ジョンの伝記   作:ひろっさん

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術士兵

武具大会本戦、午後の試合はベスト8から。第1試合はマーガレットVSデイヴィッドである。

 

マーガレットは軽装で突撃しつつ槍を投げ、回避と防御の2択を迫る遊撃戦法。

デイヴィッドは重装で待ち構えつつ、高威力の星王器で直径3メートル程度を吹き飛ばす砲台戦法。

客席でエヴェリアとミラーディアが勝敗を予想する。

 

「順当に行けば、マーガレットが勝つだろうな」

「どこが順当なのですか。騎士対兵士ですよ?」

「なら何か賭けるか?」

「マーガレットさんが勝ちますよ」

 

あっという間の手の平返しである。これで賭けは成立しなくなった。

 

「そんな差があんのか?」

「マーガレットは訓練されたマリーヤード人相当だ。それだけで騎士に匹敵する戦力とみなされる。

それに加えて、特殊な戦法というのが実戦では厄介でな。特に詠唱が遅い場合、槍の投擲がこれ以上ないほど生きてくる」

 

飛び道具には飛び道具。実に単純な理屈である。

 

「単唱器でしたら、それに対応できる可能性はありますけれどもね」

「単唱器なら確かに間に合うな。槍を弾いてからでも、マーガレット本人が接近するまでに少し時間がある。

とはいえ、照準して詠唱することを考えると、やはり2単語以上では間に合わん。それに、そういう速攻を仕掛けて来ないという前提での5単語(ファイブワード)戦法だ」

 

いずれにせよ、接近を許せば終わるという点は一致しているらしい。

 

 

 

試合が始まる。

 

「フンッ」

 

褐色筋肉娘は、デイヴィッドが詠唱を始めたと見るや、思い切り地面を蹴飛ばした。

闘技場の地面は踏み固められた土で覆われているのだが、同じ場所で何度も試合をしていれば、多少は地面が削れて砂になる。さらに星王術によってあちこち抉れている箇所も少なくないのだ。定められた場所から開始するこの大会では、選手同士を結ぶ直線上は特にそれが顕著だった。ゆえに、そのつもりで地面を蹴飛ばせば、盛大に砂埃(すなぼこり)が舞う。

 

卑怯と言ってはいけない。大会と銘打っているが、これは実戦を想定した訓練の一環でもあるのだ。

実戦とは、結果がすべてである。正々堂々と戦ったとしても、敗死した場合は正々堂々と戦ったという事実すら捻じ曲げられ、勝者が行った悪行のすべてを押し付けられることさえあるのだ。それまでの実績や功績なども、一切関係なく。

それは地球においても同じである。

 

むしろ、トウガラシの粉末などを投げつけて目潰しによる失明を狙って来ないだけ、まだまだ可愛い方と言えた。

 

「“風よ(ダイソン)衝撃と(キュウインリョクノ)なって(カワラナイ)敵を(タダヒトツノ)仕留めろ(ソウジキ)”」

 

予想された槍による邪魔が入らなかったため、デイヴィッドの詠唱はそのまま完成する。

圧縮空気による高威力の爆風。着弾点から直径3メートル前後を吹き飛ばす術で、直径4メートルの圏内でも大ダメージは免れない。その上、術は弓矢の速度で飛ぶ上に、足元を狙ってくるため、爆風の影響を免れるのは困難だ。

 

砂埃(すなぼこり)で姿を隠したとしても、術士兵ならば動く標的に当てる訓練をしているため、マーガレットの動きを予測することは容易だった。近付かせなければいいなら、砂埃の手前でいいのだ。砂埃を突っ切って突進してきた場合、確実に足を止めるか巻き込む位置。

仕留め切れなかったとしても、次の詠唱を行えばいい。単唱器と違って、5単語詠唱もしていればそれほど体力は奪われないのだから。

だが、デイヴィッドが術を放った直後、砂煙を突っ切って槍が飛んできた。

 

「――っ!」

 

術を放った直後は、どんな術士でも騎士でも、僅かな隙ができる。

もちろん、そこを狙って突けるのは、至近距離にいる時だけだ。兜の下から詠唱が聞こえる距離と言い換えてもいい。また、星王術は詠唱さえすればいいのであって、高らかに叫ぶ必要はない。ゆえに、接近されれば術は使用しないのが常識なのだ。

だがしかし、それは逆の常識ともなっていた。

 

これは格闘ゲームにおける、飛び道具を放った隙と言った方が分かりやすいかもしれない。

大技は外せば隙ができるのは当然で、十分に近ければその隙を突いて攻撃することもできる。つまり、術(飛び道具)を放った直後の隙を遠距離から狙撃されるなどというのは、通常想定しないのである。

相手が神族(かみぞく)でもない限りは。

 

そのため、金髪青年騎士はその槍を避けることも叩き落とすこともできなかった。

ところがここで、マーガレットにとって予想外のことが起きる。

 

「ぐっ……!これなら、まだ……!」

「!……」

 

投擲された槍はデイヴィッドの胸に僅かに刺さりはしたものの、浅かったのだ。

 

マーガレットは、地面に着弾した圧縮空気弾を迂回するように大回りして走る。彼女は最初から、砂煙を突っ切ってなどいなかったのである。

投擲武器は失われたが、まだ手甲(ガントレット)は残っていた。試合はまだ終わっていない。

デイヴィッドも相手の動きに反応し、次の詠唱を開始する。

 

「“風よ(ダイソン)衝撃と(キュウインリョクノ)なって(カワラナイ)敵を(タダヒトツノ)仕留めろ(ソウジキ)”」

 

辛うじて詠唱は完成し、圧縮空気を放つ。接近戦で勝つなどとは、彼は欠片も考えていなかった。今までの試合を見て、マーガレットがただのマリーヤード人兵士よりも強いことを知っていたからだ。

あまり見ない戦法とか、そういう問題ではない。対応力が尋常ではないのだ。

普通、思いもしないような方法で、攻撃を仕掛けてくる。騎士になるために訓練も実戦も積んできた彼でも、いや、だからこそその動きを予想できない。

その上に、近付かれればその圧倒的な腕力で殴り倒される。

 

今のこの距離は突撃されてデイヴィッド自身が術に巻き込まれないギリギリ。しかしそれゆえに、回避は困難。逆に、これを凌がれれば負けが確定する。

――ここが勝負の分かれ目だ。

そう思って放った起死回生の圧縮空気が、なんと放った直後に爆発した。

 

「ぐあっ!?」「――ぬぅっ」

 

かなり接近していたマーガレットも爆風を受けてバランスを崩し、横向きに転倒する。デイヴィッドはまともに吹き飛んだ。重い鎧を着込んでいて、なおも味わう浮遊感。壁に叩きつけられ、一瞬意識を失う。

そして気付いた時には、マーガレットが馬乗りになっていた。

 

振り上げた拳で殴りつけられ。

 

「痛っ」

 

なぜか慌てて拳を引っ込めた。拳である。裸拳とも書く。

それでもそこそこ衝撃があったのは、さすがマリーヤード人といったところ。

 

「そうか、ガントレットを投げ――」

「フンッ」

 

手甲(ガントレット)が残っている方で兜越しに殴られ、デイヴィッドは今度こそ意識を飛ばした。

 

 

 

「……」「……」「……」「……」

 

4人は静まり返る。事前の予想通り、順当な結果のだが。

色々と考えることはあった。あきらかにおかしな出来事が発生したのである。

 

「確か、マーガレットさんの、あの槍を作った人は、ハートーン男爵のお弟子さん、でしたよね?」

「そうだ。留学生で、ソーレオのコリンドン工房の次男坊。腕は確かだし、頭もいい」

「ベルナールって、ハートーン卿に食ってかかってたやつか」

 

以前、ぐうの音も出ない正論で師匠を問い詰めていた金髪青年鍛冶師である。あの時のことは、さすがに印象に残っていた。主に、ジョンのせいでもあったからだ。

彼が個人用の小さなものとはいえ工房主になれたのは、かなりの特例であり、当時はその特例が火種となりかねない状況だった。

 

「仕事は見た限りそう悪いものではなかった。1つ1つの作業にしっかり時間をかけていて、何より真面目で丁寧だ。

あの槍は決してナマクラではない。ジョン殿が作るようなおかしな性能ではないものの、そこそこ高い品質のものではある。それは試し切りで確認した」

「なんでや、俺のも普通の武器やったやろ!」

 

思わずおかしな発音(イントネーション)になったジョンの抗議の声は黙殺された。個人用の武器は常識を超えない範囲でちゃんと普通に作っていたのに。

 

「ということは……」

「原因はデイヴィッド卿の鎧の方か」

 

そう、ありえないこととは、マーガレットが――マリーヤード人が全力で投擲した槍が、デイヴィッドの鎧を貫き切れなかったことだ。

マリーヤード人の腕力ならば、貫通しているはずなのに。

 

「ふむ……ジョン君」

「な、なんでせう?」

 

ミラーディアにフードの奥からドス黒い笑顔を向けられ、赤毛ショタジジイは怯える。美人は笑うと綺麗とは限らないが、怒ると怖いのは確かだと彼は思った。

 

「そういえば、アリスから何か相談を受けていたそうですね?」

「……ハイ」

「その内容は?」

 

誤魔化せる雰囲気ではなかったため、ジョンは正直に話す。

 

「マルファスと当たった時に、ジュラルミンを使いたいと言い出しまして……」

「それだ」

 

兎耳黒髪ロリは確信の声を上げた。

 

「ミラーディアなりに確認しろと念を押さなかったな?」

「ああ、うん。マルファスの時だけって聞いてたし」

「覚えておいた方がいい。錬金術師というのは、基本的に自分の研究以外のことは頭から抜け落ちる人種だ。そうやって行われた研究の成果が、国家にとって多大な利益となる。だからこそ、ある程度のそういう部分は許されているがな。

そういう部分がなければ、はぐれ錬金術師など出たりはしない」

 

その辺は、ハレリア王国でも同じである。

 

「まったく……錬金術師脳とは困ったものなのですよ」

 

ミラーディアは愚痴を呟いた。

 

「ですが、今回ばかりは刑罰が必要になるでしょうね」

「け、刑罰?」

 

ジョンは驚いているが。

 

「実は、新合金(ジュラルミン)を勝手に使用したこと自体は、そこまで問題ではない」

「問題といえば問題ですけれどもね。ジョン君が転生者であるという威光(インパクト)を示す方法として、合金系が使えなくなってしまいましたし」

「それより大きな問題は、錬金術師が関係者を騙しにかかったことだ」

 

エヴェリアは言った。

 

「錬金術師はその性質上、魔法についてかなり深いところまで知っている。

憑魔の儀(ひょうまのぎ)』のやり方も知っていて、隙あらば人体実験をやろうという奴もいる」

「もちろんですが、『憑魔の儀(ひょうまのぎ)』関連の人体実験は基本的に禁止されています。『魔物』が発生してしまいますと、神族(かみぞく)への対応次第では首都虐殺が発生してしまいますから。場合によっては処刑されることも少なくありません」

「だから、今回のようなことが発覚した時点で、何らかの刑罰が必要になる。政府が錬金術師にナメられていれば、あっという間にモラルは崩壊するからな」

「……うん、まあ、うん」

 

ジョンは納得することにした。

すべてはわからないが、思ったより問題が大きそうで、わからない人間が口を出していいことではなさそうだからだ。

 

 

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