ジョンの伝記   作:ひろっさん

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見習い娘

ハレリア王国王都ルクソリス内域、宰相府管轄下の工廠では、競争原理を働かせるためにランキング制が導入されていた。評価は作った品物の数と質によって決定する。また、全体に利益になる発明についても評価が行われ、ランキングに大きく影響した。

 

このランキングの頂点はここ数年で、ある工房が君臨し続けている。それはルクソリスで随一の鍛冶師、アブラハム・ハートーン男爵の工房だ。

自身が工房主を務め、腕前ではハレリア国内有数、6名ほどの弟子を抱え、作業効率の管理モデルを作り上げ、他の工房へもそのアイデアを広め、工廠全体の生産効率を向上させた。その管理能力を買われ、爵位を授けられている。

他にももう1つ、ここ数年でハレリアを中心に急速に広がり始めた、ある技術を彼は発明していた。それは、『鋳型(いがた)』である。

 

とはいえ、地球でも紀元前4000年から3500年のメソポタミアで発明された鋳型そのものを発明したわけではない。マグニスノアの技術は中世頃のそれだが、古代というほど発達が遅れているわけでもなかった。

彼が発明したのは、より金属製品の大量生産に向いた鋳造法、つまり鋳型の一種、『金型(かながた)』である。

剣などの単純な製品に関しては、型を取った後に砕く必要がある砂型や石膏型に比べ、何度でも再利用できるという点で、量産に向いていた。

もちろん、そのままでは金属同士が癒着してしまうため、表面に油を塗ったり、成型後に熱い内に取り出し、水に漬けて焼き入れすることも含めての発明である。

 

この画期的な技術だが、その発明を狙ったように職人の大量誘拐事件が発生した。そのため、技術が他国に流出、予想された利益の半分以上を、ハレリア王国は失っている。職人大量誘拐におけるの損害は、単なる人的被害だけではないのだ。

それ以降、人材の囲い込みは、それまで以上に積極的に行われることになった。その政策があったからこそ、ジョンはルクソリス内域での活動を認められたことになる。

 

そして、人材の囲い込み政策の一環として、事件の遥かに前から存在した一大イベントがあった。それが武具大会だ。

武具大会は3つの新人を発掘する場でもあったのだ。すなわち、役人、職人、兵士である。

 

武具大会は、火外(ひそと)2区にある練兵場で行われる。年に一度、この時だけ闘技場が建設され、一般開放されるのだ。貴賓(VIP)席も設けられており、周囲は厳重に警備される。

今日は武具大会、予選初日。

 

3人の少年の姿は控室にあった。トーナメントのブロックごとに分けられた控室の1つだ。

 

「なんか、超恥ずかしいんすけど!?」

「確かに場違い感が凄えな」

「俺が着るわけじゃねえから問題ねえ」

「酷いっ!?」

 

ワイワイと騒ぎながら、装甲を削って極端に軽量化された鎖帷子の着付けが終わる。それは胸と肩、それに腰を覆うだけものだった。しかもその上に白い外套(コート)を羽織っており、ともすれば普段着のようにも見えてしまう。

重装備が主流の武具大会の控室では、これ以上ないほどに浮きまくっていた。エルウッドの武器である槍だけは、立派に普通の槍だ。

周囲の兵士や職人達も、「何やってんだコイツら」といった視線を送る。

エルウッドは非常に居心地が悪そうだった。

 

「あ、エルじゃん」

 

そこへ、黒いローブの金髪少女が通りかかる。

 

「げえっ、アリス!?」

 

金髪優男が、逃走中に美髯公(びしゅうこう)に遭遇した丞相(じょうしょう)のような声を上げる。元ネタは横山光輝氏の歴史漫画『三国志』だ。

 

「げえって何よ、美少女な幼馴染に対して言うセリフ?」

「いやまあ、見れば分かるじゃないか。変な格好をしてる時は、あんまり知り合いに会いたくないものなんだよ」

「ああ、それ、ウェスター卿のを真似したんじゃないんだ?」

「いや、それも恥ずかしい記憶なんだけども」

「いわゆる黒歴史だな」

「今もクロ歴史が出来つつあるな」

「というわけで担当職人のジョンです」

「同じく担当役人のモーガンです」

「錬金術師見習いのアリシエルよ」

 

お互いにテンポよく名乗り合う。

 

「今からイケメンで女の子の親しい幼馴染のいるリア充を罵る系のお仕事があるのですが、ご一緒にどうですか?」

 

ジョンが提案した。

 

「リアジュー?」

 

黒いローブの少女が尋ねる。白いローブの謎の少女と違い、フードはせずに素顔を晒していた。金髪ツインテールの童顔で、小首を傾げる仕種がアホの子っぽくて中々に可愛らしい。

 

「説明しよう!

『リア充』とは、『リアルが充実している人』という意味の略語である!すなわち、恋人がいたり結婚していたり、親しい異性の幼馴染がいる人のことなのだ!」

 

ジョンは決めポーズで説明する。

 

「そうなのか。『リア』っていう種類の獣がいるのかと思った」

「リアっていう地名があって、そこにいる住人を延々罵るのかと思ったわ」

「っていうか、異性の幼馴染がいる人なんて、そこら中にいますよ?」

「やかましいリア充め」

「ああ、そういうこと。いいわねそれ」

「よし、俺も乗った」

「ええっ!?」

 

ドス黒いオーラを上げながら、童貞2人を含む3人が迫るが、運悪く壁際にいたエルウッドに逃れる術はなかった。

 

5分後。

3人がかりで延々と罵られ、悲しみに沈むエルウッドは放置して、お互いに世間話をする。

 

「なんで錬金術師の見習いがここにいるんだ?」

「錬金術師は大体、見習いがエントリーするからよ。当然、騎士と組むわ」

「騎士が出るのか?」

 

ジョンは首を傾げた。

騎士とは、普通は機動力を持った騎兵を指す。馬上では戦いにくいことが多いため、歩兵よりも実力の高い者がなるのが一般的だ。それに加えて錬金術師が組むということは、より実力に開きが出るということだった。

 

「ああ、ジョンはルクソリスに来て日が浅いんだったな。騎士ってのは、星王器を与えられた兵士のことだ。逆に言えば、衛兵とかから上がったばかりで、星王器の扱いに慣れてねえようなのもいる」

「戦い方が変わるわけよ。一応、近接戦闘にも対応できるように作るんだけどね。この大会で、騎士がどの程度星王器に慣れたか、見極める役目もあるの」

「それが錬金術師見習いの試験にもなるってわけだ」

「なるほど、ということは、騎士にとって錬金術師見習いは、むしろ足手まといになる場合もあるのか」

 

ジョンは納得する。

そして、白いローブの少女よりも幾分小柄で華奢な印象のアリシエルに、視線を向けた。彼女は慌てる。

 

「わ、私はちゃんと作ったわよ!足手まといになんてなったりしないんだからね!」

「では質問。担当してる騎士の得意武器は?」

「え、剣なら何でもいいんじゃないの?騎弓剣盾(ききゅうけんじゅん)って言葉もあるんだし、術なら剣を持ったまま弓を放つみたいなことができるって考えたんだけど……」

「マジかよ。得意武器も聞かなかったのか?」

 

モーガンは驚いていた。

 

よく勘違いされることなのだが、地球の歴史上、剣が戦場の主役になったことは一度もない。主役には常に槍と弓矢という、戦場の重鎮が居座っていた。剣は常にリーチで負けていたため、補助武器として腰に吊るされているのが常なのだ。

最初から剣を抜いて戦うような場面もあるかもしれないが、それは他に武器がないからか、もしくは槍を扱い慣れていないからと考えていい。さらに騎士によっては、戦鎚(メイス)星鎚(モーニングスター)戦斧(バトルアックス)といったものを持っていたために、剣を携帯していないことすらあった。

 

ならばなぜ武器として剣が目立っているのか。

1つは携帯性の高さ。長さを選択すれば取り回しがよく、小さい武器にしては殺傷性能も高い。特に平時、剣は護身用や暗殺用として多用された。また、戦場で剣に頼る時は大抵主武器が壊れた時であるため、最後に命を預けるのが剣となることが多かったようだ。

 

もう1つは推測だが、指揮官が馬上で振りかざすと、とても目立ったからだろう。戦場で指揮官が配下の者達を指揮する際、表面をツルツルに磨かれた剣は日の光を反射するため、よく目立った。そのため、戦意を奮い立たせて突撃する合図に多用された。そこから、勇気の象徴として見られたのではないだろうか。

 

決して男性の象徴だからという理由ではないと信じたい。

 

「なによぉ!あんた達だって見習いじゃない!」

「こいつはどうか知らねえけど、俺は一応工房主だぞ?」

「俺1人だけどな」

「えっ、マジで!?」

「マジなんだよこれが」

「本気と書いてマジと読む」

 

どうでもいい推測だが、この『マジ』というのは、『真面目な話』から転じた略語と考えられる。なのでおそらく厳密には『本気と書いてマジと読む』は間違いだろう。現在では『マジ』は慣用的に別の単語として使用されているようだが。

どちらも似たようなものだと言ってはいけない。

 

「どう見たって防具の性能が低そうなんだけど?っていうかこれ、まんま『疾風衣(ボレアス)』の偽物じゃないの」

「ボレアス?」

 

ジョンは目を丸くして聞き返す。

一応説明しておくと、ハレリアで使用されている言語は日本語ではない。アルファベットなど、英語に近いところもあるが、別言語だ。

転生前は英語も苦手だったジョンだが、さすがに毎日聞いていれば覚えることはできた。赤ん坊からやり直しになった際の、数少ない利点と言える。

人間が苦労もなく言語を覚えることができるのは、11歳までとされているのだ。

 

なぜ彼が驚いたのか。

『ボレアス』という単語に聞き覚えがあったのだ。ギリシア・ローマ神話、北風の神『ボレアス』。これは偶然だろうか?

 

「そういえばジョンって知らないんだっけか。『疾風衣(ボレアス)』ってのは、『風神』ロバート・ウェスター卿の高級武具だ」

「うっそ、ホントに知らないの?『風神』『雷神』『土神』『水神』『火神』って言ったら、ハレリア王国騎士団のトップ5じゃないの!」

 

ジョンが考え込む間にも、2人の話は進む。彼が絡まないだけで、会話の内容が平和になるのは気のせいだろうか。

 

「あ、ああ、フライドチキンなら昨日の昼に食ってきた」

「誰もそんな話してないわよ!なによフライドチキンって!意味わかんない!」

 

アリシエルがやかましい。

 

「知らないのか!?竜田(たつた)揚げも?(から)揚げもか!?」

 

ジョンは愕然としていた。

ハレリアには揚げ物文化というのがないらしい。揚げ物自体は歴史が古く、日本へは奈良時代とか平安時代には伝来していたようなのだが。

 

ちなみに。

『空揚げ』は『唐揚げ』と表記することが多いようだが、辞書などには『空揚げ』の方で載っている。

揚げ物が中国から伝来したのは確かなようだが、唐の時代のものなのかははっきりしていないらしい。もっとも、昔は大陸からの伝来品なら何でも唐物(からもの)と呼んで一緒くたにしていた部分があるようなので、正確な部分は分かっていないそうだ。

 

「まあまあ、2人とも落ち着いて」

 

そこへ1人の騎士がやってきた。

全身白銀の甲冑に、腰に佩いた剣から察するに、アリシエルと組んでいる騎士だろう。

長い金髪の、イケメンだった。体格はエルウッドよりも小柄で、優しい雰囲気がある。

 

「エド兄、どこほっつき歩いてたのよ!」

「ほらほら、あんまり人前で大声を出すんじゃない」

「むぅ……」

「ああ、エドウィン卿、あなたも出場されていたのですか」

 

いつの間にかエルウッドが復活していた。

 

「ははは、誰と組むかは完全に無作為のはずなんだが、まさか実の妹と組むことになるとは思わなかったよ」

「ランセレさんが絶好調のようです」

「ランセレ?」

「説明しよう!ランセレとは『ランダムセレクト』つまり無作為な選択という意味である!宗教的には天の差配という言い方もする、と、思う」

「思うだけかよ」

 

ポーズを決めながら説明するジョンに、モーガンがツッコミを入れた。

当然ながら、ランダムセレクトのことを宗教的になんと言うかなど、どうでもいい話だ。

 

「『ランセレさんが絶好調』というのは、無作為なはずなのに意図的にしか思えない偶然が発生した時に言われるセリフなのだ!」

「ははは、なかなか愉快な少年だ。彼はどこかの工房のお弟子さんかな?」

「それが信じられないことに、この歳で工房主なんだ。お1人様だけど」

「どうせお1人様(ボッチ)だよチクショウ!」

 

説明しよう。

『ボッチ』とは、『独りぼっち』の略語である。主に、友達のいない人に向けてよく使われる、隠語の一種だ。基本的に悪口の1つなので、あまり使っていると怒られるかもしれない。

 

「ほう、では、武具大会の洗礼についても知らないわけか」

「洗礼?」

「この武具大会では予選から騎士も参加する。戦闘力については基本的に考慮されず、順番は無作為に決定される。

さっき、君が言った『ランセレ』というやつだ」

「要するに、いきなり騎士と当たる可能性もあるんだろ?その辺はモーガンからも聞いてる」

「ああ、それなら心配ないかな」

「そりゃそうよね」

 

アリシエルは意地悪に笑う。

 

「今年は様子見で、来年から真面目にやろうってことでしょ?」

「何を言うか」

 

ジョンは言い返す。

 

「ちゃんと優勝できるように作ってある。後はエルウッド次第だ」

「ええっ?」

 

当のエルウッドが驚いていた。そしてジョンはアリシエルに猫耳をくっつける。

 

「ふむ……暇を見つけての急造品だが、雰囲気が猫っぽいからか、結構イケるな」

 

そして蹴られた。アリシエルに、向う脛を。思わず抑える程度には痛かった。

 

「これは一体、なんなんだ?」

「女性の魅力を3割増しにする魔性のアイテムだ」

「何かの術が?」

「魔法など甘えだ。見た目を彩るテクニックにこそ、それの真価はあべしっ!」

「エド兄もそんなのまじまじと眺めないの!」

 

弁慶の泣き所にいい蹴り(ローキック)が入って、片足で飛び跳ねながら悶絶するジョン。そこに金髪ツインテールによってエドウィンの手から取り上げられた猫耳が叩きつけられた。

 

「さ、もうすぐ開会式の時間だから、行くわよ!」

「やれやれ、すまないね」

 

と言ってジョンに声をかけてから、大股で会場へ向かう妹をエドウィンは追って行く。

 

「こっちも行くか」

「そうですね」

「ぬぅ……」

 

ジョンは叩きつけられた猫耳を片手に顎を触りながら唸る。

 

「着け心地の方も何か考えるべきか」

 

その残念な呟きは、周囲の喧騒に紛れ、消えていった。

 

 




民族ジョーク:ハレリア人編。

ハレリア人は星王教徒である。
なぜならば、何かがあるとすぐに星王神殿へ訪れるからだ。
旅人へも、何かあればとりあえず「星王神殿へ行け」が合言葉のように言われる。
ただし、敬虔な星王教徒は「星王神殿の隣にある役所へ」と言い、不信心者は「星王神殿の隣にある衛兵の詰所へ」と言う。
どうやら、この国では星王神殿を中心に物事が動いているようだ。
星王教そのものに関しては、話の話題にも上がらない。
最後に。
星王神殿には、よくその地域の土着神の像などが祀ってあり、よく地方独自の祭りや神事が行われる。
星王の偶像を、少なくとも私は見たことがない。

これはちょっとしたミステリーである。

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