武具大会決勝戦。
「マーガレットさんVSエルウッドさん。実に147年振りとなります、非魔法武具同士の決勝ですね」
「そうなのか?」
ジョンは聞き返す。
「てっきり、500年単位で騎士が勝ってんのかと思ってた」
「基本的に未熟者が参加する大会だからな。当たり外れの加減次第では、鉄装備が勝つこともあるだろう」
「優勝者は役人以外は次から出場不可、新人も5年で出場できなくなります。
次々と強者が抜けていきますから、鉄装備の兵士が優勝することもあるのですよ」
「へー」
感心した。
新陳代謝の激しい大会なのである。最強やベテランが次々と抜け続ける限り、勝率の流動性が消えることはないのだ。
だからこそ、武具大会には多くの職人の弟子達が参加するのである。
未熟な錬金術師が作った武具に足を引っ張られているのならば、新人騎士ならば倒しうる。そこに賭けて、名を上げようとするのだ。
「ちなみに、8年前にも鉄装備の人が優勝しています。滑る床戦法が流行りまして、重装化の傾向を決定付けた大会ですね」
「大体、5年に一度はマーガレットみたいなのが出ると言っていたな。30年に一度くらいは重なりそうだが」
「それでも相手が騎士ですし、そう簡単に鉄装備同士とはなりません。ですから、鉄装備同士の決勝というのは相当なレアケースなのですよ。
そして、意外かもしれませんが、故『雷神』グレゴワール・デンゲルと現『風神』ロバート・ウェスターは、武具大会で優勝していません」
「マジで?ロバァァァァトォォォッの人優勝してねえの?」
「それは私も初耳だ」
赤毛少年の渾身のギャグを流して、黒ウサ耳の少女が驚きを示す。
「『雷神』の方は30年前に故ヴェグナ・マディカンに負けていまして、ウェスター卿は15年前にゴードン卿に負けているのです」
「それでも、負けたなら2回目出場できるだろう?」
エヴェリアが指摘したのは、優勝しなければ5年以内なら出場できるルールについてである。
「そのまま近衛騎士隊に推薦されるレベルの人が、2度も出場することはありませんよ。大会の趣旨を逸脱してしまいますから」
「そうか、そうだった……」
「そりゃそうだ」
要するに、マルファスとカッセルの武具大会出場にストップがかかったのと同じ理由だ。一度だけは出場できて、しかも優勝できるわけではないというのが、ハレリアらしいかもしれない。ハレリア民族の血統システム上、どこにダークホースが眠っているか分からないのだから。
話している内に、試合が始まる。
マーガレットはガントレットによる打撃を含めた投げ槍使い。
エルウッドは瞬発力による突進の一撃必殺を狙う槍使い。
同じ軽装の槍使いながら、その方向性は大きく違っていた。
開幕、双方が前に出る。互いに勢いのある突進だ。それで何度も対戦相手を倒してきた実績がある。
「――!」「……!」
マーガレットが槍でエルウッドの攻撃を弾き、エルウッドは足を止めずに駆け抜けたことで、初撃は互いにスタート位置を入れ替えただけに終わった。
マーガレットは勢いのままに振り向きかけていたが、エルウッドのスピードが投擲の狙いを定めさせない。もしもエルウッドが慌てて急制動をかけていれば、マーガレットの槍投げの餌食になっていただろう。
エルウッドの鎧は軽装にリングメイルであり、突きにはさほど強くない。至近距離でマリーヤード人の腕力による槍投擲を受ければ、身体を貫通されていた可能性が高かった。
少し離れた位置まで走ったエルウッドは、立ち膝になって急制動をかける。槍の石突を地面に突き刺して、より短時間で勢いを殺す。そしてまた
それを見たマーガレットは、槍を投げるのを途中で止め、防御姿勢に移った。投げた後も武器としてガントレットがあるとはいえ、リーチのある武器を投げるにはリスキーな相手だと考えたらしい。ついこの間まで山野を駆け巡り、狩りや戦いをして生活していたため、意識は生き延びる方向に向きやすいのだ。
ここまで、双方互角の戦いである。しかし、次の1合で試合が動く。
エルウッドは最初と同じく、クラウチングスタートからの突進技『
マーガレットは両手に槍を握り防御の構え。
若き金髪兵士がスタートを切り、褐色肌の筋肉娘が待ち構える。
その一瞬に起きたことを、どれだけの人間が理解できただろうか。
まず、マーガレットがガントレットを投げた。槍を掴んでいると見せかけて、ガントレットを外していたのだ。デイヴィッドの時と同じ戦法である。
しかし、エルウッドは意に介さずに正面から突っ込んだ。帽子の額当てに接触し、一瞬だけ頭に衝撃が走り、帽子が脱げてしまったが、無理矢理突っ切る。怯まずに足を踏み出す。
一方のマーガレットは、半歩だけ踏み込んでいた。
そこから、槍を逆袈裟に跳ね上げ、エルウッドの槍を弾き飛ばそうとする。ほんの少しだけ相手の目線を隠し、距離感をずらして、とっさの対応時間を減らしたのである。また、ガントレットを外すことで片手は素手になるため、より細かい力の調節ができるようになる。もっとも、それが威力を発揮したのかどうかは、本人達も分かっていなかったが。
エルウッドは突き出した槍を一撃されて少し穂先を弾かれるが、手放さない。そのままマーガレットの脇をスレスレで駆け抜ける。
また仕切り直しかと思われるが、今度は少し事情が違った。マーガレットが向かってこなかったため、エルウッドは壁際まで走ることになったのである。
「――うっ!?」
今度はマーガレットがエルウッドの後を追った。
エルウッドが膝立ちと槍の石突で急制動をかけつつ、背後に視線を送る。すぐ後ろに迫る2mの巨体を目にして、すぐに闘技場の壁に手を付き、殺し切れていない身体の勢いを横に向けた。金髪褐色肌大柄娘は逃げるエルウッドに追いすがる。
突進を使わせない距離まで間合いを詰めれば、マーガレットの勝ちだ。
エルウッドもそれを理解しているが、ここで壁際の攻防となる。走る勢いで木製壁の僅かな凸凹に足を引っ掛け、壁を2mほど駆け上がり、マーガレットの頭上を取って槍を振り下ろした。
思わぬ反撃に、マーガレットからも槍を向けるが、間に合わない。
「ぬぅぅっ!」
とっさに両腕で防御するも、ガントレットを投げた方の腕を貫かれ、エルウッドの身体に体当たりされて押し倒されてしまった。その拍子に腕を地面に縫い止められ、エルウッドが馬乗りになったことで身動きが取れなくなってしまう。
だが、マーガレットも諦めない。マリーヤード人の筋力で、ブリッジしてエルウッドを跳ね飛ばす。跳ね飛ばされたエルウッドは、咄嗟に掴んだマーガレットの槍を奪い、距離を取った。寝技では邪魔になるからと、マーガレットが手放していたのだ。
「ぐっ……!」
そして、すぐに起き上がって距離を詰めていればまだ勝負は分からなかったが、地面に刺さったエルウッドの槍が一瞬それを阻んだ。
地面と腕から槍を引き抜き、起き上がった時には、エルウッドは身体を倒して
ところが、彼女は相手の姿も見ずに横へ身を投げ出した。一瞬でも後ろを振り向いていれば、回避が間に合わなかっただろう。
エルウッドの槍がすんでのところで空を貫く。ギリギリの攻防だ。
態勢を立て直したマーガレットが片手で槍を突いて反撃に出るが、エルウッドは地面を蹴って跳躍することで回避する。そして壁に足を付いて身体と槍を回転させた。上からの薙ぎ払いである。
マーガレットは一瞬の出来事に回避できず、槍を放してガントレットで受けた。そのまま体重の乗った跳び蹴りを胸に受け、転倒する。が、先程とは違って腕を地面に縫い止められたりしていないため、そのまま後転して距離を取った。
今までと違うのは、マーガレットが武器を失ったことだ。しかも、壁から下りた勢いに乗って、エルウッドが追撃を入れる。
「ぐぬっ」
ガントレットで受けるが、勢いの乗った槍はガントレットごとマーガレットの掌を貫いた。おかげで、それがマーガレットの身体に届くことはなかったのだが。
槍を受け止めた彼女は、傷ついた素手でエルウッドに殴りかかる。腕を貫かれて十分に力が出ないとはいえ、マリーヤード人の筋力から繰り出される拳打である。防具もない頭に受ければ、十分に戦闘不能になりえた。
エルウッドは槍を放して両腕で拳を受け、その勢いで飛び下がり、マーガレットが落としていた自分の武器を掴み直した。その間に、マーガレットはガントレットに刺さった自分の槍を引き抜こうとして、諦めた。傷ついた手では思ったように握力が出ない上に、それよりもエルウッドの攻撃の方が早いと判断したのだ。
そして、彼女は壁際のエルウッドに接近しようとする。突進技を使われては、現状では回避も防御も厳しい。それゆえに、接近するしかないのである。
エルウッドはマーガレットが接近してくるのを見て、壁に後ろ足を付けて、蹴った勢いで槍を構え、突進する。その速度は、あの突進技にも匹敵した。
まさかこの距離で突進技が来ると思っていなかったマーガレットは、とっさにガントレットを振る。そこに刺さっている、槍の柄を。そんな反撃が来るとは思っていなかったエルウッドは、コメカミに直撃をもらった。
しかし僅かに間に合わず、エルウッドの槍がマーガレットの胸板を貫く。
エルウッドも、防具のない頭に槍の柄の一撃をもらって脳震盪を起こし、その場に倒れ伏した。
相打ち。だが、判定はこうだ。
『そこまで!マーガレット・グラットン死亡判定!エルウッド・ウェスターの勝利!』
客席が沸いた。