冬休み中盤といった雪の日。現在俺と更識、そして布仏姉妹は第8アリーナに集まっていた。
俺と更識は赤と水色のISをそれぞれ身に纏い、姉妹は管理室でそれを見ている形だ。
「ようやく実戦訓練か」
「ええ。いくら君が生身で並外れて強いとしても勝手が少し違うわ。入学も近づいてきている以上そろそろIS戦闘に慣らしておいて損はない」
こちらはまだコアネットワークに接続していないのでそのまま肉声でのやり取りだ。
「こちらはいつでも大丈夫です」
虚の声が備え付けられているスピーカーを通して届く。今回布仏姉妹はデータの収集に来ている。レーヴァは未確認ISであるため収集データは重要であるためだろう。尤もそのデータを基にレーヴァ自身も参考にするとは言っていたが。
同時に【
今の機体での経験がまだ少ないとはいえ相手はロシア代表IS操縦者。明確に格上だ。勿論勝てるなどとは思っていないがただで負けてやるのも気分が悪い。
『最初から全力。ですよね』
「勿論」
以前【霧纏の淑女】のデータは"視た"。情報的アドバンテージとしては向こうも俺のISはよく見ているからイーブン。いや、俺はあの機体でできることをほぼすべて知っているためにこちらが有利か。
注意すべきは【蒼流旋】に内蔵されている4連ガトリングと【アクア・クリスタル】によって生成されるISのエネルギーを伝達・変換することができるナノマシン。これによって彼女は自在に水を操る。特に後者は水蒸気爆発や分身体の生成、さらにはIS周辺に展開している水のフィールド等汎用性に優れる。
これだけ見れば炎を操るレーヴァテインとは相性が悪く見えるが、彼女の炎は簡単に消えなどしない。一矢報いることはできるだろう。
「先手、いつでもいいわよ仁君」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらう。行くぞ更識さん」
結局向こうは名前で呼ぶようになったがこちらは変わらずだ。ついでに虚からも名前で呼ばれるようになった。そもそも布仏姉妹にしたって区別のために下の名前で呼んでいるのだから別に構わんだろう。
地面を蹴る。ブースターを吹かして一気に接近しながら二刀を抜剣。同時に四機全ての【炎の枝】をレーヴァに任せる。四機全てが散開しシールドエネルギーを犠牲に炎を纏う。
「最初っから本気ね!」
「様子見ができるような立場でもないからな!」
×を描くように同時に斜めに振り下ろした二刀がその中心点に差し込まれた大型ランス【蒼流旋】によって止められる。右手首を返しフェイシングのように突き出す。更識は半身を僅かに逸らしてそれを回避するが引き戻していた左の剣を水平に振るうことで追撃。ランスを跳ね上げて弾きながら更識は一気に飛び退る。直後に更識が立っていた場所に二つの炎の弾丸が突き刺さる。
ビットと
「レーヴァちゃんの援護か、厄介ね……」
「いくらハイパーセンサーが360度カバーしてるとはいえそれに反応するか」
今度は更識が武器を持ち換えて接近してくる。持ち替えたのは蛇腹剣【ラスティー・ネイル】。文字通り蛇のように柔軟にしなり、各関節部を分離させ、内蔵されているワイヤーにより伸びることで予想しづらい攻撃は勿論、拘束にも使用できる武器だ。
「こういうのはどうかしら」
ビットの一つが蛇腹剣に絡み取られる。それが鉄球のように振るわれ、全長約150cmの鉄の塊が迫ってくる。
『なんて乱暴な!』
レーヴァの悪態と同時に空中に逃げる。流石にあれは防御できない上に薙ぎ払うように放たれているため逃げ道は上か後ろしかなかった。
ビットを離してこちらに向かって放たれる蛇行する剣に意識を集中する。普通の剣であれば振るう腕を見れば軌道は予測できるがこの武器はそれができない。袈裟に振り下ろしたかと思えばワンテンポ遅れて逆袈裟から飛んできたり、横に薙いだと思えば真下から襲い掛かってくる。これの理由は振るう瞬間に更識が巧みに手首を使って軌道を調整しているためだ。
「何が実戦経験は少ないだ……使いこなせてるじゃないか」
ハイパーセンサーによって広がっている視界で何とか対応はできるが反撃の機会がなかなか生まれない。ただしそれは"俺"が反撃できないだけだ。
炎を刃の形にしたビットが更識に向かって三機殺到する。鬱陶しそうに三方向からの斬撃を蛇腹剣を用いて捌き始めるがそうすれば今度はこちらの手が空くことになる。
二刀に炎を纏わせ、背中の推進翼からエネルギーを放出、同時に推進翼内にそれを取り込む。その状態でもう一度推進翼からエネルギーを放つ。つまり加速するエネルギーを2回分纏めて放出する。IS操縦テクニックの一つである
「はぁっ!」
刺突は
「あら、当たっちゃった」
「水のバリアか……!」
「ご明察♪ そろそろお姉さんもちょっと本気出しちゃおうかな!」
瞬時に水を纏った【蒼流旋】によってすぐに引き戻した右の剣がさらに弾かれ、腹に付きつけられる。この形は不味い――
「バースト!」
「っ! 守れ!」
四連ガトリングから一気に弾が掃き出され、咄嗟にその位置に作った炎の障壁により弾丸を溶かすことで表面積を減らしたため、いくらか衝撃は軽減されるものの大量のシールドエネルギーが削られながら身体も大きく離される。
体勢を直して顔を上げ、更識を視界に収めるとニッコリと笑って左手をひらひらと見せる。つー、と背筋に嫌な予感が冷たい汗となって流れる。
グッと左手が握られる。同時に俺の真後ろの空間が爆発し機体ごと身体が吹き飛ばされる。
「くっ」
これこそが【霧纏の淑女】の切り札の一つ、【
弾かれる方向で爆発が起こりピンボールのように連続で吹き飛ばされる。都度炎での衝撃軽減は行っているが、ISは衝撃を防ぎ切ることはできない。爆発の衝撃が全身を叩き機体の中身の身体にまで痛みは届くが歯を食いしばって耐える。連続で弾かれているため体勢を立て直すのが難しい。だがこのまま手も足も出ずに負けるのは癪だ。
『シールドエネルギー残量50%切りました』
「チィ……ぉお!」
全身の装甲から炎を思い切り噴き出し水蒸気爆発を起こすための水蒸気を一気に吹き飛ばす。一時的な処置に過ぎずすぐにナノマシンによって供給されるだろうが、その一瞬が今は大事だ。
「荒業ね!」
「そうでもしなきゃ届かないからな!」
体勢を立て直し炎を纏ったまま再度の瞬時加速。単一仕様能力を全身からフルで発動させたままであるためシールドエネルギーが継続して減少していき残り35%。次はない。ここで一発決める!
ビットが4機全て刃の形の炎を纏って更識に殺到する。同時にこちらも炎を操り炎の波をけしかける。更識はビットをガトリングで軌道を逸らしながら炎の刃を避け、水を纏わせた【蒼流旋】で炎の波を切り裂く。
その切り裂かれた炎の波の中心を割って出るように瞬時加速の勢いのまま真っ直ぐに突っ込む。更に切り裂かれた炎の波を操作し2本の槍と化したそれを更識の後ろから襲い掛からせる。完全な挟み討ち。
『残シールドエネルギー25%!』
「はぁっ!」
先程までと違い炎を纏わせた二刀から更に炎を吹かし、レーヴァが熱を跳ね上げることで炎が蒼く変色する。
本来空中での剣術というのは難しい。踏ん張るための地面が存在しないためだ。いつもと同じように剣を振れば機体ごと身体がくるんと回転してしまう。しかしそれは利点にもなり得ることがある。
二刀を揃えて空中を回転するように遠心力を乗せて右下から切り上げて振り抜く。更識は【蒼流旋】で剣を受け止めようとするが、全身を使って体重と遠心力を乗せた二撃でランスは両腕ごと跳ね上がる。しかし二刀の斬撃はそれによって更識に届かない。しかし目的はこれを当てることではない。
「ッ! 考えたわね……!」
後ろから迫っていた二本の炎の槍が相手の機体に突き刺さる。水のバリアで受け止めるつもりでこちらの二刀を対処したのだろうが、俺の狙いは初めから斬撃を当てることではなく、色が蒼くなる程超高熱まで上がった炎によって水のバリアを蒸発させることだった。
ほんの僅か、シールドエネルギーにして10%程度だが確かに届いた。それを認識した直後に強い衝撃によって空中から叩き落された。
『残シールドエネルギー0%。負けましたか』
「……流石に強いな。次からは同じ手もなかなか通じないだろうし考えないとな。お疲れ、レーヴァ」
ISが自動的に解除され、地面に座り込む。
「お疲れ様。まさか食らっちゃうとは思わなかったわ」
「一矢報いることができてこっちは満足だよ……痛っつつ……」
「ちょっと大人げなかったかしら♪」
「切り札を1つ温存して何を言うか」
「ミストルテインの槍は切り札も切り札。模擬戦で大怪我したくないもの」
まぁそうだろう。誰だって練習で大怪我などしたくない。
しかしIS戦闘には慣れてないのもあって疲れる。エネルギー補給の間休憩したとしてもなかなか倦怠感が残りそうだ。
「思った以上に単一仕様能力中のエネルギー消耗がでかかったな……あそこまで高温に上げれば機体がダメージを受けるわけだ」
「霧纏の淑女の水のヴェールを突き破る程ってなると相当よ。でも蒼い炎はここぞって場面だけにしておきなさい。レーヴァちゃんが持たないわ」
「そうだな……そう何度も打てるもんじゃない」
レーヴァだって痛みがないわけじゃない。彼女自身が熱さをどこまで感じるのかはわからないが無理をさせるわけにもいかない。それならばなるべく彼女の負担も減らすように立ち回るべきだろう。
「お疲れさまでした。2人共」
「お疲れ~凄かったね~」
布仏姉妹が管理室から下りてきたようだ。
「初戦闘とは思えないいい試合でした。初めてでお嬢様に2撃当てたのは誇るべきことです。いいデータが取れていますよ」
「そりゃよかった。ふー……」
「エネルギー補給するよ~」
本音に指輪状態に戻ったレーヴァを手渡す。俺よりも整備科の虚の妹で整備科志望の本音の方がそういった事には詳しいだろう。
「取り合えずピットの方に戻りましょうか」
同意して立ち上がってピットに戻る。第8アリーナは生徒会貸し切りなため人目を気にすることもないのは気が楽でいい。
ピットに戻ると本音がエネルギー補給をしようと補給機器の方に向かっていく。
『優しくお願いしますね本音さん』
「ふぇ?」
思わず額に手を当てて天井を仰いでしまう。なんというかもう頭が痛い。
「……いいのかしら仁君」
「俺が知ったことか……」
視線が本音の手元に集まる。
「……本音、腹話術でも習得したの?」
「違うよぉ~」
「……レーヴァ。お前は何でいつもそうサプライズみたいにいきなり喋るんだ」
『反応が面白いじゃないですか』
「立派な人格になりやがって……」
より頭が痛くなる。説明しないといけなくなってしまった。彼女の気紛れにも困ったものだ。
「つまり、最初から仁さんのISには人格が芽生えていたと」
『そういう事です。私はレーヴァテイン。好きに呼んでください』
「よろしくね~レイちゃんでい~い?」
『勿論です。よろしくお願いします。本音さん』
『レ』ーヴァテ『イ』ンから取ったらしい愛称が早くも付けられた。
「特例も特例。ビットの操作が円滑だったのは彼女が操作していたんですね」
「そういう事です。コイツが自分から話すまでは黙ってるつもりでしたが、この通り」
「二人で一人。経験の差を連携で埋めてくるのがキツイのよねぇ」
『私は仁の相棒ですから!』
それぞれの前に出されたモニターの中でまた腰に手を当てて胸を張って自慢気にそう言う。
「しかしこれで知る人間がまた増えたな……」
『私が彼女達を信用したから話したのです。大丈夫ですよ』
「まぁその点では大丈夫だろうが……やれやれ」
『あ、それはともかく補給お願いします。凄い疲れました』
「わかった~」
すぐに適応している辺り本音は流石というべきなのだろうか。
「いい子ですね、仁さん」
「ええ。いい相棒ですよアイツは」
「大事にしてあげてくださいね」
頷くことで答える。当然だ。IS戦闘をする以上ある程度は仕方ないがなるべく彼女の負担は抑えていくつもりではある。そのためにもこれから入学までの時間も精進しなければ。
全身青痣不可避なクリア・パッション連発。絶対痛い。
ようやく次回原作入り予定です。長かった本当に長かった。原作入りしてからは原作沿いの予定なのでオリジナル展開は少なくなるかもしれませんが、次回以降もよろしくお願いします。