ジョンの伝記   作:ひろっさん

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すべては動き出す。

 

ジョンは世界会議のために、マリーヤード王国の都市ワリモリへ。

同行するのはモーガン、リディヤ、ミラーディア。

他、役人数名と護衛の兵士達。

 

イリキシア王と共に、その世話役としてエヴェリア、カッセル。

 

当然、宰相エリザ、国王マリエルも。

 

そして、エルバリア暫定トップとなったリンドブルグ辺境伯が、諸侯に挨拶回りをしつつ世界会議に参加するために出立したことを、『私』は確認した。

 

他諸王もそれぞれ、交通手段の未整備な中、ワリモリへ集結しようとしている。

 

死者1千万人を数えた未曽有の大戦は終わりを迎えた。

しかし、ジョン少年にとっての苦難はまだ、ここからである。

 

むしろ、異世界転生者の技術者としては、ここからが本番であろう。

世界会議での、各地の管理担当者の話し合い次第では、『私』自身も深く係わっていくことになる。

 

『混沌の夜明け』より1千年の節目、また一つ時代は進み、人類の再生は間もなく終わりを迎える。

 

この『マグニスノア』――『魔法の大地』と名付けられたこの地に、『私』が流れ着いて、もう4千年もの月日が流れた。

『私』が新たなる役目を負うまで、まだ長い時間が予想される。

 

しかし、待とう。

『私』に焦りという概念はない。

 

他星系に比べ、特異な事情を持つこの星の生態を、これからも観察していこう。

いつの日かこの『記録』が、『私』の『所有者』となった者の、判断の一助となることを願う。

 

 

 

そして、『萌え文化』の浸食がじわじわと、ベルベーズ大陸全土に広まりつつあるのを、『私』は一体誰に伝えればいいのだろうか?

 

ルクソリス発のこのローカル文化は、ハレリア人の行商人やルクソリスを訪れた貴族一行などにより、ハレリア各地へと伝播。

北部は復興中のザライゼンやガランドー、南部は同盟国ソーレオからセレム、マリーヤードを南下中。

西はホワーレンで広がりを見せており、東はワジン皇国から訪れる使者の荷物に忍ばされている。

 

伝播経路、予測は把握できているが、明らかに異世界からもたらされたこの文化を、止めるべきか否か、誰に相談するべきか、『私』は判断に迷っていた。

 

いや、性欲を全体的に強く設定したハレリア人の他種混血を推進する立場である以上、ある意味手遅れであることは分かっているのだが。

 

ゆえに、こんな事例も予想の範疇にある。

 

 

 

ジョンの工場の、いつもの休憩室。

いつもの、と言うには、既に3度も変更されているのだが、物語内では9ヶ月以上が経過していた。

 

そこに、金髪ツインテールの黒ローブ少女が、珍しく神妙な面持ちでやってくる。

 

「当面はベルナールさんとホレイショさんのツートップで回していくことになりますね。

錬金術師はアリスと、もう1人。役人も補助に2人付けます」

「ほうほう、例の御巫(みこ)さんは?」

「彼女の私用で連れていくことになりました」

 

白ローブの少女と、青年。

 

「回しているとわかると思いますけれど、物凄く資源を食いますから、事前準備が必要不可欠です」

「インフラと組んでこその『工場』というわけか」

「そんな感じです」

 

ジョンが世界会議のためにこの『工場』から抜けるため、打ち合わせを行っているのである。

そこに割って入るのは、今は特にとても勇気を必要とした。

 

しかし、ここで言わなければ、後になるともっと大変なことになる。

それが分かっていたため、アリシエルは勇気を振り絞り、告げる。

 

「あの、ミラりん」

「何かトラブルですか?」

 

ミラーディアは、同家の者の前だからか、やや硬い口調だった。

 

「その、ね……」

 

アリシエルは、少し顔を赤くしつつ、モジモジしながら、深呼吸する。

 

「デキちゃったみたいなの」

 

その言葉を理解するためだけに、珍しくミラーディアは10秒ほど沈黙した。

 

それは、非常に珍しいことに、彼女が激情を表に出した事例となった。

 

「……!」

 

ミラーディアが息を大きく吸い込み、手を振りかぶって、青年がその手を止める。

 

それが信じられなかった。

ミラーディアが感情に任せて、暴力を振おうとしたのだ。

 

止められて、やっと自分で気付いて驚愕した。

 

ハーリア家の高順位者ということは、政治家として高い資質を有するということである。

ならば、本来は暴力一つも計算し尽くされたパフォーマンスの一部であるべきなのだ。

そう教育されている。

 

殴りたくとも殴らず、殴りたくなくても殴れ。

ハーリアではそうした、抑制的な教え方をする。

 

しかし、それがその人間にとってストレスにならないかというと、そんなことはない。

だからこそ、ハレリアでは一定の年齢まで自由を与えるのである。

王族として留まるも、平民として下野するも自由。

 

王族として留まるメリットは、命が保証されない抑圧的な環境と引き換えに、衣食住が保証されるということ。

どのように育てたとしても、耐えられない者は耐えられない。

ゆえに、数を育てて資質を確保するというやり方なのだ。

 

本能を抑圧しなければならない環境に耐えられない者は、必ず存在する。

だからこそ、ストレスを解放する専門施設である遊郭が、ハレリアには存在している。

 

「……」

 

ミラーディアは、がくりと膝をついた。

 

今まで、何度か感情を制御できなくなったことはあった。

しかし、それらをすべて乗り越えてきたつもりだったのである。

 

ところが、今のはハレリアの体制を否定する、やってはいけない事だった。

 

ハレリアは多産混血を推奨する国家だ。

子供ができたなら、それは喜ぶべきことなのである。

 

それを、理由はどうあれ、感情のままに殴り飛ばそうとした。

ハーリア家高順位の者として、やっていいことではなかった。

 

こういう事態を防ぐために、ストレス発散用の施設、つまり遊郭が存在しているのだ。

 

そして、ミラーディアは様々な理由をつけて、遊郭を利用してこなかった。

遊郭を利用せずに済んだ理由の中で大きなものが、「今まで耐えられていたから」である。

 

これからは、もうその言い訳は通用しない。

 

 

 

「あの、面白い娘はアレでええのか?」

「あら、爺様(・・)。面白いとおっしゃるなら、分かっておられるのでは?」

「後の時代にはアレの方が安定するのは分かっとるワイ。

しかし、それは余計なモンが南からやって来ぬ限りにおいてじゃゾイ」

「……まさか、動きが?」

「動きも何も、ワリモリに皆で集まるんじゃ。あやつが来ぬ道理もあるまいて」

「あ……」

 

もちろん、『私』にとっては想定内、というよりも、どうでもいい話である。

 

『私』の目的は、目についたマグニスノア人の個々人を導くことではない。

この星の住人全体の滅亡、荒廃を防ぎ、次点として文化、文明を発展させることである。

 

大きな『イベント』の結末が悲劇に終わろうとも、究極的に言ってしまえば関与することではない。

また、今更歴史に関与するには、『私』の影響力は大きくなり過ぎていた。

 

 

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