ジョンの伝記   作:ひろっさん

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ブレインストーミング

貴族議会2日目の午後。やはり議会は紛糾した。

今は10人程度の小グループに分かれて、それぞれ討論を行っている。

ただし、同じ大部屋でだが。

 

「いわゆる、ブレインストーミングってやつか」

「ブレインスト……?この無秩序な会議がか?」

 

赤毛ショタジジイの呟きに、隣で聞いていたエヴェリアは小首を傾げる。

 

「説明しよう!

ブレインストーミングってのは、会議のやり方の1つだ。アイデアを並べる時に、邪魔になる要素を排除するのが特徴で、企画会議の時なんかによく使われる。

4つの原則があり、1つは結論を出さない、もう1つは粗野で奇抜な意見を歓迎すること、さらに意見は質より量を求める、最後にアイデアの結合と発展を認めること。

ただまあ、こんな大人数揃って大部屋でやってんの、俺も初めて見たんだが」

「面白そうなアイデアは、ああやって壇上に掲げられるのですよ。

それに影響を受けてアイデアを出し合い、アイデアを発展させていくわけです。小耳に挟んだアイデアがあっという間に伝播し、大騒ぎになるのは午前に見ていただいた通りなのです」

 

巨乳白ローブが指差す先では、(のぼり)のような垂れ幕が掲げられていた。それには、今まで出てきたアイデアが、マグニスノアの文字で書かれている。

 

アイデアを聞いてメモに書く係、それを見て判別するのは宰相エリザで、それを通ったアイデアが大きな紙に書く係に伝えられ、魔法で紙に焼き付けられ、(のぼり)が加わる。

たまに単語の綴りが間違っていたりするのはご愛嬌だろう。やっているのは人間なのである。

 

「アレ、一昨年までは毛筆で太く見えやすいように書かれていたのです。ジョン君のハンコでしたっけ、それが伝わり、研究されて時間短縮のために用いられるようになりました」

「マジでか」

「あの仕事、人数を集めていても大変ですからねえ」

「伝統よりも効率を優先させるべきケースということか」

 

ハンコというのは、以前、ジョンが実物から設計図を作る際に用いた技法の1つである。

部品の平面を印鑑に見立て、インクを塗って紙に押し付けるという方法だ。

それに着想を得た結果、一文字ずつ金属製の型を当て、星王術にて弱い炎の熱で焼き焦がすという方法で印字する方法に辿り着いたのだ。まるで、版画を刷るような作業だが。

 

「なるほど、星王術は威力を一定させるには最適な魔法だ。それで、紙が燃えてしまわない威力に保っているわけか」

「そうなのか?」

「星王器は作ったその瞬間に、威力や効果が決まってしまうのですよ。鍵となる単語を知ってさえいれば、簡単に発動させることができますから、星王器を作った分だけ星王術士が増えるのです」

「その手軽さこそが、扱いの難しい精霊術が戦場から駆逐された理由でもある」

 

例えて言うならば、銃が剣や槍を駆逐したのと似ているかもしれない。

 

「精霊術って聞いたことねえな」

「精霊術士はあまり一般には出て来ないんだ。一般的な人間の生活と折り合いが悪いからな」

「精霊術で使役される精霊は、特定の金属、特に鉄を嫌うのですよ。そのため、鉄器をよく用いる人間の生活とは相容れないのです」

「へー……」

 

ジョンは感心した。

魔法には、そういう問題もあるのだ。それでなお星王術が一般的となっているということは、それだけ星王術の利便性が高いということでもあった。

 

閑話休題。

 

「それで、3つの難題について、ジョン君の意見をお聞かせ願いたいところなのですけれども、よろしいですか?」

「あ、ああ、そうか、そうだよな」

 

異世界転生者としてジョンの存在感を示すのである。彼が貴族議会に呼ばれたのは、そのためなのだ。

 

「街道建設と復興については、建機とかの便利なのを作る以外にどうしようもねえ」

「まあ、そのケンキとやらがどの程度の威力を発揮するかで、工事期間がかなり違ってくるわけだが」

「普通にやりますと、スレイカンは推計で最低でも50年かかると言われていますからね」

「マジで?そんなにかかんのか?いや、建機がないんならそんなもんか。地図で見た限り、かなり長いもんな」

 

議会の初めに、ほぼ全員に必要な部分の地図や海図が配られている。A4程度の大きさで、木版画だ。

 

「加えて、スレイカンといえば険しい山岳地帯で有名だ。未開地も多く、どんな部族が住み着いているのか、わかっていない部分も多い」

「エリザ叔母様は、数百年単位で長引くとナグアオカ系の国から第二陣が送られてくる可能性があると言っていました。代替わりを挟み、準備が整う50年後が目安だそうです」

「じゃあ、まず建機だな。動力が人力か馬力だから不安もあるけど、作るだけ作ってみるか」

「ところで『ケンキ』とはどういうものだ?」

 

黒髪兎耳ゴスロリが尋ねる。

そこが分かっていなかったらしい。確かに、いきなり略称で呼んでいたため、知らない人間には分からないのかもしれない。

 

「建設機械っつって、まあクレーンとかを建設現場で使えるように移動式にしたり、重石を落として地面を()き固めたりする機械だ。今まで人力でやってたのを、機械でやるわけだな」

「ああ、いつもの『生産のための機械』を、今度は建築に応用するわけか」

「間違ってねえけど、なんか釈然としねえなその言い方」

「いいではないですか。硬さが取れてきたのですし。女の子は柔らかい方がいいと昨日言っていましたし」

「それ、もしかして意味分かってねえよな?」

「態度が柔らかい方がいいと聞いていますが」

「そりゃ男もだ」

「あらまあ」

「……」

 

ミラーディアは、変なところで主に男女関係の知識に乏しかったりする。異性と恋愛したことがないため、当然かもしれないが。

逆に、意味が分かってしまったらしく、顔が真っ赤なのはエヴェリア。どうも、昨日の夜に色々とアドバイスされた時のことを思い出しているようだ。

 

「ですが、喫緊(きっきん)の課題は、まずはヌシド群島の方です」

「そりゃあ、俺が思い付くって言ったら、巣になってる岩礁とかをぶっ壊して、大海蛇(シーサーペント)ってのを散らすことくらいだな」

「水の中に干渉するのは、魔法では非常に難しいと言われています。水中の大海蛇(シーサーペント)を攻撃するには、高級器が必要と言われているほどなのですよ」

「水系のも駄目なのか?」

「あまり詳しいことは知らないのですが、そうでなければこんなことは言われないと思います」

「空中と水中じゃ減衰率が違うってことか」

 

ジョンは適当に自分で納得した。

 

「ちなみに、水棲の妖精種は海や湖では絶対的な戦力とされています。私達は、水中では満足に戦えませんから。水中では単騎で水練に長けた兵士50人相当で計算されるそうです」

「ってことは、大海蛇(シーサーペント)ってもしかしてかなりキビしい?」

「はい。最強の海軍を持つワジン皇国でさえ手も足も出ないほどに、海獣の巣というのは人間にとって最大クラスの危険地帯なのです」

 

水棲種は陸に上がると弱くなるというのはファンタジーな世界観では常識だが、逆に陸上種が水中に入ると、単に逆転した以上の力の差ができるのがマグニスノアの常識なのである。

 

「じゃあ、魔法でどうにかってのはかなり厳しいってことか」

「魔導術も、所詮198馬身の壁を超えることができませんから、陸地から離れた場所を攻撃するには、やはり高級器を使用するか、船に儀装円を持ち込むしかないのでしょうね」

「で、それを大海蛇(シーサーペント)に攻撃されると……」

「残念ながらその通りです」

 

2人は溜息を吐いた。

 

「ってことは、『爆薬』か、『火薬』か……」

「はいぃ?」

 

ミラーディアはジョンの方を振り向き、目を丸くする。至極普通に、まるで最初から結論があったかのように、少年がその単語を口にしたからである。

 

「水中を攻撃しなきゃいけねえんだろ?術に頼れねえ状況で」

「はい。その通りですが……あるのですか?そんな方法が」

「ぶっちゃけ、馬鹿みてえにシンプルで、馬鹿みてえな大問題になっちまう代物がある」

「大問題?」

「戦略級儀式だっけ?そういうクラスの威力が、魔法無しで、しかも素材が規制されてねえ今なら個人で作ることも不可能じゃねえって言えば、ヤバさは分かるか?」

「……」

 

巨乳白ローブは珍しく絶句した。

 

「そいつが、俺がいた世界の戦争ってやつを一変させちまった。

剣で斬り合ったり、矢で射ち合ったりする熱い戦いから、一方的に敵を殺戮する冷たい戦いになった。しかも、一般にまでそういう武器が出回っちまって、新興宗教とかがそれを使って人々を従わせるために人を殺しまくるんだ。

大国の政府要人だって例外じゃねえ。アレのせいで、暗殺が誰にでも手軽にできるようになっちまったからな」

「それは……確かに、大問題ですね……。ぶっちゃけ、ヌシド群島の大海蛇(シーサーペント)が小さく思えるほどの大問題なのかもしれません」

 

ミラーディアは、絞り出すように呟く。

 

「悪いけど、さすがに俺の一存じゃ決めらんねえよ。使うかどうか、また上の方の人らに相談してきてくんね?」

「わかりましたよ。異世界の闇とも呼べるもののようですからね。使えば大海蛇(シーサーペント)の問題を解決できる可能性があるとはいえ、慎重になる必要があります」

 

それが発展したものにこそ問題があるのだが、ジョンは言わない。

『火薬』の発明が地球の歴史を一変させた。それは間違いのないことだからだ。

人類史上3大発明品に数えられる『火薬』は、その負の側面が極限にまで発達し、世界を滅ぼしかねないほどの兵器(あくい)を人間から引き出したのである。

 

 

 

「ん~……じゃあ、代替案も考えなきゃな……」

 

ジョンは腕を組んで呟く。

 

大海蛇(シーサーペント)の活動領域がノシツキ湾の出入り口を塞いでしまっているのが問題なわけですからね。少しでも隙間があれば、通り抜けることができるのですが……」

「隙間ねえ……あん?」

「どうされました?○○(ピー)ぱいの形でも見つけましたか?」

「お前が俺をどう思ってんのか、よーく解ったよ」

「あれ、違いましたっけ?」

「違ってねえよ畜生め!」

 

そんなやり取りの後、赤毛ショタジジイは地図の一か所を指差した。

隕石でも落ちたかのように円状に抉れた、巨大な入り江の細長くなっている場所。

 

「ここってさ、でっかい岩山だったりすんのか?」

「確か違ったと思います」

 

ミラーディアは首を傾げながら言った。

ジョンはマグニスノアの地図が読めないのである。というよりも、A4大の紙にそんな細かい部分の地形について記されてはいない。

 

「ノシツキ湾は、1千年前の『魔王』出現実験の際、発生した『魔王』を消滅させるため、『蛇王』が力を振った痕跡です。その影響で東壁山脈が融解して分断され、1千年もの長い年月を経て風化して砂へと変わりました。

ですから、この辺りは砂で覆われているのが基本で、岩があっても非常に脆いと聞いています」

「じゃあ、『運河』って方法はねえの?」

「『運河』ですか……調査は必要ですが、調査してみる価値はあるかもしれません……」

 

そう話し合って、ふと壇上を見ると、そこにはしっかりと『運河建設』の垂れ幕があった。

 

「あったか」「あらまあ」

「さすがに皆、考えることは同じか……」

 

いつの間にか復活していたエヴェリアが呟く。

 

「ちぇい」

「わひゃっ!?」

 

その脇腹を、ミラーディアがつつき、取っ組み合いともじゃれ合いともつかない、微笑ましい何かに発展。

 

「ここにキマシタワーを建てよう(提案)」

「とぅ」「ふぬ」

 

そして、鼻の下を伸ばしたジョンは余計なことを呟き、2人に鉄拳制裁を食らって、爽やかな顔で椅子から転げ落ちた。彼の膝の上で船を漕いでいた子猫は、逃げ損なって赤毛ショタジジイの下敷きとなるが、平然とした様子で少年の身体を引っ繰り返し、出てくる。

2人とも言葉の意味は分かっていなかったが、多分セクハラ発言だという確信があった。

 

ちなみに、大海蛇(シーサーペント)の巣をどうにかする方法として、ここで大勢を占めた迂回案、運河建設が採用されることとなる。

 

 

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