ジョンの伝記   作:ひろっさん

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戦後

ジョン達を匿っている大神殿の一角。

 

「その……色々と取り乱してしまいまして、すみません」

 

白ローブの少女は3人に頭を下げた。

 

「こちらこそ、無神経なことを言った。すまん」

 

黒髪少女も、頭を下げる。さすがに獣耳は外している。

白ローブの少女は数日間、3人のいた一角から離れていた。その間に何があったのか、聞くのは野暮というものだろう。

 

ちなみにその間ジョン達は、様子を見にきた神官が持ち込んだ変則チェスに頭を悩ませていた。マディカン公爵家が、頭の体操にと広めたゲームである。例の、射撃ルールがあるやつだ。

エヴェリアはそれなりに対応して見せていて、ジョンはかなり勝率が低かったが、時折彼女の見落としを突いて逆転勝利することがあり、それなりに楽しんでいた。

どちらが強いということはない、どちらも未熟なために勝率が極端に偏っていないだけである。

 

「女の子が泣きたい時に泣けねえなんて、この国はどうなってんだ?」

「他の国も大差ないぞ。心の弱さが表に出る人間は、人の上に立つ資格なしとされるのが一般的だ」

「そんなもんかねえ……」

「あの……」

 

白ローブの巨乳少女が口を挟む。

 

「何か勘違いされているようなのですが……」

「なにが?」「違うのか?」

 

彼女は苦笑しつつ説明を始める。

 

「まず、あの時は悲しみを隠す必要がある場面ではありませんでした。そういう時にまで涙を流すことが許されないほど、ハレリアは間違った狂い方をしてはいません」

「狂っているのは認めるんだな」

「後でお話ししますが、ハレリアほど狂った国はありませんよ。

――それで話を戻しますが、私は珍しく、ハーリアとハレリオスの資質を両方備えているのです」

「ハレリオスって、王家の?」

 

ジョンの疑問に白ローブの少女は頷いた。1千年続くハレリアの国王の名である。武術大会では散々聞かされた名前でもあった。

 

「はい。ハレリア王族三派六家には、それぞれ司る資質がありまして、ハーリアは『知恵』、ハレリオスは『直感』となっています。ハレリオスの『直感』は、超常的な知覚とお考えください。まあ、簡単に言ってしまいますと、私には『双子の共感』を持った人がいるのですよ。

その子の強い感情が、私に届いてしまうことがありまして……」

 

時折、感覚を共有する双子が生まれることがあるという。遠くに離れても、片方に異変があれば、その異変にもう片方が影響されてしまう。

 

『コルシカ兄弟』という有名な話では、兄弟の片方が死ぬと、同時に遠く離れたもう片方が変死してしまったという。

原因は不明。ただ、小説の話なので創作である可能性が高いとも言われる。それをネタにした創作物は数多くあるが、結局のところ実在したという話はない。

おそらく、古来より多く報告されていた、肉親の危機を感じ取る『虫の知らせ』という現象が様々に解釈されてきた結果、創作物として誕生したのが『コルシカの兄弟』なのではないだろうか。

 

魔法があるマグニスノアならば、そういうこともあるかもしれないとジョンは考えた。

 

「片方が死ぬともう片方も死ぬってやつか?」

「いえ、あくまで感情を受信するだけですから、死にはしませんよ。いつもいつも、なだめるのに苦労させられるのですけれども」

「もう片方をなだめるのに、数日の時間を取られていたということか」

「ええまあ。今回は事情が事情ですからね……」

 

白ローブの少女は溜息を吐く。苦労しているらしい。

エヴェリアの推測は外れていたということか。

 

「それで、戦争はどうなったんだ?」

「はい、今から説明させていただきます」

 

促され、彼女は話を始めた。

 

 

 

「敵の神族(かみぞく)が、予定通りに捕えられたようです。ただ、ハレリア王族部隊の攻撃でかなり消耗していたようで、神族同士の戦闘とはなりませんでした。そして私達が予想していた通り、敵の神族(かみぞく)は200歳以下の『成り立て』でした。

ただ、宗教などで洗脳したのではなく、洗脳術で洗脳されていたというお話なのです」

「術で神族を洗脳?」

 

エヴェリアが聞き返す。

 

「普通でしたら不可能ですが、『神化(しんか)の儀《ぎ》』を行う前、人間の時から術で洗脳していれば、そういう神族(かみぞく)を作ることも不可能ではないとか」

「作る……?」

 

ジョンは眉をひそめる。なにやら不穏な話だ。

 

神族(かみぞく)の強さの一端は、自己改造にあります。

肉体を魔法に最適化させ、自身を1つの星王器にしてしまうわけなのです。自分自身を好きなように改造できますから、汎用性も強弱も自由自在。そうなった神族(かみぞく)を洗脳するのは、同じ神族(かみぞく)でも困難を極めるそうです」

「つまり、自己改造をさせなければ、洗脳は可能ということか」

「はい、そういうことです。本来『神化の儀』は、自分の意思で行わなければ『200歳の壁』を越えられないと言われていますから、ベルベーズではそういうやり方はしないのですよ。自己改造を一定に留めれば、当然強さも精神性も半端に留まります。私達は『成り立て』と呼びますが。

神族(かみぞく)を兵に仕立て上げようという意思が、ありありと伝わってきますね」

 

死を恐れない兵、従順で不死身の兵士。異世界でも、考えることは皆同じ、ということか。

 

神族(かみぞく)としては半端でも、兵としてはこれ以上はない。なかなか面倒な相手だな……」

「ところが、今度は神族(かみぞく)であるという点がネックとなり、神族(かみぞく)協定に引っ掛かってしまいます。『警告』が行われれば、これまでのように大っぴらに神族(かみぞく)の兵を投入することはできないでしょう」

 

あちらを立てれば、こちらが立たず、である。マグニスノアも、割と上手く出来ているのだ。

 

「それで、ハレリア軍はどうなった?」

「……」

 

エヴェリアの質問に、白ローブの少女は少し沈黙した。だが、すぐに口を開く。

 

「死者4896名です。騎士団を含めた主力2万の死者は3名、ほぼそのまま残りました」

「王族部隊とやらか。5千人の部隊とすればほぼ消滅だな……」

「はい。予定通りだったとはいえ、神族(かみぞく)を抑えるのに大半が死亡、動きを封じてからの戦略儀式でほぼ消滅となりました」

「戦略儀式?」

 

ジョンは尋ねる。それが、あまりにも不穏に聞こえたからだ。

 

「魔導術という、大規模な儀式に特化した魔法がある。普通は城攻めに使うものだが、結局限界射程を越えられないから、使いどころが難しいそうだ。

魔導術という意味ならば、武術大会や武具大会で使用されていた『箱庭領域(アークガーデン)』もそうだな」

「ええ。また、魔導術は多量の精霊力を消費します。威力の調整を誤れば、術者が死亡する危険な種類の魔法です。そのリスクとコストから、民間ではまず使用されません。

箱庭領域(アークガーデン)』はその辺を調整していまして、武術大会も武具大会も1対1としています。当然ですが、魔導術は使用が規制されている国がほとんどです」

「だが、そのくらいのものを使わなければ、神族(かみぞく)に打撃を与えることはできんだろう。それにしても、やりきれんな……」

 

エヴェリアが表情を曇らせる。

 

「なあ、本当に5千人も死ぬ必要あったのか?」

「はい。今回に限っては、ですが」

 

と、眉をひそめるジョンの疑問に巨乳少女は説明を始めた。

 

「ハレリア王国と神族(かみぞく)との間の契約にはこうあるのです。

『最初の一度目に限り、ハレリアを攻める神族の相手はハレリア軍が行うこと』と。

その最初の一度目が、たまたま今回の戦争だったというわけなのですよ」

「それは、今回たまたま『成り立て』が相手でなければ、ハレリア軍が全滅してもおかしくなかったんじゃないのか?」

 

これはエヴェリア。

 

「その契約に限ってはその通りどころか、結局ルクソリスに攻め込まれるまで、味方の神族(かみぞく)が動かないなんてこともあり得ますよ。ですから、契約してから7百年の間に、神族(かみぞく)を直接相手にするのは1日の間だけという条項を新たに設けました。最悪、ハレリア軍が全滅したとしましても、ハレリア国内が再起不能なほどに荒らされるのは防げるようにしたのです。

……それでも、名前を使って敵の神族(かみぞく)を牽制する以上のことはできないでしょうね。まあ、ハレリアに限ってはそれで十分なのですけれども」

「十分というのは?」

 

またも黒髪少女が尋ねる。

 

神族(かみぞく)協定の中心地が、この王都ルクソリスだからですよ。一国の首都、一宗教の総本山。それ以上の意味がこのルクソリスにはあるのです。ルクソリスを攻めてはならないという、神族(かみぞく)同士の不文律があると思っておいてください。

そして、そのルクソリスの維持管理を任されているのが、始祖ケルススの末裔であるハレリア人、ハレリア王族なのです。価値観として、どちらかといえば神族(かみぞく)の従僕です。だからこそ、今回のように死ぬと分かっていても、平気な顔で神族(かみぞく)に挑むということができるのですよ」

「まさしく、狂った一族か……」

 

黒髪ロリは眉をひそめた。

 

「……ちょっと待ってくれ」

 

ここで赤毛ショタジジイが2人の少女の話を止めて、口を挟む。

ある可能性が頭をよぎったのだ。

 

「俺の思い過ごしかもしれねえんだけどよ、王族部隊ってのは何人までハレリア王族なんだ?」

「……普通に考えれば、国王の名の下に集まった義勇兵だろう。戦争に参加するような王族は、多くて10人かそこらのはずだ」

 

エヴェリアが話したのは、一般的な見識である。しかし、ハレリアはお世辞にも一般的とは言えない国だ。

 

「エヴェリアさんの一般常識も含めていい質問ですね。お答えします」

 

巨乳少女はそう前置きしてから、言った。

 

「王族部隊の4946人はすべて王族、1人残らず王位継承権の持ち主です」

「は?」

 

エヴェリアが両目を見開き、ポカンと口を半開きにして間抜けな声を上げた。

ジョンも同じ気持ちだ。

神族(かみぞく)の従僕が、ハレリア人であり、ハレリア王族である。

彼ら彼女らがこの巨大都市ルクソリスの維持管理を任されているとすれば、最低でも数千人はいなければおかしい。

管理者というのは、基本的に住民を除いた職員を言うからだ。

 

「ハレリア王族は、血筋の者と外からの受け入れが認められた者がいまして、政府が把握しているだけで、現在約2万4千人存在しています。戦争前は3万人近くですね。

始祖ケルススの末裔、建国王シドルファス・ハレリオスと、神の眷族リリアーナが31人の子供を作りました。その31人がハレリア人の始まりなのです。そこからマナム族やアルトン族など8部族を呑み込み、現在のハレリア民族を形成しています。ハレリア人の血が少しでも混じっていればハレリア国王になれますから、血筋や資格というくくりで言えば、ハレリア人は全員がハレリア王族の資格の持ち主なのですよ」

「……」

 

黒髪少女は絶句している。さすがに予想外だったらしい。

通常、王位継承権を持っているのは1つの国で50程度、王位継承権を持たない末端レベルで200程度と考えられる。多くても500人は行かない。

現代で最も多いイギリス王家においても、王位継承権の持ち主は5000人に上るとされる。

 

しかし白ローブの少女の言葉をそのまま受け取るのならば、ハレリア王国の王位継承権の持ち主は、ハレリア人すべて、国外へ移住した者も含めると10億人は下らないことになるのだ。

まさしく、桁違いである。

 

「血筋に寛容とかってあんま深く考えてなかったけど、そもそも民族全部王族だったでござるの巻」

「ふふふ、一応、その中で政府が認定する条件に合致している、現在約2万4千人を、通称(・・)ハレリア王族と呼び慣わしていますね」

 

ハレリアという国は、想像していたよりももっととんでもない国だったらしい。

 

「まあ、そんなに王族がいるのには大きな理由がありまして、1つは全世界に遺伝子を広める必要があるからなのです。そのため、毎年500人以上が平民となり、世界各地へ旅に出ています。毎年、それだけの子供が生まれているということなのですよ」

「500人以上の既婚女性が毎年子供を産んでいるとでも言うのか?」

 

真面目な黒髪少女は怪訝な顔をした。ほんのり顔が赤いのは、話題が話題だけに照れているのだろうか。

 

「ハレリア王族に結婚という制度はありません。半分の女性の、さらに3分の1、3千人は娼婦なのです。そういう方々がハレリア各地でどんどん子供を作ります。

生まれてすぐに王宮に預けられ、5歳くらいまでは後宮で基礎教育を受け、それから資質試験を行い、六家へ送られます。それはまあ、中には本当に公爵や国王など要人の子もいますが、はっきり言いまして血縁で区別されることはありませんね。

血縁が分かっていましても、資質の関係で別の家へ送られることも少なくありませんし」

「それは血筋に寛容というよりも……」

 

話が進むにつれ、顔色をコロコロ変えるエヴェリアは、今度は青ざめている。

白ローブの巨乳少女は頷いた。

 

「ええ、国王の資質の認定者ですら、100人単位でいるのですよ。

今回の戦争で王族六家は当主がすべて死亡しましたが、ハレリア王国としては痛くも痒くもありません。だからこそ、彼らは平気で命を捨てに行くことができるのです」

「異常な国、か……」

 

呟く赤毛少年にとって救いなのは、白ローブの少女がそれをあまり快く思っていないということだった。少なくとも、彼はそう感じていた。

 

「君はどうなんだ?」

「私ですか?」

「ずっと、鉄壁のフードで顔隠してたろ?それって、顔を見せるのがまずいってことなんじゃね?」

 

指摘された少女はフードの奥で渋い顔をする。

 

「……まあ、タイミング的には問題無いですかね」

 

彼女は鉄壁だったローブのフードを脱いだ。

緩くウェーブのかかった、輝くような金色の長髪。端正で清楚に整った彫りの深い顔立ちは、どこかで見たことがあった。

彼女は少し恥ずかしそうにしながら名乗る。

 

「私は、ミラーディア・ニジ・ゲヴュン・ハーリアと申します。ハーリア公爵家第3位。

現ハレリオス王家第2位、つまり次期国王候補であるハルディネリア・リウス・オルタニア・ハレリオスの、実の従妹に当たるのです。

まあその……顔がそっくりなのですね」

 

言われて思い出したのが、半年前の武術大会本戦開会式である。

王女ハルディネリア。大勢の観客を一瞬、静寂させたほどの美貌の持ち主。

見ればその端正な顔立ちは、やや痩せているとはいえ、従姉と呼ぶに相応しい美貌だった。

顔を出して歩けば、目立つなんてものではない。要らぬトラブルを必要以上に誘発してしまうだろう。

だから、いつも顔を隠しているのだ。

 

「つーか、次期国王の従妹って、割とマジでお姫様じゃねえか!」

「ちなみに、父は前国王トワセルの双子の弟で、母親も双子同士です」

「普通の国なら間違いなく、王位継承権が発生する血筋だ……」

「えー!俺割と遠慮なくセクハラしてたよ!ぱんつ覗いたり猫耳付けたり!」

「責任とって結婚していただきましょうか?それとも処刑台に送りましょうか?」

 

慌てるジョンに、ミラーディアは愉快そうに笑った。

落ち着くために赤毛少年は美少女である彼女に白い猫耳を装着。

 

「……うむ!」

「ふんぬ」

「ごふぅ」

 

グーで殴られた。

 

「いかん、余計興奮してきびゅる」

 

床に倒れてからついでとばかりにローブの裾に頭を突っ込むと、割と本気で踏まれる。

 

「やはり変態でしたか……」

「変態は元々だろう」

 

少女達は2人して呆れた。

 

 




ハレリア王族の顔の造形:

三派六家の三派によって異なる。
英雄を取り込んできたとはいえ、英雄にも種類がある。
そのため遺伝的に政治に向いた者と、研究に向いた者、武術に向いた者など、様々な資質が発現する。

同じように、様々な英雄の血を取り込んだハレリア王族は、顔の造形もある程度似た者が出てくることがある。
ミラーディアに似た顔の女性はそれなりに多い。
とはいえ、見分けがつかないほどということは滅多にない。

つまり、国王に似た顔の者は結構いる。
それが見分けがつかないほどの場合、間違われないようにヒゲの有無、服の色や種類などで変化を付け、見分けやすいようにするのが通例である。

ミラーディアとハルディネリアの場合、ミラーディアは通常業務として白いローブを着用しており、見分けやすいように身体をやや細身に絞っている。
フードを被っているのもその一環。
つまり、ハルディネリアが白ローブ姿でジョンの前に現れたのがイレギュラーなのである。
ちなみにハルディネリアの標準スタイルは白いドレス。



ハレリア王族三派六家の紋章:
単純な造形が多く、それぞれに天文現象の意味がある。
国家としての形が整ってきた900年前に制定され、そのまま使われ続けている。

ハレリオス:王家
赤い月と重なる黄色い太陽。
日食の様子を意匠化したもので、よく赤い太陽と黄色い三日月に間違われる。
太陽の光がハレリア王国のシンボルであるため、太陽と月で2倍太陽の光を象徴するということで日食となった。
ハレリア王国の国旗でもある。

ハーリア:宰相家
黄色い太陽。
ハレリオスの紋章における勘違いのせいで、こちらも黄色い満月と間違われることが多い。

ファラデー:王宮術士長
紫色の月。
満月と勘違いされることが多いが、新月である。
紫は闇を意味するため。

マクミラン:王宮神官長
黄色の中抜き円。
金冠日食を意味する。

マディカン:元帥家
赤い円。
満月を意味する。

デンゲル:騎士団総長
赤い中抜き円。
皆既月食を意味する。

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