ジョンの伝記   作:ひろっさん

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3章 ハレリア大戦
新型弩砲


武術大会が終わった翌日、赤毛ショタジジイは早速弩砲の改造に取りかかった。

 

「まっかいぞう~まっかいぞう~、たんのしっいたんのしっい、まっかいぞう~、とくらぁ」

 

調子の外れた歌を口ずさみながら、案を取りまとめていく。約半年後の戦争に間に合わせるために、一刻も早く設計図を完成させる必要があった。

 

弩砲の構造には幾つか種類がある。

 

まず1つ目はクロスボウを設置型にしたような小型のもの。

木材の弾力を利用する性質上、弦を張ったままにしておくと弓が傷んでしまうのは道理だ。そのため、使う時以外は弦を外して保存するのが一般的である。

『弓を外す』という、武装解除を意味する(ことわざ)が日本に存在するが、これは弓から弦を外すということに由来し、やはり弦を張ったまま保管することは、弓にとってあまりよくないとも言っているのだろうと推測される。

『弓を外す』を、30半ばまで『的を外す』という意味と勘違いして覚えていたのは、前世のジョンだけでいいはずだ。

 

ちなみに、このタイプのものは軽いという利点があるが、その存在意義を星王術、単唱器に食われてしまっており、稀に山賊が作成し、使用する程度だという。

 

射程距離はハレリアの単位で120馬身、メートル換算で240メートル前後。

なぜ射程距離が決まっているかというと、大抵は戦車に搭載し、水平射撃を行うからだ。仰角を付けることがほとんどないため、射程距離も一定なのである。まさしく大きめのクロスボウだ。

 

2つ目は、複数の弓を使って弦の張りを強化したタイプ。

地球でも中国で古くから『床子弩(しょうしど)』という名前で使用されていたようだ。時代を経るごとにどんどん大型化し、最終的には操作のために100人もの人員が必要になったという、嘘か真かわからないような話もある。そういうわけで、文献に載っている200~300メートルという射程距離も、おそらくただの目安に過ぎないと考えられる。

 

なお、発射体、つまり矢や弾については、また別に考える必要がある。なぜならば、その形状や質量によって、射程距離が大きく異なるためだ。これを実証した有名な実験として、ガリレオ・ガリレイがピサの斜塔の最上階から、大小2つの鉄球を落下させたことがある。

実験の結果は2つ同時の落着だった。

これは空気の抵抗が当時は考慮されていなかったためである。紙を伸ばした状態とクシャクシャに丸めた状態で同時に落とすと、落下速度が大きく変化するのは、この空気の抵抗が大きく影響しているからだ。

高速で発射される弩砲の弾も、空気の抵抗を考慮しなければならないのは同じである。

 

3つ目、中世、いや古代カルタゴにて最初に使用されたのが、いわゆるバリスタの原型。

これは、ねじり力というものを利用したタイプで、そもそもが木材のしなりを利用した弓ではない。

どういうことかというと、人毛や獣毛を太く束ねて強くねじり、その反発力を利用して腕を外側に開かせ、その腕の間に弦を張り、弓の代わりとして矢を飛ばすのだ。人毛や獣毛を束ねてねじり、その反発力を利用するというのは、中世西洋の投石機(カタパルト)でも同じ原理が採用されており、この頃には割と広く知られていたようである。

 

射程距離もこちらの方が長かったようで、ハレリアでは保守整備の容易さやその射程距離などから、砦や城塞の防御用に採用されている。

以前、ジョンは弓がどうとか言っていたが、ねじり力を伝える左右の腕に弦を張ると、パッと見で弓に見えるため、そう表現したに過ぎない。ジョン自身、少しは勘違いしていた部分が無きにしもあらずだが……。

とにかく、ハレリアで主流の弩砲が、このねじり反発を利用したタイプということだ。

 

ねじり反発式の利点は、何と言っても保守整備の容易さにある。

人間や動物の毛はいくらでも生えてくるものなので、特に入手に難はない。なんなら、自分達で半年か1年ほど伸ばしてもいいのだ。毛根が死滅していない限り、必要な髪は生えてくる。

 

次に、弦の張力の限界が弓のしなり、木材の限界ではなく、ねじり部分の限界に設定できる点だろう。つまり、ねじり反発の力に耐えられるほど頑丈ならば、いくらでも射程距離を伸ばせるのである。後でねじりを強くすればいいのだから。欠点は、射程距離や威力を重視すると、どうやっても大きくて重くなってしまうことだ。

しかし、ハレリアではそもそも機動射撃で星王術にお株が奪われており、拠点や陣地の防衛用にしか用途がない。しかも大抵の場合は風雨を凌ぐ小屋が建設されており、そもそも動かす必要のない使い方がされていた。

 

地球でも本来、城攻めのための兵器なのだが、敵が兵器を持ち出してきた場合に狙い撃ちするためには、やはり弩砲が有効だったそうだ。

現代の戦車のように、車輪の付いた(やぐら)の中腹に載せて移動させる兵器が存在したという話もある。ちなみにそれは、城側からの弩砲(バリスタ)の攻撃によって破壊されたという。

 

「なんですか、この……ねじり式のようなそうでないような何かは……」

 

設計図を見に来た白ローブの少女は思わず呟いた。

 

「おお、それな」

 

休憩のために工房から設計室に戻ってきた赤毛偽ショタは、自然な動きでウサギ耳を付けようとして鳩尾に拳をもらい、倒れ伏す。

 

「最近、殺気が減ってきましたね」

「ぬぅ……理想は気付かれずに服まで着替えさせることなんだが……」

「それ、押し倒した方が早くありませんか?」

「殺気を消すのに欲を消さなきゃいけねえ。押し倒しなんかしたら、欲が出ちまうだろ?」

 

残念なところで腕を磨く男である。

 

「――で、この魔改造型弩砲の話ですが……」

 

白ローブの少女は返答に窮し、とりあえず強引に話を切ることにした。

 

「み、ミラりんが押されてる……」

「余計なお世話です」

 

一緒にアリシエルも来ていたらしい。

 

「お、出来たか?」

「できたか、じゃないわよ」

 

金髪黒ローブの少女は口を尖らせる。

 

「加工が簡単な亜鉛でも、こういう細かい造形って難しいんだからね?」

「だから、多少時間かかってもいいって言っただろ?」

「その多少がタイト過ぎなのよ!」

 

当たり前のように時計のある生活をしている現代人の感覚でスケジュール進行すると、中世の人間にはかなり厳しく感じるのは当然である。

 

「何を作らせているのです?」

「これよ」

 

アリシエルが机の上に置いたのは、金属製の矢である。(やじり)に当たる部分が膨らんでおり、矢羽根まで金属製だ。矢羽根の形状は普通の矢のものではなく、ミサイルのそれに近い。いわゆる、水滴形というやつだ。

 

「矢……ですか?」

「飛距離を伸ばそうとして、矢に手を加えた結果だな。コイツを元に鋳型を作って、半年後の開戦までに量産する」

「とりあえずこれはこれでオッケー?」

「ああ、問題ねえ」

「じゃあ、次は問題のアレね……」

「アレ?」

 

苦虫を噛み潰したようなアリシエルの表情は無視して、白ローブの巨乳少女はジョンに尋ねた。

 

「俺がいた世界にも弩砲やクロスボウってのは存在したんだが、戦力強化のアプローチとして、『連弩(れんど)』ってのが研究されたことがあるんだ」

「研究された、ということは、成果が出なかったのですか?」

「成果が出るほど需要がなかったってのが正解だろうな。そんなにいっつもいっつも戦乱ばっかりだったってわけじゃねえんだ。

それに、成果が出る前にもっとヤバイのに取って代わられたってのもある」

 

連弩で最も有名なのは、三国志時代、(しょく)の軍師として名高い諸葛亮孔明が発明したと多くの人々が思っているものだろう。連弩の起源は紀元前4世紀頃とされ、三国志時代の2~3世紀頃に生まれた諸葛亮は、既にあった連弩の技術を発展させたとされている。

現在諸葛弩と呼ばれるものは、それを後世の人間がさらに再現したものである。この再現された連弩はレバーを引くことで片手での弾の装填が可能だったが、結局それほどの威力は出なかったようだ。ただ、機械式の兵器としては最も寿命が長く、最近では日清戦争でも使用されていたという話がある。

その他にも、1人で2つのクロスボウを操作できるようにしてみたり、1つのクロスボウで複数の矢を同時に発射できるようにしてみたりなど、様々なアプローチが繰り返されてきた。

しかし、そのいずれも単なる面白兵器以上のものではなく、すぐに戦場から姿を消したそうだ。

 

ちなみに、ジョンが言う『ヤバイの』とは、銃火器のことである。それがどれほどの威力を持っているのかは、改めて語るまでもないだろう。

 

なお、ジョンが地球の歴史について戦乱ばかりではなかったと語っているが、それはほぼ日本だけの話である。西洋では中世は戦乱だらけで、中には百年にもわたって続いた戦争もある。中国でも、移民族の流入や反乱が絶えず起こっており、何度も漢民族の帝国は興亡を繰り返してきた。

他の地域も、大体強力な指導者が出て、その地域が統一されては分裂して滅亡、というのが繰り返されている。

 

各幕府や一族の政権が興った後に百年単位で情勢が安定したのは、実は世界的に見ても日本やタイなど、ある程度隔絶した地域に限られた。

 

 

 

「それで、問題のアレとやらですが……」

「連弩ってものに、異世界(あっち)で俺が生まれた時代の知識からアプローチした、一つの答えだ」

 

ジョンは紙に絵を描いた。それは筒に矢羽根を付けたものと、その中に入る、先端が膨らんだ矢だった。

 

「コイツに鉄の投げ矢(ダーツ)を詰め込む。器の方は軽銀(アルミ)。発射すりゃぁ空気抵抗の関係から投げ矢(ダーツ)が飛び出て、バラけて飛ぶ。1本の矢による点の攻撃じゃなく、複数の矢による面の攻撃だ」

 

着想は、多弾頭ミサイルである。いわゆる、クラスター爆弾というやつだ。

敵国上空にて無数の子弾を切り離し、地上に降り注ぐ。

現在は使用を禁止されているが、迎撃が困難で広範囲を効率よく爆撃できる兵器として期待されていた。ただその分、誤爆率や不発弾率も高まるようだが。

ショットガンは発射時点で分離が始まるため、厳密には異なる点に注意。

 

「本体の方がどうやったって量産できるもんじゃねえし、かなりの割合で金属を使ってるから、クソ重くなる。その分、1基、1発での効率を上げたってことだ」

「うわお……ジョン君に反乱を起こされれば、ハレリア軍でも正攻法では勝てませんね」

「マジで?」

 

目を丸くするのはアリシエル。

 

「そりゃ、もっとヤバイもん作るからな」

「あ」

 

赤毛チビ鍛冶はさらりと言ってのけた。

さすがに銃火器ならば、マグニスノアで主流である星王術も危ない。さらに、ジョンには工場制手工業のノウハウがあるのだ。時間が経てば経つほど、様々な面で有利になっていく。

 

「ま、俺にゃ情報戦なんて無理だから、そっちで負けるだろ」

 

彼は言ってから白ローブの巨乳に視線を投げかける。

 

「それでも、『悪魔からの手紙』の効果に疑問が出る程度には、手強いと思っていますよ」

 

フードの奥から、少女はジョンに微笑みの視線を返した。

 

 

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