アレからいくらか時間が過ぎて12月。それも冬休み前日。寒くなってきたが普段からすることはあまり変わっていない。強いて言うなら更識と、その場にいた場合は布仏虚も含め飯を食う割合が増えたことと、生徒会室に布仏姉妹や他の生徒がいない時にレーヴァと更識が雑談することが増えたくらいだろうか。
ISでの実戦訓練もようやく始まりはしたが、未だ更識の
IS総稼働時間としては纏う時間が明確に増えたため比例的に伸びていっており現在約160時間程だろうか。
更識相手での訓練での勝率はと言えば素手組手で3割。真剣を用いた模擬戦で8割といったところ。素手の方は俺が動きの無駄が省けてきたことで耐久性が上がったことでの勝率の向上。逆に真剣では二刀流に更識が慣れてきたことと一戦限りの意表を突いた動きによって勝率が下がってきている。一度見たら同じことは対応するため一戦限りなのだが、それでも俺に勝つことがあるくらいには彼女の手札は多い。
さて、生徒会での仕事にも大分慣れ、学園でも俺の事は更識家の召使いとして知れ渡っているらしい。現状そういう設定で生徒会を手伝っているのだから当然の帰結ではあるが、何故か最近来る女生徒が目に見えて増えた気がする。具体的に言うと資料を持ってくる生徒に随伴する生徒が増えている。休み時間はもっと有意義に使うものではなかっただろうか。いや本人達が友達についていくという名目で随伴しているのならそれは有意義なのだろうか……?
「しかし……」
『どうしましたか?』
「休み時間になった途端座って一息つく暇すらなくなるのは如何なものか……」
そう、休み時間は女生徒の到来が止まない。確かにこの時期資料が増えるのはわかるがそれにしたって多すぎる。
「もう場所によっては一期目のIS適性検査の時期だからね。それなりに忙しいのは仕方ないわよ」
「アンタは知らないだろうが数が異常だ。どう考えても随伴生徒が多すぎる」
「現状欄間さんは学園唯一の男性ですからね。噂が広がった以上一目見ようとする生徒が多いのでしょう」
「それにしては見たことある顔がよくあるんだが……」
「ランランイケメンだし~人気もでるよね~」
「勘弁してくれ……」
現在昼休み。生徒会室には更識、布仏虚、そして一足先に冬休みに入り温まりに来ている布仏本音がいる。休日にそれなりの頻度で本音の姿は見ているためそんなに久し振りという感じはしない。
『寮の部屋が特定されるのも時間の問題ですね』
なおレーヴァは更識以外に声を聞かせてはいない。というか届かせる人間の指定はできるにはできるが疲れるらしく、こういった場面では俺の頭に声が響いているだけだ。
「勘弁してくれ……」
もう一度同じ言葉を呟きながら頭を押さえて天井を仰ぐ。ただでさえ現状この3人と半年近くという長い期間友人としての関係を続けているのは不味いというのにこれ以上知っている顔を増やすのは厄介だ。
とはいえ明日からは冬休み。仕事は激減するだろう。いくらか心が休まる時期だ。
「そういえば~ランランいつも制服だけど他の服持ってるの~?」
「服? 持ってるには持ってるが……」
基本的にこの世界に来た時に軽く羽織っていた黒コートと半袖と長袖2種類の黒い服にジーパンが2着ほど、そしていくらかの下着一式くらいしか持っていない。後は現在来ているIS学園の制服が数着といったところか。
とある理由でここ2か月前程からは両手に肘より少し下までを覆う黒く薄手の指空きタイプのロンググローブをしているがそれはまた別の話だろう。
手袋以外のその旨を伝える。
「ダメだよ~見た目いいんだからオシャレしないと~」
「男には服のバリエーションは必要ないだろう。どうせ制服以外着るのも街出る時くらいだ」
しかし本音も普段は袖余りの制服ばかり見るが、休日の服装は袖が余っているのはいつも通りだがそれ以外は服装のセンスは疎い俺にもわかるくらいにはいい。まぁたまに着ぐるみのような恰好をしていることもあるのはわからないが。
「本音の言う通り、勿体ないですよ欄間さん」
「虚さんまでそんなことを……」
この姉妹意外と服装についてうるさいのかもしれない。
なお余談だが虚には敬語を使っているままなのは、なんというか更識とは違って"先輩らしい先輩"というイメージがあるからだろう。
「そもそも街中で目立ったら面倒だ。現状ですら女尊男卑の連中にこれ買えこれ持てこれ払えって言われるってのにこれ以上目立つのは勘弁だ」
実際女尊男卑に染まった連中は自分がISに乗れるわけでもないというのに自分が偉いというように振舞い、男を見かけたら物を奢らせるなど割と頻繁に見る光景だ。断れば
「殴られた」などと喚き散らしたりする上に、反論してもそれは通らない。そして糾弾されつくした後に運が悪ければ連行されるといった具合だ。なんとも厄介な世界だ。俺はそういった連中に言い寄られたら断った上で騒ぎになる前に逃げるが。
少なからずこの学校にもそういった連中がいるにはいるが表立って何かをしてくるという事が意外と少ない。他の生徒の中でそれを良しとしない生徒がいるためだろう。自分の立場は誰だって失いたくないものだ。
「なにより俺には服のセンスはない」
「ふむ……ならば明日は空いていますか?」
「空いてますが……まさか」
「生徒会で外出だ~」
「そうなるのか……」
断りたい気持ちはやまやまだが、断ったら後が怖い。特に虚の方が。
「ごめんなさい。私は明日はちょっと……」
珍しい。更識がこういったイベントを断るとは。布仏姉妹はというとそれぞれ納得したような顔をしている。更識にも俺の知らない何かがあるのだろう。暗部としてなのか"更識楯無"としてなのかはわからないが。
「なんにせよ行くのは確定なのか……」
若干の頭痛に苛まれ再び頭に手を当てて天井を仰ぐ。確かに女性といれば変に言い寄られることもないだろうし服のセンスも補われはするが……。
気は進まない。しかし断れもしない。行くしかないのか……。
『覚悟を決めるのです。たまにはいいじゃないですか』
味方がいない……。
――― 翌日 ―――
結局来てしまった。学園前で待ち合わせという事で例の黒い服装で門の前に立っている。上が黒パーカーなら下も黒ジーパンだ。流石にコートは置いてきた。アレは目立ちすぎる。
「お~早いね~」
「待ち合わせ10分前。相変わらず真面目ですね」
あちらも早めに現れる。虚はともかくとして本音が早いのは珍しい。
どちらも服装は外行きのそれだろう。本音が黄色いコートの下に黒地に控えめな白水玉の服と黒いスカート。そしていつも通りの黒タイツ。虚が同じコートで白の色違い。前は閉じていて下は黒いズボン。真面目な彼女らしいと言えるだろうか。上手く説明こそできないが2人とも似合っているという事はわかる。
「誘われて遅刻するほど落ちぶれてはいませんから」
「感心感心~」
「あなたが言えることかしら」
「え~今日は起きたし~」
「……取り合えず行きましょうか」
このIS学園からどこかに行くならば大体モノレールを使うことになる。俺も殆ど街には出ないがたまに出る時にはモノレールだ。今回の目的地であるショッピングモールも駅前にあるためモノレールを経由していくのが最短だろう。
モノレールに乗っている間は基本的に本音が話していることを聞いているくらいだった。虚が資料関係をサボることがある更識について文句を溢したりもしていたが。尤もそれを虚や俺が片付けることもない上、虚が何が何でも捕まえるので結局後々返ってくるのは更識本人なのだが。
「着いたわけだが……服のコーナーなんてまるでわからないぞ」
「任せて~」
という事で2人に任せて待つわけだが。
『お前は服とかわからないのか?』
『仁がまともに見たことないのに私にわかるわけないでしょう。服なんて私買えませんし』
それもそうだ。
さて20分ほど待ってようやく2人が戻ってくる。いくらかの服を抱えて戻ってくる様はまさに女子といった具合だが持っているのは男物である。
そして俺はこの買い物に付き合ったことに後悔することになる。
「いいね~」
「これなら合わせるのはこっちの方が……」
「こっちもいいよ~」
「悪くないわね……」
「いいよいいよ~」
「素体がいいと選びがいがありますよ欄間さん」
といった具合に完全に等身大着せ替え人形と化してしまったわけだ。これは参ったというか疲れる。今更抗議できるわけもなく数十分ほど着せ替え人形の着せ替えを布仏姉妹に満喫させることになってしまった。しかしここまで虚が生き生きしているのを見るのは初めてだ。普段は根を詰めすぎている印象があるため余計にそう思う。
『ぷっ……くくく……仁が……仁がされるがままに……くくく……お人形みたいですよ……ぷはっ』
『笑いを堪えるなというかそもそも笑うな。見た目以上にキツイんだぞ』
『まぁまぁ……初めての経験はいくつあってもいいことですよ……ぷくく……』
駄目だこの相棒……。
結局1時間近く着せ替え人形遊びをされた結果、紺のロングカーディガンにロング丈の白Tシャツに黒のロングパンツの組み合わせが一つ。そして茶のコーチジャケットに水色のニットセーター、黒のワイドパンツの組み合わせが一つを進められた。
「……変じゃないか?」
前者の服装を着せられたまま店を出ることになった。今まで着てたものは片手の袋の中に放り込まれている。
「似合ってるよ~」
「ええ。欄間さんなら大体の服は似合いますよ」
「そうですか……やっぱりわからんな」
「夏になる前にまた来ようね~」
また来るまで彼女らとの関係は続いているだろうか。IS学園に入学することにはなるだろうからなかなか切ろうとしても難しいだろう。好ましいとは……やはり思えない。だが同時に少しだけ悪くないとも思ってしまっているのもまた事実だ。そんな自分が――
「……厭になるな」
つい小さく口から洩れてしまった。は、として二人を見るが二人は二人で雑談している。聞こえてはいなかったようだ。ふう、と息を吐く。
きっと気の迷いだ。彼女らと長く接してしまったが故の気の迷いだ。そう思い頭を軽く振る。
「……ん?」
何か見覚えある水色の髪の毛が二つ見えたような気がする。少しだけ目を凝らす。
一つは更識かと思ったが少し違う。よく似てはいるが髪の跳ね方が外側の更識に対しその子は内側に跳ねていて、その髪は肩程までの更識に比べ背中まで伸びている。ついでにタレ気味の眼には眼鏡をしている。近くの多目的ホールからでてきたところだろうか。……もう一つは建物の影に隠れている更識本人だったが。
「何やってんだあの人……」
「かんちゃんだ~」
「かんちゃん?」
「たてなっちゃんの妹だよ~」
「今日が簪お嬢様の適性検査の日だったのですよ」
「妹いたのかあの人」
様子を見るに妹が心配で今回俺達との同行を断ったのだろう。検査がこんな駅近くの多目的ホールで行われていたのならついででも構わなかった気はするが。
「お~いかんちゃ~ん」
「行っちまったし……」
本音が簪とやらの方に行ってしまったのでこちらは更識の方に足を運ぶ。簪は本音ごしにこちらを見たようだが本音を見て驚いたのか恐らく気付いてはいないだろう。
「やれやれ……」
こちらは更識の方へと足を運ぶ。
「何やってるんだアンタ」
声をかけた瞬間更識の全身がビクリと跳ね上がったように見えた。声を出さなかったのは一応流石というべきことだろうか。
「き……奇遇……ね?」
「奇遇……でもないと思うがな」
横目でチラリと虚を見ればニッコリと返してくる。間違いない。この人確信犯でここに連れてきたな。
「アンタ妹いたんだな。そんな素振りも話題も1つも見せなかったじゃないか」
「……そりゃ、ね。わざと避けていたんだもの」
「その割には大切そうじゃないか。アンタが俺の気配にすら気付かないってことは相当集中してたんだろう」
「……自分のそういうのには疎い癖に痛いこと言ってくれるじゃない」
「このストーカー紛いなやり方もなにか理由はあるんだろう?」
バツの悪そうな顔をして更識が黙る。
「話したい時が来たら話せばいいし来なければ自分の中に留めておけばいい。生憎自分から詮索して手を貸す程お人好しじゃない」
ただ。と続ける。
「大切なものはいつだって手の届く範囲にあった方がいい。手が届かずに取り零して壊れたらそれは必ず後悔することになるからな」
それだけを言って離れる。
「……さっきのは体験談ですか?」
「……まぁそんなとこです。なに、よくある話でしょう。例えば食器を落として咄嗟に手を伸ばしても届かない。とか」
恐らく彼女が聞きたいのはそうじゃない。そんなことはわかっていて、敢えてそう言った。彼女ら布仏姉妹は人の感情を読み取るのが上手い。だとしてもやはりそう簡単に話せるものでもないのだ。
本音と簪の方を見る。どうにもいい雰囲気というようには少々見えない……というより本音はいつも通りなのだが簪の方が穏やかでないといったところか。
「更識があの調子じゃ、なにか姉妹間の関係の問題か」
虚に聞いてもらうつもりでもなく独り言が口から零れる。
「そういう時は正面切ってお互い吐き出してしまえばいいってものだが、そう簡単な話でもないってわけか」
俺とて更識楯無という人間と半年近く接してきたのだ。ある程度のことは推測できる。
彼女は暗部らしからぬ優しさを持っている。大方妹を巻き込みたくないとかそういう事を考えていたりするんだろう。でなければあれだけ心配する妹の事を隠し続けるなんてしないだろう。
「……考えても仕方ないか」
そうだ。俺がこんなことを考えてどうするんだ。まさかまた接する相手を増やすわけにもいかない。それなら彼女らが自分でなんとかするのを待つのが一番だ。これは俺が考えるべきことじゃ、ない。
「ランラン難しい顔してる~」
「む……」
いつの間にか本音が戻ってきていた。
「……なんでもない。他に見ていく場所はあるのか?」
「いえ、目的は達していますし特に希望がなければ戻る予定です」
「……そうですか。ならもう戻りましょう」
帰りのモノレールも行きの時と特に変わらなかった。疲れが特別溜まっているわけでもないため本音の話を聞きながらの帰宅だ。
待ち合わせた時と同じくIS学園の門の前で解散となった。
「じゃあね~楽しかったよ~」
「こっちとしては着せ替え人形はもう勘弁願いたいもんだ」
「次は夏ですね」
「やめてくださいよ……」
本音はどうやら今日は泊まるらしく虚の寮の部屋と同じ方向に二人で歩いて行った。去り際に
「貴方は十分お人好しですよ……」
という声が聞こえた気がしたが、本当にほんの僅かだったため定かではない。
部屋に戻ってベッドに身を投げ出す。
「少し疲れたな……」
『お疲れさまでした。鍛錬はどうします?』
「辺りが暗くなってからやる。それまでは休ませてくれ」
わかりました。と返答が来てからしばしの沈黙が部屋に広がる。
2時間ほど経った。夕食を腹に入れ、服を脱いで上裸と、買った物とは違う元々持っているズボンを履いて部屋を出る。
「今日は
『はい。ですがしっかり止め際は見極めてください。索敵は最大限にします』
用意していた水を頭から被り全身を濡らしながら言うと、指輪の姿から剣の姿にレーヴァが姿を変える。彼女本来の姿である真っ赤な炎の剣をロンググローブを外した両手で握りしめる。
その両手にはところどころ火傷の痕がある。これを見られたくないためにロンググローブを使うようにしたのだ。
これから行うのは
「炎よ……!」
その一言と共に剣から炎が巻き上がる。両腕に焼けるような熱を感じるが構わずに振るう。剣を振ればそれを追尾するように炎が動き、放つイメージを取れば炎が空中を駆け、守るとイメージを取れば障壁のように炎が広がる。その一つ一つの動きが俺の両腕や身体を焼く炎となって返ってくる。
「ぐっ……」
やはり長くはもたない。炎が腕の近くを通るたびにそれに沿って走る両腕の痛みに耐えきれずレーヴァを取り落としてしまう。
『やっぱり危険です。今日はここまでです』
「くっ……」
『自分の身体も大切にしてください。仁が五体満足でなければ守れるものも守れません。急いては事を仕損じるという言葉もあります』
尤もだ。だがどんな可能性でも考慮するならこの訓練も必要なものだ。レーヴァは生身で振るえるIS武装のようなものでもある。それならばもしISが展開できない時が来れば生身での戦いの術は増やすべきだ。
とはいえ無茶をするべきでもない。大人しく部屋に戻ることになった。
両腕をチラリと見る。普段はロンググローブに包まれている部位はヒリヒリと痛みを感じ、ところどころが赤銅色に変色している。
「なぁレーヴァ」
『なんでしょう』
ロンググローブを指に通しながら指輪に戻った相棒に声を掛ける。
「お前は、俺にアイツらと仲良くしてほしいのか?」
前々から思っていた疑問だ。
『ええ、勿論。仁のやり方を否定したいわけではありませんが……まだ思い出せませんか?』
「……ああ」
『……そうですか』
それ以降レーヴァも黙ってしまった。
俺自身思い出したいのか思い出したくないのかもわからない以上は正直どうしようもない。彼女がこう言うからには悪いことではないのだろうが、参ったものだ。
服のセンスなんてないから苦労しました。必死に検索して似合う服装を考える始末。
布仏姉妹的にはデートとかそういう事よりも素体がいいものを着せ替えるのが楽しい感じでしょうか。
ようやっと原作に入れそうです……だいぶ一話ごとの時間的には飛ばしてるつもりでしたが随分と掛かりましたね。