救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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 話がなかなか進まない件。そして少しずつ投稿ペースが下がっている件。


”わからない"

「ん……寝てたか」

 

慣れない仕事に存外体力を削られていたらしい。ふと時計を見てみれば既に22時を回っている。変な時間に目を覚ましてしまったものだ。

 

「レーヴァ……も寝てるのか」

 

彼女が言うには睡眠というよりは休止状態らしいため、呼べば起きるだろうが折角を休んでいるのを起こすのも忍びない。

いっそもう一度俺も寝てしまおうかとも思ったが眠気は殆ど覚めてしまった。取り敢えず軽い空腹感をどうにかするため軽いものを腹に入れることにした。

腕を動かす時に必然的に指輪状態の彼女も揺れることになるが、それでも起きないらしいので遠慮なく食事の用意をする。寝起きで凝ったものを作る気にはなれないので本当に軽いものにはなるが。

 

「さて」

 

二枚焼いたトーストを平らげ、木刀を一本呼び出して部屋を出る。元々寮の中でもとびきりの辺地の俺の部屋近くならこれくらいの時間は外で何かをしている生徒はそういないだろう。

時間こそズレてしまったが剣を振る鍛錬は欠かさない。朝でもいいが個人的には夜の方が好きだ。明るいよりは暗い方が人目にもつきづらいだろう。

部屋を出て少し離れた位置で型の存在しない脱力した体制。右手に握った木刀をだらりと下げた俺なりの無形の構えを取る。数えるのも億劫になるくらい戦った中で、自然と固まった型だ。

 

「ふう……」

 

 一つ息を吐き、まずは右切り上げ、そのまま同じコースを逆袈裟(相手右肩から斜め)に振り抜きながら身体を勢いのままに回して再び逆袈裟に斬り抜く。振り抜いた位置の右腰付近に引き寄せ、一瞬の溜めの後に突き出す。そこから仮想敵の腹を水平に切り裂くように右薙ぎ。腕が伸び切った位置で跳ね上げるように左切り上げから、両手に握りしめ仮想敵の左肩を斬り落とすつもりでの唐竹(垂直切り)

 

『精が出ますね』

 

「起きたか。朝まで寝ててもよかったんだぞ」

 

『まさか。ダメージを負っていなければ本来休止は必要ありませんから』

 

 もう少し人間らしくしてもいいのに。と思いつつ今度は左手にもう一本の木刀を握り込む。

 

『ここからは二刀流ですか』

 

「ああ。それに体術もな」

 

 脱力した無形から初手で速く放てるのは垂直切り上げに左右切り上げか左右薙ぎ、もしくは刺突だろう。ある程度戦える奴ならそれは読まれやすい点でもある。そこで体術の出番と言うわけだ。

 剣を持っている相手が初手で蹴りを放ってくるというのは決して多いケースではないだろう。相手の意表を突くのだから剣での攻撃ほど速い必要もない。勿論反応対応されることも予想されるためすぐに他の行動でカバーを取れるようにするのも重要だ。

 

「ふっ……」

 

 初手は真っ直ぐ突き出す形の右足での蹴り。それを向かって左に避けると仮定して左手の剣の柄頭を殴りつけるように振り抜き、突き出した右足で地面を踏み締めそれを軸足にして右回転から右の剣を回転の勢いのまま薙ぎ払う。左の剣で隙を消すように左薙ぎから右の剣での刺突、左の剣で右薙ぎ、一瞬跳躍して左右の順で蹴りから逆手に持ち替えた右の剣で殴りつけるように切りつけ、着地と同時に首を斬り落とすように右の剣を手前に引き寄せつつ左の剣で心臓狙いの刺突。

 

「まだソードスキル無しだとこんなものか……」

 

『木刀の軽さだと感覚がズレるのは仕方ありませんね。まさか真剣をこんなところで振るう訳にもいきませんし』

 

「それに打ち合いでの想定もまだ甘い。仮想敵が文字通りの仮想だから多少は仕方ないが……」

 

『ISでの高速戦闘ではソードスキルの硬直が致命的になる以上は自身の腕を磨くしかありませんけど、ままならないものですね』

 

「IS戦闘の訓練はまた勝手が違うとは思うが、生身で戦えて損はないからな。IS相手に生身で戦えるとは思わないが、コアの数は限られている以上生身の人間と戦う機会もあるだろう」

 

 もう一度脱力して木刀二本を順手に構える。いつも鍛錬で狙うのは仮想敵の無効化もしくは殺害。今度は仮想的に動きを持たせる。そのために先程までよりも強く意識を集中させる。朧げな黒いシルエットが夜の闇の中に象られる。意識するのは俺自身の動きだ。

 先手は相手。同じ構えからの突きを最低限の動きで身体を逸らして避ける。右半身を引いたことで左半身が前に出、そのまま左足で蹴りを放つ。これを右剣の腹で受けた相手は左剣で逆袈裟切り、左足を着地させると同時に右剣での袈裟切りで迎え打つ。そのまま鍔迫り合いに移行するが当然お互いそのまま膠着するはずもない。

 残った一本の剣を同時に薙ぐ。こちらもぶつかり合うが今度は弾き合い、逆手に持ち替えて袈裟に切り抜く。これを仮想敵は鍔迫り合いを思い切り弾き、バックステップで躱す。

 距離が大きく空き、息を大きく吐く。

 

「ふう……やっぱり埒が明かないな」

 

『当然ですが自分同時の戦いじゃ勝負はつきませんね。特に仁は相手の設定レベルが高いですから』

 

「まぁいつものことだな」

 

 仮想敵を動かす時は集中力が一気に持っていかれるため一度休憩を入れることにする。一度部屋に入りペットボトルの水を取り出し、外に出て少しずつ飲み下す。動かして火照った体に一気に染み渡る。

 

『仮想敵での鍛錬ではやっぱり限界がありますね』

 

「ああ。だが仕方ない。鍛錬相手を用意できるわけでもないからな」

 

 水を半分ほどまで飲んだところで一度置き、立ち上がる。

 

「やれることをやって、少しずつ積み重ねるしかないさ」

 

 今度は腰に鞘を二つ呼び出す。木刀のサイズに合ったそれに木刀を一度二本とも納め、左右の腰に下げる。

 

『居合ですか』

 

「ああ。抜く動作こそあり柄を握った瞬間にコースがわかりやすいという弱点はあるが、代わりに速く鋭く重い一撃。それに居合のソードスキルもいくらかある」

 

 他のソードスキルでのスキルコネクトによるカバーは必須になるが、初手の片手での一撃ならば硬直は問題ない。リスクは高いがそれに見合う効果も期待できる。あまりソードスキルに頼りすぎるのはよくないが。

 腰の鞘に左手を添え、右手で柄を握る。起動するのは刀単発突進ソードスキル《桜花一閃》。居合スキルを他の武器種より多く保有する過多なソードスキルの中でも、踏み込みの距離と速度に重視を置いたソードスキルだ。その特性故に初手での一撃に特に向いているソードスキルと言えるだろう。

 

「せぇっ!」

 

 剣が纏う桜色の光が最高潮に達した瞬間に身体をぐっと沈める。自身の身体が自分以外の意思で動き、俺はそれに合わせてソードスキルが中断されないように注意しながら踏み込みを強くする。ソードスキルのシステムアシストと呼んでいたものはこの世界でも有効に働き、人間の出せる速度を一瞬超える。俺はそれをさらにアシストする。

 鞘から木刀を抜きながら全身を一本の矢にするイメージ。最高速のままで木刀を真っ直ぐに振り抜く。

 ゴォッと風を切り開く音と、ギュオンッとその風を巻き込む音を耳に捉えながら約5メートルほどの距離を切り抜けた。

 

『お見事。ですがちょっと本気でやりすぎです』

 

「む……」

 

 後ろを振り向いてみれば、地面を抉るような二本の跡が残り、今度は前を見れば近くの木の幹の俺の腹から胸に当たる高さに7割程までザックリと斜めに斬撃痕が残ってしまっていた。

 

「……やっちまったか」

 

『やっちまいました』

 

 地面はともかくとして木は直しようがない。《桜花一閃》の距離の把握は出来ているつもりだったが、セルフアシストを加えたことで距離が思いの外伸びてしまったようだ。

 

『心意も乗っていました。無意識とはいえ注意してください』

 

「イメージが強すぎたか……?」

 

『イメージの強さは勿論ですが、同時に集中力が最高潮だったことでそれが増幅されてしまいましたね』

 

「なるほど……痛っ」

 

 などと話しているうちに木刀を振り抜いた右腕に骨が軋み肉が裂けるような痛みが走り、木刀を取り落としてしまう。

 

「生身での心意はやっぱり危険だな……」

 

 俺への反動は勿論だが、心意自体も危険極まりないだろう。木刀一本でこの被害では元々(原作)の心意システムが心意使い相手以外に使ってはいけないという暗黙のルールもよく理解できる。尤も俺が意識して使えるのは射程増加と加速程度だが。

 

『最高潮の加速に心意による射程増加と加速が合わさった結果の鎌鼬のようなモノでしょうか』

 

「飛ぶ斬撃ってとこか。モノにできれば……」

 

『駄目ですよ?』

 

「だが……」

 

『駄・目・で・す・よ?』

 

「お、おう……」

 

 思いの外強く言われ、つい迫力に負けてしまう。

 

『仁はもっと自分の身体を労わってください。それをやるにしてもせめて私を展開しながらです』

 

「わかってるよ」

 

 これはこの世界に来てから幾度となく彼女に言われていることだ。手首と肘の中間辺りが裂けたのか血が滴る腕をぶら下げながら左手で木刀を拾って鞘に納めながら返答する。

 

『ある程度の傷程度なら私が向上させている回復力で普通より早く治りますけど、痛みや足りない血まではどうしようもありませんからね?』

 

 部屋から包帯を持ってきて軽く巻きながら座り込む。

 

「心配性だな全く……」

 

『心配性で結構です』

 

 やれやれと溜息を吐きながら立ち上がる。

 

「なんにせよ今日はここまでだな。この腕で剣を振るのは少しキツイ」

 

 心意の反動による痛みは大体数日続く。最悪骨にヒビが入っていることもある以上はこれ以上続けない方がいいだろう。

 

『骨はギリギリですね。ですがこれ以上やるとすぐにヒビが入るでしょう。賢明です』

 

「自由に力を使えないってのも厄介な話だ……」

 

『力は守るものにも奪うものにもなります。わかっていると思いますけど……』

 

「守るためならいくらでも奪うさ。そんな覚悟はずっと前に決まってる」

 

 腰の二本の木刀と鞘を消滅させて部屋へ向かう。

 

「あら、もう鍛錬は終わり?」

 

「……いつから見てたんだアンタ」

 

 レーヴァとの会話は聞かれない程度に呟いていたつもりだったが、まさか本当にいるとは思わなかった。

 

「二刀流くらいからかしらね」

 

「こんな時間に何の用だ。更識さん」

 

 時間は既に23時を回った。

 

「ほら、IS訓練の場所の件よ」

 

 若干顔が引きつっているのはきっと気のせいだろう。そういうことにしておこう。

 

「もう見つかったのか?」

 

「ええ、使用されていなくて現在倉庫のような状態になっている第8アリーナを生徒会の個人用として使ってもいいと許可が出たわ」

 

「今回も生徒会長特権か」

 

「まぁ、そんなところね。ただし」

 

 条件付き、と書かれた扇子が広げられる。相変わらずよくわからん扇子だ。

 

「倉庫代わりになっていると言ったわよね。第8アリーナの掃除がその条件」

 

「そうか。その程度なら別に構わん。昔から肉体労働は男の仕事とも言うからな」

 

「IS用機材もあるからなかなか骨よ?」

 

「一種の鍛錬とでも思っておけばいい。最悪誰にも見られていない確認をした上でコイツに筋力補助を頼むだけだ」

 

 元々篠ノ之束のおかげで誰かに目視さえされなければ展開自体は問題ないのだ。つまり誰にも見られていなければ部分展開で筋力を借りるのは問題ない……はずだ、

 

「それなら君に掃除は任せるわ」

 

「元々俺のための配慮だろう。それなら俺がやるのが筋だ。だがいいのか?」

 

「うん?」

 

「俺が敵だったら、お前は敵に塩を送ろうとしてるんだぞ」

 

「あら、生徒会長(学園最強)に反旗を翻すつもり?」

 

「まさか。アンタが強いのなんて身のこなしでわかる」

 

 だが、と区切ってから続ける。

 

「アンタが生徒会長として、学園と生徒を守るというのなら外部の人間に気を許しすぎるのは良くないってだけだ。もし俺が無意識に操られたりしたらどうする」

 

「鎮圧するだけよ」

 

「やれればいいがな」

 

「私を甘く見ないで欲しいわね。そうだ、アリーナが解放されたら相手してあげる」

 

「だからそれが塩を送る行為だと……言っても無駄かこりゃ」

 

「それじゃ明日からアリーナの掃除頑張ってね。勿論生徒会としての仕事はしてもらうけど」

 

 わかってるという意思表示に左手をひらひらと振る。

 

「あ、あと」

 

 そう言って指差されるのは切り裂かれた木の幹。

 

「それ、どうにかしておいてね」

 

「だよな……」

 

 それだけ言って更識は戻っていった。

 

『僥倖ですね』

 

「ああ。なんでそこまでしてくれるのかわからんがありがたいのには変わらん」

 

『仁は人の本質を見極めるのは得意でも、人の感情を読むのは苦手ですからね』

 

「お前はわかってるんだろうな」

 

『ええ、勿論』

 

 言うつもりはないのだろう。やれやれと今日何度目かのため息を一つ吐いて飲み干したペットボトルを持って部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 ――― SIDE 更識楯無 ―――

 

 自分の部屋に戻りながら腕に立った鳥肌を撫でる。アリーナの件について話をしに彼の部屋を訪ねるだけのつもりだった。けれど彼の鍛錬らしきものを見て、正直ゾッとした。

 木刀とはいえ一撃ずつが重く鋭い。最初に私と斬り合った時はまるで本気を出していなかったのが一目でわかった。

 二刀流のところから。何て言ったけど嘘だ。最初から見ていた。一刀流の時点で相当なもの。それも人を無力化、もしくは殺害することに特化した剣。何より最後の居合だ。速度や踏み込みも異常だが木刀で木を伐り落としかけるなんて聞いたこともない。

 彼にはああ返したけれど、本気の彼と生身でやり合ったらどうなるかわからない。組手や訓練で本気になることはないだろうけど、もし本気で敵に回したら……。

 鳥肌がまた立ってしまった。本当に彼を鍛えてもいいのだろうか。更識(暗部)として彼を味方につけることができたとしても明確なジョーカー。敵に回したらそれこそ最悪だろう。

 

「欄間君……君は一体何者なの」

 

 彼について調べた情報と全然違う。剣道を習っていたという情報こそあるけど今彼が振るっていたのは剣道なんかじゃない。何より両親が死去している以外はただの一般人のはずで、あそこまで排他的な性格なんて情報すらなかった。まるで……。

 

「他人が乗り移ったかのようね……」

 

 二重人格だなんて情報もなかった。しかし他人が乗り移るなんてこともまた聞いたことがない。

 

「でも両親のことに触れた時もあまり気にしてないような感じだったわね……」

 

 頭を振ってこの考えを追い出す。そんな非現実的なことを考えるだけ無駄だろう。両親については彼が割り切っているのかも知れないし。

 しかしあの剣を振っている時の顔。集中していただけじゃない。いつも以上に目付きが鋭くまるでそこにいる敵への憎悪を剣に乗せているかのようだった。

 けれど普段の彼はそれでいて優しいような一面もある。不器用で生徒会メンバーだけではあるが気遣うような言動をたまにする。

 

「わからないなぁ」

 

 どっちが本当の彼なのだろうか。それも含めて私は彼をしっかりと見定めなければならない。




 書きたいことを書いてたら別のことを書いている。よくあると思います。プロット君が息していません。
 相変わらず4000文字どころの話じゃ終わらない最近です。原作にはいつ入れるのでしょうか。
 ではここまでありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
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