救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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プロローグ 更識楯無の場合

『IS学園からさほど遠くない場所で未確認のISが観測された』

 

 そう聞いた時は戦慄が走った。敵対者かもしれないし、どこかの国で非公式非公開で製作・改造されているISが突然現れたのかもしれないし、はたまた篠ノ之博士が新しいISを作った可能性すらあった。

 更識の当主として確認、搭乗者との対話。その結果によっては捕縛あるいは破壊する必要すらある。

 いずれの可能性にせよ、気を引き締めて臨む必要があった。

 

 すぐに向かうことになった。上でも相当に迅速な対応を求めているのだから当然だろう。

 今までとは程度が違う異例に、今回IS学園の学園長である『轡木十蔵』が向かうことになった。私はその護衛という役回りだろう。

 観測されたのはIS学園から遠くない位置の路地裏。同じところにISを持つような人間が留まっているとは思い難いけど、手掛かりがそれしかないのだからまずはここを見るしかない。

 着いた。狭いというわけでも、短いというわけでもない路地裏。ここに来るための表に面している路地には人通りは少ない上に路地裏自体にも今は人はまるで見えない。向こうの角を曲がった先がどうかはわからないけど、もし戦闘になったとしても人に見られることはないだろう。

 いつでもISを展開できる心の準備をしつつも歩く。対話の利かない敵対者の可能性がある以上は常に展開していたいところでもあるけど、そうでない場合はISを展開していたら警戒されてしまう。

 

「せめて、情報だけでもあるといいけど……」

 

「しかし、こんなところでわざわざISを展開して存在を誇示する必要が、あったのでしょうか」

 

 学園長が素朴な疑問というように呟く。

 

「わかりません。罠の可能性も十分にあるでしょう」

 

 何か手掛かりや罠があるかもしれないと、足元や壁にも注意を払いながら進む。ISの武装や装甲が破損して転がっている可能性は少なくてもあるし、壁などが明確に傷ついていればその場所で展開された、もしくは何かあったのがわかる。

 騒ぎになっていないことから目撃者がいたとは思えない。向こうも騒ぎになると色々と不味いことが分かっているのだろう。

 角を曲がる。光景はさっきまでとあまり変わらない。変わったものと言えば、人が座り、たたんだ膝に顔を埋めるようにして眠っていることだろう。顔が見えないため本当に眠っているのかわからないけど。

 見た目は一言で言うと、黒。黒い髪に黒いコートのようなものと黒いジーパンを着こんで丸くなっているため、完全に黒だ。

 ISを準待機モードで起動する。直後、思わず学園長の手を引いて真横の通路に飛び込んでしまった。

ISを準待機で起動したことによってハイパーセンサーが発動し、頭に滑り込んできた情報は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()I()S()()()()()()()()()ということだった。そしてすぐに後悔した。これではもし起きていたら盛大に怪しまれてしまうだろう。どの可能性にしろ怪しまれるのは不味いというのに、張り詰めすぎた意識が勝手に身体を横道に投げ出してしまった。咄嗟にISを展開しなかったのだけは不幸中の幸いだろうか。

 学園長に口の動きだけでわかったことを簡単に伝える。彼もそれを聞いて表情をより引き締めたようだった。

 こうなってしまっては仕方がない。ここでしばらく様子を見るしかないだろう。

 

 

 数分経った。未だにあの人物は体勢を変えずに丸くなっている。本当に眠っているのか、私を警戒して動かないのか、どちらかわからない。

 しかしなんでISを、しかも打鉄やラファールなどの量産機ではなく未確認のISを所有している人物がこんなところで眠りこけているのだろうか。

 

「……っ」

 

 思考を巡らせていると、黒い塊が身体を僅かに震わせ、その後顔を上げる。どうやら本当に眠ってたらしい。

 しかし、私はそんなことを考えることはできなかった。感じたのは驚愕というほかない。

 

「ほう……」

 

 ――男。上げた顔は間違いなく男のそれだった。歳は私と変わらないくらいだろうか。本来IS……インフィニット・ストラトス――篠ノ之束博士により開発された宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツであるが、現在製作者の意図とは別に兵器として扱われている所謂パワードスーツ――は、()()()()()()()()()()()()()()()()はず。だから驚いた。

 周りをゆっくりとみる少年の眼は、髪と同じ真っ黒な瞳。右の眼は一房だけ長い髪の奥に隠れているが、風で僅かに両目が露わになる。その眼を見た瞬間、ゾッとした。

 もはやその眼は”黒”ではない。”闇”だ。暗く深い闇。暗部にいる私ですら見たことがない深い、深い色。この男は、危険であると本能が告げている。

 そして私はさらに驚かされることになる。

 

「出てこい」

 

 と、私が隠れている横道を真っ直ぐに見据えて言い放ったから。呼吸が浅くなる。しかし観念して出ていくしかない。彼は私の位置を完全に把握している。

 

「よく、わかったわね」

 

 学園長をその場に残して一人で出る。

 

「害意は、すぐにわかる」

 

 やはり正面から見てもその眼は深く暗く、直視するのが少しだけ、怖いとすら思ってしまう。

 

「この辺りで未確認のISが観測された……貴方よね?」

 

「そう……らしいな」

 

 どうやら会話は成立するようだ。その一点に関していえば、よかったと言うしかないだろう。

 ISに乗れる女性の方が今は社会的に強いという意識が根付き、所謂女尊男卑の社会になった今、女性というだけで敵意を向ける男性は多くはないけど少ないとは決して言えない。しかし表立って見せなくても内心でどうなのかまではまだわからない。

 

「貴方の身柄を拘束します。とりあえず付いて……っ」

 

 最後まで言うことができなかった。拘束、という点までを口にした瞬間少年の右眼の色が変化したのだ。

 鮮やかで、それでいて光のない水色に黒目の部分が滲むように変わり、少年の雰囲気が変わる。

 

「ナノマシン……!?」

 

 考えうる可能性は、右眼にナノマシンを埋め込んでいること。もしそうだとしたら、どこかで実験か何かをされていたのかもしれない。男でISを動かせる人間なのだからその可能性は十分にあるだろう。

 

「拘束して、どうする?」

 

 今彼が纏っている雰囲気は、戦い慣れている人間のそれだ。実戦経験すらあるのかと、久しぶりに驚きっぱなしになる。

 そして、今嘘なんてついたら、恐らく彼にはバレるし、危険だ。

 

「……まずは、ISの情報提供、そして貴方のことを調べるわ。その後ISを解析することになる」

 

「……そうか」

 

 嫌な予感がする。こういう時の勘は当たるものだ。咄嗟に自身の専用機である【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】を展開――ッ!

 少年の姿がその場から消える。次の瞬間目の前にいた。

 

「コイツはやれんな」

 

 どこからともなく取り出された木刀が、咄嗟にクロスしたISのアーム装甲に弾かれ折れてどこかに飛んでいく。

 一つ舌打ちをした彼が右手を前に突き出して開いたかと思うと、その手の中に一振りの赤い両刃の剣が握られる。アレからISの反応を強く感じる。

 

「ISを出したなら、真剣でも構わないな」

 

「部分展開……!」

 

 ISのそれとは少し違う発光の仕方にも思えたが、それしか考えが及ばない。

 他にISは展開されていない。何故、ISを展開しないのか。

 思案するコチラに一切の遠慮もなく斬りかかってくる。剣筋は速く鋭い。本当に戦い慣れている。それも、人と。

 けれどコチラはISだ。四連装ガトリングガン内蔵ランス【蒼流旋】を呼び出して構える。相手は現在あくまで生身。本気でやるわけにはいかない。

 鋭い攻撃をランスで受け流していると、何となく彼のことがわかるような気がする。

 今斬りかかってきてはいるが、彼はきっと悪人じゃない。善人かどうかまではわからないが、(IS)からは、どこか彼に対する悪いものを感じない。むしろ好印象な感覚すら感じる。

 ISのコアは人格を持っていると聞いたことがある。それが本当なのか実際に完全に分かっているわけではないけど、IS同士を通してそれを感じ取れてしまうのは、これがそういうことなのではないかと思ってしまう。

 

「貴方は一体……何者なの」

 

「……さぁな。もう、何者と名乗ればいいのかもわからないような男だよ」

 

 そう言う眼が、どこか悲しそうで、苦しそうで。つい――

 

「貴方……名前は?」

 

 鍔迫り合いの状態だというのに、それに対して少し驚いたようにきょとんとしてみせる仕草は、纏う雰囲気からは予想できないくらい実に歳相応に見えて、思わずクスリとしてしまう。

 

「……欄間、仁だ」

 

 そう言う彼の顔は少しだけバツの悪そうな顔で。

 

「私は、更識楯無」

 

「名乗ってどうする」

 

 表情を元の無表情に戻した彼は剣を引いた。少しだけ興味が出たと言わんばかりに。

 

「欄間仁君。更識の名において君を保護するわ」

 

「さっきと言っていることが変わっているが、実際変わらないな。俺とコイツを管理下に置きたいだけじゃないのか」

 

 違う。と首を横に振って見せる。

 

「俺だって自分の状況くらい分かってる。実験動物扱いはごめんだ」

 

 もう一度、違う。と首を横に振って見せる。

 

「じゃあ、なんなんだ」

 

 少し苛立っているかのようにそう問いてくる。暗すぎる眼とは対照的に、しっかりと感情を見せてくる彼は、やはりどこか歳相応で。

 

「更識の名において、と言ったでしょう? 貴方をIS学園に案内するわ。あそこにいる限りは国家・組織・団体に介入されない。……本当は在学中だけだけど」

 

 また驚いたように目を少しだけ見開く。

 少年にこれ以上戦う気がないのがわかっている。学園長に手招きをして出てきてもらう。

 

「更識くん。どういうつもりかな」

 

「彼は……どこか危うい。放置しておくのは言わずもがな危険で、かと言って引き渡しても何をするかわからない。とくれば生徒会所属として私が責任をもって彼を監視します。……構いませんか?」

 

 慎重に言葉を選ぶ。そう、彼は表向きには監視しなければならない。なにせ男がISを操縦するなんて異例のことであり、さらに右眼にナノマシンを仕込んでいるほどの少年なのだから。学園長は少し考える素振りを見せる。

 その間に少年……欄間仁に向き直る。彼も嫌そうな顔をしているようには見えない。意図は、汲んでくれているようだ。

 

「……大丈夫なのですね?」

 

「この名前に賭けて」

 

「……分かりました。貴女に任せることにしましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 改めて、もう一度向き直る。

 

「なんで俺にそこまでしようとする。アンタの立場が悪化しても知らないぞ」

 

「別に大丈夫よ。だって私は――」

 

 ――生徒会長なのだから。




 はい。次に書いたのはISでした。
 この仁の設定についてはまた後程書かせていただきます。少なくとも今までのお話で書いてた彼とは別物だと現状では思っていただければ結構です。
 2013年当時全盛期で書いてた頃はよくISの二次は読みましたが、現在つい最近初めて原作を買いそろえて8巻まで読んだところです。なので全ての設定を把握できてはいないので、もしおかしい点などありましたらご指摘お願いいたします。
 楯無に関してはいつから生徒会長なのか、ISの改名はいつしたのか、という情報がないためこのような形になりました。
 それでは今作もぜひよろしくお願いいたします。
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