘技場、武術大会本戦当日は、例年通りの超満員となっております!』

 

司会の青ローブ男、『謎の人物A』ことアウル・ケリックスが拡声の術でアナウンスする。

 

『さて、第1回戦第4試合!まずは西側、非魔法武具による本戦出場という快挙を成し遂げた、マルファス選手の登場です!』

 

大歓声の中、大体いつも通りの赤毛大男が大剣を背負って登場し、東西南北の客席に向けて頭を下げた。これは闘技場で試合を行う際の作法だ。

 

『続きましては東側、優勝へ進むなら、逃れられぬ巨大な壁、優遇(シード)枠!

その二つ名は『風神』、高級騎士、ロバァァァァトォォォッ・ウェェエエスタァァァァァァァァッッ!!!』

 

どこのプロレスの入場アナウンスだ、とジョンは思った。

 

相手は白銀の鎧を着た、金髪のやや小柄な優男。しかし体格の小ささを感じさせないほど、その立ち居振る舞いには隙がなかった。その手には2メートルほどの槍。

 

「そういえば、兄弟弟子対決ですよね?」

「あん?」

 

一緒に控室から見ていたエルウッドの言葉に、ジョンは首を傾げる。

 

「マルファスとロバァァトォォが?」

「なんでそこを真似したんすか」

 

ジョークは置いておいて。

 

「作り手の方です」

 

エルウッドは言う。

 

「あの槍、鉄製なんですよ」

「はぁ?」

 

ジョンは思わず青年兵士の方を振り返った。この武術大会で、まさか魔法を使わない選択をしてくるとは思わなかったのだ。

 

「小さい頃に何度か触らせてもらったんで、間違いないです。あれはハートーン卿が10年前に作った槍です」

「なんで、んなことやってんだ?」

「親子なんで」

 

唖然とする。

そういえばそんなことも言っていたとジョンは思い出した。

確かにハートーン男爵はジョンと同じ、鍛冶師バラクの弟子だ。一緒に修業したことなどないが、兄弟弟子と言えなくもない。

 

「つーか、なんで鉄製?」

「多分、10年前の自分と同じ状況だからじゃないですかね。父も、鉄武装で武術大会に出たクチなんで」

「そ……」

 

ジョンは言葉を飲み込む。

10年前のハートーン男爵と組んで、おそらく兵士の身分で武術大会に出場したのである。

それはつまり。

近衛騎士候補とされてもおかしくないほどの、実力と才能を持っていたということなのだ。

 

鉄武装=非魔法武具で武術大会に挑むというのは、生半可な理由では許されない。なぜならば、参加者が増えて予選が長引けば、その分『箱庭領域』を起動する星王術士の負担が増えるからである。それでは、武具大会と半年で分けている意味がない。だから、武術大会に出場する資格があるのは、最低限騎士を倒せる者、という条件があった。

 

では。

武術大会で騎士を倒すのがどれほど難しいのかについて、説明しておこう。

 

まず、騎士は武術において一般兵よりも強い。

普通に魔法を使わずに戦うだけでも、一般兵より強いのだ。その実力を認められることが、騎士の叙任を受ける第一歩なのである。

 

さらに、単唱器による遠距離攻撃を持っている。

様々な制約はあるものの、初撃の射程距離は相当に大きな利点(アドバンテージ)となるだろう。それは銃という武器が証明している。

 

剣が戦場の主役になったことはない。そもそも剣は戦場における武器としてさほど優れてはいないのだ。どちらかというと、その精神性、象徴としての役割の方が大きい。

戦場における武器として最も活躍したのは、弓矢であり、槍である。そしてそれらの出番を奪ったのが、銃だ。

弩砲や投石機は、大砲に取って代わられた。

すべては射程距離の優劣である。遠距離攻撃は、それだけで大きな利点(アドバンテージ)なのだ。

 

つまり、騎士は接近戦においても遠距離戦においても、一般兵を上回るのである。槍や大剣を持たせたところで、そもそもの武術の実力で負けていれば、勝てるわけがないのだ。要するに、10年前のロバート・ウェスターは、非魔法武具でも騎士を倒せると判断されたがゆえに、武術大会への出場を許されたのである。

それはとんでもないことだった。

――ジョンが、近衛騎士候補だったのかもしれないと思っても仕方がないほどには。

 

 

 

試合は序盤から激しい打ち合いとなっていた。

足の速さを武器に巧みに動き回るロバート・ウェスター。それに追い付けないまでも、両手用の大剣を巧みに振って対応するマルファス。何度も槍が弾かれ、大剣も弾かれ、一進一退の膠着状態となる。

 

「疑問に思ってたんですけど……」

 

控室でエルウッドが尋ねる。

 

「なんで大剣なんスか?両手用の大剣って、あんまり良い武器じゃないって聞いたことあるんですけど……」

「よし、説明しよう」

 

闘技場に顔を向けたまま、赤毛ショタジジイは答えた。

 

「確かに両手用大剣は、味方が周りにいる環境で振り回すには向かねえ。実際の戦場じゃ使いどころに困るし、最終的に槍みたいな使い方をされた、残念武器だ。両手用だから盾を持てねえってのも致命的だな」

 

評価は散々である。

 

「ただ、1つだけ両手用大剣が猛威を振った戦場がある。それが、1対1の決闘だ。

周りに仲間がいなくても、そもそも敵も1人だから問題ねえんだよ。盾を持てなくても、相手が1人なら剣1本で防げる。むしろその威力とリーチに物を言わせて圧倒もできるしな。

局地的、この闘技場って環境で見れば、両手用の大剣ってのはむしろ優れた武器なんだ」

 

マルファスは大剣を小枝のように振り回して、鋭い槍の攻撃を打ち払っている。

 

「ついでに言えば、あの太さでなきゃ剣が持たねえ。

身体に巻き込むように振り回してんだろ?あれって、ものスゲー威力が出てるんだ。鎧の上から、一撃で人間を殺せるレベルだからな。それなら、リーチが長い方がいい。

片手剣だと、あの威力を出すのに腕を振り被らなきゃいけねえ。それだと、デンゲル総長みたいなバケモンとは打ち合えねえんだ」

「『雷神』基準スか!?」

「最低限、優勝が不可能じゃねえようには作ってある」

 

驚くエルウッドにジョンは言い切った。

 

「でも……チッ、やっぱ無理か……慣れてきやがった」

 

見ている先で、凄まじい剣戟が鳴り響く中、徐々にマルファスが押され始めている。なんと、ウェスターはほぼ背中逸らし(スウェイバック)で大剣を避けているのだ。そしてすぐさまに反撃に出る。

こうなると、マルファスも鋭い槍を回避するために徐々に後ろに下がらされていくしかない。剣筋が見切られている証拠だった。

一度大きく距離を取ろうとしても、速度はウェスターの方が上だ。しばらくして、マルファスは闘技場の壁際に追い詰められ、ついに脇腹に槍の攻撃を受けた。

 

「あっ、えっ!?」

 

エルウッドが驚愕の声を上げる。今度はウェスターが大きく跳び下がったのである。その隙に、マルファスは壁を背にした窮地を脱した。

 

「このレベルじゃあ気休めだと思ってたが……」

 

ジョンは溜息を吐く。

 

「――さすがはなんちゃってマクシミリアン式だ。多少は働いてくれたか」

「え、何やったんですか!?」

 

てっきり、今の一撃で仕留めたかとエルウッドは思っていただけに、ピンピンしているマルファスの姿に驚きを隠せていない様子だ。

隣で見ている赤毛の少年鍛冶師に訊く。

 

「槍が滑るように、鎧にわざとデコボコを付けたんだよ。突きってのは、ちょっとでも切っ先が滑っちまうと威力が半減するからな」

 

マクシミリアン式甲冑の発想である。あれは細かい溝を付けているのだが、そんな面倒な真似はしないジョンは、平たい山状の突起を無数に付けていた。

 

「……まさか、あの外套(コート)って……」

「火除けと、鎧のデコボコを隠すためのもんだ。相手が戸惑う余地を与えた方が、勝率は上がるだろ?」

「僕の時と同じ手ですか。相変わらずいやらしいというか……」

 

半年前にエルウッドの武具を作った時も、この少年は外套(コート)の裏に鉄板を縫い込んだのだ。それが分かりにくいように偽装まで施して。

マルファスの黒いコートも、同じ目的が隠れていると、青年兵士は気付いたのである。

 

「ただ、それでも速さと技でウェスター卿(おやじさん)の方が上だな。この程度の小細工じゃ、今の差を埋めるのは無理か……」

 

ジョンは険しい顔で溜息を吐いた。

言っている間にマルファスはなんとか限界を超えた動きで盛り返すも、手堅く慎重に立ち回るウェスターの前に、体力だけがどんどん削られていく。

そしてその内にまたも動きが見切られ、肩口に槍を受けた。やはり一撃目は浅かったが、鎧の壊れた部分に再び針の穴を通すような突きを受け、肩が上がらなくなってしまう。

それでも頑張って片腕で大剣を振っていたが、今度は太腿に同じく2連撃を受けてしまい、目に見えて動きが遅くなった。『箱庭領域』による治癒速度が、鉄装備のせいで若干落ちているのだ。

 

2人(・・)の健闘に敬意を」

 

中年騎士は呟く。

最後はもう片方の肩に狙い澄ました強烈な突きを受け、さすがに両腕が上がらなくなってしまい、審判が止める。その時にはウェスターは既に背を向けていた。

 

『試合終了!『風神』の名に(かげ)りなし!

ロバート・ウェスター卿、一度も術を使わずに堂々の勝利!!高級騎士の貫録をまざまざと見せつけての完勝です!!』

 

司会のアウル・ケリックスが観客を盛り上げた。

 

 

 

「どうだったね?」

 

ウェスターがジョン達のいる反対側の控室に戻ると、そこには白髪交じりの赤毛の中年貴族、アブラハム・ハートーン男爵がいた。

 

「君以外の鍛冶師に一杯食わされるとは、思ってもみなかったよ」

 

金髪の中年騎士は口の端を吊り上げて、にやりと笑う。

 

「3年前にも、外套(コート)で隠した鎧の表面に針金を鋳付けていた騎士がいた。あれを経験していなければ、もっとてこずったかもしれない」

「実戦用の武具とは、勝ちにこだわってこそさ」

「言ってくれる」

 

2人はお互いに笑い合った。

実はジョンと似たような防具を、ウェスターは相手にしたことがあったのだ。そのために、手応えの変化を一瞬で感じ取り、動揺も少なく対応して見せたのである。それでも動いている相手の鎧の僅かな傷に突き入れるというのは、神業に違いないが。

 

「今日は、美味い酒が飲めそうだ」

「飲むのかね?下戸の君が?」

「飲むさ。下戸でも、ほろ酔い気分を味わいたくなることはある」

 

こうして次の試合でデンゲルに高々と宙を舞わされた騎士に観客が歓声を上げる中、春先の一大イベントは過ぎ去っていく。

 

ちなみに『雷神』グレゴワール・デンゲルは、名だたる騎士達から、対策を諦めら(・・・)れて(・・)いた《・・》。

電撃は回避も防御もできない究極の属性ながら、低級のそれは威力も弱く射程も短い。高級単唱器が禁止されている武術大会で電撃を使う者は、特別なこだわりがあるのが普通だ。その勝率も、そこまで高くない。少なくとも、究極の属性と呼ばれるほどの絶対的な力は発揮されていなかった。

それでなお常勝を誇るこの老騎士は、文字通り格が違うのだ。

 

はっきり言ってしまうと、デンゲルが術を使(・・・)わない(・・・)なら彼(・・・)らにも(・・・)勝機が(・・・)見える(・・・)という、常識を飛び越えた強さを誇る男なのである。

 

今年も、白銀の騎士が宙を舞う。重すぎる槍の一撃を受け損なって。

 

 

 

武術大会を見物した客が故郷へ帰る頃、畑への種蒔きが始まる。

農業の季節が始まるのだ。猛獣も出始め、地元の衛兵や傭兵達が活動を始める。農具も武具も、この春先から需要が伸びる。

 

そしてジョンやハートーン男爵を始めとする内域の鍛冶職人達は、半年後の戦争へ向けて本格的に始動する。

 

 




高級騎士:

神族が製作した特殊な星王器、いわゆる高級器の保有者の中で、騎士である者。
高級器自体が稀少であり、最も多く保有しているハレリアでも、合計32個しか保有していない。
そのため、忠誠心、能力、経験など、総合的に判断し、所有に適していると判断された者にのみ与えられている。

ハレリアの高級騎士は18名。
他国は高級騎士の数が2桁に届かないことが多い中、これは驚異的な数と言える。

単唱器の場合、低級星王器は一撃で人を無力化することは難しい。
高級単唱器は、広範囲の敵を即死させる威力がある。
戦力的には、殺傷力を持った改造モデルガンとマシンガンくらいの違いがある。

高級騎士が他の騎士と一線を画すのは、そもそも低級単唱器に限定してさえ他の騎士よりも強いからである。
高級器の威力に頼って油断がちであったり武技が未熟だなどということは、どこの国でも基本的にありえない。
なぜならば、高級器を製作するには、現状少なくない代償を支払い、神族に作ってもらうしかないからである。
未熟者に高級器を与えるというのは、原則として国益を損なう行為なのだ。

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