文字数が1話ごとに増えている気がするのもきっと勘違いではない……。
耳を塞いだまま様子を見ていたが、どうやら織斑千冬の一喝で静かになったようだ。耳から手を離す。隣の席では耳を塞ぐのが間に合わなかった本音が目を回しているがアレはもはや一種の音響兵器。仕方ないだろう。
しかしIS学園――ISを作った原因である日本が全ての運営を義務付けられ、その技術を育てた上で他国へ渡すことを義務付けられている、云わば日本への戒めのような学園――に入学してくる生徒と言えば全世界からのエリート。尤もIS適性があるというだけでエリート扱いされている節こそあるが、エリートという名目なのだから生徒達はそれを理解した上でちゃんとして欲しいのだが……どうやらパンダ扱いは俺達だけじゃなく織斑千冬もそうらしい。どちらかと言えば人気アイドルのようなそれだが。
「さて、自己紹介の続きだったか。続けてくれ山田君」
という事で自己紹介自体はきちんと続けるらしい。織斑担任がこちらに視線を送っている辺りその本意は俺の自己紹介なのだろうが。
しかし目立った自己紹介は特にない。強いて言うならば本音は喋りが相変わらず非常に間延びしている上に好きな物はお菓子だと豪語した事が印象的だったが、俺としてはもう慣れているから特別どう思うわけでもない。
「欄間くん、お願いします」
「はい」
緊張しないわけではないが別段喋れない様な程ではない。そもそも殺し合いに比べれば大抵の事の緊張など塵に等しい。
「欄間仁だ。趣味は自己流の剣や武術の訓練。昼休みや放課後は生徒会の方で手伝いをしている。その際見た事がある者もいるかも知れないが、まぁよろしく頼む」
当たり障りはないだろう。自己紹介中は皆静かに聞いていたし、ひそひそという話声が聞こえる程度で何ら問題が起こるようには見えない。表情は終始変えていないため無表情に映っているだろうが。愛嬌を振りまくようなパンダになるなど御免なので別に構わない。
自己紹介も「ら」の俺の後には続く人数はもう少ない。すぐに自己紹介の時間は終わりを告げた。
「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」
ここは軍隊ではないのだが……いや将来の軍人は確かにこの中から少なからず出るだろうからあながち間違っていないかもしれないが、これを発言しているのが織斑千冬でなければ、もしくは男教師ならば確実に生徒から文句の1つでも出てくるであろう発言だ。
しかしさっきから織斑担任からのプレッシャーが酷い。生徒会室で会う時もそうだがあまりにも警戒されている。勿論俺も警戒しているのだから仕方のないことではあるが、なかなかに重いプレッシャーを投げ付けられ続けるのは疲れるのだ。勘弁願いたい。
さて、1時間目はIS基礎理論授業だった。何ら問題なく内容は理解できたしむしろ授業としては物足りないと言っていいだろう。実際に本当に基礎的なものなのだから当然ではあるのだが。
1時間目の後の休み時間になり、織斑が確か篠ノ之箒と名乗っていた少女に連れられて廊下に出て行ったのは確認したが、さして興味もない。篠ノ之箒は恐らく篠ノ之束の妹であることは束本人が稀に溢すことがあったのでわかっているが、まぁ俺には関係ないだろう。
むしろ問題としてはクラス中から向けられる視線と言えるだろう。誰かが話しかけてくるわけでもなくひたすら視線が向けられている。一言で言って鬱陶しいという他ないが、立場的にしょうがない。頭痛薬を持ってきていてよかった。救いとしては――。
「ランランお菓子持ってない~?」
この少女の存在か。謎の緊張感の中で本音だけはいつも通り長い袖を持ち上げて可愛らしく顔の前に持ってきて、眼を細めたほんわか笑顔を崩さない。
「持ってきてない……というか虚さんから菓子は食い過ぎるなと言われてなかったか」
「食べたいものは食べたいし~」
俺らの会話を見て送られてくる視線は、俺へ対する好奇心や恐怖心、そして本音への羨望といったところか。とはいえ自分からどうこうできない者にこちらからアクションを掛けるつもりなどない。俺としては本音は俺などに関わらず、向こうに加わって彼女自身の居場所を作って欲しいのだが。
「ちょっとよろしくて?」
などと考えていたら机を挟んで正面からのアクションだ。本音の方に向けていた顔を正面に向けると、僅かにロールのかかった金髪にやや吊り上がった青の透き通った瞳、そして制服はドレスのように改良が加えられた女生徒が立っていた。
「イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットか。アンタみたいなエリートが何か用事でも?」
当然誰かは知っている。更識や虚の指導の元ISについての勉強は勿論として、各国の顔と言っても過言ではない代表候補生並びに国家代表の事は頭に叩き込んである。そして今目の前にいるセシリア・オルコットは長距離遠隔攻撃システムを用いた兵器、通称BT兵器開発を得意とするイギリスの代表候補生だ。そして同時に彼女の専用機もBT兵器を扱うために、イメージ・インターフェースを扱う事の可能な第三世代だと噂されている。
噂されている。というのは純粋にイギリスが情報を公開していないためである。自国の最終兵器とも言える最新のISについてなど隠したいのは当然なのだから致し方ないことだ。とはいえこのクラスに彼女がいる限り必ず見る機会はあるし、学園の方にデータはあるだろうが。
「まぁ! わたくしがそのエリートであると知ってその態度ですの!? わたくしに話しかけられるだけでも光栄なことであると知っていてその態度なのですか!?」
「友達でも作ってこいよ。本音」
いい機会だと思い本音を女生徒達の方に押し出す。彼女には俺なんかより隣に立つに相応しい人がすぐにできるだろう。なにせ彼女は優しいのだから
しかし……やかましいな。もう1人1年にいる
代表候補生という立場を誇るのはいい。そこまでのし上がったのは本人の実力であるからだ。だが代表候補生というのはあくまでも候補に過ぎない。その候補生が問題を起こしたり実力が足りなかったり、とにかく相応しくないと判断されれば当然その座からは降ろされる。なので驕るのは基本的には危険なのだ。より精進して欲しい、という意味の『候補』なのだから。
そしてその代表候補生であることで驕っているのがこの目の前の少女だ。やはりこの学校、エリートと言っても隠し玉と言える程のエリートまでは送られていないのではとすら思ってしまうのは仕方のないことかもしれない。
「聞いてますの!? これだから後進的な技術しか持たないような島国の極東の猿は……!」
後進的と言われても、ISを開発したのは篠ノ之束という日本人であるということは思考の外に置いてきているのだろうか。尤もあの天災以外は基本的に技術として遅れているのは事実なのだが。
『何か言わなくていいんですか?』
レーヴァの言葉にふと意識を思考から現実に戻すと、真っ赤になったオルコットが目を更に吊り上げてこちらを、如何にも今怒っています。という表情で睨みつけている。どうやら思考中にもいくらか話していたようだが意識の外に置いてしまっていたらしい。
「無視ですの? 言い返すこともできませんの? 本当に男は弱い生き物ですわ!」
大方盛大に蔑んでいたのだろう。俺自身は何を言われてもなんとも思わないし、日本という国に固執しているわけでもないので正直話を聞いていたとしても態度が変わることはなかっただろう。ただ――
「そういえば生徒会は会員の推薦方式で会員を増やすのでしたわね。貴方のような猿を懇意にしているという生徒会長の程度も知れるというものですわ!」
――その言葉だけは、"欄間仁"にとって聞き流すことはできない。
「ヒッ」
だから、真っ直ぐに見てしまった。更識や本音に怖いと言われ続けていた眼で。深い黒をオルコットの眼に合わせるように。
少し離れた位置でピクッと本音が反応したのが見えた。そのまま一言女生徒達に断ってこちらに向かってくるらしい。
「ランラン、ダメだよ~それは」
「む……」
オルコットは完全に怯えた眼でこちらを見ている。そんなに怖いのだろうか、この眼は。
「お、お、覚えてらっしゃい!」
そう言い残して自分の席の方へ走って行ってしまった。
「ランラン眼怖いんだから~」
「カラーコンタクトでもするべきか……?」
とはいえただの一般生徒に目を合わせてもこんなことになったことはない。
「そうじゃなくて~怖い感じ、出てたよ~」
「怖い感じ……?」
『殺意です。仁の殺意は常人からすれば毒なんですから気を付けてください』
「そうそう~それ~」
レーヴァはほんの少しの声量で声を出し、俺達二人にしか聞こえないようにしている。
「……そうか。気を付ける」
殺意……か。
「でも、ありがとうね~」
「なにがだ?」
「たてなっちゃんをバカにされたから、怒ってくれたんでしょ~?」
「……」
そう、なのだろうか。関わりを持たないようにしてきた俺の相当に久し振りのミスである生徒会メンバーとの関わりは、俺にとってそこまで大きいものになってしまっていたのだろうか。それは、果たして
『今の仁にその答えは出せません』
再び脳内でのみ響く声に戻ったレーヴァの声。
『今答えを出そうとしてもそれを否定しようとするだけです』
きっとそうなのだろう。何故なら"俺"は俺が居場所を持つことを否定しなければならないのだから。
頭を振って考えを追い出す。そうだ、今考えたって仕方ない。レーヴァが"今の俺"には無理だ。と言ったのなら例の記憶が関わってくるのだろう。それを思い出してからでもきっと遅くはない……遅くは、ない筈だ。
ふと周りを見てみると、俺に向けられている視線は大部分が好奇心から恐怖心に変わっているように見える。殺気がどういうものかわからないにしても何か感じるものがあったのだろうか。わからないが別に残念とは思わない。
「やれやれ……」
キーンコーンカーンコーン。というチャイムの音が2時間目の開始を告げる。周りの生徒もこの時ばかりはちゃんと席に着く。何故かというと――
パァンッ!
と、あそこで頭を押さえて涙目になっている男のようなことになりたくないからだ。
さて2時間目だが、問題なく内容には着いていける。ノートを取る必要も感じない程度には俺の勉強は見についていたようだ。やはり更識にしても虚にしても教え方がよかったというべきだろう。
一方織斑はというと。
「ほとんど全部わかりません」
「え……ぜ、全部、ですか……?」
山田副担任の顔が完全に引きつる。俺とて無表情のまま引きつった。続けて今の段階で他にわからない人がいるかという問いかけがされるが、当然誰も挙手はしない。
「……織斑。入学前の参考書は読んだか?」
「古い電話帳と間違えて捨てました」
間髪入れずにパァンッ!という音が織斑の頭頂部から鳴り響いた。あまりにももう1人の男は残念だったようだ。頭痛薬を今すぐ服用したい気持ちを押さえつける。
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」
「い、いや、1週間であの分厚さはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい、やります」
更識の話では確かコイツにも専用機が贈られるらしい。加えて篠ノ之束の口振り的にはあの天災がそれの開発には1枚噛んでいると考えていいだろう。そんな大それたものがコイツにいるのか、と思いも一瞬するが、どちらかと言えば国目線ではデータ収集が、篠ノ之束目線では織斑がISを操縦できる理由と、第四世代であるそのISのデータ収集が理由だろう。
「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに使えば事故が起きる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」
言ってることは間違いなく尤もである。ただしISを『兵器』と言ってのけるのでは、やはり織斑千冬もISの本質など理解していない。深く知れと言うのならば、特例である俺を除きまだ誰も辿り着いていないISコア人格との会話まで辿り着かなければそれは"知った"というにはあまりにも浅い。
あるいは、本質まで分かっている上で敢えてそれを見ないようにしているのか。
思わず無表情の仮面が剥がれ眼を細めてしまう。
「……貴様、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」
俺達男に限ってはそうだろう。しかしそれを悟られるほど顔に出してはいけないぞ織斑。姉弟故に読み取ったのかもしれないが。
「望む望まないに関わらず、人は集団の中で生きなければならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」
俺のような例外こそいるが基本的には織斑千冬の言う通りだ。望まない集団の中で愛想を振りまくスキルというのもまた必須スキルであり、人として生きるならば必要だ。
さて、そんなこんなで2時間目も無事終わり休み時間。今度は織斑がオルコットに絡まれているが、どうやらオルコットの調子も戻ったようで随分と声が響いている。
「しかしよく喋る奴だな……」
俺の時もあんなにまくし立てていたのだろうか。確実に半分以上は聞こえてなかったが。
頭痛薬の瓶を手の中で転がしながら、今度は送り出した本音の方を見る。やはりというべきか彼女の友達作りスキルは非常に高く、既に笑顔で話し合っているのが見える。こちらの視線に気付けば他の女子の顔が強張ることは目に見えているので邪魔をしないように窓の外でも見ているとしよう。
しばらく窓の外、というか空をのんびり眺めているとチャイムが鳴る。3時間目だ。今回は出席簿による殴打音は響かなかった。
「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
この時間は織斑担任が担当するらしい。まぁ世界最強が装備についての話をするならば御誂え向きと言えるだろう。
「ああ、その前に再来週行われるクラス代表戦に出る代表者を決めないといけないな」
そういえばそんなものがあるとか言ってたな。クラス代表戦後はクラス長のようなものになると説明される。実際のところは現時点での各クラスの実力推移について調べるという目的があるらしい。
「はいっ、織斑くんを推薦します!」
「私もそれがいいと思います!」
「私は欄間くんがいいと思います!」
「では候補者は織斑一夏に欄間仁……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
自他推薦ありなのだからまぁこうもなるだろう。なにせ目立つ。白羽の矢が立つのは明白だ。
「お、俺!?」
「織斑。席に着け。欄間のように落ち着けんのか。さて、他にはいないのか? いないならこの2人で投票するぞ」
「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな――」
「自薦他薦は問わないといった。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
それは流石に横暴ではなかろうか。本人の意思くらいは鑑みて欲しい。やらされるよりはやりたいものがやる方がいい気に決まっているのだし。
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
バンッと机を叩く音と共に立ち上がるものが1人。この場で俺達以上に目立ってくれれば、当然やるつもりが欠片もない俺としては面倒がないのだが。
『よくよく考えればランランって呼び方パンダみたいですよね。立場としてもピッタリの愛称でしたね』
『何故今それを言う? 思いついたにしても唐突過ぎるだろ』
『要は頑張ってくださいパンダさん。って言いたいんですよ』
味方がいねえ。
さて、俺がレーヴァと話しているうちに向こうもヒートアップ。日本を侮辱された織斑がオルコットに対しイギリスの飯は不味いと言ってのけたことでオルコットが本気でキレたようだ。
「決闘ですわ!」
「おう。いいぜ四の五の言うよりわかりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
……黙っているがこれ俺も巻き込まれるのが目に見えているんだが。向こうはと言えば織斑がハンデはいるかと問い、周りから笑いが起きる。まぁ代表候補生にISについてよく知らない男が挑むなど、本来逆にハンデを貰った上でぼろ負けするのが目に見えているのだから仕方ないが、こういった嘲笑は気分のいいものではない。そもそもお前らのせいで今言い争いが起きているという事を理解してもらいたい。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は1週間後の月曜。放課後第3アリーナで行う。織斑とオルコット、そして欄間はそれぞれ準備をしておくように。それでは授業を始める」
やはり巻き込まれていたようだ。
「大変だねえ」
「全くだ」
やはりこの授業が終わったら頭痛薬を服用するとしよう。
別にセシリアアンチとかそういうわけではないのです。純粋にこの時点のセシリアならこういったことも言いそうだと判断しただけなのです。
しかしこうして読みなおしながら書いてると千冬さんの言葉って所々不自然というか軍の教官時代の感じが抜けてないというか、理不尽というか。そういうものを感じますよね。
では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしています。