会談は続く。
「それでは今後のことについてお話があります」
赤毛ショタエロジジイを椅子に縛り付けて、ミラーディアは話す。もちろん、セクハラ対策だ。
「そういや、
「はい。準備が必要ですから、1年後のことになるかと思います。その間、異世界転生者だと分かるような、超技術の産物を作ってください」
「例の新型弩砲は異世界の技術で作ってあるぞ」
「もっと分かりやすいものをお願いします」
「なるほど、了解」
ジョンは頷いた。依頼と考えればいい。
遠慮なく異世界の技術を盛り込めるということでもあった。
「それと、さらにその後のことなのですが、ジョン君にはどこか他の国に移っていただくことになるかと思います」
「ハレリアは転生者を手放すというのか?」
エヴェリアが怪訝な顔をした。
転生者の確保はその国にとって、大きな権益となりうる。それを自ら手放すというのだ。首も傾げたくなる。
「1つは、ハレリアが
ミラーディアの説明にエヴェリアは唸る。
「正直、『成り立て』とはいえ
エヴェリアは、背後に控えるカッセルにちらりと視線を向けた。そこにいるのは相変わらず、腕を組んだまま直立不動で黙っている黒髪少年。
「ベルセルク兵は、数を揃えるのが難しいという問題があるようですね」
「なんだ、知っていたのか」
「詳しくは知りませんよ。ただ、数さえ揃えば、イリキシア軍単独でブロンバルドを攻め落とせた可能性があるという噂を、お聞きしたことがあるのです」
「……まあ、そういうことにしておくか」
拘泥しても仕方がない、と黒髪ロリは内心で呟いていたが。
今しているのはマグニスノアの歴史を塗り替えるかもしれない、もっと重要な話だ。
「要するに、このままではベルベーズがハレリア一強になるということか」
「はい。そうなりますと、特にベルベインがいい顔をしないのですよ」
「ベルベイン皇国か。大陸南部に教えが広がっているフェアン教の総本山で、マリーヤードと長年領土を争ってきた国だな。
エヴェリアが説明したのは、少し遠い国の知識に乏しいジョンに聞かせるという意味が大きい。ミラーディアが嘘を教えないようにという牽制でもあった。
もちろん、ミラーディア自身もその意味でエヴェリアを同席させているのだ。
「マリーヤード人って、デフォで超強いんだろ?」
「身体能力が高いというのはその通りだ」
「ええ、身体能力は訓練されたハレリア王族と同等かそれ以上と言われています」
「それは知らんが……1500年前のベルベーズ大帝国時代、皇帝クリストファ・バシファネルドの南進を妨げたのが、マリーヤード人だと言われている。当時の南部はまだ未開地で、戦術も発達していなかったのに、それでも苦戦を強いられたようだ」
「騎士の選定は、どこともマリーヤード一般兵が基準ですしね」
それほどに、周辺諸国にとってマリーヤード人は脅威なのである。
ちなみに、ベルベーズ大帝国というのは、ベルベーズ大陸の北部を統一し、しばらく後に崩壊した巨大国家である。地球で言えばモンゴル帝国のようなものと考えればいいだろう。
「そんなマリーヤード人に喧嘩売ってんのが、その、ベルベインって国なのか?」
「神通術というのが、それだけ厄介なのです」
ミラーディアの後に、エヴェリアがジョンの疑問に答える。
「神通術には、『結界陣』というものがある。分かりやすく言えば、敵の魔法だけを阻害する術だ。しかも、限界効果時間がかなり長い。神通術は星王術と違って、発動までに少々時間がかかるが、それを差し引いても
ベルベインがマリーヤードと食い合いをしていなければ、大陸南部の勢力図は大きく変わっていたはずだ」
「大体彼女の言う通りです」
巨乳少女は頷いた。
「はっきり言いまして、ベルベインとマリーヤードが手を組むと、非常に厄介なことになります。
今までは聖教国のスパイの影を警戒して、ルクソリス内域にジョン君を匿っている必要がありましたが、もうその必要もなくなりますしね」
「そうだな、最終的にどこに居を構えるかは、国際会議で決めればいい。
――ルクソリスなら問題無いと思うがな」
エヴェリアは視線を向けると、白ローブの金髪少女は首を横に振る。
「いえ、ハレリアで彼を抱えるのは辞退しますよ。少なくとも、私は次代の宰相にそう進言します」
「なぜだ?スパイ防壁的な意味でも、ルクソリス貴族区ほど整っている場所はそうはないはずだ」
「ハレリアという国の法律に問題があるのですよ。または、ハレリアという国そのものの性質に問題があると言いますか……」
ミラーディアは渋い顔で小柄な黒髪少女の疑問について説明する。
「ハレリア王族が多産なのは、すでにお話した通りです」
毎年500人以上が生まれており、希望者は王族位を返上して平民になる。つまり現在進行形で、ハレリア人は王族を中心にどんどん増えていた。
「元々は千年前の建国王シドルファスとその妻リリアーナから始まりまして、ハレリア人はたった2人から現在の4千万人に増えています。同時期に星王教が作られた関係上、ハレリア民族の価値観の規範となる星王教には、性モラルに関する記述がありません。
異民族であろうとも、特に英雄ならば王族に祀り上げられることもあります。今回の大戦で戦死された『雷神』、グレゴワール・デンゲル総長も、マリーヤード騎士を追放された生粋のマリーヤード人ながら、武力を認められてデンゲル家当主となりました。
まあ、問題が出ればどこかで制限はかけるのでしょうね。今はまだその気配はありませんけれど」
「それに、どんな関係がある?」
初心なエヴェリアは、嫌そうな顔で聞き返す。
「貴族や王族の稀少価値は、制限された数にあるということなのですよ。普通の国に比べ、千倍近い王族がいるハレリアでは、王族であるという
その中の1人が国王になるわけですが、先程も言いましたが国王になれる資質の持ち主でさえ、100人単位で認定されています。また王族六家という
それを端的に表すのが、ハレリア王国の法律です」
ミラーディアはいったん言葉を切って、ジョンとエヴェリアの様子を窺いつつ、先を続けた。
「ハレリア王国の法律には、平民を守る条項が存在します。
平民が裁判の後に死刑になることはありません。不届き者に対処する危険な任務に就く兵を守るために、『賊認定』という事後承認制度はありますけれども、認定されると討伐時に生きていれば労役か投獄とされ、反省した後は平民に戻り釈放されます」
洗脳術、読心術があるからこその刑罰の緩さである。
「相手が攻撃してくれば反撃していい、だったか」
「原則その通りです。どちらが先に手を出したのか、厳密なところまで調べますから、何らかの方法で相手の攻撃を誘発しておいてなどというやり方は通じませんけれども」
要するに、自分で火を付けて自分で消すことで評価を受けるという、マッチポンプは通用しないということである。
裁判で術士尋問が行われ、つまり読心術で記憶を調べられ、罰せられることになる。心を読む魔法が存在するために、嘘が通じにくいというのはマグニスノアの特徴かもしれない。
「貴族は、一応は爵位を持っている間に限りましては、ハレリア政府によって身分が保証されます。ただ、大きな権限が発生する以上は責任が重く、裁判の後に死刑というのがあり得る身分でもあります」
「まあ、ハレリアの刑法は全体的に甘いんだがな。
わざと人を死なせたりしなければ、例え公金を横領しても一定期間の権限の制限や平民降格で済む。復帰の目は残るわけだ」
高い身分には重い責任。この辺はハレリアという国の特徴かもしれない。
貴族に重い刑罰を科すことで、平民の死を忌避している。徹底して人口を拡大し、民族の血を世界に広めようとしているのだ。
「問題は王族です。はっきり言いますが、ハレリアの法律には、王族を守る条項が存在しません。
裁判沙汰となれば、軽くて平民降格か死刑、重ければ極刑――奴隷降格となります。攻撃されても、反撃――この場合は殺すことに限定されますが、王族に限ってそれはダメです。敵国の兵以外を殺すことは、何があろうとも許されません。
ハレリア王族は、自分の命よりも平民の命を優先することを、義務付けられているのです」
「……」
ミラーディアの話を聞いて、エヴェリアは目を見開いて沈黙した。
今までの経験から思い出してそれが事実であると理解し、絶句しているのだ。
「ハレリアにおいて、王族の命は平民や貴族のそれよりも遥かに軽いのです。
だからこそ、先の大戦では王族部隊は5000名近くが戦死しました。平民の兵士は戦死者が3名です。
平民ができるだけ死なないように、代わりに王族が死ぬように、仕向けられました。
先の大戦における結末として、平民の死者を3人に抑えたことは、ハレリア王族としては最上に近い結果と評価されています」
「……」「……」
狂った国。狂った一族。
いつ死ぬか分からない、『平民のために死ね』と命じられることもある。
生まれながらにそんな宿命を背負わされ、慣れさせられてきた。
「ハレリア王族は何でも受け入れます。
敵国の国王でも、山賊でも、傭兵でも、孤児でも、貧民でも。
それが英雄であるなら、積極的に取り込もうとさえします。
もしもジョン君がハレリア王族になったのでしたら、おそらく内域から出ることができなくなるでしょう。
暗殺も誘拐も、ハレリア王族は自分で退けなければならないからです」
「馬鹿な。護衛を付ければいいだけの話ではないのか?」
「その護衛が平民だった場合、護衛が死ぬと間接的に係わったことになります。
平民を保護する条項があって王族を保護する条項がないというのは、そういうことなのです」
「なっ……!」
エヴェリアの理解不能な領域である。
「王族が王族を護衛するってのは?」
「ジョン君の場合、技術を広める関係で他国へ赴くことが多くなります。
その時に行った先々の国が護衛を付けるわけですが……」
「敵国の兵士以外はそれもダメってか」
「そういうことです」
技術を広めに行くということは、敵国ではありえない。
さらに、異世界転生者はナグアオカ教系列からは目の敵にされており、誘拐や暗殺が発生しやすい。
そのための護衛だが、ハレリア王族になると、同じハレリア王族からしか護衛されることができないのである。
自衛能力が常人レベルな異世界転生者のジョンにとって、それは致命的な問題だった。
「ジョン君の英雄としての資質は、かなり高い方です。
先代『雷神』故グレゴワール総長に匹敵するほどでしょう」
「マジか。あの人に並ぶって?」
「言っておくが、ジョン殿の発明品は、今あるものが広まるだけでも、十分にマグニスノアの歴史が変わるほどのものだからな?」
黒髪ロリは呆れた表情で言う。
「前にも言ったが、異世界転生者というだけでも、抱えておくメリットは大きいんだ。
加えて高い技術力と知識、難題をあり合わせで解決できる突破力もある。
各国の王が第一王女クラスの女を送り込んでも不思議はない」
「名前に惚れられてもなぁ……」
「変態のくせに面倒臭いのですね。変態のくせに」
「なんで2度言ったし」
「大事なことですから」
ミラーディアは目を細めて笑った。
「エヴェリアさんも言いましたが、今から気を付けるべきなのは誘拐や暗殺ではなく籠絡です。
ハレリア王族については、1年は私が止めておきます。
その1年というのが世界会議までという意味で、それ以降は本格的な争奪戦が発生することになるでしょう」
「探りを入れて本物かどうかを確かめていたのが、本物であることが確定するわけだからな」
「そして、籠絡においてハレリア王族ほど恐ろしい一族は、このマグニスノア全土を探しても他にありません。残念ながら、これは断言できます」
「王候補が100人以上いるということは、選ばれるのがたとえ現役の女王であってもハレリア王国としては構わないということだ。好みの問題もあるだろうが、頑張っても権威的には第一王女しか出せない他国とは、出発点が違い過ぎる」
エヴェリアは苦々しく呟く。
「王族の娼婦が3000人以上いるのです。
露出狂からSM、痩せ型の人、筋肉さん、幼い少女、熟女さん、荒い人から大人しい人、おしゃべりさんから無口さんも、老若男女のラインナップが豊富すぎるのですよ。
もちろん、私のソックリさんやアリスのソックリさんもいます。
ディープなお付き合いからライトなお付き合いまで、錬金術師に鍛冶師という子も揃っています」
「……」「……」
2人はあんぐりと口を開けて聞いていた。
ハレリアは、色々な意味で人材が豊富すぎる。
「なんか、下手なエロ本よりかエロ設定じゃね?」
「他国の重要人物を籠絡するためとはいえ、やり過ぎじゃないのか?」
「エロ本は読んだことがありませんけども。
籠絡のために娼婦を用意しているのではなく、機会があればエロエロしたがる人が多いという印象ですね。
戦地で兵士を相手にするのが結構人気があるようでして、今回も1000人くらいは従軍しているそうです」
従軍慰安婦といえば性奴隷の代名詞とされているが、ハレリア軍の場合は割と勝手についてくるのが多いため、性病が流行らないように場所や施設を整備しているだけで、募集も徴用もしていない。
治癒術で治るとはいえ、術士を無駄に疲労させると、肝心な時に怪我を治せない可能性が出てきてしまうという点もあり、自分でそういうものを治療できる王族の娼婦はそこそこ重宝されていた。
「ただ、ハレリア人の若い子の相手には気を付けてくださいね。
加減ができずに腹上死させてしまうというケースが結構多いようですから」
「意外すぎるぞその死亡フラグ!?」
「……」
ミラーディアは涼しい顔を、割とにこやかな顔をしていたが。
エヴェリアは思わず壁際に立った黒髪少年の方を振り向いて、顔を真っ赤にして、耳を塞いでうつむいた。
こういう話に免疫のないカッセルが、顔を赤くして視線を逸らしていたからである。
エヴェリア15歳、ジョン、ミラーディア、カッセルが16歳。
青春と呼ぶには少々きついエロトークだった。