ジョンの伝記   作:ひろっさん

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本編とは完全に離れた裏話で、長いので分離。
順番設定のため1分ズラして投稿。


余話

ナグアオカ教総本山、ナグリタリヌ教皇国、聖都ナグール。

赤土レンガの古びた街並みに住むのは、ほとんどが宗教関係者と、街を維持する様々な職人達である。炭鉱都市のように、1つの職業を支えるために人が集い、1つの都市を形成していた。

それほどにナグアオカ教というのは、この地にて絶大な権勢を得ているのだ。

 

その総本山のナグール大聖堂に、今1人の賊が侵入していた。

 

「止まれ!これより先は下賎の者が通ることは罷りならん!」

 

賊と言いながら、正面正門から堂々と歩いて入る。

身長は140センチ程度、薄汚れた灰色のローブに身を包み、フードで顔を隠している。

 

制止されても、歩みは止めない。

 

「警告はした。死ね!」

 

大気を震わせる音と閃光。噴き上がる土煙。

衛兵は、人間ではなかった。ナグアオカ教で言う、『天使』である。

ゆえに、人1人を即死させる雷撃を放つなど、造作もない。

 

だが。

小柄で華奢な人影は、もうもうと立ち込める土煙から、何事もなかったかのように歩み出る。

ローブには焦げ目1つない。無傷、である。

 

「馬鹿な!?」

「術で防いだか、ならば!」

 

その場で衛兵をしていたもう1人の『天使』の男が、剣を抜く。

 

「この件は精霊銀製!内側より焼き尽くしてくれる!」

 

叫ぶと人影に剣を突き刺して、剣を通して雷撃を叩き込んだ。

 

青白い閃光が迸り。

ただ、それだけだった。ローブが燃えることもなく、人影はただ歩み続ける。

そうすることでより剣が深く刺さることなど、意にも留めない。

 

剣が刺さっているということは、それを持つ『天使』の男はすぐ近くにいるということだ。

攻撃を無視して歩いてきた人影に不意を突かれた。といっても、人影はただ歩いて、その通り道にいた衛兵に接触しただけである。

『天使』が相手でもただでは済まない、強力な攻撃をしてもまるで通じないという事実に衝撃を受け硬直した『天使』の兵が、それを避けられなかったのだ。

 

普通ならば、よろめくか尻餅をつくだけで済むだろう。

だが、まるで10トントラックにはねられたかのように、男は吹き飛んだ。

そして大聖堂の壁面に叩きつけられる。

だが、大聖堂の壁面には傷一つない。

白銀の全身鎧姿の男が10メートルもノーバウンドで吹き飛び、激突したにも係わらず、傷一つない。

 

吹き飛ばされた拍子に抜け落ちた剣にも、血は一滴も付いていない。

最初に雷撃した『天使』の男が見れば、胸を背中まで貫かれたはずのローブには、焦げ目1つ、切れ目1つ残っていなかった。

常識では考えられないレベルで、無傷。

 

「くっ……!」

 

自分も剣を抜き、歩き続ける人影に向けて振るう。

 

「どんな生物も、首を切れば死ぬはずだ……『天使』でも、首を切られればさすがに死ぬのだぞ……!

同じ精霊銀の剣に熱を纏わせれば、傷口が焼かれ、再生にも時間がかかるようになる……!」

 

しかし。

 

「手応えは、あった、はずだ……骨を断つ手応えが……なぜだ……!?」

 

人影の首が落ちることもなく、ただ幻のように大聖堂の奥へ奥へと歩みを進める。

フードごと切ったはずなのに、フードにも切れ目1つ入らない。

剣は、彼の言う通り確かに首の骨ごと何者かの首を通り抜け、切断したはず。

なのに、ただ悠然と人影は意にも介さず、そんなことがあったという事実にすら気付かないといった風に、歩みを進める。

 

ただ歩いているだけ。

防御も攻撃もしない。

バリアなどを展開している様子もない。

 

「ば、バケモノめ……!」

“下がれ”

 

その時、衛兵の脳内に、念話が響いた。

 

「げ、猊下、しかし……!」

“貴重な『天使』を無駄に損耗するわけにはいかん。その者は通せ”

「は、ははっ」

 

彼らの主人は、それ(・・)が何なのかを知っているらしい。

少なくとも、『天使』をして勝ち目のない存在であると。

内心、忸怩たる思いを募らせながら、衛兵をしていた2人の『天使』の男は、その人影を黙って見送ることしかできなかった。

 

 

 

謁見の間。

天井にはナグアオカ教にある神託の様子が大スケールで描かれており、祭壇の中央で白く切り抜かれた何者かが、多くの拝謁者達を見下ろしている。

また、柱の間に垂れ下がる旗布には、ナグアオカ教の神獣、人間よりも小さいドラゴン『リンドブルム』が描かれていた。

 

「ナグアオカ教とは、『星王(ほしおう)』を尊崇する宗教である。

人間の側に立つ神を崇めるという意味で、星王教とは対になる。

そして、星王教の名の意味を知らぬ者の、なんと多いことか」

 

嘆きを語るのは、銀髪褐色肌の、整った顔立ちをした若い男性。

白い布地に金の縁取りを施された神官衣をまとい、教皇の玉座から立ち上がって前へ進む。

赤い絨毯の敷かれた上座より降り、謁見の間に入ってきた小柄な人影の眼前に歩み出た。

 

「それが『鴉の女王ゴモリ』の意思ならば、それは君らの成果であろう」

 

薄汚れたローブの人影は、はじめて立ち止まり、目深に被っていたフードを脱いで声変わりもしていない、甲高い声を発する。

その顔は、シミ1つない白い肌の、現実離れした美貌の少年。背中に流れる長く明るい金髪の両方の側面から、長く尖った耳が付き出ていた。

いわゆる、エルフ、という種族だ。

 

「『力ある九人』、オロバス御自らお出ましとは、恐悦至極」

 

もしもナグルハ人がそれを見たならば、衝撃のあまり茫然自失となるだろう。

ナグアオカ教の教皇が、片膝を付いて深々と頭を下げたのである。

それはそのまま、オロバスと呼ばれたエルフの少年と、教皇の力関係を示していた。

 

「君の研究について、少し話さなければならないことができてしまってね」

「ほう、『天使』の誤動作だけの話ではないと?」

 

青年教皇が怪訝な表情で顔を上げ、立ち上がる。

元より礼儀作法などは、両者の関係を知らない他人に見せるためのものでしかない。

ゆえに、人に交じり慣れている者はついやってしまうのだが、それで会話を止めるほど、この2人は浅い付き合いではなかった。

 

「いや、まさにその話なのだ、ラウム・マグニス君」

「ふむ?」

「かの『堕天使』が、50年足らずの時にして『バケモノ』と相成った」

「なんと!そのようなことになっておったとは……」

 

ラウムと呼ばれた教皇の男が両腕を広げて驚きを表す。

 

その時、謁見の間に16人の衛兵――『天使』が入ってきて、盾を構えて壁際に並んだ。

 

「そのおかげで、ベルベーズ中の神族(かみぞく)が皆読みを誤り、浮足立っている」

「なるほど、説明が必要だな。……まったく、このような事態を予想したのか、『鴉の女王ゴモリ』は5日前に休眠に入ってしまいおった」

「まったく……あの娘は……」

 

苦り切った顔の褐色青年教皇の言葉に、オロバスも美貌の眉をひそめる。

 

そして、さも旧知の仲のように2人が話していた間に、光の帯が床を走っていった。

それは円を組み合わせた図形となり、聖都ナグールの道を奔る巨大なものとなる。

壁際に立っていた『天使』達の顔色がさっと青褪める。

『ゼウスの雷霆』など、比べ物にならないほどの巨大規模の儀式魔法が発動しようとしているのだ。

 

「げ、猊下――!?」「こ、これは――!」「身体が動かぬ――!?」

 

儀式魔法を止めに動こうとした『天使』達は、盾を構えたまま何者かの念力によって身体を固められ、動けない。

 

「委細承知した。元々、洗いざらい語るつもりであった――」

 

話の最中に、それは発動した。

 

周囲に強固なバリアを展開し、その内側を溶岩が水蒸気爆発を起こす数十万度に加熱する儀式魔法『ゲヘナの火』だ。

特徴は、込める魔力によって際限なく火力を上げることができることにある。

 

オロバスもラウムも、バリアに閉じ込められた段階でなお、気付く素振りも見せなかった。

 

「げ、猊下ーっ!!」「ば、馬鹿な……!」

 

何者かに動きを封じられた中、『天使』達は自らの主が侵入してきた何者かと共に焼かれ、ほんの数秒で灰になっていくのを眺めているしかできない。

 

果たして、それに気付いたのは誰が最初だったのか。

 

服を焼かれ、皮膚がただれ、筋肉や血管も蒸発し、内蔵が炭化して燃えていき、骨までもが熱で崩れてしまった、わずか数十秒の出来事を、彼ら『天使』は死ぬまで忘れないだろう。

その後(・・・)の衝撃(・・・)と共に(・・・)、記憶に残り続けるに違いない。

 

もちろん、こうなっては不死身とされる『天使』でも助からない。

いや、『天使(・・)程度の(・・・)不死身(・・・)度では(・・・)、と言うべきか。

 

「――『天使』とは、知っての通り神族(かみぞく)の『成り立て』に洗脳を施し、そのままバケモノへと至らせる研究のための実験体だ」

 

骨も砕けて消えたその後、教皇ラウムの声が変わらずに響き続けていたのだ。

 

「な……!」

 

盾を構えた『天使』達は衝撃に言葉を失い、呆然とその光景を眺めていた。

 

「残念ながら、その試みは始めてからの800年、一度たりとも成功しておらん。

あの壁際に並ぶ16名、内7名が500歳を超えておる」

「なるほど、これは先が長くなりそうだね」

 

教皇ラウムだけではない。『天使』視点では怪しい侵入者であるオロバスの声も響いてくる。

 

「まさか、幻で……?」

 

それは、1人が呟いた希望的観測だった。だが、彼ら『天使』の優れた知覚が否定する。

確かに、今も内部が数百億度のプラズマの光に輝くバリアの中に、2人は存在していたのだ。

 

「実は、周囲3国に2名ずつ『天使』を貸し出しておったのだ。

ヒトに使われる中でバケモノに成る者が出ればという、苦肉の策だがな」

「なるほど、見えてきたようだね」

「そう、その内の1人をして、『渡し守』カロンを従わせようと巣へ行かせたらしいのだ。

その時にカロンの奴が『神族(かみぞく)の闘争』を仕掛け、それで予の術が途切れて追跡できなくなってしまった。

慌てて探し回ろうとしたが、大きな戦争の中、予自らは動けなんだ。ヒトに任せてしまった。

それが仇となったのであろう」

 

話している内にプラズマの光が収まり、『ゲヘナの火』の効果が終わる。

熱が引いて、物理バリアが解除される。

 

その瞬間、それは始まった。

 

「調べると、ナーゲロンがハレリア侵攻のために、海路ベルベーズ南部へ派遣しておったらしい」

 

破壊を逆巻きにするように、灰が集まって大小の人間の骨格を形作る。

それぞれの言葉に合わせて顎骨がカタカタと動き出す。

 

「その地でオートレスの末裔を名乗る者を教皇の座につけ、それ以降は各地で暗躍し、エルバリアを脅した後はブロンバルドに長く留まっておった」

 

土気色の血管が形成され始め、血管内に血液が通り、文字通りの血色が戻った。

 

「というのも、どうやらハレリアをオートレスとエルバリアとブロンバルドの3国で包囲する計画であったのだ」

 

筋肉、内臓が形成され、耳や目玉ができ、褐色と白い肌が張り始める。

 

「だが、計画の途中で使役者が引き継ぎされずに死亡し、最後の『ルクソリスを破壊せよ』という命令ただ1つに、20年も従っておったようだ」

 

さらに、頭や顔に毛が生え揃う。

 

「ふむ……では、フェジョ新教とは……?」

 

燃えて灰と消えていた服が、着ている状態で再形成され、元の教皇服の銀髪褐色肌の青年と、薄汚れたローブのエルフ少年が、何事もなかったかのように会話を続ける。

 

「確かなことはまだだが、7割方オートレスの偽子孫の仕掛けであろう。

今の教皇とは血統が異なるが、300年前に遠大な計画を立てておったらしい。

その計画に不可欠な要素の1つが、洗脳政策の流布であったようだ」

 

足元、バリアの内側にあって燃えていた赤絨毯、さらに下で蒸発していた大理石の床までもが元通りに復元された。

 

「なるほど、では、少しこちらで追跡調査を行うが、構わんね?」

「無論。ゴモリが眠っておる以上、止められる者もおらぬ。

予も高位の神族(かみぞく)による正確なる調査内容を知っておきたい」

「承知した」

 

オロバスは先程の大儀式の直撃など、少しも気にかける素振りもなく、ラウムに対して背を向けた。

しかし数歩で歩みを止め、肩越しに振り向く。

 

「そうそう、ラウム君」

「む?」

「我々神族(バケモノ)がどういうものかを教えるのは構わんが――仕事のある若者達をからかう(・・・・)のはほどほどにしておきたまえ」

「フッ、肝に銘じておこう」

 

美貌の褐色青年教皇は、親に叱られた子供のようにばつの悪そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

オロバスが去った後。

壁際に待機していた『天使』達は、ラウムに声をかけられ、その前にかしずく。

 

「すまぬな」

 

最初に謝罪。

 

「先に予の余興について少し語っておくべきであった。

『ゲヘナの火』を発動したのは、予自身だ」

 

彼は語る。

 

「貴様らがアレに挑む危険があることを、失念しておったのだ」

「恐れながら……」

「申してみよ」

「あの者は一体、何者なのでございますか?」

 

『天使』の質問に、ラウムは鷹揚に頷き、答える。

 

「あれが『妖精王』オロバス。

『大賢者』ケルススと並び、この世に2人しか残っておらぬ、2千年級の神族(かみぞく)よ」

「2千……!」

 

それは途方もない数字だった。

簡単に言えば、今を生きる神話の登場人物なのである。

1千年級の神族(かみぞく)でさえ、今の『天使』では束になっても絶対に歯が立たないと言い含められているのだ。

 

「しかし、それでは猊下の攻撃は――」

「攻撃ではない」

 

ラウムは断言する。

 

「肩に羽虫(・・)が止まったとて、怒り狂う理由にはならぬ。避け、防ぐ必要すらない。神族(かみぞく)の不死身とは、そういうものなのだ」

「は……」

 

それは言外に、他の神族(かみぞく)にとっても相手にならないということを示していた。ベルベーズ大陸で1千万人規模の死者を出した『天使』が、神族(かみぞく)にとっては羽虫ほどの脅威ですらないと、彼は断言したのである。

 

「彼は神族(かみぞく)全体の中でも、慈悲深い方の人格なのだ。

だから、貴様らに思考誘導をかけ、攻撃方法として洗脳術を選択させなかった。

他の者ではこうはいかん。

貴様らが『神族の闘争』たる洗脳術によるを選択した瞬間、灰も残さず滅されておったであろう」

 

『天使』達は、一様に顔を青褪めさせた。

自分達がどれだけ危険なことをしていたのか、今更ながらに気付いたのだ。

相手が優しい性格でなければ、彼らの主が止めていなければ――。

彼らは一瞬で全滅していた可能性すらあったのである。

 

相手の洗脳、思考誘導に気付かないというのは、それだけ彼我の実力差が隔絶したものだったということに他ならない。

 

「……これより、一層精進せよ」

「ははっ!」

 

声を合わせて一斉に頭を下げる『天使』達に、しかしラウムは心中に不満があった。

 

「(バケモノに『成り果てる』者は皆無、か……。

なるほど、仕事、命令を理由に集めたのは失敗だったかもしれん)」

 

神族(かみぞく)とは、理不尽で不条理な、災害が形を持ったような存在である。

 

 




時は遡る。
総勢5千名近くが戦死した直後の戦場へ。

幾百のハレリア王族が塩の柱と化した戦場において、たった1つ黒く炭化したものがあった。
それを中心として、集まる男女。

「驚いた」

呟いたのは、『竜騎士』レグロン。
衣服は腰鎧のみで、引き締まった肉体美の上半身を晒している男。
今は目を縦に裂けた肉食動物のそれに変えて、黒く焦げた神族(かみぞく)の若者を観察している。

「こやつ、生きておるぞ」

レグロンが声を上げる。

「『成り立て』ではなかったのか?」

疑問を呈するのは、『土術士』マリアン。
薄汚れたローブを身に纏う、錬金術師上がりの大柄な女性。

「私にもそのように見えた」

頷くのは、『霊士』グレン。
旅の装束にマントを羽織った尖った耳をしたエルフ。
エルフは小柄で小奇麗な肌をしており、体型や肌の質感に変化が乏しいため、誰も彼もが一律に美少年に見える。エルフは女性も美少年に見えるのだ。

「だが、遠目に様子がおかしいようにも見えた」

グレンは言葉を接ぐ。

そこへもう1人やってきた。
四角い皮を繋ぎ合わせた、露出度の高いドレスを身に纏った灰色紙の女性。
女性として見えてはいけない場所が見えるのもお構いなしに、高空から降りてくる。

「お爺様の話が長くて遅れてしまったわ」

文句を垂れるのは、『人形遣い』マキナ。

「回収するのか?」
「気になることがあるの。一通り記憶を抽出してみるわ」

レグロンの問いにマキナは頷く。

「私も知りたいことがある。コピーで構わない」

要望したのはグレン。

「統治の関係?」
「そうだ」
「了解。いつも通りマトンでいいかしら?」
「ああ、それで頼む」

快く頷いた。

神族(かみぞく)同士、特に役職を持った神族(かみぞく)同士が(いさか)いを起こすことは滅多にない。それが無駄で、酷くつまらないもので、害にしかならないということを、お互いに知っているからだ。

仕事を持っているならば、下手に神族(かみぞく)同士の闘争を行うと、後生大事に守ってきたものでさえ破壊してしまいかねない。
だから、同ランクの神族(かみぞく)同士のやりとりというのは、非常に淡白であることが多いのである。

「グレン、粛清を行うならば、俺を呼べよ」
「まったく、神族(バケモノ)になってまでも戦争好きが治らんとは、度し難いぞ、レグロン」

グレンは溜息を吐いた。レグロンは面白そうに笑う。
珍しく人間味が残っていると言うべきかもしれない。

「なあに、ルクソリスの『魔物』発生の時は、準備中だったゆえに出遅れてしまったのでな」
「約束はできん。『妖精王』に報告せねばならんかもしれん」
「まあそれで構わんか」

話している内に、マキナは炭化しながらなお生きているそれの肉体を、完全に炭となった部分を削ぎ落して瓶に詰める。
それは、脳すら半分焼失してしまった、あの銀髪男の肉片である。
ガラス瓶は、その場で土中のケイ素を抽出して焼成していた。
滅菌保存液も自分の体液から作り出したものを、指先から流し込む。
神族(かみぞく)ならば、錬金術なども当たり前のように無詠唱準備なし、しかも高速で使用できるのだ。
肉体内で化学薬品を合成するのもお手の物である。

「土壇場で『成り果てる』だなんて、難儀な宿命を持ってしまったものね」
「我々には、見ているしかできんな」
「願わくば、数奇な宿命を背負ったこの若者が、我らが使命の後継者たらんことを」

4人の神族(かみぞく)達の呟きは、他の誰に聞かれることもなく、風の中に消えていった。
そしてその姿も、やがて消えゆく。

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