順番設定のため1分ズラし。
○○月、○○日
俺、ハワード・ウト・ガズ・ハーリアは
ハレリア大戦が終結した後、ガランドー王国再建のために派遣された行政顧問団の一員だ。
今回の行政顧問団は、ガランドー王国旧来の支配体制を研究維持してきたメンバーで構成されており、いつでもガランドー王国を再建できるように、血筋の維持も含めて完璧な準備を整えてきた者達だった。
俺の役割は、イーザン平野北部にある城塞都市イーズリーでの調停官だ。
イーズリーはまっすぐガランドーに至る道と、ザライゼンへ向かう道が交差する交通の要衝で、ブロンバルドによる洗脳浸透でガランドー王国が陥落した後、ブロンバルド王国のハレリア攻めのために城塞都市として城壁が増築された経緯がある。
そして、先の大戦で侵攻拠点として利用され、
つまり、エムート経由で連れてきた元奴隷や、イーザン戦役で救出された30万の奴隷兵の何割かを再入植させる必要があるわけだ。
ご丁寧に倉庫に火がかけられ、延焼によって街の5割ほどが燃やされてなくなっていたことから、その辺の再建も併せて行う必要があった。
任務を完遂するには、まず人材、次に資材が必要となる。
幸いにして、人材も資材も、ハレリアには豊富に存在していた。
今すぐ人口が回復するということはないが、年数をかければどうにかなる状態ではあった。
今回の調停官としての俺の役目は、行政の実戦としては不慣れなガランドー貴族のサポートである。
ブロンバルドによるガランドー侵略は、200年も前の話なのだ。
幾らか想定して、対策を練ってきたと言っても、机上論と実践では違うことも少なくない。
特に今回、洗脳による集団自決などは想定外だった。
生き残っているのはハレリア、星王教を邪教とするフェジョ新教の信者や僧侶ばかり。
連中はそれを理由にハレリアを攻撃する過激思想を先鋭化させている。
他の住民が無事に生き残っていたなら賊認定するなり、ガランドー新国王の勅命で処刑してしまえばいい話だが、そうもいかない事情があった。
つまり、彼らもこのガランドー王国の古い文化を残す貴重な生き残りなのだ。
ある程度洗脳はさせてもらうが、
言葉で説得できるようなら、それこそ俺、『知』を司るハーリア家の出番なんだが、ハレリア人と見た時点で門前払いでは話もできない。
そもそも疑心暗鬼で、知らない人間と会おうともしないしな。元住民であろうが問答無用。
まったく、厄介な置き土産だ。
俺の目下の仕事は、連中から古い文化を『抜き取る』ことにある。
確かにそれはハーリアの得意技だが、どこまでできるのかはかなり個人差があるということを知っておいてほしいものだ。そして俺は不得意だ。ということは、求められているのはそこじゃないんだろう。
まずは復興。そこには俺も賛成だ。
××月××日
ルクソリスから洗脳ツバメの急報が届いた。
急報の内容だが、俺がルクソリスへ求めた問題解決のための許可申請に対する返答以外は、こう書かれていた。
『工場生産物、馬車に決定』。
うん?
ええっと、工場って、アレだよな。異世界転生者が作ろうとしてるというやつ。
工房の凄いヤツって説明なら聞いたんだが、どの程度のものなのかは知らない。
いや、内域工廠で作業速度が劇的に変わったって話は聞いたことがある。
確か、アレも異世界転生者が作った機械なんだよな?
異世界の技術を詰め込んだ機械で、馬車を作るわけか。
馬車の方もきっとすごいんだろうなぁ。
……まさか、馬車の『運行表』を塗り替えたりしないよな?
……やばい、ありえる。
倉庫の再建を急がせよう。輸送網の構築も必要だ。
とりあえず、ハレリア式の輸送網でいいか。合わないなら後で弄ればいい。
周辺から馬と
復興優先だというのはわかってたが、こうきたか。
今度の転生者は、魔法の射程限界を超える弩砲を開発した男だ。
油断できる相手じゃない。
それと、ハレリアの流通網を考えると、イーズリーで捌かなければ、ここで大渋滞を起こすだろう。
今はザライゼンもガランドーも、大量の物資を必要としている。
特に食料は、ここで停滞させて腐らせるわけにはいかない。
ザライゼンやガランドーの各都市へも、受け入れ準備を優先するように連絡を入れておこう。
あっちで腐らせてたら、何をしているかわからない。
△△月△△日
倉庫の再建と輸送網の整備を急がせたおかげで、なんとか間に合った。
4頭立ての馬車8台、予定通り2台はここで荷降ろしし、2台が西のザライゼン方面、2台がガランドー、2台がガランドーを通り抜けてブロンバルドまで向かう。
ここではそれぞれ、今まで運んできた馬を交代させる。
住民のほとんどが自殺していたということで繋がれたままの馬がかなり餓死していたため、集めるのに苦労した。
イリキシアに要請して馬を分けてもらわなければ、到底足りなかっただろう。
御者の話では、ハレリア北国境からイーズリーまでの間に、山賊らしい人影を見かけたという。
彼らは武器を持って野営地で待ち構えていたが、新しい馬車のおかげで野営地を1つ飛ばせるようになったものだから、止まらず素通りしていく馬車に、何もできずに見送っていたらしい。
そうか、こっちでは出るのか。
ハレリアでは、ゴメス・ゴードン卿が広めた、山賊のアジトに畑を整備して村にしてしまう方法のおかげで、山賊はほとんど出ないのだ。
なにしろ、食料は過剰生産のおかげで有り余っているからな。
様々な保存食に加工して、他国へ輸出している。
そんな食料を手土産に、討伐ではなく支援するのである。
もちろん、山賊などしなくてもいいように、という自立支援だ。
元々隠れ潜むのに適した場所が、集落、村落になる。
余った食料の有効活用ができる上に、山賊が潜む場所を潰す目の役割も担わせる、一石二鳥の策だった。
元々、先々代宰相の発案で、当時は短期間で土木工事を行う工作部隊という発想がなかったために、戦闘の可能性がある地域へ兵士でもない平民を送り込む必要があるという事実がネックになり、一度は没になったようだ。
それが、それを成し遂げる可能性を持った『不戦』ゴードン卿の手勢、メドッソ隊の出現によって、一度は廃案となった計画に再び光が当てられた。
そして計画は練り直されて再始動し、ハレリア国軍各兵団に工作部隊が新設され、彼らの経験値稼ぎを兼ねて自立支援が行われることになる。
結果、この10年で山賊はほとんど出なくなった。
計画完遂の立役者であるゴードン卿は、ハレリアにおける知恵者の称号である爵位と、北方国境警備兵団の兵団長という地位が与えられた。
29歳という若さにおいては異例の抜擢である。
今、彼らメドッソ隊はザライゼン方面で都市の再建を行っている。
あちらの担当者の話では、下手な役人よりも頼りになるそうだ。
◇◇月◇◇日
馬の数が足りない。人員が足りない。
なんてことだ、想定外だった。
まさか、『運行表』が役に立たなくなってしまうとは。
今まで、馬車の性能向上から時間を一つ繰り上げる程度の調整はあったんだが、従来の受け入れ態勢では追いつかなくなってしまった。
というより、ルクソリスへ向かった馬車に、すべて新型の装置が取り付けられて戻ってくる。
話を聞くと、イーズリーよりもよほど整備されているハレリア国内でも、新型馬車の性能による混乱が発生しているらしい。
おいおい、
あの時はあの時で大変だったが。
こちらもこちらで大変だ。
次々と馬車に積まれた物資が届く、その量が尋常じゃない。
今は
当然、いつまでもは続かない。
時間が経てば馬車の性能が落ちるというわけもない。
宰相には一刻も早く大ナタを振るって収拾をつけてほしいところだ。
@@月@@日。
治癒術士が倒れた。
人員が足りない、馬も足りない。馬が疲れて足を折る事例が増えてきている。
倍増しても足りないとは。
このままでは破綻する。
俺も対処に回らないと。治癒術が使える以上は、穴埋めできるなら穴埋めしたい。
新型馬車は増える。
もうほとんど置き換わってしまった。
新型が出てきてから2ヶ月、3ヶ月だったかな。もう時間の感覚もないが。
働き詰めで時間が足りない。
まともに睡眠がとれる時間が恋しい。
性欲が強くて娼館入りした連中が恨めしい。
ねむい。
**月**日
きがつくと、ベッドだった。
なにをやっていたのか、おもいだせない。
なにもやるきがおきない。
ねむい。
スープ、うまい。
◎◎月◎◎日
最近、肉や芋の形が崩れてなくなるまで煮詰めたスープが流行っているらしい。
1週間ほど寝込んで、どうにか調子を持ち直した。
『運行表』が復活し、色々なところから引き抜いてきた人員が戻っていった。
宰相府から、想定外の事態についての謝罪文が来た。
今回の、新型馬車が引き起こした事態を説明する。
いや、新型馬車というよりも、『工場』だな。工房や内域工廠の凄い版と考えていたが、甘かったということだ。
実のところ、馬車に代わる画期的な移動手段でも少数生産か、あるいは時間がかかるものに限っていたなら、ここまで酷いことにはならなかったのだ。『運行表』も、騎士などが早馬に乗って駆けるような場合とは切り離して運用されている。
当初は旧ブロンバルド領の復興のために、内域工廠で馬車を増産していたらしい。
それを『工場』で改造し性能向上させて、試運転がてら物資を積んでこちらへ回す、という予定だったようだ。
しかし、『工場』の試運転が重なったのがまずかった。
『工場』というのは、量産してこその試運転だということで、とにかく用意されていた馬車を2週間ほどですべて改造してしまったという。
試運転のための馬車が足りなくなったことで、とりあえずルクソリスの役所で使っている馬車を回して改造し……。
ということを繰り返している内に、1ヶ月ほどでルクソリス全域の馬車が置き換わってしまった。
その改造済みの馬車を他の都市に回して試運転している内に、持ち込まれる馬車が次々と改造されていき、ハレリア全土で馬車の置き換えが発生。
なんと3ヶ月ほどでハレリア国内で使われていた馬車の3割が置き換わってしまった。
今回の混乱はそれが原因である。
3ヶ月で馬車を集めた宰相府に呆れるべきか、『工場』の能力に呆れるべきか。
それとも、これでまだ『工場』としては
今、業務が落ち着いている理由は、輸送先の各地各都市の倉庫が一杯になってしまったからである。
消費もされているため、ある程度は稼働しているが、平時運転で問題ないレベルに落ち着いてきていた。
どれほど輸送手段が高性能となっても、輸送先が一杯になってしまったら、常時フル稼働させる必要はなくなる、ということだ。
『工場』について、現在は試運転で見つかった不具合を調整するために休止状態となっているそうだ。
もしも本稼働を始めたらと思うと、空恐ろしく感じる。
異世界転生者が持ち込んだ概念は歴史を変えると言うが、まさしくこれから生活の様式を一変させてしまうのだろう。
それを予感させるには十分な出来事だった。