GATE バグネコ 得地でも一撃撃破せり 作:榛猫(筆休め中)
気づけば旦那さんと飼い主(女性だから一応ニャ)さんが荷造りを始めていたのニャ。
んニャ?何を言っているのかさっぱり分からニャいって?大丈夫、ボクにも何がなにやらさっぱりニャ。
今朝方、村の人がなにやら伝えに来たと思ったら、今度はお二人が堰切ったように慌てて荷造りを始めたんだからニャァ......。
まあ、原因はなんとなく分かるニャ、昨晩に遠くから感じた龍脈を使ったであろう生物の仕業だってニャ。
けど、今はその気配も感じないし、お二人もなんだか忙しそうだしニャァ......
とりあえず、荷物運びならボクもお手伝いするニャ!
◇◆◇◆◇sideChange◇◆◇◆◇
コダ村の中心から少しばかり離れた森の中に小さな小さな家が、一軒建っている。
そう、ご存じ異世界から迷い込んだアイルー事シュラを助けたレレイという少女がその師匠と共に暮らしている家だ。
その家の前には馬車が停められている。
荷台には木箱やら、袋やら、紐で結わえられた本やらが、山の如く積み上げられていた.
傍らで草を食んでいる驢馬がその荷馬車を引くとするならちょっと多すぎるんじゃないか?と尋ねたくなる。
それほどまでの荷物量だった。
その山のような荷物を前にして、更に一抱えもあるような本の束をどうやって載せようかと苦心惨憺している者がいる。
年の頃十四~五といった感じで貫頭衣を纏ったプラチナブロンドの少女と、二本足で歩き、少女の倍ほどの荷物を両腕で軽々と持った白と茶のシャムのような見た目の獣だった。
「お師匠。これ以上積み込むのは無理がある」
最早どこをどう工夫しようと、手にした荷物は乗りそうもない。少女はその事実を屋内へと冷静な口調で伝えた。
「レレイ!どうにもならんか?」
窓から顔を出した白い髭に白い髪の老人は『まいったのぅ』と眉を寄せる。
「コアㇺの実と、ロクデ梨の種はは置いていくのが合理的」
レレイが腐るものではないのだから......と、荷馬車から袋を一つ二つ下ろす。
そして空いたスペースに本の束を載せた。そしてシュラの持つ荷物をどうするかとまた考え込む。
白髪の老人は袋を受け取ると肩を落とした。
「だいたい炎龍の活動期は五十年は先だったはずじゃ。それが何で今更......」
ブツブツ呟く老人を見て、シュラが首を傾げている。どうやら言葉が理解できないらしい。
老人の言う通り、エルフの村が炎龍に襲われて壊滅したという知らせは、瞬く間に村中に走った。
これが普通ならば、着の身着のまま逃げ出さなければならないところであった。
だが、今回に関しては通報が早かったため、荷物をまとめるだけの時間があった。その為に村全体が、逃げ出す支度で大騒ぎしているのである。
老人はぶつくさ言いながらも、レレイの下ろした袋を小屋へと戻した。
寝台の下に隠し扉があり、そこにしまい込もうという腹積もりなのである。
その間にレレイは驢馬を引いてきて荷馬車とつないだ。
「師匠も早く乗ってほしい」
「あ? 儂はお前なんぞに乗っかるような少女趣味でないわいっ! どうせ乗るならお前の姉のようなボン、キュッ、ボーンの.........」
「.........」
レレイは冷たい視線を老人に向けたまま、おもむろに空気を固めると投げつけた。
空気の固まりといっても、ゴムまりみたいなものだが、次々にぶつけられるとそれなりに痛い。
「これっ!止めんかっ!魔法とは神聖なものじゃ。乱用するものではないのじゃぞ!私利私欲や、己が楽をするために使っていいものではないのじゃって......やめんか!」
痛がる老人を見てシュラは『ニャーニャー』と腹を抱えて笑っている。
そんなシュラを抱きかかえ、レレイは荷馬車に乗り込んで膝に乗っけると老人に言う。
「余裕があると言っても、いつまでもゆっくりしていられるわけではない。早く出発したほうがいい」
「わかった、わかった。そう急かすな……ホントに冗談の通じん娘じゃのう...。お主も笑うでないわ!」
老人はシュラに一言怒ると杖を片手に、レレイの隣によっこらせと乗り込む。レレイは冷たい視線を老人に向けたまま語った。
「冗談は、性的なものの場合互いの人間関係を破壊する恐れもある。大人なら弁えて当然」
その言葉に、分かってか分からずか、シュラがうんうんと頷く。
弟子の言葉とペットの仕草に老人は大きなため息を吐いた。
「...疲れる。年は取りたくないのぅ」
「客観的事実に反している。師匠はゴキブリよりしぶとい」
それを聞いていたシュラがまたも大笑いを始める。
最早本当に分かっているような態度だ。
「無礼なことを言う弟子じゃのう」
老人はシュラに関してはスルーすることにしたようだ。
先程からレレイの膝の上で笑い転げているペットに何も言わない。
「これは、幼年期から受けた教育の成果。教育したのは主にお師匠」
それに、とレレイは膝上のシュラを撫でて続ける。
「この子の教育に悪影響」
そう言ってレレイは驢馬の手綱を握り鞭をひと当てした。
驢馬はそれに従って前に進もうとする。ところが荷台の余りの重さからか馬車はピクリとも動かなかった。
「.........」
「.........オホン。どうやら荷物が多すぎたようじゃのう」
「この事態は予想されていた。構わないから荷物を積めと言ったのはお師匠」
「.........」
レレイが老人に冷たい視線を送っていると、不意にシュラがレレイの膝元を離れて驢馬の方に走っていった。
そして驢馬に何かを伝えるように鳴くと、驢馬の代わりに馬車を引っ張り始めた。
すると、先程は一一ミリたりとも動かなかった馬車が動き出したではないか。
レレイと老人はその事実に目を見開く。
まさかその小柄の身体のどこにそんな力があるのか......。
想像もできないほど軽々とシュラは馬車を引いていく。
だが、ただ引いているだけなので馬車にも限界が来る。
やがて車輪がギシギシと嫌な音を立て始めた。
それを聞こえたのか、シュラも馬車を引く手を止める。
馬車が止まると、レレイが馬車からぴょんと飛び降りた。
チラリと車輪に目をやると、車輪は地面に三分の一程めり込みながら、数メートルほど穴を開けていた。
あの重さで無理矢理引っ張ったからだろう。
これでは車輪が何時壊れてもおかしくない。
「お師匠。馬車から降りるのに手が必要なら言ってほしい」
「し、心配するでない。儂らにはこれがあるではないか?ただ人のごとく歩く必要はないのじゃよ」
老人が杖を掲げると、レレイは日頃口うるさい師匠の口調を真似て見せた。
「魔法とは神聖なものじゃ。乱用するものではないのじゃぞ。私利私欲や、己が楽をするために使って良いものではないのじゃ......」
「......あー...」
レレイの温度差を感じさせない視線に、老人が動きを見せるまでしばしの時間が必要だった。
やがてなさけなさそうにな表情を張り付けた顔をレレイへと向ける。
「す、すまんかった」
「いい。師匠がそういう人だと知っている」
レレイとは、そういうことを口にする身も蓋もない娘であった。
◆◇◆◇◆◇◆
魔法を使うことで重量が軽くなれば、荷物山盛りであってもシュラに力を借りることなく驢馬のみの力で容易に引くことが出来る。
こうしてレレイと師匠、そしてペットのシュラを乗せた馬車は、長年住み慣れた家を後にしたのである。